第56話:会長の【本領発揮】。
「ねぇ……今日ってさ、ボクがあこになる必要あったのかなあ……?」
「パフィー会長に呼ばれてるのは私と奈那とあこなんだからしょうがないだろ」
会長の指定した日時、待ち合わせ場所に向かいながらルキヤはずっとボヤいていた。
最初は「ぱふぱふゆりえっち先生とコミバ!」ってめっちゃ喜んでたのに。
今となっては死んだ魚の目をしている。
「なんでルミナまで……」
「言っておくがそれはお前のせいだからな」
あの電話の時にルキヤがあれだけテンション爆上げで喜ばなければルミナは食いつかなかったかもしれない。
ルミナに【おもしろそう】と思わせるだけの燃料を自分で投下してしまったんだから自業自得だ。
「覚悟を決めろ。こうなっちまったもんはしょうがないだろ?」
「そうだね……なんとしてもルミナにバレないようにしなきゃ……」
あいつにはとっくにバレてるし、お前がそうやってドギマギするところを楽しみにしてるから思うつぼってやつなんだけどな。
「あっ、絵菜ちゃーん、あこちゃーん♪」
まだ早朝、かなり早い時間だが、奈那は遅れずに到着していたようだ。
駅前でこちらに手を振っている。
そして、その傍らには……。
「おはよー絵菜ねぇ、それと……あこちゃん♪」
私は手を振り返し、ルキヤは目を逸らしながらそっと胸の前に掌を掲げた。
「ねーねーびっくりしたよ! てっきりあこちゃんが来たかと思って声かけたらこの子もルキヤ君の親類だって言うから。ルミナちゃんが来るって聞いてたからいいけど知らなかったらあこちゃんが知らんぷりしてるんだと思う所だよ!」
「……この子も?」
「な、なななんでもないよっ! それより先生はまだ来てないの?」
あぁ、ルキヤが何に慌てたのかと思ったら……奈那にはあこがルキヤの親戚って言ってあったんだった。
ルミナにはそんなのが嘘だとすぐにバレるからごまかしたかったんだな。
ルミナはそんなルキヤを見てご満悦だった。
本当に趣味の悪い女だ。ルキヤもルミナもどうかしている。
「えっと……よく分からないんだけど今日は先生が一緒にくるの?」
ルミナが不思議そうに首を傾げる。教師が一緒にくるとでも思ったんだろうか?
「先生っていうのはうちの学校の生徒会長の事だよ。今日のコミバで本を出すから先生」
「へぇ……すごい人なんだね。どの辺の島なのかな」
……島?
「おはよう。皆揃ってるみたいね……って、あこさんが二人いるんだけどどういう事……?」
パフィー会長がガラガラと大きなカートを引き摺って現れ、あことルミナを見比べて目を丸くしている。
「ただのそっくりさんだから気にしなくていいよ」
「そ、そう……? まぁいいわ。むしろこれは好都合ですしね。それより少し遠いからすぐ出発しましょう」
会長が遠いというだけあって、私達は電車に揺られ何度か乗り換えを繰り返し、二時間ほどかけて目的地へ到着した。
「うわ、すげぇなコレ……」
「国際展覧場、別名ラージサイトよ」
ふふん、と会長がドヤ顔で説明してくれたけれど、私だって国際展覧場くらいはテレビとかで見た事ある。
巨大な逆三角形の建物で、変形してロボにでもなりそうな見た目だ。何故か近くにでかいノコギリみたいなオブジェが突き立っているせいでそんな妄想を呼ぶのかもしれない。
私が驚いたのはラージサイトの事じゃなくて、その周り。初めて見る大量の人、人、人。
「これ全員ラージサイトに行くのかな? すっごい人の数……! これに並ぶのは大変そうだねー」
奈那が掌で太陽光を遮りながら私と同じ感想を口にした。
そう、とんでもない長蛇の列が広がっている。
これ全部ここに本を買いに来た奴らなのか……?
「いえ、並ばなくても大丈夫よ。私はサークル参加だから。ほら、こっちにいらっしゃい、中に入るわよ」
私達は会長に連れられて、長蛇の列を全てスルーし会場の中へ入る。
なんだか申し訳ない気持ちになったが、これが買い手と売り手の違いなんだろう。
そりゃそうだよね。開店前に客が本屋に入れるわけがない。入れるのは店員だけだもん。それと一緒って事だ。
会場へ入ってからも結構歩く。広すぎて目的地になかなか到着しない。
どこが目的地なのかも分からないけど。
てかこれはぐれたら絶対迷子になるぞ。
「ここよ」
会長は幾つか並んでいるホールの一つへ入っていく。
……あぁ、ホールが並んでると思ったけど吹き抜けになってるのか。入り口が幾つかあって、区域ごとにABCって区切られてる感じ。
その空間は異様の一言だった。
既に売り手の人達が自分の販売スペースで本を広げ始めている。
なるほどなぁ……こうやって自分で売り場を作っていくのか……。
しかし、会長がエロ漫画家なのは聞いていたけれどこの空間にはいかがわしいポスターが溢れている。溢れすぎている。
本の宣伝用ポスターを自分のスペースに掲げている人が多く、その多くがもう口にしたくないようなタイトルだったり肌色だらけの絵だったりする。
「会長さん、ちょっと聞きたいんだけど……」
「えっと、ルミナさんだったわね。何かしら?」
「会長さんのサークルは島のどの辺なの?」
また島だ。なんの事か分からん。
「あぁ、そう言えば何も説明してなかったわね。私はあそこ、突き当りのシャッターの前よ」
「……うそ、壁サークルの人なの!?」
会長はその言葉に満足したようににっこりと笑った。
「君はある程度知っている人みたいね。この私ぱふぱふゆりえっちのサークル【ゆりゆりまんぐりぱらだいす】へようこそ♪」
……サークルの名前もひでぇな。
チラりとルキヤを見ると、私が見た事ないような輝いた目をしていた。





