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このドラゴン存在自体チートにつき

[そなたは、ヒトか? 黒髪の伝説の。おお、それに兎のヒトガタもおるではないか。うーむ、懐かしい]


「懐かしいとは?」


[200年前にワシの願いを聞いて封印してくれたのは、そなたと同じ黒色の髪を持ったヒトと、小さな兎のヒトガタじゃった。ワシは自らこの場所に封印の石を置き、それにそのものしか読めぬ暗号をつけた。そして、その道を誰も通れぬ毒素のたまった道にし、今度は兎のヒトガタのみが読めぬ暗号をつけ、ここに池を作った。黒髪のヒトは全く折らぬし、兎のヒトガタがこのヘスに来ることなど無いから、この封印は解かれることはないと思っておったが?]


「じゃあこの封印を作ったのは」


[ワシとその2人で考えて作ったのじゃ。しかし、ずっと寝てたとはいえ、誰かに会えるのはうれしいものじゃ]


「あのー、すみません、喜んでるところ申し訳ないんですけど、俺達ここに迷子になってしまいまして」


俺はここに来たいきさつを話した。


[ほぉ、それは困ったものじゃな。どれどれ、ワシが外に連れて行ってやろう]


「いいんですか? せっかく寝てたのに、わざわざ」


[効くところによると、ワシが協力したサンタマリア王族の子孫の危機でもあるのじゃろう。正しいことをしているかは知らぬが、様子は気になるからの]


「助かります、えーと」


〔わしはスマッグドラゴンというのだ。スマッグでかまわん〕


「はい、スマッグさん。俺はタジマシュウジです。この兎の子はわるものさんです」


〔シュウジにわるもの、しっかり捕まっておれ! 200年ぶりの羽ばたきじゃ〕


背中にのったまま、スマッグさんが羽を羽ばたかせてとりあえず俺達が落下した場所に上がる。


「ここからどうするんですか?」


〔まぁ見ておれ〕


上は土の天井しかなく、どうやっても上がれる感じはしない。


ボォォォォォ!!


スマッグさんの口からは、激しい炎が吐かれた。


それが天井を突き抜けたかと思うと、そのままどんどん上がっていって、空が見えた。


「うそん」


その後、土とか岩とかが落下してくるかと思ったら、完全な風穴になっていて、全く危険性がなかった。


威力でたらめじゃん。


プルプル。


もうわるものさんなんかビビッて、俺に抱きついてるし。


背中にあたるものはないけど、頭にうさ耳が当たってこそばゆい。


[じゃあ行くかの。久々の地上じゃい]


そのまま勢い良く、地上に出る。


『ウワァァァ! 何だあれは?』


『魔物か?』


『ドラゴン? だがあんなのは見たことが無い』


地上に出ると、研究所が普通に見えるような場所で、驚いているのは主にヒューリさんの連れて来た兵士である。


だが、声や表情にでていないだけで、ナナシやヒトらしき生物も動きを止めてしまっている。


「ひでぇ……」


空から様子が見えたが、ヒューリさんの兵士はかなり押されていて、ほとんどが倒れていた。


〔あの太っているのが、サンタマリアの子孫か? ずいぶん質が落ちたのぉ〕


「違います。あれはヘスのヒトです」


スマッグさんがヒューリさんと間違えたのは、見た目だけは王っぽいマイルだった。

太った体だが、スマッグさんを見て腰を抜かしている。まぁそれは仕方ないと思うけど。


「あのヒトです。ほら、堂々としてるでしょう?」


〔おお、こやつがか。うむうむ〕


スマッグさんが納得顔をする。いや、表情とかわかんないけど。


「リッキー! 何だあれは!?」


「わ、分かりませぬ! しかし、ドラゴンとは言え、数は1匹! ものども、一気にかかれ!」


リッキーはヒトらしきものとナナシに命じて、一気にこちらに兵力を向けてくる。


良く見ると、数がめちゃくちゃ増えてる。どれだけ生産してんだ。


〔なんじゃこいつらは? 魔物か?〕


「いいえ、この生物はあそこのヒトが人工的に作り出した、戦わせるためだけに意思を失わせたヒトとヒトガタです」


〔……、200年経っても変わらぬか……、同じ過ちを繰り返すのならば、せめて楽に死なせてやろうかの〕


ボワァァァァ!


再び激しい炎を放つ。


その広い攻撃範囲と半端ではない威力は、俺の技とは格が違う。ナナシたちは悲鳴すら残さず、攻撃が終わったときには、そこには骨すら残っていなかった。


「ば、バカな! 改良に改良を重ねて、ドラゴンの炎や高度な魔法使いの炎ですら耐えるようにしたのだぞ!」


リッキーが初めて動揺する。


なんかドラゴンみても余裕だと思ってたら、実験済みだったのか。


しかし、そう考えると、実際に俺達が見ているナナシの裏では、それ以上の数が犠牲になって出てきてすらいないのだろう。


どれだけ命をもてあそんだんだ。それは許されないことだ。


「大丈夫です、まだ手はあります。炎に対して耐性が完璧なナナシもいます。こいつらなら!」


わざわざ説明をしてくれるというのは、余裕があるのかないのか。


ドパァ!


スマッグさんの耳にもそれは当然届いていて、今度は強烈な鉄砲水を放つ。


火に耐性があると思われるナナシは、その効果を示すまでもなく水圧で絶命してしまった。


「な、なんだと! 火を出したところから、水まで出せるとは……」


「ま、まさか伝説の、スマッグドラゴン……」


どうやらリッキーはスマッグさんの存在を知っていたようで、顔色が急激に変わる。


「……ワシ達の負けか……、マイル様、降伏いたしましょう」


「な、なぜだ! まだナナシはいくらでもいる! 戦うことはできるだろう」


「私はありとあらゆる可能性を考えて今回の計画を起こしてまいりました。今回のシュウジという存在のイレギュラーもありましたが、それを考慮しても成功できると思っておりました。ですが、伝説のスマッグドラゴンを敵に回して勝ち目はございません。あの竜は、炎も鉄砲水も桁違いの威力に加え、雷に毒まで使えます。もともと200年以上姿を現していない伝説の存在であり、基本的には正義の存在であるスマッグドラゴンに対しては、現状この大陸全てにおいて対策はございません。どうやら天命がヒューリ殿を選ばれたようです」


「そ、そんな……」


マイルは膝をつき、放心状態になった。


「私たちの負けです。降伏したします」


そんな彼に代わって、リッキーが降伏の宣言をした。


「あ、ああ。もちろんこの研究上は引き払ってもらいますよ」


「承知しております」


あまりにも衝撃の展開に、さすがのヒューリさんも頭が追いつかないようだったが、リッキーが潔く両手を差し出したので、それに即座に対応する。


〔ふむ、もう終わりかの。まだまだいろいろできるんじゃがな〕


「いえいえ、もう既に十分ですから」


2回攻撃しただけだが、ナナシはほぼ壊滅し、森は炎で一区画消滅して、水圧は強すぎて地面が抉れてそこに水がたまって新しい池みたいになってる。でたらめすぎる。


こうして、ヒューリさん殺害計画からはじまったナナシの存在をめぐるヘスとサンタマリアの戦争は終わった。


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