第15話
「敵は密集陣形で備えています」
「そのようだな……」
チラリと画面端に映るレーダーを見て、CPUのセオリー道理の戦法に口元が緩む。
こんなのが、カルミアの相方を決める試験だなんてな。
AWP-07Fの力強い足が土を舞い上がらせ、軽快にコンクリートの壁を縫うように駆け抜けていく。
走っているだけで分かる。機動面、武器の積載量、それを支えるフレームは確かに06以上だ。
だけど、機体がピーキーなのは否めないな。
機体の反応速度を直す為とはいえ、かなりピーキーな機体になってしまった。
だが、今はベストを尽くしてデータを得るだけだ。
その為にも──まずは目の前の敵だな!
巨大な壁との間を通り抜けると、正面にはまたしてもコンクリートの壁が立ちはだかっていた。
「琴美祢様、この壁の先に敵4機が待ち構えています。
壁の横から攻撃する場合、シールドを正面に展開し攻撃を凌ぎながら攻撃することを推奨します」
「いや、シールドは左右に展開しろ」
「左右ですか? それでは、正面から敵の攻撃を受けることになりますが?」
「問題ない、何故なら……」
走るスピードを上げ壁に突進していく。
「壁は飛び越えても通れるからな!」
迫り来る壁を前にした直後、片足に力を込める。
壁の高さは約15メートル。06じゃこの高さを飛ぶのは難しいが、この新型の性能なら……!
「いッけぇぇぇッ!」
片足に込めた力を全力で使いかっ飛ぶ。
機体はその巨体をものともせず、コンクリートの壁を悠々と越え、敵が密集している中央へと降り立つ。
コンクリートの壁を背に預けて敵は固まっていた。
つまり俺は、敵が一番警戒していない位置へ簡単に入れ込めたことになる。
「まずは、1つ!」
敵の背に銃口を向け引き金を引く。
直後、銃声を轟かせ敵の背を40mm弾が食い破る。
穴だらけになった06が無気力に膝を着くのと同時に、入り込んだ敵に気づいた3機の銃口がこちらに向く。
敵の銃口が火を噴く。豪雨のように力強い弾幕を両脇から受ける。
だが、それは展開していたシールドが全て受け止めていた。
「ナイスだカルミア」
素早く周りを見渡す。
右側に1機。左側に2機。
シールドをほぼゼロ距離で撃ち続ける敵は後だ。
メインモニターの端に映る敵。少し離れているが、奴を先に殺るか!
シールドの間から銃口を突き出し、左側に立っていた敵に照準を付け。
引き金を引く。
敵の銃声に交じって3発の弾丸が敵に放たれる。
「──2つッ!」
確かな手応えに笑いが込み上げる。
敵の硝煙に風穴を開け、3発の銃弾がコックピットを貫く。
銃撃を始まって、10秒くらいで敵の銃声が止んだ。どうやら弾切れの用だ。
機体の両脇に展開されたシールドのおかげで、こちらのダメージは皆無。
とはいえ、弾を最初の一機に使いすぎた。残弾が少ない。
それならと、銃に添えていた左手で、腰に備えられたブレードを抜く。
「これで、3つ!」
左向き様に一閃。
近くに居た敵の脆い腰をブレードで切り裂く。
上半身が滑り落ち、地面に残骸を露にする06。
「最後!」
機体を素早く回頭させ最後のターゲットに向きを変える。
メインカメラに敵の姿が映る。
だが、一足遅かった。最後の1機はマガジン装填を完了して、再びこちらに銃口を向けていた。
避けるスペースも切りつける時間もない……。
「なら、こいつでどうだ!」
右手に装備したままのライフルが敵の片膝を狙い火を噴く。
40mmがたったの2秒だけ轟音を立て、撃鉄がカチッと虚しく鳴り響く。
だが、流石対2足歩行兵器のメイン武器というべきか。
数発でしっかりと脚部のフレームを破壊し、敵を地に這いつくばられせた。
「終わりだ!」
サーベルを上に掲げ、振り下ろす。
コックピットをサーベルが貫き、敵の動きが完全に停止する。
「終わったか?」
「いえ、まだです」
画面端のレーダーに、一機の機影が移っていた。
それは、壁をすり抜けて一直線にこっちに向かって来ていた。
バグか?
