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三日目【12】

私は根本的に言うと『人間』どうこう以前に『勇者』が嫌いだ。

感情の好悪をあからさまに態度に表していないだけで、手出しが赦されているなら自分の存在と引き換えにしていいくらいに勇者を憎んでいる。


今までの勇者はそれを理解した上で私に接してきたが、今回のフレドリックは違うらしい。

どうも、初代勇者と初めて会った頃のような態度に酷似している。

白檀様もそう思ったのか、緩く口角を上げて見せ付けるよう私の頬に唇を寄せる。

すると目つきを鋭くさせた勇者は、ぎろりと憤怒を混めてこちらを睨んで来た。



「───ふむ。やはり、勇者は勇者だな」



確認するよう観察していた白檀様は、フレドリックには聞こえない大きさで囁いた。

その言葉に、彼に知れないよう私も僅かに顎を引き同意する。

白檀様の観察対象として存在する勇者は私にとっても因縁の相手だ。


フレドリックが勇者として欠けているから今は上辺だけでも普通に会話できるが、これが先代までの勇者ならこうは行かなかった。

白檀様に対しても不敬の数々どころか、あからさまに嘲笑を含んだ態度をとることも多かった。

まあ、それも全て過去になっているので、今更どうこう言っても仕方がないが。



「そう言えば、勇者殿。梅香から明後日の話を聞いたか?」

「───ああ。各国の王族を集めてのパーティだろう。魔族が人間を心からもてなすと思えないがな」

「そうだな。別にもてなすのが仕事ではない。だが無駄にことを荒立てる気もない。俺はいたって平和主義だからな」

「魔族が平和主義だと?この荒れた地を前によく言えるな」

「くくくっ・・・レイノルド、俺相手にそこまであからさまな口を利くのはお前くらいだぞ?」

「だからなんだ?魔王だからと平伏す相手ばかりではない」

「そうだな。だから、面白い」

「別に面白がられたくない。そのパーティには他に誰が参加するんだ?」

「他、と言うと?」

「伽羅や、梅香、他の配下も出るのか?」

「ああ。伽羅のエスコートでもしたいのか?」

「俺は、別にっ」

「だが残念だな。この子は俺の側近故エスコートは不要だ。お前の仲間の少女でもエスコートするといい。似合うドレスを用意させよう」

「どうして俺がシェリルをエスコートしなくちゃならないんだ?」

「男としての甲斐性だろう」



何故か理由が全く判らない、と苛立ちを含んだまま首を振るフレドリックに白檀様は笑った。

どうやら白檀様も彼らの関係に気付いているらしく、その表情は心底愉快だと言わんばかりだ。


悪魔は他人の感情の機微に聡い。

それはどうすれば彼らが自分の手の内に落ちてくるかを常に考える本能から来ているもので、だからこそ少ししか顔を合わせていない彼らの感情の矢印も見破ったのだろう。

正直に言えばそこに巻き込まれるのは御免だが、そうも言っていられないらしい。

つくづく面倒だとうんざりしていると大きな掌が頭を撫で、一瞬で心は解れた。



「まぁ、強制するようなものでもないな。この城からは俺の側近と、後は料理の上げ下げを行う侍女たち、後は伽羅が拾った人間・・・・・くらいか。下手に配置すると怯える者も居るのでな。我らは少数での参加だ」

「っ!」



白檀様の言葉に弾かれたように顔を上げる。

拾った人間を眷族にしたのを伝え忘れていたのを思い出し、今更ながら慌てて報告すると知っているとあっさりと返された。


知られているのも知っていたが、それ以前に自分から報告すべきであったのに、自分の行動の遅さが悔やまれてならない。

私が眷属を増やそうと口を出すようなお方ではないが、だからこそ私は自分から伝えたかったのに。



『申し訳ございません。ご報告遅れましたことお許しください』

『何、構わぬ。お前を護る盾は多ければ多いほど俺も安心だ。だがお前が人間を眷属にするとは思っていなかった。心境の変化か?』

『黒方が、私が心配だと。どうも未だに私達と人間の差を理解していないようです』

『黒方か。それなら納得だ。俺の可愛い養い子は弟分に甘いからな。あいつもお前の実力は十分知っているが、見た目が華奢だから心配でならぬのだろう。確かに、お前の戦い方は危うい部分があるからな』

『申し訳ございません』

『謝る必要はない。───役に立ちそうか?』

『多少は』

『なら、いい。そやつらがお前の役に立つよう、十分に叩き上げろ』

『はい』



遅いとは思ったが、今更でも報告すれば、少し笑い混じりの声で白檀様は許可を下さった。

私は別に白檀様の眷属ではないので報告の義務はないが、それ以上の存在だ。

隠し事は基本的にしたくない。


私との会話を続けながらも、白檀様はフレドリックへ同時進行で説明を続けていた。



「対して人間は物々しいな。各国、と言ってもこの世界には10しかない国の王族と、それぞれが連れてくる護衛。国から選出される代表者は一人ないし二人だが、彼らに対し大体百人単位の護衛が付いて来る。流石に室内に伴うのは制限させるが、配置は別に好きにさせている。見られて困るものもないしな」

「好きにさせていいのか?俺たち人間が何をするかも判らぬのに?」

「ああ、構わぬな。どれだけの手練であろうとも、百人単位で掛かってこようとも、この子一人落とせぬだろうよ」

「言い切れるのか?」

「当然だ。俺たちは人の姿と酷似しているから勘違いされがちだが、そこらにうろつく魔物ですら俺たちには小指一つで十分だ。お前たちが大勢で迎え撃たねばならん魔物でも、俺たちにとっては雑魚でしかない」

「本当か?」

「ああ。───勘違いしてくれるなよ、勇者殿。お前は確かに俺を殺す力を有する。しかしながらそれは伽羅たちには通用せん。あくまで、俺専用だ。俺一人殺したところで、他の面々相手に万に一つも勝ち目はない。その状況で挑むなど、それこそ世界を道連れにする想い・・がなければ無駄であろうよ」



昔を思い出すよう目を細めた白檀様は、今ではない過去を見ていた。

私達にとっても僅かに古い記憶。

確かにそんな愚かな男存在した。


世界も国も家族でもなく、自らの想いを胸に抱き、白檀様へと剣を向けた唯一の存在が。

無意識の内に手が伸びて左胸の上を指先で辿る。

普段は絶対に露出しないその場所に、永久に消えない傷痕がある。


魔王である白檀様に剣を向けた相手は初代勇者の『レイノルド・ラッチェ』その人だ。

白檀様を庇い、彼の剣を受けた瞬間、何とも言えない顔で微笑んだその男は、私が憎んだ『勇者』だった。

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