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第六十二話:炎の六天将:囮の武功

 光の福音による世論戦が功を奏し始めた矢先、聖女アリア率いる聖騎士団は、人類の絶対的正義を証明すべく、総力戦を仕掛けてきた。


 盟約軍の正面に展開した人類連合軍は、聖騎士団約9000、DSW魔導砲部隊約8000に加え、信徒の軍勢4.5万以上という依然として圧倒的な数である。


 対竜特化兵器(DSW)を装備した魔導砲部隊の背後には、憎悪と信仰を魔力に変換する教団魔術師3000の祈祷が、戦場全体を光の結界で覆っていた。


(盟約軍の兵力は質で優るが、数で七倍以上の劣勢……! テラの鉄壁の防御ですら、この憎悪の波を長期間耐えきれない!)


 ヒカルの戦場の視覚化は、テラの鉄壁の防御ですら、この憎悪の波を長期間耐えきれないと警告していた。


「くそっ、これが人類の総力か! 兵力と信仰心、どちらも憎悪を燃料にしている!」

「王よ! 敵のDSWがレヴィア様の部隊をロックオンしました! このままでは、炎龍軍団が壊滅します!」


 司令部で後方戦略を担うシエルが、冷静ながらも緊迫した声を上げる。


 レヴィアは、通信魔力を通じて激昂する。


『夫よ! どこまでも地味な防御戦を強いられるとは! 私の激情は、憎悪などという低級な感情には負けないわ! 早く攻撃主導権を私に!』


 ヒカルの絆の共感者は、レヴィアの激情がユニゾンの暴走を引き起こす寸前であることを察知していた。


 その瞬間、爆炎龍将軍フレアが、ヒカルの静かな指令を待たず、自ら進み出た。


「王よ! このフレアに特攻の命令を! DSWのロックオンを解除する囮となる許可をいただきたい!」


 フレアは炎の魔力を燃やしながら、ヒカルに頭を垂れる。彼の命懸けの申し出は、レヴィアへの忠誠と、シエルへの愛を武功で証明するという強い 決意に満ちていた。


 ヒカルは、フレアの命を代償とする特攻に一瞬の躊躇を見せるが、戦場の視覚化がこの 奇襲が唯一の勝機であると示唆していた。


「フレア! 貴様を囮とする特攻作戦を許可する! レヴィア! 約束通り、攻撃主導権は貴様だ! アクアは、DSWのロックオンが外れた 瞬間、レヴィアと連携して教団魔術師団の中枢を叩け! アクアとテラはそれまで防御に徹しろ!」


 ヒカルの緻密な指揮が、六龍盟約軍の運命を一瞬で決定した。


 ◇◆◇◆◇


 爆炎龍将軍フレアは、ヒカルの指令に迷わず応じた。彼の心には、シエルへの理性的な愛を武功で証明したいという贖罪の炎が燃えていた。


「シエル! 私はレヴィア様への忠誠心を護るため、そしてお前の安全を最前線での武功で証明するために行く!」


 フレアは、シエルにだけ聞こえる通信魔力を通じて、静かな愛を告げた。

 シエルは、冷静な瞳の奥に複雑な感情を宿し、フレアの暴走を論理的に、でも自分でも信じられないくらい愛情をこめて分析した。


「フレア。貴方の愛は非合理的です。でも、その武功は王国の資産ですわ。DSWが貴方にロックオンした瞬間、テラ様の防御結界を一点集中で回しますので、中央突破し、教団魔術師団の中枢を叩くのです! 無事帰ってくるのですよ……」

「ああ、任せろ。お前は後ろで観ていてくれ」


 フレアは、レヴィアの部隊から先行し、自らを囮とする特攻作戦を実行する。


「教団の魔術師ども! DSWは人間の最高の知恵だというのなら、俺を撃ってみろ!」


 フレアの挑発と特攻は、DSWの集中砲火を一斉に彼へと引きつけた。DSWの超高熱の砲撃がフレアを襲う。

 レヴィアは、フレアの勝手な行動に激怒する。


『フレアめ! 勝手な真似を! 私の攻撃主導権を奪うとは!』


 だが、ヒカルの静かな声が、すかさずレヴィアの激情を調律する。


「レヴィア! フレアの行動は、DSWの集中砲火を一点に集中させた最高の戦略的囮だ! テラとアクアの両軍による一点突破可能な一瞬の隙が生まれた! お前の激情をそこに叩き込め!」


 ヒカルの緻密な指揮が、フレアの憎悪と忠誠という不協和音を戦略的メリットへと変換させた。


 ◇◆◇◆◇


 フレアはDSWの集中砲火に晒され、全身から血潮を噴き出しながらも、DSWのロックオンを解除させない。その隙をレヴィアは見逃さなかった。


「夫の戦略を私が否定するわけがないわ! フレア! 貴様の命は私が護る! 超高圧ブレス、発射!」


 レヴィアの魔力(D音/トランペット)とアクアの魔力(F音/クラリネット)が融合する。ヒカルの愛の調律により、ユニゾン安定度(BPI安定度)は98%をマークした。和音は短三和音(マイナー・トライアド)となり、切ない 情熱を秘めた 愛の響きを生み出した。


