207.「メチャクチャ混んでない?」
色々疑問が残ったけど、とりあえず問題は先送りにすることにする。
だってまだ1月2日なんだよ。
何で正月まで仕事しなきゃならないんだよ。
考えていたら腹が立ってきたので珈琲を飲む。
美味い。
たちまち心が落ち着いてきた。
美人の巨乳メイドさんが煎れた珈琲は美味しいなあ。
「比和さん、また腕を上げた?」
「ありがとうございます。
ダイチ様の好みに合わせました」
そうなの。
僕自身でも知らない僕の好みに合わせて珈琲を煎れるって何かちょっと怖かったりして。
まあいいや。
「で、これからどうする?」
聞いてみた。
ここは矢代興業の旧本社だ。
仕事場なんだよ。
この部屋も仕事をする場所だ。
ゆったりして落ち着くけど長居する場所じゃない。
「ダイチ様のお望み通りに」
比和さんがテンプレの返答をしてきたけど僕の望みって何だろうか。
家に帰ってもすることないしね。
「二人はどうなの?
これから予定ある?」
聞いてみた。
考えてみれば二人とも未成年の女の子で、しかも久々に帰省したばかりだったりして。
三が日くらいはご家族と一緒に居たいのでは。
比和さんは「ダイチ様とお会いすると言ったら朝帰りでも良いのでガンバレと言われました」と、恐ろしい台詞を返してきた。
ご両親、何考えてるの?
「私ぃも暇ですぅ。
外食もぉお泊まりもぉOKですぅ」
信楽さんはドライというか、ご両親を放置するつもりらしい。
「いいの?」
「実はぁ、親にぃ転職のお話をしたですぅ。
それについてぇ私ぃのいない所でぇ夫婦で話し合って貰いたいですぅ」
転職ってあれか。
今後、信楽さんの社会的重要性がどんどん増して行くに従ってご両親や親戚にも危険が及びかねないという奴だね。
だから矢代興業の関連会社へ転職して貰うと。
そうすれば外部からの影響を減らせるし、場合によっては会社ぐるみで護衛をすることも出来る。
「ご両親は何と?」
「驚いてましたがぁ前向きみたいですぅ。
上司やぁ取引先からの強要がぁそろそろヤバくなってきているらしくぅ」
そういえば前に聞いたな。
比和さんも同じだけど、信楽さんは巨大な力を行使出来る立場でありながら社会的にはまだ未成年の女の子だ。
保護者であるご両親の意向に従わざるを得ない場合もある。
だったら簡単だ。
ご両親を取り込んだり職務にかこつけて信楽さんに影響を及ぼそうとする輩がいてもおかしくない。
ていうかいるんだね?
「みたいですぅ」
うーん。
大変だなあ。
僕の場合は両親ともアレというか、そういう圧力なんか何とも思わないタイプだから心配してないけど、信楽さんや比和さんは違うもんね。
お会いしたことはあるけど両方ともいい人ではあっても一般人だった。
政治とか荒事とかに関わり合いになるタイプじゃない。
つまり何かあったら自力では対処出来ないだろうね。
アメリカ大統領の家族にシークレットサービスがつくようなものでレベルは違ってもそれと同じ事になるのか。
まあいいや。
「だったら二人とも自由だよね」
「はい」
「はいですぅ」
ならば遊びに行こうか。
とはいえ年末と同じで何かしようとしたりどっかに行くと護衛の人たちが漏れなくついてくるんだよなあ。
僕達が遊びに行くのに引き回したりしたら可哀想かも。
(気にすることはない。
連中はそれが仕事だ)
そうかもね。
神楽さんたちも正月から僕の護衛で働いているけど、それが実績になるわけか。
「よし判った。
3人で遊びに行こうか」
「賛成です!」
「はいですぅ」
二人とも嬉しそうだった。
こんな時は二人とも未成年の女の子らしい反応になるんだよね。
他では絶対見せないんだけど。
でも言ってから気づいたけど、これって僕と美少女二人のラノベ的デートなのでは。
まあいいか。
そんなのいちいち気にしてられないよね。
そうと決まれば行く先だ。
僕達はソファーでスマホを手に検討した。
「カラオケとかは?」
「それはぁ宝神でも出来るですぅ」
「遊園地はどうでしょう」
「メチャクチャ混んでない?」
「この時間からだとぉ、着いたら日が暮れますぅ。
それにぃ寒いですぅ」
それは確かに。
お正月だからつまり真冬だ。
戸外での活動は遠慮したい。
色々意見が出たけど決まらない。
考えてみたらここで簡単に決まるくらいだったら年末に遊び倒した時にやっているはずなんだよね。
あの時はセキュリティの都合で宝神がある地区から出ないで出来る遊びに走ったんだっけ。
「僕達が動くと護衛の人たちもついてくるんだよね。
迷惑にならないかな」
聞いてみたら否定された。
「それは大丈夫ですぅ。
突発的にぃ動く限りぃ危険はそれほどないですぅ。
護衛もぉ最小限度ですみますぅ」
つまり護衛はつくんだ(泣)。
困ったなあ。
どこにも行けないじゃないか。
ホテルでのディナーとかスパとかはクリスマスにやっちゃったしね。
今からでは予約をとるのも難しいだろうし。
悩んでいたら比和さんが不意に言った。
「あの」
言葉を切る。
僕と信楽さんは黙って続きを待った。
「あのですね。
私、ダイチ様のおうちに泊まってみたいです!」
真っ赤になりながら言い切る比和さん。
え?
それって。
「私ぃもですぅ。
泊まりたいですぅ」
どうしよう(汗)。




