【197】にゃんとんびっくり皇妃様
子猫になってしまった私は歯も小さくて弱く、固形物を自分で食べるのは困難だった。
なので今はフィズの膝の上で毛布に包まれ、ホットミルクをスポイトでもらっている。
「にぃ、にゅん、にぁ」
うまうまだ。砂糖は入ってないはずなのにすごく甘く感じる。
思わず前足で毛布をふみふみしてしまう。すると、私を抱っこしているフィズが微動だにしないままグッと呻いた。
「か、かわいすぎる……!!」
「おい皇帝、何を独り占めしている。我にも寄越せ」
「僕も僕も」
「お前は猫の体でどうやってミルクを与えるというのだ」
「ぐぅ……」
周りが騒がしいが、空腹の私はうっとりと目を閉じてミルクを飲む。
お腹がいっぱいになってきたら眠くなってきた……。
「あ、ふみふみがゆっくりになってきた。お眠かな?」
「おい、お前がさっさと代わらぬからシャノンが寝てしまうだろ!」
「お昼寝後のごはんは神獣様に譲るから我慢してよ。ほら、大きな声を出したら姫が起きちゃうよ」
そうそう、私はお昼寝するからみんなもゆっくりしよ。ほら見て、もう目が開いてないよ。
「わぁヘソ天で寝ちゃった。赤ちゃんだねぇ。かわいいねぇ」
未だかつてないほどご機嫌だね、フィズ。
毛布でくるまれたままどこかに置かれた気配がした。フィズが私をベッドの上に置いたんだろう。
「よーしよし、伯父様と一緒に寝ようね~」
伯父様の声がしたかと思えば温かくてふわふわとしたものが私を包んだ。にゃんこ姿の伯父様が私を囲うようにクルンと丸まったんだろう。
そして伯父様は猫特有のザリザリとした舌で私の毛繕いをしてくれる。人の肌だったら痛いかもしれないけど今は私も毛玉の一族なのでむしろ心地良いくらいだ。
喉をゴロゴロと鳴らし、伯父様の尻尾をふみふみしながら毛繕いをされていた私はいつの間にか眠ってしまった。
「――んな」
お昼寝から目覚めると、既にフィズの姿はなくなっていた。皇帝は多忙だね。
自分を取り巻いていた毛布の中から抜け出し、にゃーんと伸びをする。
「んにぃ」
「あ、シャノンちゃん起きたんだね」
私が起きたことに気付いた伯父にゃんこがテトテトとこちらにやってくる。そしてにゃおーんと私に頬ずりをしてきた。
伯父様の顔くらいの大きさしかない私はスリスリ頬ずりされると踏ん張れずにポテンと倒れてしまう。
「にぃ」
抗議の鳴き声を出すけどデレデレとした顔をされるのみだった。伯父様には伝わらなかったようだ。
やっぱり言葉が伝わらないのは不便だ。
子猫の姿になってから半日。そろそろこの姿で話す練習をしないと。
「にぃ、にぁ!」
喋れるようになるぞ! と意気込んで鳴き声を上げるとリュカオンがうんうんと頷いてくれる。
「ああ、そうだな。話が出来ないと不便だな」
「なんて神獣様は普通にシャノンちゃんの言葉を理解できてるんですか……」
「保護者力のなせる技だ」
リュカオン、すごいドヤ顔だ……。中々こんな顔のリュカオンも見られないのでレアである。
「クッ……まだまだ神獣様には敵わないのか……」
「年季が違うわ」
本気で悔しそうにする伯父様にリュカオンは勝ち誇ったような笑みを向ける。
悔しさからかパシパシと尻尾でシーツを打ち付けた伯父様はクルンと私の方に向き直った。
「シャノンちゃん、伯父様っていってごらん、おーじーさーま」
「にゃーにゃーんなーみゃ」
「わぁかわいい!」
髭をピンッと立てた伯父様が頬ずりをしてくる。
「もう一回言ってみて」
「にゃにゃにゃんみゃ」
「上手だねぇ」
「上手ではないだろう」
親バカを炸裂させる伯父様にリュカオンが冷静に突っ込みを入れる。
私も我ながら言えてはなかったと思う。
「神無時が終われば人の姿にも自然と戻る。そこまで必死に話さずともよいだろう。シャノンは喋れずともかわいい」
そう言うとリュカオンは私を膝の上に抱き上げ、スラリと長い指で私の顎下を掻く。うっとりだ。もっとやって。
ゴロゴロと喉を鳴らすと、リュカオンが微笑ましげに目を細める。
「かわいいのう」
「……神獣様、どこぞの王様みたいなことしてますね」
足を組み、膝の上の私を撫でるリュカオンを見た伯父様が半眼で言う。大富豪の構図だね。
リュカオンに撫でられてゴロゴロしていると、ふと部屋の外がどうなっているのか気になった。
外がこんなに真っ暗な中でみんなはどうやって過ごしてるんだろう。なんだか気になってしまい、尻尾がピンと立つ。
そろそろ部屋の中だけで生活することにも飽きてきた頃だ。ちょっとくらい外に出てもいいんじゃないだろうか。
「みゃっ! にゃにゃっ」
「――ん? 散歩?」
「にゃ!」
さすがリュカオン、私の言いたいことがしっかりと理解できているようだ。
外も真っ暗だし、まるっきり猫になったこの姿で出歩く分には誰も私だとバレないだろう。
「にゅにゅにゃん」
「すぐに帰る? 一分で戻って来られるのか?」
「にぃ……」
一分は早すぎない?
――過保護なリュカオンとの交渉の末、とりあえず十分のお散歩を許してもらった。もちろん一人でのお散歩は許してもらえなかったので伯父にゃんこ付きだ。
リュカオンは今の姿で人前に出る気はないからお留守番だ。
野良だと思われないように首元にスカーフを付けてもらえばお散歩の準備は簡単に整う。
「にゃにゃ!」
行ってきます!
「気をつけて行くのだぞ。時間内には必ず戻れ」
「んにぃ」
何かあったら転移で帰ってくるから大丈夫だよーと鳴き、私は伯父にゃんこと一緒に暗い廊下へと足を踏み出した。
外が真っ暗なので深夜のおでかけみたいでワクワクする。
いざお散歩だ!





