ミルク
モカに振り回されるモモをテーマに書いたお話です。
宜しければ読んで下さい。
今日の主は久々の休みという事で朝から大変機嫌が良い。
何時もならば煩わしさを覚える目覚めも今朝は気持ち良く起きる事が出来、何だか良い事が起きる予感さえもする。
ただ何時もと変わらないのは甘えた様な声を発しながら駆け寄って来る愛猫達の存在。
「ミャウ、ミャウ・・・。」
足に顔を摺り寄せながら鳴いている姿は実に愛おしい。
そう思いながら主は徐に食器棚からプラスティック製の深皿を2つ取り出す。
「今日は休みだから、特別。」
そう言うと冷蔵庫に入っていたミルクを深皿に少量入れ、愛猫達に与える。
飼い主からのご褒美に感無量といった様子の仔ネコ達。
「おいし~い・・・。」
「しあわせぇ~・・・。」
歓喜の声を上げながらモカとモモはミルクを堪能する。
しばらくすると、流し込む様に舐めていた為か自分に与えられたミルクが無くなった事に気付いたモカ。
隣を見ると、モモはゆっくりとしたペースで味わう様に舐めており深皿に注がれたミルクはまだ残っていた。
「ねぇ、モモ。もし良かったらあたしにそのミルクを・・・。」
「ダ~メ!あたしだって飲みたいんだから。」
物欲しそうに強請るも案の定、断られてしまった。
不貞腐れながら辺りを見渡すと台所の食卓テーブルに先程のミルクは注ぎ口が開いたまま置かれていた。
察するにこの後の朝食の為に主がテーブルに置いたままにしたのだろう。
その証拠に現在、食パンをトースターにかけつつ目玉焼きとベーコンを焼いていた。
しばらくの間、主がこちらに来る事は無いだろうと確信するとテーブルの上に飛び乗りそのまま1リットル入りのパックに手をかけた。
「あ!モカ、ダメよ!」
モモはそれに気付くとモカの素行を阻止するべくテーブルの上に乗り近くまで行く。
しかし、モカはミルクに夢中になっておりそれ所では無い様だ。
「あぁ、もう少し、もう少しで届きそう・・・。」
つま先立ちになり注ぎ口へ手を掴むとパックを斜めに傾ける。
ミルクまでの距離はあと数センチ。
もう少しで満足するまで飲む事が出来る。
期待に胸を膨らませるモカに対し現実に引き戻すかの様なモモの声が響く。
「ちょっと、モカ。ねぇ、聞こえてるの!?」
「うぇ、モモ!?」
モカは驚いた拍子にパックから手を放してしまった。
テーブルの上に横倒しになったパックからミルクが注ぎ口から床に向かって勢いよく零れ落ちる。
「はぁ~、美味しそう・・・。」
膨張する様に広がっていくミルクを見るや否や床へと飛び降りるモカ。
一方、モモはというとその場に取り残されどうして良いか分からない様子だった。
「ちょっと、モカ。これどうするの?」
声をかけるも、一心不乱にミルクを舐めるモカには無情にも届かない。
その時、自身の朝食が盛り付けられた皿を持った主が運悪くこちらへやって来た。
テーブルに目をやると横倒しになったパックから床へと滴り落ちるミルク。
そこには動揺している様子のモモが確認出来る。
この構図では誰がどう見てもモモがやった様にしか見えない。
「あ!ダメじゃないモモ。ミルク倒しちゃ!」
「へ?ち、ちが・・・。これは、モカが・・・。」
あらぬ疑いをかけられ必死に否定するも主からすればネコであるモモの言葉が分かる筈も無く、『ミャウ、ミャウ』と聞こえるだけであった。
そして、モモの犯行だと信じて疑わない主は険しい顔をしながら叱った。
「め!」
「あ、あたしじゃないのにぃ~・・・。」
濡れ衣を着せられた挙句、大好きな主に叱られてしまったモモはショックの余りその場に崩れ落ちる様に泣いてしまった。
その頃、モカはテーブルの下で身を潜める様にしていた。
当然、ミルクを舐める余裕などもう無い。
「あ~・・・、まずいなぁ~・・・。」
そう一言呟きながらバツの悪そうな表情をしていた。
その日の夜。
「ねぇ、モモ。機嫌直してよ。あ、ほら。あたしの晩ご飯少しあげるから・・・」
「モカのバカ!もう、知らない!」
機嫌を伺いながら話しかけるモカだったが、完全にへそを曲げてしまった様子のモモは腕を組んだ状態でそっぽを向いていた。
この日から3日間、モモに口を利いてもらえなかったモカなのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
まだまだ手探りな状態ではありますが、よろしくお願いします。