201.「それではぁ、いきなりですがぁ確認ですぅ」
落ち込む暇もないうちにリムジンが停まった。
もう着いたのか。
まあ、最初の矢代興業本社は駅からあまり遠くないからね。
てことはつまり僕の家から歩いて行ける距離だ。
「そういえば今気がついたけど、まだあのビル借りてるの?」
リムジンを降りながら聞いたらあっさり言われた。
「矢代興業発祥の地ですのでぇ。
地の利もいいですしぃ、ビルごと買収しましたぁ」
そうなの。
お金があるっていいなあ。
今は如月高校やこの辺りの高校のバイト生が休憩所や集会所として使っているそうだ。
うーん。
如月高校が完全に矢代興業の人材バンク化していたりして。
そういう高校が今後も増えていくんだろうな。
晶さんや八里くんの母校は帝国軍の巣だったけど、そこでも比和さん配下のバイト組織が作られていると聞いている。
入試偏差値が随分上がったとか。
何か矢代興業ってマジで悪の組織臭くない?
そんなことをぼんやり考えながらビルに入る。
あいかわらず古くさくかったけど壁なんかは綺麗になっていた。
お金かけてるみたい。
「リフォームしたの?」
「実習で清掃をしているそうです。
自社ビルなので何でもやり放題ですね」
「テナントさんは文句言わないの?」
コンビニとか会計士事務所とか入っていたはずだけど。
雑居ビルだもんね。
「全部ぅ、引っ越しをお願いしたですぅ」
そうなの(泣)。
札束で頬とか叩いたんだろうな。
まあ僕に関係ないからいいけど。
前後を比和さんと信楽さんに、その周囲を護衛の人たちに囲まれて階段を昇って事務室だった所に入る。
懐かしいな。
僕の机も一時期ここにあったんだよね。
バレンタインデーに来たら義理チョコが山になっていたりして。
そう言えばもう1月だから来月じゃないか!
いや考えまい。
事務室の内装は昔の面影を留めていなかった。
パーティションも替わっているし調度のたぐいも別物だ。
「事務室というよりは会議室?」
「ミーティングルームですぅ。
研修所みたいなものですぅ」
なるほど。
護衛の人たちが廊下やドアの前を固める中、僕たちは奥に向かった。
面接室とやらか。
「ところで僕たちだけ?」
「みんな逃げたみたいですぅ」
やっぱし(泣)。
つまり厨二病患者は僕たち3人だけなのか。
その代わりに有能そうな人たちが何人もいて、先頭を進む信楽さんに素早く伝言みたいなものを伝えている。
信楽さんが頷くと敬礼して消える。
あの。
ここ、矢代興業だよね?
間違ってショッカーとかそういう悪の組織の本拠に来ちゃったんじゃないよね?
「大丈夫ですダイチ様。
私がお守りします」
ありがとう比和さん。
でもその自信はどこから。
「ここですぅ」
信楽さんが言ってあっさりとドアを開ける。
思ったより広かった。
巨大なソファーセットがある。
奥の方には簡単な炊事設備が。
「本来は休憩室です。
人数が多いので空けました」
比和さんが言ってドアを閉めた。
そこで初めて僕は待っていた人たちを見た。
慌ててソファーから立ち上がる人。
炊事設備の所から戻ってくる人。
その他。
全部で5人か。
「矢代社長!」
一番手前の女性が頭を下げた。
リサさんだ。
名字なんだったっけ(泣)。
僕はとっさに手を振って言った。
「久しぶり、というか昨日ぶり?
早いね」
「いてもたってもいられず。
申し訳ありませんでした。
お忙しい矢代社長のお時間を頂いてしまって」
「ああ、正月は暇だから。
むしろ三が日が終わったら忙しくなるし」
言いながらソファーに腰を降ろす。
ここは先手必勝だ。
比和さんと信楽さんが僕の両側に腰掛けたのをみてから紹介する。
「みんな掛けて。
こちらは我が社の信楽最高執行責任者と比和執行役員」
「信楽ですぅ」
「比和でございます。
今後ともよろしく」
比和さん、この人たちをもう受け入れ確定?
これは面接のはずなんだけどなあ。
(確定だろう。
お仲間がみんな逃げたのがその証拠だ)
無聊椰東湖の言うことにも一理あるな。
こうみえて矢代興業の幹部は曲者揃いだもんね。
連絡があった途端にそれぞれがリサさん達のことを調べたんだろう。
その結果本物というか、新種の厨二病患者らしいという結論に達したと。
君主危うきに近寄らずを地でいってるな。
尻拭いは僕(泣)。
「あ!
すみません!
私は須郷リサです。
一応、『リイン』のリーダーやってます」
リサさんの名字って須郷さんだったのか。
ていうかやっぱり親玉だったと。
いやアイドルグループだからセンター?
超能力者戦隊で言えば山城くん的なポジションだな。
「えと、桜井です」
「南」
「山形寿美と言います。
よろしくお願いします」
「それはまだでしょ!
私は島本明里です」
「リイン」とやらの残りの4人が慌ただしくソファーに座りながら挨拶してくれた。
何と言うか普通?
いや普通のアイドルって意味が判らないけど、本当に普通の女の子たちだ。
もちろん全員が綺麗というか美人というか美少女だけど。
まあアイドルだったら最低でもこのレベルだよね、という程度かな。
ていうかアイドルなの?
「それではぁ、いきなりですがぁ確認ですぅ」
信楽さんが突然言った。
進行が早い?
「須郷リサさんからはぁ一応ご希望を伺っていますがぁ、みんさんの意見は一致してるんですかぁ?」
ご希望って、僕聞いてないんだけど(泣)。
まあいいや。
信楽さんに丸投げだ。
「はい!
全員一致です!」
「「「「お願いします!」」」」
ハモッた。
アイドルなのかどうかはともかくグループいやユニットであることは確かみたい。
「判りましたぁ。
それではぁご説明をお願いしますぅ」
信楽さんが訳が判らない事を言い出した。
説明って?
でもリサさんたちには判ったみたい。
お互いに頷き合うとリサさんが話し始めた。
「まず私たちのユニット名のリインですが、これは転生の略です」
さいですか(泣)。




