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プレナ・オートマティック  作者: 右子


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第30話 「兄」

 エレノアは教室をゆっくりと見渡す。

 全員の表情を確認するように、一人ひとりへ穏やかな視線を向ける。


「それでは……かなり早いですが、本日の授業はここまでとしましょう」


 柔らかな笑顔を浮かべる。

 教卓の上の包帯や器具を丁寧に箱へ戻していく。


「最初は覚えることが多く感じるかもしれません。ですが、一度に全てを覚える必要はありませんからね」


 箱を閉じる。


「一つずつ、ゆっくり学んでいきましょう」


 そう言って優しく微笑んだ。


「皆さんが、いつか誰かの命を救える魔剣士になれるよう、私も精一杯お手伝いします」


 その言葉に、生徒たちは自然と背筋を伸ばす。


「それでは、本日はありがとうございました」


「ありがとうございました!」


 教室に元気な声が響く。


 エレノアは小さく一礼すると、箱を抱えて扉へ向かった。

 そして、ふと足を止める。


「あっ、そうでした」


 振り返り、優しく笑う。


「皆さんのお名前は名簿で覚えていますので、学園内で怪我をしたり、体調を崩したりした時は、遠慮なく聖癒科へ来てください」


 翡翠色の瞳が優しく細められる。


「我慢は、立派なことではありませんからね」


「はい!」


 生徒たちが揃って返事をする。


「ふふ。それでは、また次回」


 コツ……


 コツ……


 静かなヒールの音を残しながら、エレノアは教室を後にした。


 ガラリ


 扉が閉まる。

 その数秒後——


 ガラッ!


