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プロジェクト・アーミー  作者: ダルキ
14/31

第12.5話

「琴美祢様が料理上手なのは意外でした」

「そ、そうか? そんなに意外か?」

「はい、かなり」

「そ、そうか?

 うん、夕飯も食べたし、次は風呂だな……」

「お風呂ですね。では、着替えと寝具の用意をしておきます」


 そう言って、支度に入ろうと空になった皿を重ねていく。

 それを運ぼうとした直後、琴美祢様が素早く皿を攫っていく。


「片づけは俺がやっておくから、カルミアは先に風呂に入ってきなよ」

「いえ、でも、琴美祢様より先なのは……」

「いいから入ってきなよ。

 着替えはタンスの一番下から二番目に入ってる。お風呂は、玄関近くの扉の先だから」


 それだけ言って、琴美祢様は皿を台所へと運んでいく。


「……では、失礼します」


 私はその言葉に甘えて、着替えを持って脱衣所へと向かった。




        ※




 持ってきた着替えを籠に置き。身に着けていた衣類の全てを脱いで、洗濯機へと放り込む。

 脱衣所から風呂場の扉を開けると、ムアッとした蒸気が流れてきた。

 奥の方には大人1人がすっぽりと入れそうな浴槽。

 2畳くらいの空間に私は足を踏み入れる。


「──これが、浴場……データで見たことはありますが、実物は結構小さいのですね」


 初めて見る場所に、雰囲気に、少しばかり立ち尽くしていまう。

 良い感じの暖かい湯気に当たっていると。冷えていた手足が暖かくなっていく。


「……ぁッ」


 入ってきて数分呆けていたことに気が付く。


「私は一体なにをしていたのでしょうか? 琴美祢様も入る手前、早めに出なくては……」


 急いで扉を閉め、鏡の近くに置かれたシャワーの位置を調整し私は体を洗い始めた。




         ※




 体を洗い終わった私は、浴槽を前に立ち止まっていた。


「これが、浴槽……」


 初めて見るお湯が入った浴槽。

 浴槽のお湯から湯気がゆらゆらと立ち上がり、部屋に広がっていく。

 これに、体をつけるんですよね?

 

「……」


 意を決意して、そろりそろりと片足ずつお湯に入れていく。

 少し熱いお湯に足を馴染ませて、最後に体を湯に沈める。

 その直後、


「ふぁ~」


 不意に間の抜けきった声が出た。

 声を出した私自身が驚いたが、そんな驚きもお湯の中へと一瞬で解けていく。

 それ程までに、私自身がお風呂の魅力に毒されていた。

 今日の身体の消耗が一気に消えていく。全身の力が抜けて、体が勝手に湯に身を任せ始める。


「これが、お風呂……。これを生み出した人は、まさしく、天、才です……」


 濛々と立ち込める湯気が、湯の浸かってない所も温めてくれる。

 これが、極楽というものなのでしょうか?

 これなら、お湯が冷えるまで浸かっていられます。

 体の力が自然と抜けていく中。

 ふと、自分の口元に手を当てて、色々な表情を作ってみる。

 笑顔、あきれ顔、図星。今日見た皆さんの表情を何度もマネしてみる。

 だけど、どれも当てはまらない。というよりも、分からない。

 琴美祢様は、私が笑みを作った時、気分はどうかと聞いていました。

 私は今、気分が向上しています。この場合の表情は……笑顔? なのでしょうか?

 口の端を引っ張り笑みを作ってみる。


「……」 


 しばらく笑みを作って手を下ろす。


「何か、違う気がします。でも、それが何か分からない……」


 暫く考えるがやはり答えはでない。ここは、琴美祢様に聞くしかないでしょうか……?

 ですが、やはり琴美祢様を困らせてしまうのではないでしょうか?

 カルナ様は、分からないことは琴美祢様に質問しろと言っていましたが。本当によろしいのでしょうか……?


「ッ!」


 考えていると湯気が薄まっているのに気が付いた。どうやらかなり長い間風呂に入っていたようです。


「急いで出なくては!」

 

 立ち上がり風呂を出る。

 ──次の瞬間。


「あ、れ?」


 突然、足の力が抜けて床に膝をついた。

 続いて激しいめまいに襲われる。視界が歪み、キーンと耳鳴りが高まっていく。

 力が入らない。視界も、くらくら、と……これ、は──。




          ※




「ぅ……ッ。ここ、は……?」


 はっきりとしない意識の中、私は天井を見上げていた。

 いつもとは違う薄暗い天井。

 薄暗い? 光が差し込む方へ視線を向ける。研究所には無いカーテン。その隙間から月明かりが部屋を照らす。

 そうです。ここは琴美祢様の部屋でした。

 ゆっくりと、体を起こす。


「ぅ……ッ」 


 視界が、ゆらゆらと揺れる。まだ、視界が安定しない。

 手で自分がいる場所を確認する。

 ふかふかと柔らかいベット。その傍に、ふさふさとした硬い無数の紐のような感触……。

 紐?

 顔をそちらに向けと、そこにベットに頭を乗せて眠る琴美祢様がいた。

 その近くの机には、水が入った桶とタオルが置かれていた。

 どうやら私はまた、琴美祢様に迷惑をかけてしまったようですね……。

 突如、胸がキュッと絞められる感覚が襲ってくる。

 胸の辺りを触るが特に外傷のようなものはない。


「これは、いったい何なんでしょうか?」


 少し考えるが答えはでない。

 兎に角、今は琴美祢様が風邪を引かないようにするのが最優先です。

 頭の中を切り替えて、琴美祢様の肩に手を伸ばす。


「琴美祢様! 琴美祢様ッ! 起きてください」

「……ぅ……ッ」


 肩を揺すって名前を呼ぶが、眠りが深いのか起きる様子はない。

 仕方ありません。せめて、風邪を引かないように毛布(これ)を……。

 琴美祢様が起きないよう布団から這い出て、毛布を琴美祢様に掛ける。


「……」


 すやすやと安やかに眠る琴美祢様。

 その顔を覗き込み、私は尋ねる。


「琴美祢様。私はあなたを選んで良かったのでしょうか?」

「……」


 眠たままの琴美祢様が答えることは無いが、私は続けて話す。


「あのとき私は、無理を言って貴方様に仕えさせて頂きました」


 そのことに後悔はない。

 ですが、琴美祢様のデータ上、私の相方としては経験不足なのは事実。

 それを分からない琴美祢様ではないはず。

 でも、あのとき琴美祢様は私を迎え入れてくれました。

 だから、私は──


「私は自分の目標が果たせなくなったとしても、貴方を絶対にお守りします。

 それが、琴美祢様の目標を閉ざすことになっても──」

次回予告、プロジェクト・アーミー第13話

琴「守りたいと思っていても、傷つけてしまうことがある……

  なら、傷つかない様に、最初から離れていた方が良いのだろうか?」

カ「でもそれでは、いざという時に守ることができない。

  結局は、傍に置くのが一番の安全地帯なのです。

  琴美祢様、どうか私を離したりしないでください」

琴「どんなことがあっても離れる気はないよ。君が俺を必要としなくなるまでは……」

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