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プレナ・オートマティック  作者: 右子


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15/15

第15話 「入学式」

 ーーゼノスとの戦いから半年後。

 気がつけば入学の日を迎えていた。

 シンを荷物を担ぎ、洞窟の外には爽やかな朝の風が吹いている。


「ついにか」


 半年。

 長かったようで短かった。

 魔力の修行。

 剣の訓練。

 そしてアルカナの力。

 気付けば、この世界に来た頃とは比べ物にならないほど強くなっていた。


「忘れ物はありませんわね?」


 隣ではルキナがいつも通り完璧な身支度を整えている。


「子供じゃねぇんだから大丈夫だ」


「そう言う人ほど忘れます」


「お前は俺の母親か」


「違います」


 ルキナも荷物を背負う。

 白い髪が朝日に揺れた。


「それでは行きましょう」


「そうだな」


 二人は並んで立つ。

 この半年。

 同じ洞窟で暮らし。

 同じ修行を受け。

 気付けば自然と隣にいる存在になっていた。

 そこへ。


「おーい!」


 ゼノスが手を振りながらやってくる。


「シン! 見送りに来たぞ!」


 その後ろにはバルバもいた。


「とうとうこの日が来たのう」


 珍しく真面目な顔だった。


「なんだよ。その顔」


 バルバは笑う。


「異世界から来た小僧が、よくここまで成長したもんじゃ」


「半年も鍛えられたからな」


「わしのおかげじゃな」


「自分で言うな」


「事実じゃ」


 確かにその通りだった。

 シンは少しだけ笑った。


「ありがとな、バルバ」


 その言葉に。

 バルバは少しだけ目を細めた。


「ほっほっほ。よいよい」


 バルバはシンとルキナの肩を両手で掴んだ。


「シン」


「ん?」


「ルキナ」


「はい」


「学園へ行っても、お主らはわしの弟子じゃ」


「分かってる」


「はい」


「だから」


 バルバは笑った。


「たまには帰ってこい」


 シンとルキナは顔を見合わせる。

 そして。


「分かったよ」


「もちろんですわ」


「行ってきます」


「うむ」


「頑張れよ!」


 2人は洞窟を後にした。

 背中に朝日を受けながら。

 オルド・アルカナ学園へ向かって。


 ーーアルカナ王国。

 王都中央。

 巨大な門の向こう。

 そこにあったのは――

 オルド・アルカナ学園。


「でっけぇ……」


 思わず呟く。

 白い石造りの校舎。

 広大な敷地。

 噴水。

 庭園。

 塔。

 まるで城だった。


「これがオルド・アルカナ学園ですわ」


「学校ってレベルじゃねぇな」


「王国最高峰ですから」


 会場である大講堂を目指し、シンとルキナが歩く。

 そこでシンはある違和感に気づく。

 

「なぁ、ルキナ」


「なんですの?」


「なんか入学式の割に人全然いなくないか?」


「たしかに」


 今のところ誰にも遭遇していなかった。

 入学式といえば人がわんさかいるイメージだが、学園の広さも相まってやけに静かに感じる。


「もう会場の中に集まっているのかもしれませんわ」


「そういうことか」


 そんな話をしていると大講堂に着いた。

 扉を開けると。

 6人の男女が中央に立っていた。

 そして、全員がこちらを見ている。


「え? こんだけ?」


「……少ないですわね」


 視線の中。

 おもむろに中央に着くと。


「諸君!!!!!」


 突然。

 舞台上から大声が響く。

 全員が驚いて顔を上げた。

 そこに立っていたのは。

 派手な赤と青のコート。

 シルクハット。

 サーカス団長のような衣装。

 赤と青のオッドアイ。


「ようこそォォォ!!」


 両手を広げる。


「夢と希望と青春の学園へ!!」


 静まり返る会場。

 シンが小声で呟く。


「誰だあれ」


「誰でしょう」


 舞台上。

 男は満面の笑みを浮かべる。


「私の名はピエトロ・カーニバル!! この学園の校長であり! そして!」


 ビシッ。


 ポーズ。


「世界一かっこいい男だ!!」


 会場が静まる。

 3秒。

 5秒。

 10秒。

 誰も拍手しない。


「……あれ?」


 ピエトロが首を傾げた。


「おかしいな」


「ここ拍手ポイントなんだけど」


 シンは確信した。


(変な奴だ……)


