第14話
攻撃ヘリ等によく見られる前席、後席の直列配置になっているタンデム複座式のコクピット。
乗ってみた感じ、06に乗った時とあまり変わりないように見える前部席の風景。
でもまぁ、1人分の席が作られてる分広くなった気はする。
機体のALTSに手足を入れ命令を下す。
「AI起動」
直後、それに反応するように全モニターが輝き始める。
【声紋チェック開始。琴美祢 相馬と一致。
続いてP29との接続を確認。機体との同調を開始します】
正面モニターに同調までのゲージが表示される。
螺旋状に溜まっていく青と白のゲージがものの数秒で埋まり、
【同調完了を確認。
命令を実行します】
命令? 出してもいない言葉のキーに首をかしげる。
そんな俺の心境を知ることのないAIは作業を始めていく。
【ハッチ閉鎖、パイロット琴美祢のデータを元にALTSを調整、続いて起動シークエンスを開始します】
AIが勝手に機体を起動シークエンスを開始する。
無論、俺はこんな命令は下してはいない。
つまりこれは、カルミアからの命令なのか?
声は聞こえなかった。つまり、カルミアは頭の中で命じるだけで、機体に指示を出せるのか。
カルミアとAIの同調……。胸騒ぎにチラリと後ろを見る。
だが、俺の心配は外れカルミアは平然と目を摘むっている。
初めて操作した時とは違う、か。
AIの司令塔としてのポジション。それがカルミアの役割。
確かに、AIそのものに変わるよりかは負担は減りそうだが……。
ALTSが俺の身体に合うように引き締まると、続いて機体のシステムが立ち上げる。
正面のモニターに写る文字の羅列が、浮かんでは消えてを繰り返す。
【各部チェック開始……各部センサー異常なし……──動力システム異常なし……──各部チェック完了異常なし。
Roger。ALTS起動、4.0から3.4へ変更。
メインジェネレーター点火、メインコンデンサー電荷上昇中、モード1で起動開始。
システムオールグリーン。各部関節のロック解除、脚部ロック解除】
各部ロックの解除に機体が振動する。
それと同時にインカムからトーレスの声が聞こえてくる。
≪AWP-07Fの正常な稼働を確認。続いてサブアームの稼働を確認したい。
P2……カルミア。サブアームを使い大型サーベルを背に装備してみてくれ≫
「了解。サブアームとの同調を始めます」
来た! これで、カルミアがまた同じようになるようなら……。
目の前の白いスイッチに目を向ける。
こいつに乗る前にトーレスに言われたことを思い出す。
『──停止スイッチ?』
『そうだ。もし、カルミアが危険だと判断したときにだけスイッチを入れろ。
そうすれば、カルミアにかけられている負担は全て消える』
『信じていいんだろうな……』
『私は空気は読まないが、嘘はつかん。
勿論切ったとしても君を咎めるつもりはない。押すか押さないかはお前次第だ──』
──俺次第、か。
トーレス、俺は迷わないぞ……後悔しても遅いんだからな。
【同調を完了。サブアームの管制をP29へ譲渡。サブアームのロックを解除します】
再び、次は後ろから小さな振動が伝わる。
カルミアの方へと視線を移す。
「?」
カルミアと視線が合う。彼女は小首を傾げ、
「何でしょうか琴美祢様?」
「あ、いや、その……大丈夫なのか?」
「問題ありません。この時の為に訓練は積みましたから」
ん? 聞き間違いか? 今、訓練を積んだって言ってなかったか?
「なぁカルミア、君は……」
カルミアに尋ねようとしたその時、再びトーレスから通信が入る。
≪サブアームとの同調を確認した。引き続き、傍に置かれた武器をアームで掴んで背に装備してくれ≫
「了解しました。換装を始めます」
カルミアの視線が左画面に映る大型のサーベルに向けられる。
すると、サブアームがカルミアの視線へと手を伸ばし、大型のサーベルを掴み背に積載を始める。
操作は、カルミアの思うがままか……。
だけど、この胸の奥がモヤモヤする感じ、これは一体何なんだ?
「──琴美祢様、琴美祢様」
「ん? あぁ、どうしたんだカルミア?」
「装備の換装が完了しました」
「そ、そうか……」
カルミアは問題なさそうだ。
なら次は、俺がしっかりしないとな。
俺を選んでくれた彼女の為にも……。
「AWP-07F 琴美祢相馬、カルミア。出撃する」
重たい図体が、地響きを立てて歩き始める。
それと、同時にトーレスの声が飛び込んできた。
≪倉庫から出次第、演習区画へと向かってくれ。着いたら次の指示を出す。
その間に、機体に慣れておいてくれ≫
「了解……!」
機体を動かし出口を目指す。その直後、違和感を感じ取った。
なんだこれ、機体の反応が鈍い?
