第十三話:愛の調律とユニゾンブレスの確立
古王軍最高幹部 六征竜 の 鉄壁の将が率いる部隊が城塞へと進軍。鉄壁の将は「権威の象徴」として、テラの柔軟な基盤 を固定化しようと試みてきた 。
部隊の先頭に立つ鉄壁の将は、硬質な黒髪を厳しく結い上げた、氷のように冷たい表情の女性だった。その身に纏うのは、装飾過多な古王の威厳を示す漆黒の重厚な鎧 。彼女の瞳には、旧体制派の竜族が奉じる「力と恐怖こそ王道」という絶対的な権威が宿っていた 。
(テラの母性的な献身とは対極にある、冷徹な権威…………!)
ヒカルは、彼女の姿から古王軍の支配の理念を読み取った 。
「全軍、敵を殲滅せよ!!」
城塞の外壁に、古王軍最高幹部である鉄壁の将 の土魔法が叩きつけられた。大地が悲鳴を上げ、城塞全体が大きく軋む。
「王よ! 敵の土魔法が、テラ様の流動的な防御基盤を固定化しています! このままでは、城塞の機動性が失われ、単なる的にされます!」
不動の防衛将ガイアの報告が、切迫した戦況を伝える。
ヒカルは、ガイアの部隊が辛うじて敵の攻撃を受け止めているのを確認した。敵の兵力は、依然としてこちらの三倍だ。
「アクア! 作戦を実行する! レヴィア、テラの感情を統制しろ!」
「御意! 三龍ユニゾン、開始!」
蒼玉の理性竜姫アクアが、緊張感に満ちた号令を発する。
ヒカルの合図で、レヴィアの激情の炎、アクアの理性の水、テラの献身の土の魔力が、ヒカルの「絆の共感者」の異能を通じて融合を試みた。
しかし、戦況の緊迫が紅蓮の激情竜姫レヴィアの感情を再び揺さぶった。ガイアの苦戦と、テラの魔力の中核で守りに徹する緩慢な動きが、彼女の焦燥を増幅させる。
「遅いわよ! テラ! ノロマな防御なんて必要ない! 私が一瞬で全てを焼き尽くす!」
レヴィアの激情がユニゾンのバランスを崩壊させ、制御不能な炎が魔力の奔流となって暴走し始める。炎は敵だけでなく、ユニゾンの中継点にいるアクアやシエルまで巻き込みかねない勢いだった。
◇◆◇◆◇
ユニゾン崩壊、そして作戦失敗の危機に、ヒカルは叫んだ。
「レヴィア! テラ! アクア! 止めろ!!」
その瞬間、爆炎龍将軍フレアと深海の戦術師シエルが、同時にヒカルの前に飛び出した。フレアは純粋な忠誠心でヒカルを覆い隠し、シエルは冷静に魔力障壁を展開して直撃を防いだ。ヒカルは、二人の副官が己の命を顧みず身を挺した事実に、怒りと決意を漲らせた。
ヒカルは、背後に控える二人の竜族を振り返り、大きく深呼吸をした。
「レヴィア! アクア!」
ヒカルの叱責が、鍾乳洞の静寂を破った。
「貴様らは、この無様な失敗をどう説明する! 貴様らの感情の衝突が、今、忠誠心篤い副官たちの命を危険に晒したのだ! 王である私、そして貴様らを愛する私をも、だ!!!」
ヒカルは、二人の竜姫の瞳を真っ直ぐに見つめた。姫たちは反論の余地がなく、首をうなだれるしかなかった。だが、このままではまずい。ヒカルは、彼女たちを鼓舞する。
「我が軍団の命運は、お前たちユニゾンにかかっている。そして、ユニゾンは愛の信頼によってのみ成立する」
「テラ! お前の献身の愛は、全軍の命と私を守る不落の盾だ! その磐石な土台がなければ、レヴィアの炎はただの消耗に終わる!」
