第十八話:四龍の協奏曲(カルテット)と愛のハーモニー
ヒカルは、戦況図の上に積み重なった報告書を眺めていた。
(レヴィアとの盟約から四か月が経過した。我々の勢力は急速に拡大したが、古王軍の反撃も苛烈だ。人類側がしばらく静かなのも気になる」
夕方、いつものようにセフィラとのスリル満点の空中デートから拠点の城へ帰還した直後、平穏は一瞬にして破られた。
「報告です! 団長!」
軽やかに風を纏ったゼファーが、疲労を一切見せずヒカルの前にひざまずいた。
「風の竜姫の偵察網が、南西の山脈地帯からドラゴンスレイヤー教団の精鋭騎士団が、城塞の防衛ラインへ高速で接近していることを確認しました。数は五千。古王の軍勢ではありません。教団の『竜殺しの矛』と呼ばれる部隊です」
精鋭騎士団の接近。これは、いまだ癒えていない鉄壁の将 を打ち破った直後の盟約軍の消耗を狙った、カインか教団幹部による戦略的な一手だった。
「チッ…………休む間も与えないわね」
レヴィアが炎を纏い、すぐに臨戦態勢に入る。隣でアクアが冷静に状況を分析した。
「五千の精鋭騎士団は、以前の鉄壁の将 《アイアン・ウォール》軍団とは性質が異なります。彼らはユニゾン対策を施した魔法兵を多く含む。三龍ユニゾンでは、突破に大きな損害を伴う可能性があります」
テラが強い決意の光を瞳に宿して進み出る。
「主。わらわたちの四龍の力を合わせるしかありません。炎、水、土、風。属性的には完全なバランスです。しかし、」
テラは、レヴィア、アクア、そしてセフィラを一瞥し、難しい顔をした。
「……四龍ユニゾンは、三龍ユニゾンよりも格段に難易度が上がります。四つの感情の調律が必要です。一つでも乱れれば、ユニゾン暴走のリスクも跳ね上がる」
ヒカルの胸の奥で、四龍姫の感情が激しく渦巻くのが分かった。
(【レヴィア:闘争心:90%/セフィラへの苛立ち:60%】、【アクア:戦略的緊張:85%/レヴィアへの牽制:40%】、【テラ:防御への使命感:95%/不安:30%】、【セフィラ:冒険への高揚:90%/統制への嫌悪:70%】…………)
情熱、理性、献身、自由。相反する四つの愛が、協調性のかけらもなくぶつかり合っている。
ヒカルは、竜姫たちを見つめ、静かに、しかし力強く宣言した。
「四龍ユニゾンの難しさは、俺が一番よく分かっている。だが、我々のユニゾンは、単なる力の足し算ではない」
ヒカルは目を閉じ、四龍姫の感情の波を数値化する。
【レヴィア:闘争心:90%/セフィラへの苛立ち:60%】
【アクア:戦略的緊張:85%/レヴィアへの牽制:40%】
【テラ:防御への使命感:95%/不安:30%】
【セフィラ:冒険への高揚:90%/統制への嫌悪:70%】
(レヴィアとセフィラの感情の不調和が、ユニゾンの音程を激しく乱している!このままでは、ユニゾン暴走率が45%を超過する。これを音楽的調和によって、戦略的兵器に変えなければならない…………!)
彼は、一歩前に進み出ると、四人の竜姫たちを包み込むように優しく語りかけた。
「よく聞け。お前たちの愛は、それぞれが世界でただ一つの楽器だ」
竜姫たちは、突然の音楽の例えに、戸惑いの表情を浮かべた。
「レヴィア。お前の愛と炎の力は、華麗で力強いトランペットだ。軍団の主旋律であり、聴衆の魂を揺さぶる」
レヴィアは、自身の激情が「主旋律」だと評されたことに、誇らしげに胸を張った。
「トランペットの主旋律…………フフン。王を動かすのは、やはり私の情熱だということね」
「アクア。お前の理性と水の力は、冷静で緻密なクラリネットだ。トランペットの熱狂を制御し、曲全体に知的な流れと、美しい構造を与える」
アクアは眼鏡の奥で目を見開いた。
「クラリネットが、構造…………ですか。王。それは、私の知性が、貴方の戦略を音の理で支えるという意味でよろしいのですね?」
「ああ。お前の冷静な音が、全てを美しく整える」
続いて、ヒカルは、テラに向き合い、優しく語りかけた。
「テラ。お前の献身と土の力は、深く、安定したチェロだ。軍団の基盤となる低音であり、全ての旋律を支える揺るぎない礎となる」
テラは、自分の母性的な愛が「揺るぎない礎」だと評され、深い安堵の微笑みを浮かべた。
「チェロ…………わらわの愛が、全てを支える基盤。主にそう言っていただけるなら、不安は消えました。わらわは、ただ貴方を守るためだけに、その音を奏でましょう」