「……なぁ、カルミア」
足を止めることなく後ろにいるカルミアを呼ぶ。
「はい。何でしょうか?」
「これ、ALTSって、本当に3.4になってるのか?
4.5とかの間違いじゃなく?」
足を動かした時、少しもたついた感覚がある。
だから、ALTSの設定ミスかと思ったのだが、
「いえ、3.4に設定されています」
「そうか……」
設定は間違っていない。なら問題は他に──進む機体の各部を見ながら頭を回す。
歩きながら手を少し動かしてみる。異常感知もない。だが、機体の反応スピードが鈍い。
これは、装甲に問題があるのか?
「琴美祢様の疑問ですが、追加装甲の重さが原因のようです。
ALTSを下げることで、少なからず解消されると思われますが……どうされますか?」
「動きながらでも変えられるか?」
「可能です。しかし、変更はハンガーを出てからがよろしいかと」
「そうだな。なら、それで頼む」
「了解しました」
「すまない。君に負担をかけるな」
「私のことは気にしないでください。琴美祢様は機体の操作に専念してください」
「分かっている。あぁ、分かっているさ……」
俺は、俺のなすことをするまでだ……。
機体は、鈍い足を前へ前へと進めていく。
やがて機体は、暗い倉庫から明るい大地へと、その姿を現す。
よし、ここら辺でいいかな?
「カルミア、頼んだ」
「了解、ATLSの設定を機体の反応速度をから修正」
【Roger
誤差修正を開始ALTS3.4→3.0に変更】
「完了しました。動きはどうでしょうか?」
「今確認する──」
手の稼働、脚部の稼働を確かめる。
ALTSを下げた分、少し動かしただけで過剰反応してしまうが。
まぁ、戦える位にはなったかな……。
「どうですか琴美祢様?」
「うん、良い感じにはなった。ただ、やっぱり過剰反応で器用には動けそうにないな」
「そこは、琴美祢様の腕でカバーしてもらうしかありません」
「簡単に言ってくれるな……」
「これくらい、簡単にこなしてもらわないと困ります」
「そうだな……精々期待に応える働きをさせてもらうよ」
「そうでないと私は琴美祢様と離れ離れになってしまいます」
「それは、困るな……」
「だから、頑張ってください」
「あぁ、言われなくても。
やってやるさ」
俺は意気込んで再び機体を歩かせ始めた。
重たい機体が、地に足を付けるたびに重い足音が鳴り響く。
目的地──演習区画へ向かって。
※
さて、と……。
目的地に着いた俺は機体の足を止め辺りを見渡す。
いたるところに、巨大なコンクリートブロックが不規則に立ち並ぶ。
ここには数回程訓練で来ているし、マップは頭の中に入っている。
戦闘になっても位置が分からなくなることは無い。
「こちらカルミア。目標地点へ到達。主任、次の指示を問います」
≪確認した。それではこれより、AWP-07Fの試験を行う本機は速やかに戦闘態勢に入れ≫
「了解しました。これより戦闘モードに移行します」
【Roger。
戦闘モードに移行。火器管制システム起動。
照準センサー……起動。レーダーサーチ開始。マスターアームON】
「システムに異常なし。戦闘モードの起動を確認。琴美祢様ご命令を」
俺はまた、彼女を危険に近づけていく。
この戦い、前のように長引かせはしない!
「……アブアームはシールドを展開。
同時に周囲へ警戒を厳にしろ」
「了解」
画面端には、手に持つライフルの装弾数が表示される。
弾は70発。マガジンは無しか……。
これが無くなれば、後は大型サーベルと腕に内蔵された小型ナイフのみ、か……。
「うん、射撃武器が少ない……! トーレスの野郎、武装の選択間違ってないか? これじゃ、射撃戦闘に持ってかれたらキツイじゃねぇか!」
「無理とは言わないんですね」
「まぁ、そりゃな。一応盾があるかならな」
サブアームの腕に装備された大きな長方形の板に視線を向ける。
今回初めて採用された長方型の盾。
これを両方のサブアームに装備させることで、どの方位からの攻撃も受け止めることができる。
これを前に展開すれば、敵の弾幕の中を突っ込むこともできる。
まさにF形にピッタリの装備だ。
ただ、これの装備凄く重い為に装備できる機体が限られて来るとか……。
うん、どう考えても欠陥装備だなよな? もうちょっと考慮して作れよ……。
内心で技術者連中に文句を言っているとトーレスの声が飛びこんできた。
≪それでは、これよりシュミレーションによるテストを行う。
テストシステムへ移行せよ≫
シュミレーションによるテストシステム。
実弾使用の使用不可。シュミレーター画像による仮想弾頭での戦闘。
接近戦格闘においてはコンピューターが命中判定を下し攻撃動作に制動をかけ予測ダメージの身を計算する。実戦とは程遠いいゲームのようなもの。
模擬戦を想定していた俺的にはありがたいが、それでも問題はある。
どれだけの数、どれだけの練度の敵と戦うことになるかだ。
それによって戦闘は長引いていく、それはカルミアの負担の大きさに関わってくる。
「それでは、テストシステムを起動します。琴美祢様準備はいいですか?」
……悩んでいる暇はないか。
「あぁ、始めてくれ」
こっちが殺される事なく、小さな被害で敵を一瞬で倒す。
「了解。システムを起動します」
画面上から下に向かって、画面が修正されていく。
それが、俺にできる最善の策だ。
≪テストシステム起動。
敵の配置を設定データを受信。これより戦闘を開始します≫
AIがそう告げると、レーダーに敵の影が映る。
「敵機を確認。機種識別開始──完了
AWM-06を4機と判明。敵はこちらを捕捉している模様。壁に隠れてゆっくりとこちらに接近しています」
敵は4機だけか……。
なら後は、敵の波があり、なしと敵の熟練度だけか……。
「了解。右の敵からA、B、C、Dと命名。
初手はAに接近戦を仕掛ける。続いてBCDを叩く。
乱戦になるから、カルミアはシールドによる防御だけに専念してくれ」
「了解しました」
返事と共にサブアームがシールドを展開する。
カルミアの様子も今のところ問題はない。
素早く終わらせてやる!
