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信頼のひび

 朝の職員室に、二つの集計結果が並んでいた。

 一つは、学校側が実施した《教育環境に関する生徒意識調査》。

 もう一つは、生徒会が実施した《教育環境調査に関する補助アンケート》。

 紙の色は、どちらも白かった。

 だが、そこに書かれているものは、まるで違っていた。

 校長は、二つの資料を前にしてしばらく黙っていた。

 教頭も、眼鏡の奥で数字を追っている。

 職員室の空気は、朝とは思えないほど重い。

 学校側の調査結果。

 回答率、九十二パーセント。

 記名式だったため、提出率は高かった。

 表面だけを見れば、立派な数字だった。

 だが、自由記述欄は極端に少ない。

 空欄が多い。

 選択肢への回答は揃っているが、言葉がない。

 生徒会の補助アンケート。

 回答率は低い。

 全体の三割にも届かない。

 けれど、自由記述が多かった。

 しかも、重かった。

 記名式だと本音を書きづらい。

 特定の生徒の影響という項目を見て、誰かを悪者にするための調査に感じた。

 改革の話題に疲れる時はある。でも、それを学校に知られる方が怖い。

 先生も怖いんだと思う。でも、その怖さを生徒に向けないでほしい。

 校長は、その一文のところで指を止めた。

 長い沈黙のあと、低く言う。

「……これは、重いですね」

 教頭は頷いた。

「はい」

「学校側の調査だけを見ていたら、見えなかった」

「おそらく」

 その言葉が、職員室の空気をさらに重くした。

 大河原は腕を組んでいた。

 佐藤は資料の数字を追っている。

 岸田は口元を固く結んでいた。

 早乙女だけが、いつものように静かな顔をしていた。

 だが、その目は少し細い。

 校長は資料を閉じずに言った。

「今回の学校調査について、設問の再検討が必要です」

 その瞬間、数人の教師が顔を上げた。

 岸田が口を開く。

「校長、それはつまり、こちらの調査に問題があったと認めるということですか」

「問題がなかったとは言えません」

 校長の声は淡々としていた。

「少なくとも、生徒の一部が答えづらさを感じた。その事実は受け止めるべきです」

 佐藤が言う。

「しかし、生徒会のアンケートも回答数は限られています。そちらだけを重く見るのは危険です」

「もちろんです」

 教頭が答えた。

「だからこそ、二つの結果を並べて見る必要がある」

 市子は、自席で静かに聞いていた。

 言いたいことはあった。

 だが今は、校長が言うべき場だった。

 大河原が、低く言った。

「生徒会が学校の調査を補正する。これは、学校運営上かなり危うい前例になります」

 校長は大河原を見た。

「危ういのは、補正されたことではありません」

 一拍。

「補正が必要になったことです」

 職員室が、静まり返った。

 誰もすぐには返せなかった。

 市子は、胸の奥で小さく息を吐いた。

 校長が、初めて正面から踏み込んだ。

 それだけで、空気は変わる。

 校長は続けた。

「学校は、生徒の声を聞くつもりで調査をしました。ですが、その聞き方によって、かえって不安を生んだ可能性がある」

 紙をめくる音が、妙に大きく響いた。

「これは、反省すべきです」

 反省。

 その言葉が、職員室に落ちた。

 教師が生徒へ向けることの多い言葉。

 それが今、学校自身へ向けられていた。

     

