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第三十四話:激情の鎮火と盟約の拡大

 狂炎の破壊者(バーン・ブレイカー)との戦闘から二週間が経過した。


 盟約軍の本拠地である城塞は、束の間の平和に包まれていたが、その内部の空気は以前とは比べ物にならないほど熱を帯びていた。ヒカルが勝利を掴むたび、それは王妃たちの愛の奔流となって彼自身を押し包む。


 激戦後、ヒカルはレヴィアの炎の魔力が極限まで枯渇していることを確認した。彼女の「守護の炎」は、狂炎の破壊者の魔力核を沈静化させるために、その命を燃やし尽くす勢いであった。


 MVPを獲得したレヴィアは、疲労困憊で倒れ込みながらも、ヒカルに情熱的なMVPの報酬を要求した。


「夫よ…………! 我の愛が最強だと証明されたのだ! 我を抱きしめ、我の炎を、貴方の愛で再び満たしてくれ…………! 誰にも邪魔させない、我だけの独占時間だ!」


 しかし、ヒカルの心は、シエルやアクアのような論理的な判断を促していた。レヴィアの肉体的魔力は、新たな戦闘に耐えうるまで回復していない。激情的な愛を受け入れれば、彼女の命の炎は完全に燃え尽きてしまうだろう。


 ヒカルは、レヴィアの燃えるような瞳を見つめ、冷静ながらも愛情を込めた声で諭した。


「レヴィア。お前の愛が最強なのは、もう証明された。だが、『王の義務』として、俺は今のお前の愛を受け入れられない」


 レヴィアの瞳に、失望と怒りの炎が灯る。


「なぜだ!? 貴様、我の愛を拒絶するのか!? それは、我の炎の力を否定することと同じだぞ!」

「違う。これは、『愛の持続可能性』という、最も重要な戦略だ」


 ヒカルは、レヴィアの細い身体を優しく抱きしめ、額にそっとキスをした。それは情熱的とは程遠い、静謐な安寧をもたらすキスだった。


「お前の炎は、破壊ではなく守護を覚えた。その守護の炎は、持続的な安寧によってのみ、その力を維持できる。今夜の報酬は、情熱的な独占ではなく、静かな愛の安息だ。お前の命を、俺の愛で守らせてくれ」


 ヒカルは、疲弊しきったレヴィアの隣に寄り添い、彼女の鼓動が安定するまで、ただ静かに彼女の髪を撫で続けた。レヴィアは、最初は不満げだったが、やがてヒカルの温もりの中で、その激しい炎を鎮火させ、「夫の隣で安息を得る」という新しい愛の形を受け入れた。


 その静かな夜が明けた後、磐石の守護龍テラが、温かい土鍋を抱えてレヴィアの部屋を訪れた。


「レヴィア姉上様、王の御身の持続可能性のために、このテラが薬草入りの愛情料理を振る舞いましょう。王の体力回復は、わたくし、盟約軍の母の最も重要な義務ですから」


 テラは、レヴィアの「安息の独占」を静かに牽制しつつ、ヒカルの肉体的な安寧を独占しようとする。テラの母性的な愛は、レヴィアの激情とは対極の、「なくてはならない献身」という形で王妃の座を狙う。


 その様子を、純白の調和聖女ルーナが静かに見守り、テラとレヴィア双方に語りかけた。


「レヴィア姉さま。テラの言う通り、貴方の愛は、今、魂の安寧という名の静けさを求めています。貴方の過度な激情は、ヒカル様の魂の楽譜を乱すだけでなく、全軍の士気にも影響を与えます。精神的な安定こそが、貴方が王を守る唯一の道だと、どうか理解してください」


 ルーナの調和の光は、二人の姫の間の嫉妬の炎を鎮火させる「精神的な冷却材」として機能し、ヒカルは、五龍姫全員の愛の形が、「王という資産の持続可能な運用」という論理的な形へと進化しつつあることを感じていた。


 ◇◆◇◆◇


 その頃、盟約軍の連勝は、古王に未曾有の焦燥をもたらしていた。


 古王軍では、六征竜のうち3体が討ち取られ、出兵した兵力の半分以上が討伐されるか、戦意を喪失していた。古王は、玉座の間で、残りの六征竜に怒りの咆哮をあげていた。


「卑怯な人間の小僧め! 力ではなく、絆という下賤な手段で、我ら竜族の誇りを汚しおって! 次は必ず古代の魔術を使い、奴の絆の核を破壊しろ! ヴァルキリアを待つ必要はない。奴の策略を上回る絶対的な力を見せてやれ!」


 古王の焦燥と、それによって解き放たれた「古代の魔術」の脅威は、盟約軍にも情報として伝わり始めていた。







 しかし、その脅威を上回る希望が、盟約軍に押し寄せていた。


「王よ! 喜びの報告です!」


 風の補佐竜ゼファーが、高速移動で盟約軍の司令部に駆け込んできた。


「狂炎の破壊者(バーン・ブレイカー)と霧幻の策士(ミスト・マキナ)の敗北、そして王の『優しさと絆』の理念が、古王の恐怖による支配に耐えていた中立派の竜族約500体を動かしました! 彼らは我らの支配を拒否し、王の軍門に参加すべく、この地に向かっています!」


 ゼファーの報告に、ヒカルの胸に王としての重みと歓喜が同時に湧き上がる。兵力は1.5倍に増え、古王軍との兵力差は急速に縮まっていた。


「テラ様! 大至急の課題です!」


 不動の防衛将ガイアは、中立派の合流という朗報に喜びつつも、盟約軍の母テラに、切実な課題を突きつけた。


「テラ様と我が築いた城塞は、約2000体の兵を想定しています。この500体が加われば、城塞は許容兵力の限界を超えます。兵站と防御の維持が困難になります! 城塞の拡張が急務です!」


 テラは、自分の築いた城塞が王の軍団の成長によって手狭になった事実に、母性的な喜びを感じつつも、すぐに王の義務として冷静に頷いた。


「主《あるじ》の軍団の成長は、わたくしの献身の喜びです。ガイア、城塞の再構築計画を直ちに立てます。王の安寧と兵の生命線は、このテラが必ず守り抜きます」


 その時、放浪の運び屋(ウィンド・ランナー)が、商談の顔をしながら司令部に姿を見せた。


「やあ、初めまして、団長さん。古王軍が仕掛ける古代の魔術の脅威、そしてこの中立派の流入。どちらも、俺にとっては最高のビジネスチャンスだ」


 放浪の運び屋(ウィンド・ランナー)は、盟約軍への新たな物資供給ルートの提供と引き換えに、古王軍の機密情報をヒカルに提示した。


「古王は、『古代の魔術』の鍵となる『知識の守護者』を、貴方が先回りして接触したことに気づいていない。奴らの狙いは、貴方が持つ『知恵の盾』を、力でねじ伏せること。次の標的は、貴方の自由な情報網を破壊する疾風の追跡者(ゲイル・チェイサー)だ」


 ヒカルは、レヴィアの炎の鎮火から、テラの城塞拡張、そして放浪の運び屋(ウィンド・ランナー)の協力という、すべてが「愛と戦略」で繋がっていることに確信を得た。


(古王の焦燥は、俺の軍団を成長させる燃料となる。次は、セフィラ。お前の自由な愛を、敵の情報網を焼き尽くす最高の旋律に変えるぞ)


 ヒカルは、次の戦いが、情報戦と機動力を司る風の竜姫セフィラの愛の試練となることを確信し、決意を新たにした。


【第35話へ続く:セフィラの愛と疾風の追跡者】



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