第十二話:鉄壁の将 《アイアン・ウォール》との初戦と三龍連携の布陣
ようやく軍隊の体をなし始めたヒカルたち。
これまで静観していた古王がついに動き出した。炎だけでなく、水そして土の姫が合流したことで、ヒカルたちはついに古王にとって無視できない存在となった。
巧妙な隠蔽が奏功したこともあって、テラが合流してから約一か月の時間を稼ぐことができた。
その間にテラとガイアが築き上げた難攻不落の城塞内は、極度の緊張感に包まれていた。
すでに古王軍の土属性部隊が、城塞からわずか数刻の距離まで迫っている、ということが判明したからだ。
深海の戦術師シエルが、冷静な声でヒカルに状況を報告した。
「王。敵の先鋒隊が、城塞外郭の偵察を開始しました。鉄壁の将 の主力が到着するまでの猶予は、長く見積もっても二時間です。テラ様の防御魔法陣の最終調整は、まだ完了していません」
ヒカルは城塞の地図を広げ、深い疲労を覚える表情で状況を見つめていた。
「敵の戦力は我々の三倍。しかも、テラが不在の間に築いた防御線は、磐石の守護龍テラの柔軟な魔力なくしては機能しない。時間が足りないな」
ヒカルは、横に控える不動の防衛将ガイアに視線を向けた。
「ガイア。奴の戦術を分析しろ」
ガイアは、体格に見合った重厚な声を響かせた。
「王よ。鉄壁の将 の土魔法は、権威と圧力を象徴します。我がテラ様の防御は、柔軟な地の魔力に依存している。奴は、その柔軟性を奪い、城塞を動かせない棺桶に変えるつもりでしょう。厄介な敵です、王」
ヒカルは、ガイアの分析を受け止め、冷徹な現実を突きつける。
「その厄介な敵に対し、我々の即応戦力は、全軍の約30%強しかない。貴様の部隊と、テラの初期配置兵力を合わせ、最大で約490体だ。この絶望的な兵力で、奴の初撃をどう凌ぐ」
蒼玉の理性竜姫アクアが、冷徹な分析を告げる。
「王よ。鉄壁の将 の戦術は、テラの柔軟な基盤を固定化しようと試みる。そして、この劣勢を覆す唯一の手段は、三龍による連携だが…………二龍ユニゾンですら、あれほど感情の調和に苦労したのです。三つの感情が加われば、成功率は極めて低い。私は、感情の調和の難しさに懸念を示します」
紅蓮の激情竜姫レヴィアは、待ちきれない様子で炎を揺らめかせた。
「二時間もあるの! 夫どの、さっさと爆炎龍将軍フレアと私で攻め込めばいい! 守っているだけなんて、テラ姉上様は動きが緩慢でイライラするわ! 私の激情がもたない!」
レヴィアの焦燥とテラへの不満は、ヒカルの「絆の共感者」の異能を通じて、炎と水のユニゾンの安定性を低下させるという形で現れた。
◇◆◇◆◇
窮地に立たされたヒカルは、レヴィアの激情を制御し、三龍連携の可能性に賭けることを決断した。
「よし。布陣を指示する。全軍、持ち場につけ!」
ヒカルは、まず三人の竜姫に、最も重要な任務を割り当てた。
「テラ!貴様は、城塞内部の防衛魔法陣の中核に留まれ。お前の母性が城塞全体に安心感を与えよ。お前の献身こそが、我々の不落の盾だ!」
「御意、主。このテラ、全ての兵の命と、主の御身を守り抜きます」テラは柔らかな微笑みで応じた。
ヒカルは、次にレヴィアを個室に呼び出し、彼女の激情を戦略的な信頼へと昇華させる試みを始める。
「レヴィア。お前の情熱は、世界で最も強く、最も大切なものだ。だが、その激情を、今はテラ様への信頼として使ってくれ」
レヴィアはヒカルの命懸けの説得に、頬を赤面させた。
「わかったわ、夫どの。貴方がそこまで言うのなら…………。あの五女のノロマな動きを、磐石な盾だと信じてあげるわ」
「レヴィア!貴様はフレアと共に、城塞の最前線、攻撃線に配置せよ。敵が防御に気を取られた瞬間、お前の激情を爆発させろ!」
「ふふっ! 待ってました、夫どの! 私のMVP獲得のチャンスね!」
レヴィアは炎を躍らせた。
「アクア。貴様はシエルと共に、後方、そしてユニゾンの中継点に配置せよ。戦闘中に発生する二人の妹の感情の揺らぎを解析し、ユニゾンの発動タイミングを指揮しろ。貴様の理性が、二人の激情を勝利へと導く」
アクアは静かに頷いた。
「御意。王の論理的な判断は、必ず勝利を呼び込みます」
ヒカルは、副官たちにも具体的な任務を割り当てた。
「フレア!貴様の爆炎龍部隊(50体)は、レヴィア様の護衛と、最前線での陽動を担え。敵の注意を一点に集中させろ!」
「王よ。必ずや敵を惑わします!」
フレアは腰の剣に触れ、応じた。
「ガイア! 貴様の不動の防衛将の部隊は、城門前の第一防衛線で敵の初撃を受け止めろ! 我々の現有兵力で、この防衛線を死守するのだ!」
「心得ました、王。大地の力を信じます!」
ガイアが重厚な声を響かせた。
シエルは、城塞内部の兵站と資源の管理を最終確認していた。
「王。ユニゾン発動に必要な魔力と、戦闘後の兵站資源は確保しました。後は、王妃たちの感情の安定にかかっています」
ヒカルは、作戦の最終確認を終え、シエルの隣に立つ。彼は誰にも聞こえないように、小さく愚痴をこぼした。
「シエル。お前たち副官は有能だ。姫たちも優秀だ。だが、あの感情のぶつかりあいさえ起きなければ、もっと楽に勝てるのにな」
シエルは、ヒカルの愚痴に一瞬も表情を崩さなかった。彼女は眼鏡の奥の瞳を冷たく光らせ、プロフェッショナルな皮肉を込めて答えた。
「王。戦場での勝敗は、愛の精進に比例します。きっと、王の、妻たちへの愛の精進が足りませんのよ」
「はは、相変わらず手厳しいな、シエルは」
シエルの言葉は、感情的な問題を論理的な義務へと変換する、彼女らしい冷徹な励ましだった。ヒカルは苦笑し、王としての仮面を深く被り直した。
城塞の内部に、緊張と、三人の竜姫たちの愛の炎が満ちた。敵の攻撃が開始されるまで、残された時間はわずかだ。
【第13話へ続く】
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