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プロジェクト・アーミー  作者: ダルキ
13/31

第12話

[1階フードコーナー]

 時間は既に14時過ぎ。

 人が少ないおかげで、席は簡単に見つけることができた。

 空腹のサインを鳴らすロバーツ様と共に、カルナ様とサイガ様は食料を頼みに席を離れた。

 今私の前に居るのは、服が入った袋を携える琴美祢様ただ一人である。


「琴美祢様。笑ってもらえますか?」

「ん? こうか?」


 そう言って、琴美祢様は口の端を上げる。


「……」


 ──こうでしょうか?

 琴美祢様の笑みをマネして口の橋を上げる。


「何やってるんだ? カルミア?」

「……笑っています」

「いや、それは見れば分かるんだけど……。

 なんでそんなことをしてるんだ?」

「表情をマネすれば、感情を理解できると思ったのですが……やはり、分かりません」

「……そうか」


 少し沈黙を再び琴美祢様が口を開く。


「なぁ、カルミア。

 君は今、笑ってみてどんな気分だ?」

「気分ですか?」


 琴美祢様はそうだ、と軽く頷く。


「気持ちが緩んだか? 胸が熱くなるか? 心が軽くなったか?

 人の表情ってのは、そういった感情を表すためにある。

 カルミア、君は今どんな気分だ?」

「私は……」


 私は今、今どんな気分なのでしょうか?

 喜び? 怒り? 悲しみ? 喪失感? 恐怖? 不安? 憂鬱? 緊張? 感動?

 ……どれも、該当しない。


「──すみません。分かりません」

 表情が豊かな琴美祢様なら、私がどういった表情をすればいいのか分るでしょうか?」

「いや、いくら表情が豊かでも君の感情までは分からないよ」


 ──だけど、と言葉をつなげて琴美祢様は続ける。


「君の周りには手本になる人が少なくても4人いる。その人達の輪の中には、学ぶことが多くあると思うよ」

「それはつまり、あの4人を観察すれば感情を理解できると?」

「まぁそうだな。でも、観察だけじゃダメだ。自分から話題を見つけて話し合うことで感情ってものが芽生えるかもしれない。かも、しれない……」


 最初は自信満々な発言が、最後の方は不安に変わっていく。 


「それは、琴美祢様だけではダメなのでしょうか?」

「ダメって訳じゃないんだけど……」


 些か困った顔で、琴美祢様は小首を傾げる。


「……なんで、俺じゃないといけないんだ?」

「カルナ様が言っていました。琴美祢様は感情が表に出やすいので見るだけで参考になる。

 琴美祢様を頼れと……」

「はぁ──、俺って、そんなに出やすいのか……?」

「はい、凄く参考になります」

「……そうか」


 納得するなり琴美祢様は、落ち込むように下を向く。


「何か失言だったでしょうか?」

「いや、大丈夫。俺の問題だから……」


 そう言って琴美祢さんは深いため息を吐いて机に突っ伏していると。


「おう、相馬戻ったぞ」


 意気揚々とした声に2人してそちらに顔を向ける。

 湯気が昇った食事をトレイに載せて、サイガ様が戻ってきていた。


「お帰りサイガ。ロバーツとカルナはまだ選んでる感じなのか?」

「あぁ、もうすぐ帰ってくると思うぜ」


 ……そうか。と納得した琴美祢様は席を立ちあがる。


「じゃあ、サイガ。この席は任せた。俺はカルミアと飯を選んでくるよ」


 そう言って、琴美祢様は私の手を取るなり、店舗に向かって歩き始める。


「おう、できるだけ早く帰って来いよ!」


 後ろからサイガ様の声が聞こえるのに対し、琴美祢様は振り向くことなく歩き続ける。

 私はその後を追って歩く。




        ※




「──決まったか、カルミア?」

「すみません。少々お待ちください」


 私は今、うどん屋の前で初めて悩んでいる。

 ウメオニギリにするか、ウメオカカなるものにするか……。

 多くの竹盛り皿に並ぶ多種類の日本食、オニギリ。

 どれも食べたことのない物です。

 これは──。


「これは、悩みます」

「そ、そうか……。まぁどれを買うかは自由に決めて貰ってもいいんだけどさ……」


 煮え切らない様子の琴美祢様に、私は、はい? と返事をする。


「そろそろ、決めないとカルナ達に怒られるぞ」


 琴美祢様の指摘に、不意に店舗に掛けられている時計に目を向ける。

 時間は15:00。ここに来てから既に20分を切っていた。


「確かに……大変です」

「だろ。

 それに──俺の肩もそろそろ限界だ……!」


 琴美祢様の声が震えている。

 それは何故か?

 私が琴美祢様の肩の上に座っているからである。何故そんな所に座っているのか?

