第48話:最大の【黒歴史】。
私とジョージ、アキオはそのまま電車で一度沼袋まで戻り、そこから乗り換えて苦谷まで向かう。
駅に到着すると駅前に既にかなりの人数が来ていて、通行人から迷惑そうな視線を集めていた。
「……これで全部か?」
「すいません姐さん、家が遠い奴もいるんでまだこれで全部では……」
「これ以上は待てない」
私は皆の前に出て全員に届く声で指令を出す。
「これから全員で苦谷全域を捜索。片っ端から情報を集めろ。多少無茶なやり方をしても構わないがくれぐれも一般人に迷惑をかけるような真似はやめろよ」
皆ギラついた目で頷く。
「俺は姐さんと一緒に居るから何か情報が入り次第すぐに俺に連絡を入れろ! 調べる情報はドールズに関する事、特にドールズがアジトにしている場所だ。それと姐さんの友人が二人さらわれている。その件で目撃者を探すのもいいだろう。 どんな些細な情報でも構わん。分かったら散れ!」
ジョージが大声で私の補足をしてくれる。こういうのも懐かしい……二度と足を踏み入れたくはなかったがこの際仕方ない。
相手が全て悪いのだから私のせいじゃない。
自分を正当化する理由を探しているあたりまだ覚悟が足りないな……。
二人を助け出す為なら自分の手を汚す事くらいどうという事は無い。
どうせ昔は汚れに汚れてたんだから。
「ちょっと待って下さいよ。ジョージさんの命令って事なら俺だって逆らう気はないですけどね、なんなんすかその女は」
既にそれぞれあたりを付けてバラけ始めていた所だったが、活きのいい奴が一人私にいちゃもん付けてきた。
「おい馬鹿!」
「やめろ!」
「皆どうかしちまったんじゃねぇっすか? どう考えてもこんなひょろっちい女の言いなりなんておかしいじゃないすか。どうせこいつの兄貴がヤバい奴だとか親がヤクザとかそういう話でしょ? 日和ってんじゃねぇぞ! いつから俺達弁天はそんなもんにビビるシケた集まりになったんだ?」
「おい、タケシ。それは姐さんを馬鹿にしてんのか? それとも俺達を馬鹿にしてんのか?」
ジョージがドスの聞いた低い声でタケシとかいうガタイのいい男を牽制する。
「分かんなかったんすか? 両方っすよ両方!」
「おい、俺に対してなら構わねぇけど姐さんを馬鹿にするのは許さねぇぞ」
「へっ、そんなメスガキにどんだけ飼い慣らされてんだよ。ジョージさんがそんなヘタレだとは思わなかったぜ」
「てめぇ……!」
ジョージがいかにもタケシに殴り掛かりそうだったので軽く手で制止する。
本当ならさっさとみんな散ってほしいのにこっちが気になるのか足を止めて私達を見てる奴等が多い。これはさっさと済ませた方がよさそうだ。
「タケシって言ったか? その体格だからよほど鍛えてるんだろ? いいぜ、相手になってやるからかかってこいよ。口で言っても分らねぇなら身体に分らせてやるから」
「……はぁ? かかってこい、って本気で言ってんのか? これでも俺は柔道やってんだ。お前なんかこんな所でぶん投げたらコンクリで頭打って死ぬぞ」
「なんだよそれが負けた時のいい訳か?」
「……」
タケシの表情が一瞬で鬼の形相に変わる。
「私に何かあっても誰も文句言わねぇしこれだけの人数が証人なんだ。気にせず思い切りかかってこい。くれぐれも手加減したせいで負けたなんて言い訳が出てこないようにな」
「な、なんなんだお前……」
やっと、タケシも様子がおかしいと気付いたらしい。
だって周りの奴等が揃って「あいつ死んだな」と呟き出したから。
さすがに殺しはしないよ。こんな奴のせいで人殺しになるのは嫌だし。
そんな事を考えていたら、後に引けなくなったタケシが「やってやんよ! 死んでも恨むなよ!」と言いながら飛び掛かってきた。
「動きが遅い」
筋肉だるまのせいでスピードが遅い。
「逃げ回るだけで勝てると……」
「動きが直線的。そんなんじゃ先を読まれるぞ」
タケシが伸ばしてきた腕をギリギリで横にかわし、袖を掴んで引っ張る。
それだけで勢いを殺せずにタケシはごろごろと転がった。
きっちり受け身は取ってるところをみると柔道やってるっていうのは本当なんだろう。
「てめぇっ!」
のっそりと起き上がったタケシは少しだけ頭を使ったのか、飛び掛かるのはやめて腕を広げゆっくりと距離を詰めてきた。
「……ふぅん。じゃあ……ほれ、襟掴んでいいぞ」
「……馬鹿なのか?」
「どっちが馬鹿だったか教えてやるって言ってんだよ」
こめかみに血管を浮き上がらせたタケシががっちりと私の襟元を掴む。
そして、一気に背負い投げの姿勢に入った。
「掴んだら背負い投げってド定番すぎて面白みに欠けるんだよな」
私は敢えて自分から飛び、タケシの投げの勢いも相まって身体が一回転してしまう。勿論それを狙って飛んだんだけど。
私の体重をぶん投げるのに襟を掴むだけで十分だって判断したのがそもそも間違いなんだよなぁ。
片腕も一緒に掴まれていたらもっと他の対処が必要だったけど、こういう力任せの馬鹿にはこれが一番いい。
空中でぐるんと一回転して、勢いの乗ったつま先をタケシの顎へ蹴り上げるように振り抜く。
私がスタっと着地する頃にはタケシが両膝を地面についていた。
「予想してない角度から顎にくると頭ぐわんぐわんするだろ? 聞こえてる? おーい聞こえてるかって聞いてんだよ」
今度は私が襟を掴んで軽くビンタしてやる。
「ひっ、て、てめぇなにもんなんだよ!」
「おっ、さすが活きがいいだけあって回復が早いな。私まだ力込めた攻撃してないんだけど、一発くらいくらっとく?」
拳を振り上げながらタケシに笑いかけると、涙目でブルブルと顔を横に振る。
「タケシ、姐さんに稽古つけてもらえてお前は運が良いぞ。それに手加減してもらったんだから礼言っておけ」
「じょ、ジョージさん……この、人は……」
「この人が初代総長の弁天様よ」
うわ、黒歴史出て来た。
「その弁天様ってのやめろ恥ずかしいだろ」
「弁天……俺達の、弁天って名前……この人の事だったんすか……?」
「それはもういいから。で、お前はどうする? 私の為に動くか、今死ぬか選ぼうか」
「今すぐに出発します!! 申し訳ありませんでした姐さん!!」
タケシは慌てて立ち上がり、クラっとしながらもゲンドウ坂の方へ去って行った。
「ほらお前らも死にたくなけりゃさっさと行け!」
今度は皆それぞれ蜘蛛の子を散らすように雑踏の中へ消えていった。
まさにここから逃げ出すような勢いで。
……失礼な奴等だなぁ。
まるで格闘物のような回でしたがあくまでこの作品のアクセントみたいなものだと思って頂ければ幸いです(笑)





