243.「ダイチ様は何でも判ります」
裳着。
平安時代を描いた少女小説に出て来たと思う。
当時の貴族階級のお姫様が成人として認められるための儀式だ。
男は元服なんだけどその女性版というか。
つまりそれまでは一人前? の人間としては扱われない。
まあ、これは貴族の制度であって武士や平民は関係なかったらしいけど。
少女小説の説明では、裳着というのは成人した証に女の子に初めて「裳」を「着せる」ことから来ているということだった。
これを済ませないとお嫁に行けなかったりして。
だから本来は初潮を済ませた女の子対象なんだけど、色々あって遅れたり早まったりしたとか。
それに元服もそうだけど儀式の時に後ろに立って後見人を務める人がいるんだよね。
その人は儀式で女の子に裳を着せるだけじゃなくて将来も後ろ盾になる。
それはまあいいや。
「末長家って平安時代なの?」
思わず聞いてしまった。
「違いますよ!
まあ裳着というのは冗談ですが、独自の成人式だと思えばいいです。
末長家の子供全員がやるわけじゃないんですけれどね」
溜息まじりに言う炎さん。
「男は元服?」
「だから戦国時代じゃないですって。
普通はそんなことしません。
私がやらされるのも久しぶりじゃないかな」
何と。
てっきり末長家が平安貴族の血を引いてるのかと思ったのに。
「するとぉ今回は普通じゃないとぉ?」
信楽さんが突っ込んでくれた。
「はい。
実は私、末長家の次期棟梁に選ばれまして」
炎さんが何気なく爆弾を落とした。
それって。
「頭領?
つまりお頭ってこと?」
「多分、総長が考えている単語とは違います。
大統領から大を引いた方じゃなくて、大工なんかの方の棟梁です」
あー、そうか。
源氏物語とかを読むと確かに一族の頭の呼び名が「棟梁」になっているんだよね。
日本建築では重要な構造要素である棟と梁を例えた言葉らしい。
その家を支える重要な建材だ。
武士や坊さんの集団の筆頭格を指す熟語で、だから幕府の将軍は源氏の棟梁だったりして。
つまり炎さんは末長家の筆頭になるわけか。
あれ?
「棟梁って何となくだけど一族の筆頭って感じだよね?
大名じゃないの?」
すると炎さんは真面目に応えた。
「末長家は大名でもなければ家老でもないですよ。
一族でもありません。
むしろ非公式な集団みたいなもので」
「あ、そうか。
末長家って別に政府に認められた組織じゃないもんね」
つまりは正規の集団とは言えない組織の頭ということなんだろうな。
幕府の将軍と同じか。
鎌倉時代から続く幕府って実は日本の正式な政府じゃない。
武家政権って言うけど日本には天皇家という正式な支配者が大昔から存在する。
これは驚いた事に記録に残っている限り、一度も途切れていない。
世界一長寿の政権なんだよ。
本当なら天皇が日本政府を運営……は無理としても代表するべきで、実際に江戸時代になっても京都には皇居があったからね。
そっちが日本の正統政府だ。
で、幕府って本当言うと日本を支配する権利も義務もない民間の組織でしかないんだよ。
悪く言えば暴力団やマフィアのようなものだ。
そういう武力組織が正当な政府を押し込めて日本を乗っ取ってしまったわけで。
現代に当てはめたら官庁や警察、自衛隊の替わりを暴力団がやっているようなものだと。
「何となく判った。
つまり炎さんは裏の首領になるわけだね」
言ってやると炎さんは驚愕の表情で僕を見た。
「総長!
判るんですか?
あれだけで」
「ダイチ様は何でも判ります」
比和さんの褒め殺しが入ったけどとりあえず無視する。
「まあ、何となく。
棟梁ってのがキーワードかな」
「さすがですぅ。
矢代社長は凄いですぅ」
信楽さんが嬉しそうに言った。
やっぱり信楽さんも知っていたか。
知らないはずがないけど。
「ふむ。
そういうことか」
あいかわらず静姫様な静村さんが笑う。
神様だからお見通し、というわけでもなさそう。
興味の無い事には関わらないんだろうな。
炎さんは溜息をついた。
「総長って怖いですね。
何も隠せそうにないです」
「そんなことはないよ。
ていうか僕、隠されていたら探らないし」
関心もない。
今のは炎さんが説明してくれたから判っただけだよね。
「はあ。
まあいいです。
総長の言う通り、末長家の棟梁は必ずしも当主を意味しません。
今の末長家当主は私の親父ですが、実は現時点では棟梁はいないです」
「そうなんだ。
つまり当主が表の代表だけど、裏の代表は空席ということ?」
「近いです。
それで別に不都合はないんですよ。
裏と言っても別に非合法というわけでもありませんし。
ただ」
炎さんは肩を竦めた。
「非常事態には棟梁が指揮を執ります……じゃなくて棟梁の意志が優先される、だったっけ。
私もよく判らないんですけれどね」
屈託なく笑う炎さん。
そんなことでいいのか。
「私ぃが聞いた所ではぁ、末長家の棟梁にぃ一番近いのはぁ大昔の少年漫画に出てくる『番長』ですぅ」
信楽さんが説明してくれた。
良かった。
炎さんの話って要領を得ない上に回りくどいんだよね。
それにしてもさすが信楽さん。
よその家の裏事情までお見通しとは。
「『番長』か。
もう死語だよね」
「矢代社長ぅ。
やっぱり知ってましたねぇ?」
「そりゃ知ってるよ。
ネットで漫画を読んだことがある。
『夕焼け番長』だったっけ」
すると比和さんが首を傾げた。
「夕焼けの番をするお役目ですか?」
そういう意味じゃないと思う(泣)。




