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閑話【梅香】

どこかで砕けた力の余波に、梅香は顔を上げる。

随分と微弱で未熟な力のようだが、よく覚えがある身近な相手のものなので間違えない。



「伽羅の力の残滓か」

「そのようです」



白檀の後ろに控えたまま首肯する。

彼にとっても養女むすめの力を違えるはずがない。



「力の結晶を砕いたようだな。───それにしても随分と微弱なものだ。あれは、今のものではなく昔の伽羅の力を使ったものだろう」

「そうですね。今の伽羅であれば、もっとましなものを作ります」

「砕いた、となれば動きがあったと判断して構わないな」

「はい」



曖昧な言葉の羅列になるが、それは伽羅の動きを確認していないからだ。

その判断は白檀が下し、梅香も『是』とそれに倣った。

理由は単純で目的を達成するために下手な介入はしない方がいいと判断したからだ。

白檀が、そして梅香が求めるものは、下手に伽羅に動かれるより自然体のままで勇者と接近してもらう必要があった。


腰掛けていた椅子から白檀が立ち上がり、慌てて一歩下がる。

生まれた瞬間から主と定められていた彼は、梅香にとって絶対の存在だ。

魂を尽くして全てを捧げると誓っている。

それは自分の願いであり、同時に梅香が愛する相手の望みだからだ。


執務室にある窓に近寄ると、戯れに雷を落としながら白檀が笑った。

笑顔はとても鮮やかで穏やかな、まるで伽羅を前にした時と同じようなものだった。

優しげに見える表情の薄皮一枚下にあるのは、とぐろを巻いた深く昏い闇。

狂気と狂喜の合間で揺れる感情を敏感に悟り梅香も微笑む。



「予定より、時間が掛かったな」

「ええ。───ですが、もうすぐです。僕たちが欲したものはもうすぐ手に入ります」

「傷一つ与えてはいけない。欠片も損なわれてはいけない」

「御意に」

「ああ・・・本当に長かった」



吐息に近い囁きを漏らした主につられ、雷鳴轟く暗雲を眺める。

暗闇の中から枝分かれして煌く光は幼馴染の髪の色を髣髴とさせ、自然と口の端が持ち上がる。


失われてから自分たちの時でも軽く数百年が経った。

欠けたままの存在は全てを満たさぬ飢えにもがきながら、一切を感じさせぬ美しさを保ち続ける。

万全の形のものが欲しい。欠損なく傷も残さず、美しいまま手に入れたい。

それは、白檀だけでなく梅香の想いでもある。



「綺麗に壊せると思うか」

「当然です。白檀様の直々の指示により動きました。失敗などあり得ません」

「そうか」



頷いた白檀はもうこちらに興味は失ったとばかりに、幾つもの雷を同時に動かした。

児戯に等しいそれを、幼馴染もどこからか見ているだろう。

知られていないと思ってるらしいが、伽羅が雷を好きなのは梅香も知っている。

伊達に何百年も傍にいたわけじゃないのだ。


稲光を上げて勢いをつけた稲妻が闇を裂いて大木へと降り注ぐ。

火の手が上がるのではなく消し炭とかした威力に、主の機嫌の良さを感じて梅香は瞼を閉じた。



決行の時は、もう、すぐ目の前に。

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