 するとピエトロは咳払いを一つした。


「さてさて」


 両手を後ろで組む。


「まずは諸君」


「よくぞここまで辿り着いた」


 先ほどまでのふざけた雰囲気とは少し違う声。

 自然と全員の視線が集まる。


「今年の受験者数は342名」


 ざわり。

 空気が揺れる。


「そして」


 ピエトロはニヤリと笑った。


「合格者は君たち8名のみだ!」


「は、8人? 300人以上いて?」


 シンが思わず声を漏らした。


「少ないですわね……」


 ルキナも小さく呟いた。

 どうやら彼女も知らなかったらしい。


「そうとも!」


 ピエトロは勢いよく頷く。


「非常に少ない! だがこれは今に始まった話ではない!」


 教壇の上を歩き回る。


「試験官アモル・フィディス! 彼が試験を担当するようになってからというもの! 毎年毎年! 合格者数が激減した!」


 その瞬間。

 シンは納得した。


「あー……」


 木剣1本で受験者を叩きのめしていた男の顔が浮かぶ。


「納得だな」


「わたくしもそう思いますわ」


 ピエトロは笑う。


「彼の口癖はこうだ」


 ピエトロは低い声を真似る。


『弱い者を入学させる意味はない』


「と」


 数人が苦笑した。

 ピエトロはニヤリと笑う。


「ちなみに、歴代最少合格人数は6名」


 全員が息を呑む。


「今年は8名なのでまだマシだ!」


「マシなのかよ」


 シンは思わずツッコんだ。


「マシだとも!」


 ピエトロは両手を広げる。


「つまり諸君は! フィディスが認めた数少ない生徒ということだ!」


 その言葉で少し空気が変わる。

 ここにいる全員が。

 あの試験を突破した者達。

 自然と周囲を見る。

 自分とルキナを除いた6人。

 これから3年間を共に過ごす仲間達だ。


「さて!」


 ピエトロが両手を叩く。


「入学式は以上! 私は長話が嫌いでね!」


 ピエトロが胸を張る。


「校長の話は短いほど良い!」


 なぜか誇らしげだった。


「それではこれより!」


 ピエトロは片手を上げる。


「教室へ向かう!」


 ピエトロは会場の後方にあった巨大な扉を開く。


 ギギギギ……


「ついて来たまえ!」


 ピエトロが先頭を歩き始める。

 シン達も後を追った。

 最後尾。

 廊下へ出る。

 赤い絨毯。

 高い天井。

 巨大な窓。

 まるで城の中だ。


「広っ……」


 シンは思わず声を漏らした。


「王城よりは少し狭いですわ」


 ルキナがさらりと言う。


「比較対象がおかしいんだよ」


「そうでしょうか?」


「そうだよ」


 そんなやり取りをしながら歩く。

 すると。

 その隣。

 小柄な少女が欠伸をした。


「んー……疲れたぁ」


「お? まだ歩き始めたばっかだぞ」


「でも疲れたものは疲れたよぉ」


 眠そうな紫色の瞳がシンを見る。


「……」


「……なんだ?」


 少女は一歩近付いた。


「クロエ・アビス。よろしくねぇ」


「ヤマト・シンだ。よろしく」


 するとクロエの視線が横へ移る。


「ルキナ・アルテリアですわ」


 ルキナが軽く一礼する。


「よろしくお願いします」


「ふふっ」


 クロエが笑う。


「お嬢様って感じだねぇ」


「よく言われますわ」


「へぇ」


 クロエは頷いた。

 そして次の瞬間。

 シンの目の前まで歩いてきた。


「うおっ」


 近い。

 顔が近い。

 紫色の瞳がすぐ目の前にあった。


「んー」


 さらに一歩。


「近くないか?」


「そうかなぁ?」


「そうだよ」


 だがクロエは止まらない。

 そのままシンの肩に軽く腕を乗せた。


「おぉ? おい」


「ふふっ」


「思ったより面白い子だねぇ」


「何がだよ」


「なんとなくぅ?」