 それは、カウンターに置かれた商品が見えにくい私に、琴美祢様が取った行動だからである。


「すぐに選びます」

「そうしてくれ……」


 これ以上、私の為に琴美祢様を待たせる訳にはいきません。

 ここは、ウメに……いえ、サケに──いや、ニシ……。

 そんなこんなで悩んでいると、


「まだ、悩んでるのかい?」


 突然聞こえた、凛とした女性の声に、視線を向ける。

 そこに、いたのは。


「……カルナ様」

「おう、遅いから迎えに来てやったんだが……なにやってんだい?」

「あぁ、カルミアが。ちょっとな――」



「──なるほどねぇ」


 一連の流れを聞いたカルナ様は、ため息を付く。


「それでカルミア(そいつ)は悩んでるって訳かい」

「すみませんカルナ様。皆様をお持たせさせてしまいました」

「いや、あんたは悪くないさ。

 悪いのは琴美祢(こいつ)だからねぇ」

「えッ? 俺のせいなのか?」

「女の子が迷ってるんだ。なら、全種類奢るのが筋ってもんだろう?」

「いや! それ残ったら誰が食べるんですか⁉」

「そりゃ、あんたに決まってるだろ?」

「……」


 唖然とした表情で固まる琴美祢様。

 これは、困った表情なのでしょうか? だとしたら、これは私に原因があります。ここは、素早くオニギリを選んでしまいましょう。

 そう思い、三角巾を巻いている店員に話かけようとした直後。

 どん! と大きい音が聞こえた。

 視線を下ろすと、琴美祢様が机にクレジットカードを叩きつけていた。


「おばちゃん……ここに並んでるおにぎり、一個ずつ全種類くれ!」

「あいよ」


 気の抜けた返事をして、店員は並べられたオニギリを1個ずつ取ってお皿に並べていく。

私はそれを、ただ眺めることしかしなかった。

何故ならこれは、琴美祢様が決めたことなのだから……。




        ※




 それから数分後。

 席に戻ってきた私達は、先に食事を始めていたサイガ様達と共に食事を始めた。

 私の前に置かれた山のように積まれたオニギリ。どれが、どの味かはもはや分からない状態の中、私は天辺に置かれた1個を手に取り、口に運ぶ。


「──これは、魚肉とマヨネーズ。

 琴美祢様、これは何という味なのですしょうか?」


 琴美祢様の方を向き質問する。

 コップに水を注いでいた琴美祢様は、手を止めてこちらを視線を向ける。


「それは、ツナマヨだな」

「ツナマヨ……これ、おいしいです」


 そうして、もう一度オニギリを一齧り。

 そこから一気に食べきる。


「そうか。それは良かったな」


 そう言って、微笑みながら琴美祢様はコップを口に持っていく。


「ところで……琴美祢様?」

「ん? どうしたんだ?」

「いえ、その──」


 水飲む琴美祢様。その前の机に目を向ける訪ねる。


「なぜ琴美祢様は、先程から水分補給しかしていないのですか?」

「っ‼」


 突如、口に近づいてコップがピタリと止まる。 


「お、俺はお腹が減ってないからな……」

「そうは見えないのですが?」


 こちらに目を合わせてくれない琴美祢様。

 その横顔からは動揺が酷く現れていた。琴美祢様が嘘をついているのは分かるのですが……。何故嘘をつく必要があるのか分かりません。

 ですが、このまま水分摂取だけと言うのは、体に良くありません……なら。


「琴美祢様。提案があります」

「提案?」

「はい」


 頷いて、山の上からオニギリを1つ手に取る。


「私では、これら全てのオニギリを食べつくせません。

 ですが、私は全ての味を確かめたいです。そこで──」


 持っていたオニギリをゆっくりと半分に割り、琴美祢様に差し出す。


「琴美祢様が半分食べて、私に味の名前を教えてください。私には食材の知識はないので……」


 きょとんとした表情の琴美祢様。

 数秒後、いつも通りの顔に戻ってオニギリを受け取る。


「ありがとう。カルミア」

「……いえ」


 何故お礼を言われたのか分かりませんが。

 これで、琴美祢様の空腹問題が解決されたのだから良しとします。

 自分が取った行動の結果に満足しながら、私は半分になったオニギリを口へと運んだ。




        ※




 それから数十分間かけて、私と琴美祢様はオニギリの山を食べ尽くした。


「も、もう。お腹いっぱいだ……」

「わ、私もお腹が苦しいです……」


 琴美祢様と共に、お腹を押さえてうつむく。

 そんな私達を肘をついて見ていたカルナ様が尋ねる。


「どうだいカルミア? 気に入った味はあったかい?」


 ゆっくりと、顔を上げる。

 ロバーツ様とサイガ様はいない。

 ただ、カルナ様がこちらを笑みを浮かべていた。


「そう、ですね……」


 空になった皿を見ながら、食べてきた味を思い出す。

 私が一番気に入った味……あじ──。


