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第33話:【ミイラの干物】は一般常識。


「おはよう絵菜ちゃん」


 げんなりした気分で学校へ向かっていると、私より少し遅く家を出たらしいルキヤが後ろから声をかけてきた。


「……あぁ、おはよ」


「えっ、絵菜ちゃんどうしたの? ミイラの干物みたいな顔してるよ」


 げっそりして目の下にクマもあるしそれを指摘されるのは仕方ない。それは分る。


 でもミイラの干物ってなんだよ。

 そもそもミイラって干物なんじゃねぇの?


 いや、ちょっと違うか。よく分からんあたまが働かない。


「おはようございますの♪ ……って、おねーさま!? どうされたんですの? ミイラの干物みたいになってますわ!」


「えっ、何? ミイラの干物って流行ってんの?」


 学校の校門前まで来ると背後からうさこが背中に抱き着いてきて、振りほどく元気もなくそのままにしてたら顔を覗き込んできてミイラの干物呼ばわりである。


 なんだそのミイラの干物って……。

 だんだん気になってきたぞ。


「まさか、おねーさまは知らないんですの?」


「……知ってるし」


「そうですわよね♪ 良かった……まさかミイラの干物が分からないなんて事ある訳ないですもんね♪ あ、チャイムなっちゃったので急ぎますわ! ではではおねーさままたのちほどーっ☆」


 うさこは私に決めポーズでウインクしてからささーっと学校へ入っていった。


 ……なんで私は妙な知ったかぶりをしてしまったんだろう。


 知らなきゃおかしいみたいな雰囲気を察してしまった為とっさに嘘をついてしまった……。


 素直に聞けばよかったかとも思うが、うさこの言い方を聞くに誰でも知ってて、知らないとかあり得ないレベルのワードらしい。

 うかつに人に聞くのも考え物だなこれは……相手次第じゃ馬鹿にされてしまうぞ。


「絵菜ちゃん、ボクらも早くいかないと怒られちゃうよ」


「おいお前らもうチャイム鳴り終わってんだろーがさっさと教室いけーっ!」


 学校の玄関脇にある保健室の窓から咲耶ちゃんが怒鳴ってる。


「咲夜ちゃんごめーん! よしルキヤ、急いで教室行くぞ! 咲耶ちゃんが来る前に教室にたどり着けば私達の勝ちだ」


「なんの勝負なのさ……」


 無理矢理テンションを上げようとしたのにノリの悪い奴め。

 だったら置いて行く!


 一人で走り出し、階段を駆け上がっていると後ろから「待ってよ~っ!」と情けない声が聞こえてくる。

 無視だ無視。私は咲耶ちゃんを怒らせたくはないのだ。


「階段走ると下からパンツ見えるよー?」


「……」


 私はその場で即座に立ち止まり、後ろから息を切らせて階段を上ってきたルキヤを持ち上げる。


「えっ、何!? ちょっとやだ離してよお姫様だっことか恥ずかしいし誰かに見られたらどうするのさっ!」


「……黙れ」


 私はそのまま階段を一番下まで降りて、ルキヤを降ろし、今度はスカートを抑えつつ階段を駆け上がった。


「えぇぇぇ!? 一体何がしたかったの!?」


「貴様のような糞野郎はもう一度階段を上りなおせ! じゃあな!!」


 今度こそルキヤを置き去りにして教室へ飛び込む。


「はい佐々木遅刻な」


「なん……だと……!?」


 教室には既に咲耶ちゃんがいた。

 学校の玄関横の保健室に居た筈。私は玄関を通って目の前の階段を上がってきたんだから追い抜かれたら間違いなく気付く筈なのにどうしてこの教師は既に教室に居るんだ……!?



「ぜぇ……ぜぇ……」


 私がしょんぼりしながら教室に入り席に着くと、少し遅れてルキヤがぜぇぜぇ言いながら入ってきた。


 ざまぁみやがれ。


「阿呼辺も遅刻な」


 ルキヤは咲耶ちゃんの言葉に動じる事もなく、そのまま肩で息をしつつ自分の席についた。


「おいおい絵菜、どうしたんだそんなミイラのひ……」


「黙れ」


 私の斜め前の席に居るタダコーが私の顔を見て例のアレを言いそうになったのを思い切り睨みつけて阻止。


「おぉこわっ。こいつどうしたんだ?」


 そう言ってタダコーは自分の前に座ってる奈那に声をかけた。


 お前みたいな糞野郎が声かけていい相手じゃねぇだろうがトイレ行って鏡見て絶望して早退しろ!


「……ごめん、ちょっと分からないかな」


「ふぅん。奈那って絵菜の事ならなんでも知ってると思ってたよ」


「おいタダコー、何度も言わせるなよ? 黙れ」


 私は指で自分のスマホを掴みタダコーにチラっと見せる。


「わ、悪かった!」


 それだけで奴は私に何も言えなくなってしまうのだ。便利な道具。


 それにしても奈那……やっぱりアレはそういう事なのかな?


 彼女が私の方をほんの少しだけ見てすぐに目を逸らしてしまったのが軽くショックだった。



 絵菜に声をかけようとしたところで、目の前に何かが飛んで来たのを慌てて指で掴む。


「ぎゃあっ!」


 タダコーも同じ攻撃を受けていたらしく、おでこを抑えて撃沈。


「テメェら……もうホームルームは始まってんだよ。死ぬ覚悟があるなら騒げ」


 咲耶ちゃんがブチ切れてチョークを投げてきたらしい。


 私はギリギリで受け止めたからいいけど指が粉っぽくなってしまった。


 奈那がこっちを見てクスっと笑ったのを、私は見逃さなかった。


 一瞬目が合うが、すぐに視線を逸らされてしまう。


 うぅ……なんか気まずいんですけど。

 早くこの状況何とかしないと私は本当にミイラの干物になってしまう。


 ……だからミイラの干物ってなんだよ!


絵菜は自覚があまり無いのでまだ余裕がありますが、奈那にとってはどうなんでしょうね(笑)

少なくとも絵菜の顔をまともに見れないくらいにはダメージがあるようです。

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