「アクア! お前の理性の愛は、二人の妹の激情を勝利の論理へ変換する羅針盤だ! お前の冷静さが全てを繋ぐ!」
そして、炎を暴走させるレヴィアに、強く訴えかけた。
「レヴィア! お前の激情の愛は、世界を焼き尽くす力を持つ最強の矛だ! だが、その矛は、テラの防御とアクアの理性が調和してこそ、初めて真価を発揮する! お前たちの愛の形は全て必要だ! どれが欠けても、私との絆は成り立たない!」
「紅蓮の激情竜姫レヴィア!蒼玉の理性竜姫アクア!妻としての愛を――この王に見せてみろ!」
ヒカルの命懸けの肯定は、三姉妹の心に奇跡の調和をもたらした。
テラの母性が炎を優しく包み込み、アクアの理性が魔力の奔流を正しいベクトルへと収束させる。三つの愛の形が、感情の調和の頂点に達した瞬間、魔力が融合した。
ヒカルは、戦場のすべての情報と、三人の竜姫の愛のベクトルが完璧に調和していることを確認した。
「レヴィア、アクア、テラ! 今、お前たちは完全な絆の和音を奏でている。最大火力を発揮しろ。再度、完全竜体へ!」
ヒカルの命令が響くと、三人の竜姫は同時に体長20メートル級の巨大な炎、水、土の竜へと変身を遂げた。三龍ユニゾンによる完全竜体への変化は、最大の魔力と破壊力を解き放つが、その分、竜姫たちの感情が剥き出しとなり、一歩間違えれば制御不能の暴走に陥る。
ヒカルは、「絆の共感者」として、三人の竜姫の激しい愛のベクトルが「ユニゾンブレス」という絶対的な調和を生み出すよう、精神的な調律を開始した。
三龍ユニゾン発動の直前、鉄壁の将もまた、全身を鉄鉱石の結晶のような鎧で覆われた、体長20メートル級の巨大な土竜へと変貌した。その竜体は、大地と一体化した威圧感を放ち、テラの母性的な土竜とは異なり、冷たく、無機質な防御の壁を体現していた。
「貴様らの愛の調和など、この絶対的な権威の前には無力だ!」
と鉄壁の将が咆哮する。
ヒカルは、臆することなく竜姫たちに「愛の調律」によるユニゾンブレスを叩き込むよう指令した。
「三龍ユニゾン・ブレス!」
レヴィアのD音、アクアのF音に加え、テラのB♭音(シ♭)が加わる。三つの音が完璧に重なり、マイナー・トライアド(短三和音)という、安定しつつも静かな情熱を秘めた和声が完成した。
(これが三龍ユニゾン…………愛の三和音!)
テラの重低音が基盤となり、DとFの音をしっかりと支えることで、ユニゾンが破壊されにくい「強固な構造」を持つことを意味していた。
三龍ユニゾンによって、ブレスの威力は計算上の三倍を超え、完全に霧散した。
三龍ユニゾンが完成した。テラの重低音が根音となり、レヴィアのトランペットを揺るぎなく支える。その響きは、破壊ではなく、城塞全体を包み込む鋼鉄の皮膚のようだ。ヒカルは、その和音からBPIが計算値を遥かに凌駕していることを確信する。
ユニゾンは単純な足し算ではない。三龍の愛の和音は、周囲の岩盤をガラスのように硬化させるほどの 『構造的圧力』 を生み出した。ヒカルは、その圧力からBPIが理論計算を超えていることを直感する。
(成功だ! この非線形な力の増幅こそが、王である俺の、この世界で唯一の戦略的兵器だ! レヴィア(戦闘能力数値Battle Power Index:BPI=500)、アクア(BPI=350)、テラ(BPI=350)の愛の和音が完璧に調律された!)