「炎と水の短三和音よ! 教団の憎悪を燃やし尽くせ!」


 レヴィアは、フレアの背中を護衛するように、炎と水のユニゾンによる超高圧ブレスを教団魔術師団の中枢へと叩き込んだ。


 炎と水が衝突し、巨大な水蒸気爆発が教団の中枢を襲う。DSWの砲撃は止まり、聖騎士団の指揮系統は一時的に麻痺した。


 教団魔術師団の中枢に直撃した超高圧ブレスは、憎悪と信仰を燃料とする魔力構成を根源から破壊した。


 最前線にいた 聖女アリアは、ブレスの衝撃と魔力の崩壊に大きく 動揺する。


「バカな…… 純粋な憎悪と信仰がたかだか2匹の竜のユニゾンに負ける だと! このままでは壊滅するわ……。人類の兵士たちよ! 撤退 せよ! これ以上の犠牲は許されぬ!」


 聖騎士団と信徒の軍勢は、 DSWの沈黙と中枢の壊滅、そして聖女の動揺を見て、戦意が一気に 崩壊した。 彼らの表情は、憎悪から恐怖へと変わり、次々と戦場を離脱し始めた。


 アクアは即座に冷静な判断を下す。


「王よ! DSWの損耗は論理的に回復不可能なレベルです! 聖騎士団は士気が崩壊し撤退を開始しました! 追撃は避け、損耗を抑えるのが合理的です! 全軍に一時撤退を指示してください!」


 ヒカルは、アクアの冷静な判断を受け入れ、勝利のファンファーレを鳴らす。


「全軍! 勝利を確信した! 追撃は不要! 一時撤退!」


 フレアは重傷を負いながらも、特攻作戦の成功に満足感を覚えた。


 作戦後、重傷のフレアはテラとルーナの治癒を受けるため、司令部へと帰還した。その姿を見たシエルは、冷静な理性の仮面を崩し、激しく 動揺する。


「フレア! 貴様という馬鹿はDSWの集中砲火を受けた! 論理的に見て、貴方の行動は王国の資産を危険に晒す 最大の 愚行です! 二度とこんな 無謀なことを許さないわ、バカフレア!」


 シエルはフレアの無謀さに対し、理性を失った激怒を見せる。その目には、彼の命を案じる一人の 女の感情が宿っていた。


 フレアはシエルのツンデレな怒りに顔を赤らめる。


「シエル…… 貴様に命を心配されるとは、光栄だ。俺の武功は貴方の論理を超越した愛を証明しただろう!」


 シエルは言葉を失い、口元を押さえる。その光景を目撃したアクアは、冷静な瞳で驚愕の表情を浮かべる。


「し、シエルが…… あれほどの 感情を見せるとは! フレアとシエルの間に、論理を超えた愛の絆が成立したというのか……!」


 ヒカルは、MVPを与える べく、全員の視線を受け止める。


「MVPは爆炎龍将軍フレアだ! 貴様の命懸けの武功が、この戦いの勝機を掴んだ! 全軍の士気は、貴様の献身によって最高潮に達した!」


 レヴィアはMVPを逃した悔しさに唇を噛むが、すぐに 王の約束を引き合いに出す。


『MVPはフレアだと!? チッ…… MVPに匹敵する特別な情熱の夜の約束は反故にしないわよね、夫!』


 純白の調和聖女ルーナが、柔らかな 光を纏いながらヒカルに進み出る。


「ヒカル様…… フレア将軍の武功は認めますが、光の福音による士気向上も戦場の勝敗に直結しました。MVPに匹敵する特別な夜の報酬を、私にもご 裁定 いただきたいわ」


 ヒカルは、二人の 強烈な愛の要求を受け止め、公平な裁定を下す。


「レヴィア! ルーナ! MVPはフレアだが、貴様たち二人への特別な夜の約束は王の義務として必ず果たす! MVPに準ずる愛の報酬を、貴様たち二人に独占させてやる!」


『あぁっ……! 夫よ、夫ォオオ! MVPに準ずる愛の報酬を二人にですって!? く、くぅ〜〜っ! 全身が溶けるわ! 王の愛は私のものだ!』


 レヴィアは陶酔に悶える声で叫び、フレアのMVPへの嫉妬を最高の情熱へと変えた。


 ルーナも頬を赤らめ、静かに歓喜の光を放つ。


「ヒカル様…… 貴方の愛は公平で論理的です。わたくしの魂の安寧を、存分に独占させていただきます」


 こうして盟約軍は初戦の総力戦で勝機を掴み、教団は聖騎士団を一時的に引かせた。


【第63話へ続く】


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