4.フォデオとしろへびさん
「いや〜、昼間は失礼しました。まさか星獣と間近で対面するとは思ってもみなかったので……」
「気にするな。本来星獣ってのは、この宇宙じゃ食物連鎖の頂点に位置する存在。しかもその上等種たるこの俺と間近で対面して、全くビビらないって方が本来なら異常ってもんだ」
楽団のアジトのすぐ外にある大きな庭の中で、しろへびさんとフォデオは雑談を繰り広げていた。
外はすっかり夜となり、空を見ると美しい星空が全面を覆っていた。
フォデオはしろへびさんの大きな頭の上に乗り、しろへびさんはその長い胴体を庭に収まる程度にまとめ、ゆったり夜空を眺めながら話を続ける。
「ところでフォデオ、お前はいつから楽団に所属しているんだ? どうやら俺と境遇が少し似ているようだが……」
「あー、それはですねー……」
フォデオは、ダンノンに捕まるまでのいきさつを簡単に語った。
「はっはっはぁ! それは随分と命知らずなマネをしたもんだなぁ。むしろダンノンさんのペットで済んだのはこれ以上無い幸運だと思うぞ」
「あんまり笑わないでくださいよ〜、私もこれ程過去の自分を愚かと思ったことは無いんですから……。まぁでも、何だかんだ言っても、彼女に捕まってからの3ヶ月間、案外悪くない日々ではありましたけどね。ペットと言っても、別に変な調教を受けたりぞんざいな扱いを受けることも無く、むしろ凄く優しく接してくれました」
「随分と器の広いことじゃねぇか。圧倒的強者ならではのカリスマ性ってやつか?」
「他の団員の方々も、完全に対等な関係とはいかないまでも、私のことを仲間として受け入れてくれて、気楽に接してくれました。全員と顔を合わせたわけではないですけど」
フォデオは後ろへと振り向き、ダンノン達がくつろいでいるであろうアジトの建物を見る。
「彼女らと3ヶ月過ごしてみて、色々と分かったことがあるんです。確かにあの楽団は、私たちには想像すらできない力を持っていて、この宇宙を無差別に荒らし回る、異常で恐ろしい存在です。ですが同時にあの人達はとてつもなく……普通なんです」
「ほう? それはなんとも奇妙で面白い話だな。もっと詳しく聞かせてくれ」
先に身近に楽団と過ごしてきたフォデオにとって、彼女らがどのように見えたのか。
フォデオの話に、しろへびさんは興味が湧いた。
「そもそも悪人というのは、普通に生活する人々とは明らかに違う、自分は悪いことをしているっていう顔をするんです。どんなに崇高な正義を掲げていたとしても、犯罪行為……特に破壊や殺戮といった残酷な行動をする人というのは、必ずどこか後ろめたさを感じたり、逆に歪みきってまともな表情やオーラを出さなくなってしまうものです」
仕事柄、フォデオは様々な人種と出会い、触れ合ってきたフォデオ。
それ故、悪人独特の雰囲気や性質を十分に理解しているつもりだった。
「ですが……楽団は、あれだけ宇宙を容赦無く荒らし回って多くの命を奪っているのに、普段見せる彼女らの態度や表情、全てが一般人のそれと全く変わらないんです! ただの快楽犯罪者のそれともまた違う。ただただ自然体で行動している……今まで出会ってきた悪人に、そんな人達なんていませんでしたよ」
「そうか。つまりこう言いたいんだな?」
少し間を置いて、しろへびさんが言い放つ。
「界遊楽団にとって、全てはただの日常に過ぎない。破壊や殺戮も、彼ら彼女らにとってはその程度のものでしかない、そういうことだな」
「……ダンノンさんに捕まったあの日、彼女は私に言いました。大した目的なんて無いと。仲間以外の他人の命は虫に等しいと。自分達はただその時、その瞬間に、やりたいと思ったことを素直にやるだけだと」
フォデオは、若干悲しみの表情を浮かべる。
「彼女らと3ヶ月過ごした今なら、なんとなく彼女の言っていたことを理解できる気がします……。強さだけじゃない、心理すらも、私達とは別次元の領域にいるんです……そりゃ分かり合えない訳ですよ。私や貴方も恐らく彼女らにとっては、虫かごに捕らえて大切に飼っている虫程度の認識なのでしょう」