「……いや、違う!」
正面のコンクリートの天辺を見上げる。
すると、突然それは姿を現した。
「なッ!」
驚きで一瞬言葉が詰まる。
「07だと‼」
分厚い装甲。ライフルを持つ4本の腕。
それは、まさしく07であった。
マズい!
敵の姿に気を取られすぎた。
敵は既にライフルを構えていた。瞬時に回避行動をとろうとするが、既に手遅れ。
空中に居るにも関わらず、敵はしっかりとこちらに照準をつけていた。
やられる⁉
「琴美祢様、そのままで動かないでください!」
カルミアの指示に足を止める。
直後、敵が持つ4丁のライフルが火を噴く。
それと同時に、こちらの07に備えられていたシールドが本機を守るために構える。
銃弾がぶつかる事に鳴り響く金属音。その衝撃がコックピット内にまで伝わる。
敵は地面に着地するが、集中弾を浴びせてくる。
これが、新型の性能って奴なのか⁉
だが、それも長くは続かず、敵の銃声が止んだ。
弾が切れたか?
「カルミア、シールドをどけてくれ!」
カルミアに命令すると同時に、ライフルを捨ててサーベルを構え敵に向かって突っ込む!
「これで、どうだ!」
敵に近づき縦に一閃。
が、敵はメインアームの2丁のライフルを犠牲にして身を守る。
マガジンが持てないこの機体には、弾切れのライフルなど無用ってか。
「ッ!」
気づけば敵はサブアームで大型サーベル抜いていた。
「(マズいッ!)」
後ろに跳び敵との距離を取ろる。
その間に、敵は大型サーベルをメインアームで構え、サブアームで腰のサーベルを構えていた。
その姿は、さながら阿修羅だ。
だが、ここで負ける訳にも、長期戦をする訳にもいかない。
カルミアに負担をかけさせてしまうが……やるしかない!
「カルミア、守りは任せた。速攻で片をつける!」
「了解」
速攻で終わらせる!
機体を走らせ再び敵との距離を縮める。
敵は大型サーベルを右に構え、サブアームのサーベルを上に構えこちらを迎撃する構えをとる。
接近戦において、大型サーベルの扱いは難がある。
当たれば大きなダメージを与えられるが。
その武器の重量はすさまじく。今までの機体では当てるのは困難だった。
だが、新型なら話は別だ。
こいつのパワーがあれば、大型サーベルは最強のメイン武器になる。
だけど、相手はCPU。攻撃パターンは決まっている。
俺が近づいてからの横一線、外せばサブアームで近寄らせない。
そんな所だろう……。
「動きが分かっているなら対処できる!」
敵との距離が近づく。
その直後、敵の横一線が迫る。
思っていた動き、ドンピシャ! これなら避けられる!
足を止め後ろに下がる。直後、敵の横一線が中央で止まる。
なんでだ? なんで、止まっ、た……。
敵のサーベルの切っ先が一瞬後ろに下がったと直後だった。
切っ先が伸びた。
敵が横一線から突きに変えたのだ。
サーベルの剣先が胸部めがけて近づいてくる。
「まだ、だ‼」
右肩を斜め後ろに振り、その反動で機体が斜めに体制を崩す。
機体の反応を上げた甲斐があってか。大型サーベルが胸部装甲の表面を削りながら抜けていく。
片足で地面を蹴り敵との距離を更に取った。
「あ、危なかった……」
まさに、間一髪。紙一重で躱せた。
サイガ達との特訓が無かったら今ので終わっていたな……。
それにしても──あの07の動き、本当にCPUかよ?
