第1290話 容赦ない幼女
「えへへへぇ」
私と対峙する、白い髪に黒い瞳を持つ特徴的な女の子……フィルちゃん。
だけど、今そこにいる彼女は先ほどまでの姿とは違っていた。
頭からは黒い犬耳が、腰からは黒い尻尾が、それぞれ生えている。さらに、身体の周りには黒い雲みたいなものを纏っている。
これこそ、フィルちゃんが使い魔の力を使った姿だ。
ぱっと見かわいいだけの獣耳幼女だけど、その実力はこの目でちゃんと見た。
「フィルちゃん、自由にその姿になれるようになったんだ?」
「もふもふと、練習してたからね!」
使い魔の力を、術者が使う。要は二人の合体攻撃みたいなものだ。
さっき見たアルテミィミスさんもそう。使い魔である蜘蛛のスティの力と自身の力を合わせて、強力な力を使っていた。
ゴルさんはサラマンドラの炎を身に宿していたし、やっぱり使い魔によって使い方はまちまちのようだ。
そしてフィルちゃんと魔物のもふもふは……本当に、合体しているかのように見える。
「それじゃ、いっくよー!」
言うと同時に、フィルちゃんはその場から消える。いや、まばたきの一瞬で消えたように見えただけ……実際には素早い動きで移動しているだけだ。
でも、直接的な動きなら捉えるのは容易い!
「やぁああ!」
「ふん!」
目の前で放たれる、右足の蹴り。膝部分が黒い毛で覆われていて、見るからに魔力を纏っている。
それを、魔力で部分強化した腕で受け止める。けど、受け止められたのは一瞬。
足を振り抜くと蹴り飛ばされてしまう。
けれど、それだけでは終わらない。
「やぁあ!」
吹き飛ぶ私に追いついたフィルちゃんは、魔力を宿した拳を振るう。獣化した拳だ。
私は身体を回転させることでなんとかそれを避けると、魔法で風を起こし、フィルちゃんと距離をとる。
今のフィルちゃんは、近接特化って感じだ。ならば、距離を詰めさせないように気をつけていけば……
「おぉりゃ!」
「!」
けれど、フィルちゃんが右手を振るうと三発の火の玉が飛んでくる。
そっか、そうだよな……使い魔と合体してるからって、魔法が使えなくなるわけじゃないもんな。これなら遠距離に移動しようと関係ない……
……あれ。今フィルちゃん、魔導の杖持ってなかったよね。
「よっ!」
私は風を操作して、飛んできた火の玉を跳ね返す。盾で防がなくても、こういう使い方だってできる。
自分の攻撃が戻ってきたフィルちゃんは驚きながらも、冷静にそれぞれを切り裂き対処していた。
魔法も切り裂く……か。やっぱすごい強化されてるな。
いや、それよりも……もしかして今の状態のフィルちゃんって、魔導の杖を必要としていない?
「おりゃりゃりゃ!」
続けて、複数の火の玉を放つフィルちゃん。私もまた同じく火の玉を放ち、相殺していく。
魔導の杖がなくとも魔法を使うことはできる。でも、杖がなければ制御が難しいのだ。
それを、あんな風にあっさりと。どうやら、杖を必要とせずに正確な魔法を撃てるらしい。
「えい!」
「!」
攻撃の相殺で巻き起こった煙……その中を突っ込んできたフィルちゃんは、多少汚れながらも衝撃のダメージは見受けられない。
私は彼女に向けて魔力弾を放つ。空中では避けられないだろう。
そう思っていた……けれど、彼女は尻尾を操作して、魔力弾を叩き落とした。あの尻尾、あんな感じに動かせるんだ。
「とぉりゃああ!」
気の抜ける声。けれど、油断はできない。
フィルちゃんは両手を組み、その場で振り上げた。そして、私に迫る勢いを乗せて振り落とす。
私はとっさに魔力防壁を張る。拳が衝突し、力は拮抗する……と良かったんだけど、そうはならない。
防壁にはみるみるヒビが入り、パキィン……と音を立てて割れてしまった。
「うそぉ!」
とっさのことであまり魔力を込められなかったとはいえ、ほんの数秒しか持たないとは。
それに、割れることがわかっていたかのようにフィルちゃんはすぐに次の行動に移っていた。
振り下ろした拳、落ちてくる身体……けれど、攻撃できる部位はまだある。先ほど操ってみせた、尻尾だ。
「えいや!」
その尻尾を伸ばし、私の手首を掴み取る。杖を持っている方の手だ。
攻撃ではなく、私の攻撃の手を封じようというのか?
それを確認し、フィルちゃんは……空中で思い切り身体をひねる。
「ふぬぬぬ……ぜぇえええい!」
「うぉお!?」
その勢いに乗せられ、尻尾に捕まっている私は持ち上げられる。
尻尾一本で、私を持ち上げ……そのまま、空を舞って地面に叩きつけていく。
「……っ!」
地面に衝突する寸前に、魔力強化でダメージを軽減したけど……まさか、フィルちゃんの小柄な身体で私を振り回すなんて。
私も身体が大きな方ではないけど……まさか、尻尾一本で。
衝突の衝撃で目を閉じてしまった……急いで開けると、そこには……
「ぇええぇい!」
「うぁっと!」
空中からかかと落としを決めるフィルちゃんの姿があった。
私は急いでその場から飛び退き、回避。代わりに、私の顔があった場所の地面は粉々になってしまっている。
よ、容赦ねぇ……この子、てんで容赦ないよ!
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