先の未来
あの騒動からもうひと月がだった。
アンドラーシュ・グランヴェルに救護室に連れて行かれた私は騒ぎを聞きつけたカムロとクルト公爵から盛大に詫びられることとなった。
この時、初めて知ったのがカムロは元々アーリア団長が私の護衛のためにつけたらしということ。すまないと詫びるカムロに知らなかったとはいえ、そんな危険な役目を彼に強いていた自分を恥じた。
互いに謝りだおし、決着のつかない攻防に、最後は一緒になって笑いあった。カムロとの和解のすぐ後にクルト公爵からもすまない、と謝罪された。
クルト公爵は私とアバンギャルド………正確にはマテウス王子との間に諍いがあったことを知っていたこと。流石に詳しい内容までは知らないようだったが、私に執着しているマテウス王子にわざと騒ぎを起こさせようとしたこと。
カムロは当然怒り、アンドラーシュもそのことは初耳だったらしく非難の眼差しをクルト公爵に向けていた。
「本当にすまなかったと思っている。まさかマテウス王子があそこまで馬鹿だったとは思わなかったのだ」
まぁ、確かに。
普通は一国の公爵が手配した貴賓室に、まさか刺客が送られるとは思わないよね。相手国を馬鹿にするにも程があるし。
創国蔡が終わった後、マテウス王子はアバンギャルドに帰国していった。何度か私を攫おうと仕掛けてきたがフレイ楽団のみんなとアンドラーシュ騎士長とクルト公爵の配下の人達の手を借りて何とか撃退したいた。途中、アンドラーシュ騎士長の友人だというコリネリウス・ロヴィーノ近衛隊長まで手を貸してくれたときは派手になっていく面子に首を傾げた。私は一介の楽師なんだけど…………。
現在、アバンギャルドでは国内で第三王子マテウスと第一王子クラウドとの王位争いが起こっている。今回の一件で彼の愚王もマテウス王子の馬鹿ぶりを見過ごすことが出来なくなったのだろう。他の臣下もマテウス王子に不安を感じ、クラウド王子に情勢が流れ込んでいる。
私としてもクラウド王子が王位を継いでくれることを切に願う。恩人でもあり友人でもある彼の苦労の一端を知っているフレイ楽団のみんなも同意見だ。頑張ってくれ、アバンギャルドの良心。
けれど、アバンギャルドの王位争いで私達フレイ楽団も少々困ったことになっている。
ただでさえ嫌われているアバンギャルドはこの王位争いに目をつけた各国に狙われている。お蔭で私達は一気に治安の悪くなった世情に安易に旅立てなくなってしまったのだ。ということで私達フレイ楽団はまだシシル王国に滞在していた。
そして────。
「で?なんでいるんですか、アンドラーシュ騎士長。仕事はどうしたんですか?」
私の目の前にはアンドラーシュ・グランヴェル騎士長がいた。シシル王国に滞在してひと月の間、ほぼ毎日彼はフレイ楽団に訪ねてくる。
「今は休憩中だ」
素っ気ない態度だ。
本当、何しにきてんだろ?
「なぁ、なんでアイツは気づかないんだ?」
「無意識に論外って相手にしてないからじゃないかしら?」
「でもカグラの奴もまんざらじゃないように見えるよ?」
「馬鹿ね、あんた。あれは満更じゃなくて分かってないのよ」
「あたしゃ面倒事にならなきゃ別にいいけどね」
「嬉しいな~。ラーシェのあんな姿見れるだなんてさ、父上達もきっと面白………喜んでんるな」
「む?カムロが行ったぞ。これは修羅場だな」
カグラとアンドラーシェにカムロがドスドスと乗り込んで行った。始まる言い争いにカグラがあたふたしている。その様子を見てみんなが笑顔になる。
「…………騎士長とは余程、暇なのだな」
「貴様には関係あるまい」
「………なんだと?」
どんどん険悪化していく2人に慌てて止めに入るカグラ。
「2人とも落ち着いて!?なんで顔をあわせる度に喧嘩するかな………」
今では日常に成りつつある風景。
この世界にきた頃は不安で仕方なかった神楽も、今では他愛ないことで笑いあう。
色々なことがたくさんあった。
これから先はどうなるか分からない。だけど彼女は今のこの瞬間を生きている。
この世界で、未来に向けて。
これにて最終回となります。
いままでありがとうございました。