冷や汗を流しながら敵を睨みつける。
07はこちらに体制を戻すと、ゆっくりと同じ構えをとる。
「掛かって来いってか……」
その構えから先程とは違う、何か異様なものを感じられた。
これは、昔感じたことがある。1度だけ、そう。仲間が殺されたあの時に感じたもの。
殺気。
こいつはCPUじゃない。ふと、そう思った。
いや……感じたと言った方が正しいだろうか。
じゃあ、どうするか? そんなの決まっている。
さっさと、敵を倒す! これ以外に考える必要なんてない!
「カルミア。頼みがある……」
「はい、何でしょうか?」
奴に勝つには、
「装甲を全部、パージしてくれ!」
これしかない!
「了解。装甲をパージします」
カルミアの返答と同時に、機体を覆っていた装甲が勢いよく剥がれ落ちる。
すべての装甲が外れ、07本来の姿が現れた。
先程とは打って変わって、かなり細い姿。
肘や膝、腰回りのフレームが露わになっている。
確かに装甲は薄いな……。でもこれで──軽くなった!
ブレードを構える。
「押して参る!」
高揚する気持ちをふざけた口調で表し。敵に向かって突進を始める。
軽い、さっきとは段違いだ。軽くなった機体を駆り敵めがけて突進を続ける。
敵は先程と同じ構えで、俺の出方を待っている。
このまま突撃すればさっきと同じだろう。
だから、どうした! さっきと同じことをしてくれるならこっちも好都合だ!
更に敵に近づく。
もっと、だ。もっと、近く!
敵との距離がさっきと同じくらいまで近づく。
だが、俺は後ろには跳ばず、更に1歩踏み込む!
もう、後ろに下がっても横一閃は避けられない。
でもそれでいい!
敵が大型ブレードを横に振る。
──もう、下がる必要なんてないんだからなッ!
「頼んだぞ、カルミア!」
左画面から見えていた大型ブレードの刃が、シールドによって遮られる。
直後、重たい金属音を響かせて大型ブレードがシールドを直撃する。
その間に、俺はサーベルを敵の頭部に向けて突き立てる。
だが、それをさせまいと、サブアームのサーベルを縦に構え剣先の軌道を変える。
続いて、空いているサブアームがサーベルを高々と振り上げる。
刃が下を向いている。頭部の関節を狙ってコックピットを狙っているのか?
でも──。
「こっちにも手はある‼」
手に持っていたサーベルを離す。
「ナイフ射出!」
「了解」
腕に内蔵していた電動ナイフのハッチが開きナイフを射出される。
それを受け取りなり、ナイフが振動を始める。
「これで、どうだ!」
敵の胸部めがけて振動するナイフを突き立てる。
ガリガリ金属を削りながら敵の胸部を掘り進んでいく。
やがて、刃が全て入り込み、それ以上進まなくなった。
「……」
チラリと敵の顔を見る。
07のツインアイがチカチカと数回点滅し、やがて光を失う。
機体の首がガックリと落ち、力なく膝を着きこちらに寄り掛かる。
「終わった、のか?」
「はい、敵は完全に機能を停止しています。
敵増援の気配もなし。戦闘終了のようです」
「そう、か……」
勝利したことに安堵して力が抜ける。
それにしても、こいつは一体何だったのだ?
さっき感じた殺気といい、こいつは一体……。
画面に映る07を見ながら考えていると、トーレスの声が飛び込んできた。
≪お疲れ様。お陰様で良いデータが取れた。
テストシステムを終了させ、倉庫に戻ってきてくれ≫
「了解。戦闘終了。これより1番倉庫に帰還する。
カルミア。システムを切って、サブアームも閉まってくれ」
「了解しました」
システムが切られ、サブアームも折りたたまれ元の位置に収まる。
俺は捨てた武器を拾い、倉庫へと向かった。
次回、プロジェクト・アーミー第16話
琴「終わりがあれば始まりがある。
始まりがあるからこそ終わりがある、か」
カ「琴美祢様は、まさにそれですね。尊敬します」
琴「いや、俺もできれば休みたいんだけどな」
カ「まさに社畜の鏡です」
琴「それ、褒めてるの?」
カ「胸を張っても良いと思います」
琴「そうか。なら次回も頑張るかな」
カ「よろしくお願いします」