「琴美祢様。ご武運を」
「……あぁ」
その一言だけで、胸の奥から力が溢れてくる。
今の俺なら、何だってやれるような気がしてたまらない。
重量のあるライフルを両手で掴み、足に力を入れる。
「よし、行くか!」
※
「AWP-07F、こちらが送った命令通りK設定でのテストシステムの起動を確認。
P29正常に稼働中。機体のとリンク正常値で安定しています」
若い男が、モニターと睨めっこをしながら報告を行う。
ついに、始まるのか……我々の計画が……。
「異常が確認され次第、実験を強制終了させる。
各員は気を張って警戒するよう──」
「いや、その必要はない!」
『……‼‼』
突然、後ろから否定の言葉に全員が振り返り、表情が青ざめた。
それも、当然だ。声の主が──
「ベルガン様、お越しになられたのですか」
私も後ろ振り向き、本人と対面する。
剥げ上がったデコに、もみあげを伸ばした奇抜な髪形。
人をおちょくるような話方。この基地の責任者、ルブラート・ベルガン。本人だ。
「あぁ、少し気になってな……」
「何か不満がおありで?」
「あぁ~あるとも! あるともさ、トーレスくん~」
不気味な笑みを浮かべてると思ったら、急に真剣な眼差しで、カメラ映像に映る07Fを指さす。
「あれさ~、何でなんの功績もないバカが乗ってるのんだ?」
「それは、報告書に書いた通りですが?」
「P29が指定した適才人物だからですってっか?」
「はい、その通りで──」
そこまで言った直後、私は黙った。正確には黙らされた。
黒く光る冷たい拳銃の銃口が額をぐりぐりと押し込んでくる。
「あ~ん? お前さん、それ、マジで言ってるんですかぁ?
道具如きが主人を選ぶ権利なんてあると思ってんのかぁ⁉」
銃口が肌を流れる汗のように落ちていき、首下で止まる。
この人は私を躊躇い無く殺すだろう。冗談とかで人を殺すサディスティックな人間なのだ。
私一人殺すなど容易いことだろう……。
返答を誤れば死──。
だが、嘘を言って誤魔化す気など私には更々ない。
喉に当たる銃口を無視して、ベルガンの目を見つめ、重たい口を開く。
「私は──P29の初めての我儘を聞いただけです。
自分自身は、琴美祢 相馬がこの実験に何らかの成果を出してくれるとは思ってはいません」
「ほ~分かっていて、その決断か……何故だ? 理由を述べたまえ」
「ですが、あいつはP29をここまで仕上げました。その能力がどこまでの物なのか私は知りたいのです。
人間の可能性というものを──」
「ふ~ん、まぁいいだろう……」
そう言って、ベルガンが背を向けて部屋のドアノブに手をかける。
「そうだ」
ドアノブにを開けながらベルガンは私の目を見て口を開く。
「これから起こることは、気にしなくてもいい。
私からのプレゼントだ……! 精々頑張ってくれるよう祈ってるよ~」
大手を振って出ていくベルガン。
扉が閉まる音と共に足音が遠ざかっていく。
「プレゼント、か……」
厄介なことになりそうだな……。
次回予告、プロジェクト・アーミー第14話
ト「ようやく私も、次回予告に出ることができたな」
カ「そうですね。ではトーレス様、次回予告をお願いします」
ト「そうだな。では──大きな巨人には大きな巨人」
カ「以上ですか?」
ト「ああ、以上だ。
気になるなら本編を見てくれ、そうすれば分かる」
カ「それは、そうなのですが……。
読者の皆様、そういう事らしいので、次回をお楽しみに」
ト「お楽しみにな」