 同じころ、生徒会室にも二つの資料が置かれていた。

 花園凌央は、学校側の集計表を読みながら眉を寄せていた。

 今井律人は、補助アンケートの自由記述を分類している。

 翔吾は、ひとつひとつの文を慎重に読み直していた。

 巫鈴は、窓際に立っていた。

 外では、朝の光が校庭を白く照らしている。

 まぶしいのに、どこか冷たい光だった。

「学校側の回答率は高い」

 凌央が言った。

「でも、自由記述が少ない」

 今井が続ける。

「生徒会側は回答率は低い。でも自由記述が多い」

 翔吾が小さく言う。

「つまり……学校には出せなかった言葉が、こっちには出た」

 その言葉に、部屋が静かになった。

 巫鈴は振り返る。

「それを、どう扱うかですね」

「そう」

 凌央は頷いた。

「ここで勝ったように見せたら、終わる」

 巫鈴は短く頷いた。

「勝ってない」

 その声は、はっきりしていた。

「信頼が傷ついたんです」

 翔吾が顔を上げる。

 巫鈴は机の上の資料を見た。

「学校は聞いたつもりだった。でも、生徒は安心して答えられなかった。その差が出た」

 凌央は静かに言う。

「生徒会としては、校長と教頭に報告する。職員会議にも回るだろう」

「生徒には?」

 今井が聞く。

 凌央は少し考えた。

「全文公開はしない。個人が特定される危険がある」

「要約ですね」

 巫鈴が言う。

「はい。ただし、要約で温度を消しすぎてはいけない」

 翔吾が、手元の一文を見た。

 先生も怖いんだと思う。

 でも、その怖さを生徒に向けないでほしい。

「これ……入れたいです」

 翔吾の声は小さかった。

 だが、迷いはなかった。

「これは、削っちゃいけないと思います」

 凌央は翔吾を見た。

「理由は?」

「誰も責めてないからです」

 翔吾は、紙を見つめたまま答える。

「でも、逃げられない。これを書いた人は、先生を敵にしたいんじゃない。でも、怖いって言ってる」

 巫鈴は、翔吾の横顔を見た。

 彼は変わった。

 以前なら、ただ記録するだけで精一杯だった。

 今は、どの声を残すべきかを考えている。

 数字ではなく、温度を見ている。

 凌央は頷いた。

「分かった。代表的自由記述として入れよう」

 今井がメモを取る。

 巫鈴は、静かに言った。

「それと、私たちへの批判も入れてください」

 今井の手が止まる。

「巫鈴さんたちへの?」

「はい」

 巫鈴は補助アンケートの別の紙を取った。

 改革の話が多くて疲れる。

 記録されていると思うと怖い。

 伊勢野さんたちは正しいと思う。でも、正しすぎて近寄りにくい。

「これも、消してはいけません」

 翔吾は少しだけ困った顔をした。

「でも、それを入れると、巫鈴さんたちが責められるかもしれません」

「それでいい」

 巫鈴は即答した。

「私たちに都合のいい声だけ残したら、学校側の調査と同じになります」

 凌央が、わずかに笑った。

「その判断は、いい」

「褒めないでください」

「褒めているわけじゃない」

「なら何ですか」

「安心している」

 巫鈴は少しだけ言葉に詰まった。

 凌央は資料を揃える。

「今回の要約は、三部構成にする」

 指を一本立てる。

「一つ。学校調査への回答しづらさ」

 二本目。

「二つ。改革側への不安」

 三本目。

「三つ。教師と生徒の双方が抱える怖さ」

 巫鈴は頷いた。

「それでお願いします」

 翔吾が、ぽつりと言う。

「……声って、揃わないですね」

 巫鈴は短く答えた。

「揃えたら、声じゃなくなる」

 部屋の中に、静かな納得が落ちた。

     