「──ゴーヤツナ味噌が美味しかったです」

「あれ、か……?」


 琴美祢様が表情を歪めて、眉をひくつかせる。


「はい。

 苦いゴーヤと甘いツナ。そして独特な味の味噌。あの味は今でも鮮明に覚えています。

「そ、そうか。それは、よかったな……」


 琴美祢様の声のトーンが下がっていく。

 それに先程より、顔色が優れないようないよ……。


「──もしかして、琴美祢様は苦手でしたか?」

「いや、そんなことは無いが……」


 目を逸らしてあらぬ方向をみて答える琴美祢様。


「琴美祢様、何故目を逸らすのでか? 私の目を見て答えてください」

「そ、それは……」


 目を逸らしたままの琴美祢様。

 それを見ていたカルナ様がクスクスと笑う。


「いや、すまないすまない。琴美祢の顔が面白くてね」

「俺は、面白くないです……」

「そうかい。でもアンタ今、凄く楽しそうな顔をしてるよ」

「……そうですね。とても楽しいです」


 そう言って、先程までの表情と異なり安堵する琴美祢様。

 その顔を見ながら私は琴美祢様に尋ねる。


「何がきっかけで琴美祢様の表情は変わったのですか?

 何がそうさせたのですか? 私は、それが知りたいです。教えてください琴美祢様……!」

「そうだな……。俺が楽しいのは、君と一緒に居られるから、かな?」


 煮え切らない様子の琴美祢様に、私は小首を傾げる。


「一緒だから?」

「なるほど。つまりだ、カルミア。

 琴美祢の野郎にとって、アンタはドストライクゾーンなんだよ」

「お、おい。カルナ! さん。 何言ってるんですか!」

「ストライクゾーンとは?」

「カルミアも聞き返さない!」

「つまり、好みのタイプってことだよ」

「……なるほど理解しました」

「いや、理解しなくていいよ。違うから……!」

「あはははは、いや~こんなに笑うのはいつぶりかねぇ」

「カルナ様の声のトーンから察するに」

「いや、カルミア。計算しなくていいから……」


 琴美祢様が私の口を手で隠し言葉を遮る。

 その姿にカルナ様が笑みを見せる。


「さて、アイツらが戻ってきしだい次の買い物にいくよ……!」




        ※




 辺りは既に薄暗く、沈む夕日だけが帰路を照らしていた。

 そこに、数時間前まで一緒に買い物をしていたカルナ様達の姿はなく。今いるのは私と琴美祢様だけ。周囲に人の影もなく、実質2人っきりである。

 沈黙が続く中、私は足を止める。

 それに気づいた琴美祢様も足を止めて、こちらに振り返る。


「ん? どうしたんだ?」

「あの、琴美祢様……。

 今日は色々と迷惑をかけてしまい。すみませんでした」


 頭を下げる私に、琴美祢様は荷物を置いて頭を撫で始める。


「そんなこと、気にするな。俺がやりたいからしてるだけであって、カルミアは悪くないんだよ」

「ですが……私の為に琴美祢様の金銭が減ってしまいました」

「安心しろ、そこまで貧乏じゃないからな……」

「それに、荷物まで持ってもらってます……」

「あぁ、これは。俺が筋トレしたかっただけだ。だから、気にするな……!」

「琴美祢様は嘘をつくとき視線を反らす癖があります」

「うッ……。そんなことは、ないぞ……」


 手が頭から離れ、目をそらし続ける琴美祢様。


「ちゃんと目を見て言ってくださらなければ、説得力に欠けるかと……」

「……」


 目を反らしていた琴美祢様が、観念したかのように視線を戻す。


「ま、まぁなんだ。そんな小さなこと気にするな。相方の荷物くらい、いくらでも持ってやる!」

「嘘をついたのは変わりませんけどね」

「うぐ……」


 琴美祢様の身体がピクッと動き、視線を逸らす。 

 これが、いわゆる()()って奴なのでしょうか……?


「でも、ありがとうございます。

 私のことを思ってくださったのですよね?」

「いや……そんなことは、ない……」

「もう一度言いますが、こちらを見て言ってください」

「……ほら、もう行くぞ!」


 そう言って、琴美祢様は荷物を拾い上げて歩き始める。

 私は、その後ろについていく。

 ちらっと見えた琴美祢様の頬は、夕日と混じるように少し赤くなっているように見えた。

次回予告、プロジェクト・アーミー第12.5話

琴「結構買うものあったんだな」

カ「すみません、私のせいで……」

琴「いや、そういう意味で言った訳じゃないんだ」

カ「そう、ですか……」

琴「と、とりあえず、食事にするか!」

カ「私はゴーヤツナ味噌のオニギリが食べたいです」

琴「(あれ、おいしいのか?)」

カ「さぁ、早く作りましょう」

琴「その前に、挨拶だな」

カ「そうですね。

  次回プロジェクトアーミー。12.5話をよろしくです」

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