単純な合計BPIは1200だが、N=3の調和係数1.7が乗算され、ユニゾンブレスの総BPIは2040に達していた。
ヒカルは、ブレスの熱量とは対照的に、冷静な表情を保っていた。
「この和音が崩れない限り、俺たちの絆は揺るがない! 三和音よ、敵の防衛線を粉砕しろ!」
それは、安定性と破壊力を両立する究極の光の柱だった。ブレスは、鉄壁の将 が築いた強固な土の防御を、溶かし、崩し、完全に吹き飛ばした。
「て、撤退しろ!! 深入りは危険だ!!」
鉄壁の将 の部隊は、初撃で甚大な損害を被り、城塞への進軍を一時停止せざるを得なくなった。
◇◆◇◆◇
三龍ユニゾンの成功に、レヴィア、アクア、テラの三人は、歓喜と同時に、ヒカルへの熱烈な愛の感情を爆発させた。
「ふふふ、見たか夫どの! 私たちの愛が最強よ! MVPは私ね!」
レヴィアは、顔を赤くしてヒカルの元へ駆け寄ろうとする。
アクアは、理性を失わぬよう努めながらも、その目には明らかな興奮の色が宿っていた。
「王よ。我々の連携の論理的な成功を、早く二人きりで評価すべきです」
テラは、柔らかな微笑みの中に、二人の姉へのしたたかな牽制を込めた。
「主の命令に従い、土の壁を崩すという防御の役割を果たせました。王妃の務めとして、主のために、このテラがたっぷりご奉仕させていただきます」
その過激な愛情表現に、レヴィアとアクアの顔色が一瞬で変わった。
ヒカルは、テラの母性的な愛の裏にあるあからさまな誘惑に、わずかに惹かれるものを感じながらも、疲弊しきった体に鞭を打ち、王としての威厳を保ったまま、三人の姫を冷静に制した。
「よくやった。だが、戦いはまだ終わっていない。敵は全滅したわけではない。後で存分に可愛がってやるから、今は戦いに集中しろ!」
ヒカルは、戦闘で大きな功績を立てた爆炎龍将軍フレアの肩を、労うように叩いた。フレアは、いつも通りの熱情的な忠誠心を示すかと思いきや、わずかに視線を伏せていた。
フレアの背中から伝わる魔力は、静かで冷たい憎悪の石のようだ。ヒカルは、彼の忠誠心の音色が、リリアの断末魔と同じ周波数で振動しているように思え、孤独な戦慄を覚えた。
(…………フレアの「忠誠の数値」が見えれば、この沈黙が単なる疲弊なのか、それともシエルとの関係や、俺への嫉妬による「心の揺らぎ」なのかがすぐに分かるのに)
ヒカルは、自分の異能が「竜姫という王妃候補」の管理に特化している一方で、「六天将という戦場の柱」の心の機微を捉えられないことに、もどかしさを感じた。彼は、フレアの沈黙を、「単なる疲弊」だと判断せざるを得なかった。
「よくやった、フレア。お前の突撃が道を切り開いた」
ヒカルは、フレアの背中を力強く叩いた。
フレアはすぐに顔を上げ、「御意!」と熱情的に答えたが、その瞳の奥には、ヒカルの誤解がさらに深まる、わずかな孤独の影が宿っていた。
ヒカルの叱責と、確実なご褒美をちらつかせる言葉に、三人の竜姫はそれぞれ異なる反応を示した。
レヴィアは、熱い吐息を漏らし「あぁ…………夫どの…………」と、喜びと焦燥で身悶え《もだえ》た。
アクアは、頬をわずかに赤らめながら「…………論理的には、合理的な約束ですね」と、その冷徹な仮面を崩した。
テラは、満足感に満ちた母性の笑みを浮かべ、「御意。主の義務の時を待ちます」と応じた。
ヒカルは、その激しい感情の波に圧倒され、視界の隅で深海の戦術師シエルが、微かに肩を震わせ、笑いをこらえているのを見つけた。ヒカルがシエルに視線を向けると、彼女は一瞬で表情から全ての感情を消し、何事もなかったかのように平静さを保った。
(まったく、この姫たちは…………)
ヒカルは、この奇跡的な一撃にもかかわらず、敵の総兵力は健在であり、こちらの兵力差は変わらないという冷徹な現実に直面していた。ヒカルの、愛を力に変える戦いは、まだ始まったばかりだった。
【第14話へ続く】
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