 昼休み。

 日ノ本文化部の部室には、いつものざわめきが戻りかけていた。

 だが、机の上に置かれた資料の束が、今日の空気を少し硬くしている。

 琴美は学校側調査と補助アンケートの比較表を見て、唸った。

「これ、すごいわ」

「何が?」

 萌香が聞く。

「学校側、回答率は高い。でも中身が薄い。生徒会側、回答率は低い。でも本音がある」

 沙羅が頷く。

「数字だけ見れば学校側が強い。でも内容を見ると、生徒会側が重い」

「数字の勝負じゃないですね」

 美優が言った。

「うん」

 巫鈴は頷いた。

「信頼の差が出た」

 その言葉に、部室が少し静かになる。

 勇馬が比較表を見ながら言った。

「学校は、形式上は生徒の声を聞いた。でも、生徒は安心して声を出せなかった」

 シャオが真剣な顔で言う。

「パォ……これ、台湾でも問題になるやつですぅ。アンケートなのに、先生が見るって分かったら、本音出ない」

 ズーハンが短く言った。

「GG。見られる声は、着替える」

「うまいこと言うわね」

 琴美が感心する。

「でも、その通り」

 沙羅が言う。

「見られる前提の声と、守られる前提の声は違う」

 萌香は腕を組んでいた。

「じゃあさ、もう生徒会のアンケートだけでよくない?」

「違う」

 巫鈴はすぐに言った。

 萌香が目を丸くする。

「違うの?」

「学校側の調査も必要。学校が公式に聞くことには意味がある」

「でも、信用されてないじゃん」

「だから直すの」

 巫鈴は言った。

「学校の調査をなくすんじゃない。信頼される調査に変える」

 真平が窓際で湯呑を持ちながら言う。

「お前、変わったな」

 巫鈴が兄を見る。

「何が?」

「前なら、学校側の調査は欠陥品ですって斬ってた」

「今も欠陥はあると思ってる」

「だろうな」

 真平は少し笑った。

「でも、捨てずに直すって言った」

 巫鈴は少し黙った。

 確かに、以前ならそうしていたかもしれない。

 誤った設問。

 誘導された選択肢。

 記名式による萎縮。

 欠陥を並べ、論理で切っていた。

 でも今は、違う。

 切れば終わるものではない。

 学校は壊して終わりではない。

 直して、使い続けなければならない場所だった。

「……壊すためじゃないから」

 巫鈴は静かに言った。

「直すためだから」

 美優が、少しだけ微笑んだ。

「その言い方、今の巫鈴さんらしいです」

     

 その日の午後、掲示板に生徒会からのお知らせが貼り出された。

 教育環境調査・補助アンケート集計の要約について

 全文ではない。

 個人が特定されないよう、表現は整理されている。

 だが、核心は残されていた。

 記名式への不安。

 設問の誘導性への違和感。

 改革側への疲れや怖さ。

 教師側への不信と、同時に理解。

 そして最後に、代表的な自由記述が置かれていた。

 先生も怖いんだと思う。

 でも、その怖さを生徒に向けないでほしい。

 生徒たちは、足を止めて読んだ。

 一人。

 二人。

 三人。

 最初は黙って読む。

 やがて、小さな声が生まれる。

「これ、分かる」

「先生も怖い、か……」

「でも、生徒に向けないでほしいって、きついな」

「伊勢野さんたちへの不安も載せてるんだ」

「そこ隠さないんだ」

 その言葉が、少しずつ広がっていく。

 巫鈴は、廊下の端でその様子を見ていた。

 前に出ない。

 説明しない。

 ただ、見る。

 掲示板の前に、前の席の女子がいた。

 彼女は最後まで読み、それから小さく息を吐いた。

 巫鈴に気づくと、少し迷ってから近づいてきた。

「あのさ」

「うん」

「私が書いたやつ、少し入ってた」

 巫鈴は何も言わなかった。

「名前、出てなかった」

「出さないよ」

「うん」

 女子は少しだけ笑った。

「それが、ちょっと嬉しかった」

 巫鈴は、短く頷いた。

「よかった」

「あと……伊勢野さんたちが怖いっていう意見も、ちゃんと載せてたね」

「うん」

「あれ、消すと思ってた」

「消したら、意味がないから」

 女子は、巫鈴をじっと見た。

「……私、まだ全部賛成ってわけじゃない」

「それでいい」

「でも、話は聞きたいと思った」

「うん」

「今度のヒアリング、行く」

「分かった」

 それだけの会話だった。

 けれど、巫鈴には十分だった。

 支持というほど強くない。

 味方というほど近くない。

 でも、距離が少しだけ縮まった。

 それが今は、一番大事だった。

     

