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第六十六話:五元ユニゾンの試練と聖女の最終防衛線

 ドラゴンスレイヤー教団との初戦勝利から、僅か2週間。


 盟約軍は、帝都に近づくための最後の要衝となる広大な平原に布陣した。ヒカルの「戦場の視覚化」の異能が捉えた敵の戦力は、前回とは比べ物にならない規模となっていた。


(……ドラゴンスレイヤー教団の聖騎士団とDSW(対竜特化兵器(Dragon Specialized Weapons)魔導砲部隊2万に帝国正規軍の増援が15万。総勢で17万以上の大軍勢か……)


 ヒカルは自らが率いる盟約軍約3,160体、そしてリヒター総帥が送ってくれた辺境連合軍の先遣隊約5,000名という、圧倒的な劣勢に直面していた。


「ヒカル様。顔色が優れません。どうぞ、このお茶を」


 リリアが王室メイド服の姿で、優しく薬草茶を差し出した。彼女の隣には、メイド隊のルナリス(闇)とテラナ(土)が、身辺警護として控えている。


「リリア。この絶望的な兵力差を見て、恐怖を覚えない王がいると思うか」

「王妃《ひめ》様方の愛の力を信じてください。そして、王室メイド隊の献身も」


 盟約軍の中央司令部には、六龍姫全員が集結していた。


 蒼玉の理性竜姫アクアが、緻密な論理で戦略を分析する。


「王よ。敵の兵力は圧倒的ですが、DSW(対竜特化兵器)の配置は、前回の失敗を教訓に分散されています。一点集中のユニゾンブレスは、論理的に非効率」

「我々が採るべきは、五元ユニゾンによる局地的な『絶対支配圏』の構築。広範囲の兵力を無力化しつつ、聖女アリアの結界の核を叩く必要があります」


 紅蓮の激情竜姫レヴィアは、戦場を見て、炎を燃やした。


「フン。17万の人間など、私たち六龍の敵ではないわ!王よ、私の炎に貴方の愛を全て注ぎ、一瞬で殲滅を命じてくれ!」

「今度こそ、私の炎の愛が最強だと証明するわ!」


(レヴィアの感情値:独占欲90%/戦闘意欲100%。MVPの雪辱を果たす気だ)


 ◇◆◇◆◇


 その時、ヒカルの「戦場の視覚化」に、敵軍の中央から放たれる眩い光の魔力が映し出された。


 ドラゴンスレイヤー教団の聖騎士団と帝国正規軍を従えた中央の陣営に、一際優雅で高潔な美しさを放つ女性が現れた。銀と白の神官服に身を包み、プラチナブロンドの髪は光を帯びている。彼女の静かな立ち居振る舞いは、憎悪に満ちた戦場の空気を一瞬で神聖なものへと変えた。


 聖女アリアだ。


 彼女は、慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら、ヒカルの軍団を見据えたが、その瞳の奥には、竜族への純粋な「憎悪の使命」が宿っていた。


「竜の王、ヒカルよ。貴様は、人類の希望を裏切った残滓に過ぎない。貴様の偽りの優しさを、私の高潔な信仰の光で断罪する!」


 アリアが静かに祈りを捧げると、全人類軍の兵士たちの信仰心が、巨大なエネルギーの結界へと変化した。


 純粋な憎悪と信仰心を核とする、究極の光の防御結界だ。


「全軍、進め!」


 聖女アリアの一言で、17万の大軍勢が、光の結界を盾として盟約軍へと圧をかけてきた。


 ◇◆◇◆◇


 聖女アリアの結界の強固さに、ヒカルは五元ユニゾンの発動を決意する。


「アクア!五元ユニゾン、『五元絶対支配圏』の発動準備だ。憎悪の結界を、愛の調律で上書きする!」


 蒼玉の理性竜姫アクアは、眼鏡を押し上げ、冷静ながらも情熱を帯びた声で応じた。


「御意、王よ!結界の防御構成を、全属性ユニゾンで論理的に崩壊させます!」


 その時、闇の特務機関長ヴァルキリアが、冷徹な光を宿した瞳でヒカルを見据えた。


「契約者。私は参加しなくて良いのか?私の闇の力は、結界を構成する憎悪の核を内部から腐敗させることができる」


 ヴァルキリアは、あくまで論理的な貢献を主張したが、その声には、愛の競争から外れることへの不満が滲んでいた。


「フン。妹たちの愛の熱狂を、私の孤高が傍観する必要などない」


 ヒカルは、ヴァルキリアのプライドと愛の形を理解し、静かに答えた。


「ヴァルキリア。貴女の闇は、この戦場の光属性とは相容れない。貴女の役割は、闇の矛として、全軍を護衛することだ」

「五元ユニゾンが崩壊した時、闇の力こそが、全軍の最後の防衛線となる。貴女の孤高の忠誠を、王の命令として、最後の切り札として温存してくれ」


 ヴァルキリアは、ヒカルの論理と、自分の力が王の最後の命綱であるという事実に満足し、静かに頷いた。


 この緊迫した状況で、ヒカルは王室メイド隊の献身を感じていた。


(メイド隊の戦闘力が……!)


 ヒカルは、メイド隊の顔触れを再度、戦場の視覚化で透視する。その数値に、ヒカルは驚愕した。


(テラナ(土)、戦闘能力数値BPI250。ルナリス(闇)、BPI220。アウラのBPI200を超える者もいる!竜族一般兵のBPI50を遥かに凌駕している。これは、六天将クラスに匹敵する超精鋭だ)


 ヒカルは、王妃《ひめ》たちの愛の激情だけでなく、裏側を支える組織の強靭さに心から感銘を受けた。王妃《ひめ》たちの愛の競争が、王の命を護る強固な盾を築いていたのだ。


(彼女たちは、経験や地位の問題で六天将にはなれなかったが、実力は副官候補。ヒカルの護衛という名誉が、次世代の戦力を育む場となるのか)


 メイド隊のテラナ(土)は、ヒカルの足元に強固な防御魔力を流し込み、その強靭さを示した。


「主《あるじ》の足場は、このテラナが揺るがせません」


 ルナリス(闇)は、暗殺の予兆を探るため、司令部の影に潜んでいる。


「王の影に潜む穢れは、私の暗器術が逃しません」


 リリアは静かに、ヒカルの背後に控え、彼の肉体的な消耗を最小限に抑えている。


(リリアの献身、そしてメイド隊の組織的な安寧の護衛。これが、王妃《ひめ》たちの愛の激情を、戦場の力へと変える土台となる)


 聖女アリアの憎悪の結界と、王の五元ユニゾンが、今、帝都の平原で正面衝突する。


【第67話へ続く】



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