「はいはいはいっ! みんな、お疲れー!」


 勢いよく扉を開けて、ピエトロが笑顔で入ってきた。


「今日の授業はこれで終了!」


 パンッと手を叩く。


「今後は基本的にこんな感じで授業が進んでいくから、少しずつ慣れていってね!」


 教室を見渡しながらニカッと笑う。


「授業が終わったあとは自由時間!」


 指を一本立てる。


「鍛錬するもよし!」


 二本目。


「学園を探検するもよし!」


 三本目。


「友達を作るもよし!」


 そして、ピエトロは両手を大きく広げた。


「じゃあ! 今日は解散! お疲れさま!」


 そう言ってパシャリと扉を閉めた。

 ピエトロが教室を出てから少しして——


「どうする?」


 シンがルキナたちへ尋ねる。


「……」


 八人は考える。

 その時だった——


 コン、コン


 軽いノックの音。


 ガラッ


「いたいた!」


 明るい男の声が教室へ響く。

 扉の前には二人の男子生徒が立っていた。

 二人とも魔剣士科の制服を身に纏っている。

 一人は濃い紫色の髪に琥珀色の瞳。

 制服は少しだけラフに着こなしているが、不思議とだらしなくは見えない。

 もう一人は燃えるような赤髪に赤い瞳。

 教室へ入った瞬間から周囲を明るくするような笑顔を浮かべ、堂々と胸を張っている。

 自信満々な立ち振る舞いに、落ち着きよりも勢いが先に伝わってくる。

 じっとしていることが苦手なのか、今にも飛び出していきそうなほど活発な青年だった


「おーい! ウルー!」


「プル!」


 二人は同時に声を掛ける。


「あっ!」


 ウルが立ち上がった。


「お兄ちゃん!」


「兄さん!」


 ウルも満面の笑みで駆け寄る。

 赤髪の青年は勢いよく両腕を広げた。


「ウルー! 元気だったかー!」


「元気! 元気! お兄ちゃんは?」


「超! 超! 元気だ!!」


 ガハハと豪快に笑う。

 一方、紫髪の青年はポケットへ片手を入れたまま、ふっと口元を緩める。


「お疲れ」


「うん」


 プルも安心したように微笑む。


「授業はどうだった?」


「少し緊張した。でも、楽しかったよ」


「そうか、ちゃんとやれてるみたいじゃねぇか」


 そう言って、ぽんとプルの頭を撫でた。


「よく頑張ったな」


「……」


 白い頬がみるみる赤く染まっていく。

 そして、周りの視線に気付いたのか、恥ずかしそうに俯いた。


「に、兄さん……み、皆んな見てるから……」


 照れたように呟きながら、右手が自然と眼帯へ伸びる。

 指先で眼帯の縁をそっとなぞる。

 恥ずかしい時に出る、昔からの癖だった。


「ははっ」


 パルは肩をすくめて笑う。


「悪ぃ悪ぃ。でも、可愛い妹が頑張ってる姿を見るとさ、兄貴としては褒めたくなるじゃねぇか」


 そう言って、もう一度だけ優しく頭をぽんと叩く。


「もう……」


 プルは眼帯へ触れたまま頬を膨らませる。

 そして、青年はこちらを向いた。


「初めまして」


 軽く頭を下げる。


「俺は三年魔剣士科のパル・プルプラ。プルの兄だ」


 柔らかな笑みを浮かべながら続ける。


「まあ、気張らなくていい。困ったことがあったら、遠慮なく先輩を頼ってくれりゃいいさ。これからよろしくな」


 落ち着いた声だった。

 そして、赤髪の青年が勢いよく一歩前へ出る。


「俺も俺も!」


 胸をドンッと叩き、ニカッと笑う。


「三年魔剣士科! フォルト・イグニス!」


 親指で自分を指す。


「ウルの兄貴だ!」


 教室をぐるりと見渡し、大きく頷く。


「分かんねぇことがあったら、遠慮なく聞きに来い! 俺が全部何とかしてやる!」


 そう言ってフォルトは豪快に笑った。

 すると、シンが一歩前へ出る。


「ヤマト・シンです。よろしくお願いします」


 その後ろでルキナも一礼する。


「ルキナ・アルテシアです。よろしくお願いいたします」


「メイリン、ネ! よろしくネ!」


 メイリンが元気よく手を振る。


「ソフィア・ベルモントです。よろしくお願いいたします」


 優雅にスカートの裾を摘まみ、一礼する。


「フェリックス・ルージュです。美しき先輩方にお会いできて光栄です」


 髪をかき上げながら爽やかに笑う。


「プル・プルプラです。いつも兄がお世話になっています」


 プルがぺこりと頭を下げる。


「クロエ・アビス」


 クロエは席に座ったまま、小さく手をひらひらさせる。


「よろしくぅ」


 最後にウルが元気いっぱいに胸を張った。


「ウル・イグニスです! お兄ちゃんがお世話になってます! よろしくお願いします!」


 フォルトが満足そうに頷く。


「みんな元気があっていいな!」


 パルは一年生たちを見渡し、口元を緩める。


「あぁ。いい仲間に恵まれたじゃねぇか」


 そして、フォルトは満足そうに腕を組み、大きく頷いた。


「よし!」


 パンッと手を叩く。


「元気そうな顔も見れたし、俺たちはもう行くか!」


「そうだな」


「えっ?」


 ウルが首を傾げる。


「もう行っちゃうの?」


「ああ!」


 フォルトは親指を立て、ニカッと豪快に笑う。


「少し様子見に来ただけだからな!」


「そっか……」


 ウルは少し寂しそうだった。

 そして、パルはプルを見る。


「あんま無理しすぎんなよ」


「うん」


 プルは小さく頷く。


「ありがとう、兄さん」


 パルは穏やかに微笑み、一歩下がる。


「じゃ、またな」


「困ったことがあったら、いつでも三年の教室まで来い!」


 フォルトが元気よく言う。


「それじゃ! じゃあな!」


 二人は軽く手を振ると、教室を後にした。

 教室は一瞬だけ静かになった。

 最初に口を開いたのはシンだった。


「お前ら、兄弟いたんだな」


 プルとウルは顔を見合わせる。


「うん」


「二人とも、すげぇいい兄ちゃんじゃねぇか」


「でしょ! フォルト兄ちゃんは昔からあんな感じ!」


「見ていて元気になりますわね」


 ルキナが小さく微笑む。

 そして、ソフィアも微笑みながら頷いた。


「お二人とも、とても素敵なお兄様でしたわ」


 プルが少し照れたように眼帯へ触れる。


「兄さんは昔から優しいんだ。少し過保護なところはあるけど……」


 その言葉にウルが勢いよく頷いた。


「分かる! フォルト兄ちゃんもすぐ心配してくる!」


「二人とも妹のことが大好きなのは伝わってきたヨ!」


 メイリンがにこっと笑う。


「うん!」


 ウルは嬉しそうに頷いた。

 フェリックスは腕を組み、大きく頷く。


「実に素晴らしい兄妹愛だった!」


 胸へ手を当てる。


「美しい!」


「言うと思ったぜ」


 シンが思わず笑った。


「ですが、三年生ともなると、やはり雰囲気が違いますわね。なんというかオーラがありましたわ」


「あぁ」


 シンも頷く。


「フォルト先輩は、見てるだけで元気になる感じだったけど……」


 一度言葉を区切る。


「パル先輩は、なんつーか……余裕があるっていうか、頼れる兄貴って感じだったな」


「分かるネ!」


 メイリンが勢いよく頷く。


「話してるだけで安心する感じだったヨ!」


「そうですわね」


 ソフィアも優雅に微笑む。


「それでいて、とても親しみやすい方でした」


「二人とも魔剣士科だし、絶対強いヨ!」


 メイリンは瞳を輝かせている。


「魔剣士科の三年生かぁ……」


 シンは教室の扉へ目を向ける。


(俺たちも三年になったら、あんな先輩になれるのかな)


 そんなことを考えながら、小さく笑った。

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