 職員室でも、掲示の内容はすぐ話題になった。

 相沢が、掲示の写しを机に置いた。

「……正直、驚きました」

 市子が聞く。

「何に?」

「伊勢野さんたちへの批判も入っているところです」

 市子は少し笑った。

「あの子、そこまで来たのよ」

 相沢は、代表的自由記述をもう一度見る。

「先生も怖いんだと思う。でも、その怖さを生徒に向けないでほしい」

 その一文を読む声は、少し沈んでいた。

「刺さりますね」

「刺さらない教師はいない方が危ないわ」

 市子は言った。

 その言葉を、近くにいた志水が聞いて小さく頷いた。

「保健室でも、今日はその話になりました」

「生徒が?」

「はい。先生も怖いのかなって」

 岡村もやってきた。

「家庭科室でも同じです。何人かが話していました。先生を責めるんじゃなくて、先生も怖いなら言えばいいのに、って」

 市子は少しだけ目を細める。

「……信頼が揺らいだのね」

 相沢が顔を上げる。

「それは悪いことですか」

「悪いことでもある」

 市子は答えた。

「信頼は、一度揺れると戻すのが大変だから」

 そして、掲示の写しを指で押さえた。

「でも、揺れなければ見えないものもある」

 相沢は黙って頷いた。

 その日の職員室には、いつもと違う空気があった。

 生徒の声を、ただの反抗として処理できない。

 学校側の調査だけを正当なものとして押し切れない。

 教師たちの中にも、少しずつ迷いが生まれていた。

 その迷いは、弱さではなかった。

 考え始めた証だった。

     

 放課後。

 美術準備室に、灯の会の教師たちが集まった。

 市子、相沢、竹内、志水、岡村、塚本。

 机の上には、補助アンケートの要約が置かれている。

 竹内が言った。

「生徒の見る目が変わっています」

 志水が頷く。

「保健室に来る子も、前より言葉を選んでいます。先生が嫌い、ではなく、先生が怖いのかもしれないって」

 岡村は静かに言う。

「それは、教師にとって楽な言葉じゃありませんね」

「ええ」

 市子が答えた。

「でも、必要な言葉よ」

 相沢が資料をめくる。

「この流れなら、職員側からも何か出すべきでは?」

「出すべきね」

 市子は言った。

「何を?」

「教師側の確認文」

 塚本が顔を上げる。

「確認文?」

 市子は一枚の紙を出した。

 生徒の意見収集に関する確認事項。

 一、調査は、生徒を分類・評価するために用いない。

 二、記名式調査を行う場合、目的・閲覧範囲・利用方法を明示する。

 三、自由記述の少なさを、意見がないこととみなさない。

 四、生徒会による補助調査を、学校への反抗とみなさない。

 五、教師側も、問い方を学び直す。

 相沢は、最後の一文で目を止めた。

「問い方を学び直す」

「そこが一番大事」

 市子は言った。

「教える側は、問う側でもある。問う側が間違えれば、答える側を歪ませる」

 準備室の中が静かになる。

 誰も反論しなかった。

 だが、その静けさは重かった。

 自分たちにも刃が向いている。

 それを全員が分かっていた。

     