「領域と言えば、さっきクロトマーダさんが力の領域の話をしていたよな。あの話を聞けば、それも納得だ。楽団にとって、恐らくこの宇宙や俺たちは本当に矮小で脆い存在なんだろう。それだけレベルが違うってことだ」
「……そうですね」
「1つ聞くが、お前は知らず知らずの内に虫を踏んだり、微生物や細菌を殺していることをいちいち悲しむタイプの人間か?」
「い、いえ……流石にそこまでは」
「そうだろ? そういうもんなんだ、この世界ってのはよ。強い奴がこの世界を支配するなり、蹂躙するなり、慈悲を与えるなり、理不尽を与えるなり自由に振る舞うことができる。そして弱者はそれにただ振り回される。それが世の理って奴だ。俺ら星獣も、お前ら人間も、そして界遊楽団も、それは同じさ」
「力こそ正義ってやつですか。確かにそうだとは思うんですけど、なんだかなぁって気持ちになりますね、あはは……」
非情な現実を前に、フォデオはやるせない気持ちを抱きながら、乾いた笑いを上げる。
「どうしても界遊楽団のやり方が気に入らないんなら、お前があの人らを止められるくらい強くなるしかねぇな」
「む、無茶言わないでくださいよぉ〜!! そんなことできる訳ないじゃないですか〜!」
「それならこの宇宙は界遊楽団の思うがままだぜ。大人しく定めを受け入れるしかねぇな? はっはっはぁ!」
「む〜、他人事みたいに言ってますけど、貴方はこれで良いと思うんですか? 貴方の同族だって、理不尽に殺されるかもしれないんですよ?」
「へっ、そうなりゃ所詮その程度の種族だったと思って受け入れるぜ。まぁ少し前までは変にプライド高くて、星獣こそが至高の種族であるべき、なんてくだらねぇこと考えてたけどよ。イルユさんと出会って、その力に魅せられたお陰で、今はむしろ清々しい気分だ。それによ……」
しろへびさんは、目を輝かせながら呟く。
「イルユさんは、俺に『お願い』をしてくれたんだ」
「お願い……ですか?」
「そうだ。色々あって、俺はイルユさんを一度騙してしまってな。俺は殺される覚悟でそれを打ち明けたんだが、あの人は一度俺をぶちのめした後、俺に罰として自分のお願いを変わりに7つ叶えて欲しいと言ってきたんだ」
「はぁ、そんなことが……」
「そのとき俺は思ったんだ。これだけの強者である人が、微生物も同然のこの俺に『命令』ではなく『お願い』をしてくれた。それがたまらなく嬉しかった。そして同時に、騙してしまったことを申し訳無く思った。だからこそ俺は、イルユさんを騙した償いをしなければならない。そしてイルユさんの言うお願いを何としても叶えてやりたい……って思ったんだ」
「ふふふっ、それで下僕になったんですか? なんだか想像以上に変な理由なんですね」
しろへびさんのあまりの奇想天外っぷりに、思わずフォデオは笑みを漏らす。
「そうか? あんだけ強くて、しかも器が広いと来れば誰だって惚れちまうだろ」
「そ、そういうものですかね……。ところで結局イルユさんのお願いというのは?」
「ああ、まだ1つ目しか叶えてないが、他愛の無いもんだ。俺に本来の自分で気楽に接して欲しいっていう、それだけのことだ。残り6つは、これから聞いて叶えてやるつもりさ」
「楽なお願いだけだと良いですね……あはは」
「なぁに、どんな困難な願いでも、無理して叶えていくつもりだぜ。あの人が望むならな。そんな訳だから、俺はイルユさん達のやることを肯定していくつもりだ。もしお前が界遊楽団に牙を向けるつもりなら、俺はお前の敵ってことになっちまうな」
「そ、それは御免被りたいですね……。それに、せっかく貴方と仲良くなれそうなのに、敵対しなきゃならないなんて悲しいですよ」
「ふっ、俺も同じだ。化け物に気に入られた者同士、これから仲良くやろうや? フォデオさんよ」
「こちらこそ。しろへびさん」
フォデオとしろへびさんは、改めて互いの絆を確かめ合い、その後フォデオは拠点の中に戻っていった。
露骨に更新遅くなってますが、私は元気です。感想やレビューをくださるとモチベが湧いてくるので助かります。