「適当だな」


 クロエは楽しそうに笑う。


「クロエさん」


 静かな声。

 ルキナだった。


「近いですわ」


「そうかなぁ?」


「近いです」


「でも別にいいよねぇ?」


「よくありません」


 即答だった。

 クロエは首を傾げる。


「ルキナちゃんも結構近いと思うけどぉ」


「そんなことありません」


「ありますわ」


 とシン。


「ありません」


「ひどい。洞窟で毎日一緒にいたじゃん」


「修行です」


「ご飯も一緒だったじゃん」


「修行です」


「なんでも修行になるな」


 クロエがくすくす笑う。


「へぇ。仲良しなんだねぇ」


 クロエは面白そうに目を細める。

 そして。

 またシンの腕にぴとっとくっついた。


「おい」


「落ち着くぅ」


「俺は落ち着かないんだけど」


 柔らかい感触にシンの肩が少し強張る。


(近っ……!)


 すると。


「クロエさん」


 ルキナの声が少し低くなった。


「離れてくださいませ」


「やだぁ」


「やだじゃありません」


 ルキナの視線は冷たい。

 クロエはしばらく首を傾げていたが。


「んー」


 やがて諦めたようにシンから離れた。


「残念」


「何がだよ」


 シンは思わず肩の力を抜く。

 近かった。

 本当に近かった。

 髪が肩に触れる距離。

 ふわりと甘い香りまでしていた。


(近すぎるだろ……)


 年頃の男としては意識しない方が無理だった。

 すると。

 クロエがくすりと笑う。


「ふふっ」


「反応面白いねぇ」


「普通の反応だと思うぞ」


「そうかなぁ?」


「そうだよ」


 クロエは不思議そうに首を傾げる。

 まるで本気で分かっていないようだった。


「んー……」


「なんだ?」


「分かんないけどぉ」


 クロエは少し考える。


「なんかシンくんには近付きたくなるんだよねぇ」


「は?」


「なんで?」


「分かんない」


 即答だった。


「分かんないのかよ」


「うん」


 クロエは満足そうに笑った。

 そして今度はちゃんと距離を取ったまま歩き始める。


「ふふっ」


「また後でねぇ」


「なんだその言い方」


 シンは思わずツッコむ。

 すると。


「諸君!!」


 前方からピエトロの大声が響いた。


「見えてきたよ!!」


 全員が顔を上げる。

 長い廊下の先。

 1枚の大きな木製の扉があった。

 そしてその上には。


【第1教室】


 そう刻まれている。


「第1教室?」


 シンが首を傾げた。


「クラス名じゃないんだな」


「今年の新入生は君達だけだからね!」


 ピエトロが振り返る。


「わざわざA組だのB組だの作る必要がないのさ!」


「たしかに」


 シンは納得した。

 そもそも生徒が8人しかいない。

 教室も1つで十分だろう。


「では諸君!」


 ピエトロは扉の前で立ち止まる。

 オッドアイが1人1人を見渡した。


「ここから先。君達は仲間であり。ライバルであり。共に学ぶ同級生だ」


 誰も口を開かない。

 自然と空気が引き締まる。


「楽しい3年間になることを願っているよ」


 そして。

 ピエトロはいつもの笑顔に戻った。


「まぁ! 私が担任だから間違いなく楽しいけどね!!」


「不安になってきましたわ」


 ルキナが即答する。


「ひどくない!?」


 ピエトロが叫ぶ。

 その場にいる全員がクスリと笑った。

 そんな賑やかな空気の中。

 シンは目の前の扉を見上げる。

 異世界に来て半年。

 修行の日々は終わった。

 そして今。

 新しい物語が始まろうとしている。

 第1教室。

 その扉の向こうで。

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