 一方、旧館二階の会議室では、大河原たちもまた同じ要約を読んでいた。

 岸田は、掲示の写しを机に置いた。

「支持が増えています」

 佐藤が言う。

「生徒だけではありません。教師側にも」

 早乙女は、静かな声で続ける。

「今回の件で、学校調査への信頼が傷ついた。それが伊勢野さんたちへの支持に流れている」

 大河原は黙っていた。

 しばらくして、低く言った。

「当然だ」

 岸田が顔を上げる。

「当然?」

「学校が揺れれば、揺らした者が強く見える」

 大河原は資料を閉じた。

「だが、信頼が揺らぐということは、伊勢野巫鈴への期待も膨らむということだ」

 佐藤が眉を寄せる。

「期待を利用する?」

「期待は重い」

 大河原は言った。

「背負いきれないほど重くなれば、人は潰れる」

 早乙女が、小さく頷いた。

「つまり、支持そのものが圧になる」

「そうだ」

 大河原は窓の外を見た。

 夕方の校庭では、生徒たちが部活動へ向かっている。

 笑い声が遠くから聞こえる。

 その笑い声が、今日は少し遠く感じられた。

「次は、伊勢野巫鈴を持ち上げる」

 岸田が目を細める。

「敵が、ですか」

「敵ではなく、周囲がだ」

 大河原は言った。

「救世主にされれば、彼女は間違えられなくなる」

 一拍。

「人は、批判より期待で縛られる」

 会議室の空気が、冷たく沈んだ。

     

 その夜。

 巫鈴は、自室で補助アンケートの要約をもう一度読んでいた。

 支持が増えている。

 それは、数字にも反応にも出ていた。

 廊下で話しかけられる回数が増えた。

 今まで距離を置いていた生徒が、意見をくれるようになった。

 教師の中にも、明らかに態度が変わった人がいる。

 でも、巫鈴の胸は軽くなっていなかった。

 むしろ、重くなっていた。

 真平が部屋に入ってくる。

「また難しい顔してる」

「支持が増えてる」

「いいことじゃないのか」

「いいこと」

 巫鈴は答える。

「でも、怖い」

 真平は椅子に座った。

「何が?」

「期待されること」

 巫鈴は、資料を見た。

「学校への信頼が揺らいでる。その分、私たちに流れてきてる」

「うん」

「でも、私は学校の代わりにはなれない」

 その言葉は、小さかった。

「私が全部聞けるわけじゃない。全部直せるわけじゃない。全部守れるわけじゃない」

 真平は、すぐには答えなかった。

 巫鈴は続けた。

「なのに、もし皆が私を見始めたら……それは違う」

 真平は、しばらくして言った。

「じゃあ、言えばいい」

「何を?」

「私を見るなって」

 巫鈴が顔を上げる。

 真平は、いつものように飄々と言った。

「いや、正確には、私だけを見るな、か」

 巫鈴は黙った。

「学校を直すんだろ。お前を玉座に座らせるんじゃないんだろ」

「……うん」

「なら、支持が増えた今こそ言うべきだろ」

 巫鈴はノートを開いた。

 白いページ。

 そこに、ゆっくり書いた。

 私を信じないでください。

 書いた瞬間、自分でも少し驚いた。

 強すぎる。

 でも、必要な強さだった。

 その下に続ける。

 私の言葉ではなく、仕組みを見てください。

 私が正しいかではなく、あなたが安心して学べるかを見てください。

 巫鈴は、ペンを止めた。

 真平が覗き込む。

「いいじゃん」

「本当に?」

「お前らしい。嫌なほど」

 巫鈴は少しだけ笑った。

 そして、最後に一行を足した。

 学校を変えるのは、私ではありません。

 声を出し、聞き、直し続ける全員です。

 その文字を見て、巫鈴は静かに息を吐いた。

 信頼のひびは、もう入った。

 それを利用して自分が上に立つこともできる。

 だが、それでは何も変わらない。

 支配者が入れ替わるだけだ。

 巫鈴は、ノートを閉じた。

 明日、この言葉を出す。

 支持が増えている今だからこそ。

 期待が鎖になる前に。

 自分自身が、その鎖を断たなければならない。

 夜の窓に、自分の顔が映っていた。

 十六歳の少女の顔。

 疲れている。

 怖がっている。

 それでも、逃げてはいない。

 巫鈴は、窓の外の暗さを見つめた。

 学校への信頼は揺らいだ。

 だからこそ、次に必要なのは、自分への信仰ではない。

 新しい信頼の作り方だった。

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