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第六十五話:王室メイド隊の結成と静かなる愛の浸透

 テラの献身的な愛によるMVPの熱狂と、レヴィア、アクアの激しい嫉妬が冷めやらぬ夜明け。ヒカルは連日の戦闘と愛の調律の重圧により、疲労の限界を迎えていた。


 司令部の自室で、リリアが温かい薬草茶を差し出しながら、静かに口を開いた。


「ヒカル様。王妃《ひめ》様方の愛の調律は、王国にとって最も重要な戦略です」

「ああ、それは理解している」


 ヒカルは疲労の滲む声で応じた。


「ですが、その代償として……」


 リリアは深く憂いを帯びた瞳でヒカルを見つめた。


「ヒカル様の肉体的・精神的な疲弊が極限に達しています。このままでは、王という最重要資産が感情の奔流に押し潰されてしまいます」


 リリアの瞳は、心身の痛みを見抜く、静かで深い愛に満ちていた。


「リリア……。お前の献身は、この王の唯一の安息だ。だが、お前一人の力では、この六龍姫の激情には耐えられまい」


 ヒカルの言葉に、リリアは決意を込めた眼差しで応じた。


「ヒカル様。だからこそ、私は『王室メイド隊』の結成を提案いたします」

「お、王室メイド隊?」

「はい。護衛と日常のケアを専門とする組織です。そして、その隊員には……」


 リリアは一呼吸置き、司令部に待機していた六龍姫と六天将の顔を思い浮かべた。


「……王妃《ひめ》様方、それぞれの配下から、最も信頼できる竜族の女性を一名ずつ選抜させてください」


 リリアは提案の真の目的を、ヒカルにのみ聞こえる声で囁いた。


「(この提案は、王妃《ひめ》様方の嫉妬の矛先を逸らすための策略です。公的な組織として王室のケアを専門化すれば、私一人の『静かな愛の独占』への警戒は薄れます。そして、各王妃の最も信頼できる配下にまで私の『王への献身』という理念を浸透させれば、王室の防諜とヒカル様の『優しさによる新秩序』への理解が、六龍姫の軍団全体に広まります)」


 ヒカルは、リリアの静かで深い愛と、その裏にある組織的な頭脳に戦慄した。彼女は、王の命を守るため、姫たちの嫉妬すらも戦略的に利用しようとしていた。


(リリア……。お前は、俺が失った「天才軍師」の片鱗を、献身という形で発揮しているのか。この提案は、王国の安定に不可欠な「公的な安寧」を組織化するものだ)


 ◇◆◇◆◇


 ヒカルはリリアの提案を戦略的に是と判断し、直ちに六龍姫と六天将を招集した。


「リリアの提案を承認する。これより、『王室メイド隊』を結成する。王の肉体的・精神的なケアは、今後、公的な組織として最優先の軍務とする。そして、王室メイド隊の隊員は、六龍姫、それぞれの軍団から一名ずつ選抜される。これは、王の命令だ」


 ヒカルの裁定に、六龍姫の感情が激しく揺れ動いた。


「な、なんですって!?」


 紅蓮の激情竜姫レヴィアの炎の髪が逆立ち、激しく玉座の間を炎の竜巻で威嚇した。


「あんな人間の女に、私の配下を奪われるなんて、絶対に許さないわよ、夫!貴方の日常を独占する権利は、この私だけのものだ!」

「静粛に、レヴィア!」


 磐石の守護龍テラが、レヴィアに続いて不満を露わにした。


「主《あるじ》。わらわの母性的な愛の根幹である食事の世話や疲労回復の責務を、なぜ他人に委託するのか!論理的に非合理です!」


 この激しい反発に対し、リリアは一歩前に進み出た。彼女の静かな声は、六龍姫の激情を鎮める力を持っていた。


「王妃《ひめ》様方、ご心配はごもっともです。ですが、私の役目は、あくまでも王の『身辺警護』と『お部屋の掃除』などの雑事のみです」

「王の『愛の調律』に関わる夜の当番制には、私もメイド隊も一切関与いたしません。また、主《あるじ》の生命線である食事の世話は、テラ様の『母性の愛』という王妃の責務として、これまで通りテラ様に一任いたします」


 リリアの提案は、王妃たちが最も譲れない「愛の独占領域」を尊重するものだった。当番制に加わらないという言質と、テラの愛の領域を侵害しないという約束に、六龍姫の警戒心は急速に緩んだ。


「ふん……。王の食事と夜の義務を侵害しないというなら、仕方ないわね」とレヴィアはしぶしぶ従った。


 テラも静かに頷く。「わらわの母性の愛を認めるなら、メイド隊の結成に異論はない」


 ◇◆◇◆◇


 リリアの懐柔策が成功したのを見て、ヒカルは続いて各王妃に隊員の選抜を指示した。


「よし。王妃の義務として、各自の配下から、最も王の世話役と身辺警護に相応しい精鋭を提案せよ。なぜその者が相応しいか、理由を添えろ」


 レヴィアは、いち早く口火を切った。


「当然よ!炎のメイド、フェンリア(Fenria)を推薦するわ!彼女の激情的な愛と忠誠心は、王の危機に際して、誰よりも早く身を挺するわ。私の炎の愛を体現する、最高の護衛よ!」


 蒼玉の理性竜姫アクアは、眼鏡の奥で目を光らせた。


「私は、水のメイド、アクアリーヌ(Aquarīne)を推薦します。彼女の冷静沈着な論理的判断力は、王の日常の行動をデータ化し、情報管理の緻密さを以て、王の安寧を論理的に保証します」


 磐石の守護龍テラは、胸を張った。


「わらわは、土のメイド、テラナ(Terrana)を推薦します。彼女の母性的な献身と強固な肉体は、王の肉体的なケアと不意打ちへの防御力に優れ、最も王の身辺警護に適しています」


 疾風の遊撃竜姫セフィラは、軽やかな風と共に、ヒカルの前に舞い降りた。


「ボクは、風のメイド、ウィンドラ(Windra)を推薦するよ!彼女の俊敏な機動力と斥候能力は、王の周りの不穏な動きを誰よりも早く察知し、自由に逃げ道を確保できるからね!」


 純白の調和聖女ルーナは、穏やかに微笑み、優雅に一礼した。


「私は、光のメイド、ソルニア(Solnia)を推薦いたします。彼女の優雅な立ち居振る舞いは、王の心の調律を補助し、公的な場で王の威厳を高めることに貢献できるでしょう」


 深淵の孤高竜姫ヴァルキリアは、孤高の威圧感を保ったまま、最後に口を開いた。


「私は、闇のメイド、ルナリス(Lunaris)を推薦する。彼女の孤高の忠誠心と、防諜・裏工作の技術は、王の光の届かぬ場所から、王の命を守り抜く盾となる。裏の汚れ役を担わせるのが、最も論理的に王のためだ」


 ヒカルは、六龍姫それぞれの愛の形と戦略が、メイド隊のメンバー選抜という形で結実したことに満足した。


「よし。リリア。王室メイド隊の結成を急げ。王の安寧と、王妃たちの愛の義務は、お前たちの組織力に託された」


 リリアの「静かな愛の浸透」という策略は、こうして成功を収め、六龍姫の愛の競争は、新たな局面を迎えた。


【第66話へ続く】



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