「そしてセフィラ。お前の自由と風の力は、高く、軽やかなフルートだ。曲の合間に華やかな装飾を加え、我々の勝利に歓喜の光をもたらす」
セフィラは、自分の自由奔放さが「華やかな装飾」という重要な役割を与えられたことに、両手を広げて飛び上がった。
「フルートだ! 最高の冒険の音だね、団長! 私の自由な音が、みんなの曲をもっと楽しくしちゃうぞ!」
ヒカルは、改めて四人の瞳を見つめた。
「ユニゾンとは、個々が勝手に音を出すことではない。それは愛の調律による四重奏だ。それぞれの音が、自分の役割を完全に果たし、互いを尊敬し合ったとき、生まれるハーモニーは、単なる足し算ではない」
彼は右手の拳を、まるで指揮棒のように強く振り上げた。
「四人の愛の音が、互いを何倍にも膨らませ、絶大な響きを持つ協奏曲へと変わる! これこそが、四龍ユニゾン『四元絶対支配圏』だ! お前たちは今、世界を統べる最高の音楽家となるんだ!」
ヒカルの言葉は、ただの戦略ではなく、愛と絆の表現だった。
(【レヴィア:調律開始:-30% → 興奮:+50%】、【アクア:調律開始:-15% → 理解:+70%】、【テラ:調律開始:-10% → 安定:+80%】、【セフィラ:調律開始:-50% → 冒険心:+100%】…………調律完了!)
ヒカルの『絆の共感者』の数値が、瞬時に100%を示す。四人の感情が、一瞬で完璧なハーモニーを奏でたのだ。
レヴィアのD音、アクアのF音、テラのB♭音(シ♭)、そしてセフィラのG音(ソ/自由のヴァイオリン)が重なり、セブンスコード(七の和音)という、緊張感と複雑性を内包した和声が完成した。
和音のテンション(緊張感)が増すほど、その力は局地的な自然法則を歪める強大なものとなる。
ヒカルは、この複雑な四重奏を乱れなく奏でるため、全神経を竜姫たちの感情の波に集中させた。
ヒカルは、戦場のすべての情報と、四人の竜姫の愛のベクトルが完璧に調和していることを確認した。
「レヴィア、アクア、テラ、セフィラ! 今、四つの元素は絶対の調和にある。最大火力を発揮しろ。完全竜体へ!」
ヒカルの命令が響くと、四人の竜姫は同時に体長20メートル級の巨大な炎、水、土、風の竜へと変身を遂げた。四龍ユニゾンによる完全竜体への変化は、制御のリスクを高めるが、絶対的な力と支配領域を生み出す。ヒカルは、「絆の共感者」として、四人の愛を「絶対防衛圏」という和音へと調律した。
「四龍ユニゾン、『四元絶対支配圏』発動!」
◇◆◇◆◇
「フンッ。トランペットの主旋律、最高の響きを聞かせてあげるわ!」
レヴィアの全身から灼熱の炎が噴き出し、蒼玉の輝きと混ざり合う。
「理性と緻密な構造を、このクラリネットが与えます」
アクアが冷徹に魔力制御を行う。
「チェロの音色で、全てを支えます。ご安心を、主」
テラが深緑の魔法陣を地面に展開し、王城全体を揺るぎない防御基盤に変える。
「さあ、団長! 最高のフルートで、勝利を飾るよ!」
セフィラが青空へ飛び上がり、風の渦が四人の竜姫を中心に高速回転した。
「四龍ユニゾン、『四龍絶対支配圏』発動!」
ヒカルの脳裏で、ユニゾンの戦闘能力数値Battle Power Index:BPIが爆発的に跳ね上がった。レヴィア(BPI=500)、アクア(BPI=350)、テラ(BPI=350)、セフィラ(BPI=200)の合計BPIは1400。これにN=4の調和係数2.8が乗算され、四龍支配圏の総BPIは3920に達した。
ヒカルの全身の毛穴が開き、竜姫たちの魔力が灼熱の空気となって肺に流れ込んでくる。その熱量が、彼の意識を数秒奪うほどの暴力だった。
(成功だ!三龍ユニゾン時(BPI=2040)から、わずか一人加わっただけで、BPIが約2倍に跳ね上がった!この非線形な力の増幅こそ、俺の愛の調律が唯一世界を変える証明だ!)
ヒカルの号令と共に、炎、水、土、風の四つの属性が、完璧な協和音を奏でながら融合した。城を中心とした巨大な魔力のドームが形成され、精鋭騎士団の進路を完全に封鎖する。
それは、四人の愛が創り出した、誰も踏み込めない絶対的な音域だった。
【第19話へ続く】
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