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ヘス訪問

後日、ヒューリさんと一緒にヘスへ向かうことになった。


「そういえば、ヒューリさんが自らヘスに向かってますけど、それは大丈夫なんですか?」


「ああ、そこら辺はユーキに任せてあるから」


「ユーキさん? でも確かユーキさんは……」


「ああ、勘違いしないで欲しい。別に僕とユーキは不仲ではない」


「でも、ヒューリさんの思想には反対してるんじゃなかったんですか?」


ライオネルさんからの話では、確かかなり真逆の考えを持っているはずなのだが。


「ユーキは、僕と考え方は確かに違うが、別に貴族に媚びたり、権力のためにやっているわけではない。ユーキは権力者や貴族の力をきちんと得て国を運営するのが、サンタマリアのためになるという考えをもっているだけで、目指す方向は一緒だ。実は、僕が王になろうが、ユーキが王になろうが、お互いに補助に回ることは話してあったんだ」


「そうなんですか。聞いた話だと、頭が難そうでしたけど」


「まぁちょっと真面目すぎるけどね。だが、ユーキがある程度サンタマリアにおいて権力を持つことは、結果的に僕に反対意見を持つ貴族達からの反乱を減らすことにもなる。僕は、僕に圧倒的な支持を持っているヒトやヒトガタをある程度集めているが、全員それだと、いざというときの対応が遅れることもある。そのためには、明らかに僕と思想の違う存在ももちろん必要だ。このことは僕がユーキを戸用するまでは、あえて仲のよくないフリをしていた。結果的にこれで、リアンのような過激派とそれに賛同する相手をあぶりだすことには成功した。ヘスから帰ったら、ユーキのことも紹介しよう」


なるほど。明らかに違う考えの弟を使うことで、自分だけの考えに凝り固まらないようにすること。そして、ユーキさんがある程度権力を持つことで、反対派の反発を防ぐことにもなる。


仲良しグループでやっているのは、楽しいだけで実際には生かされることはないということだ。


「やっぱヒューリさんはすごいですね。分かってても、自分を嫌ってる相手や、考えが違う相手を使おうとは思いませんよ」


理屈では分かる。だが、実際にそうすることは、本当に大変なことだろう。


「いいんだよ。ちゃんと僕の感上げを分かってくれていて、それに協力してくれるヒトやヒトガタがいるんだから、それに答えるためには頑張るさ」


「ふぅん……、やっぱあなたはヒトとは思えないくらい聖人だぴょん」


「そうですねわるものさん。俺も将来こういうヒトに仕えたいと思います。それだけで頑張れそうですから」


「別に、ずっと仕えてればいいぴょん。ここにいればいいぴょん」


「それも悪くないんですけど、俺には戻る場所もありますしね」


「私はついていくわけにはいかないぴょん?」


「俺の世界には……、って! なんでわるものさんがいるんですか!?」


「いや、気づくのかおそいだろう……。普通にわるものさんを連れて来たんだと思ってたよ。なんだかんだで説得できなくて、連れて来ちゃったんだなって。かなり最初からいたからさ」


「そうだったんですか?」


俺とヒューリさん一向は、もう既にヘスに入る直前まで来ている。


「ずっとついてきてたんですか?」


「そうだぴょん」


全然気づかなかった。やっぱ小さいからか。


「失礼なことを考えている目だぴょん」


「考えてませんよ」


「じゃあエッチなことを考えている目だぴょん」


「もっと違いますよ。それより、何でついてきたんですか?」


「ついてきてないぴょん。ただ私の進行方向にタジマくんがいるだけだぴょん」


「えらい屁理屈ですね」


「まぁまぁ。ここまで来ちゃったら、追い返すほうが危ないかもしれない。一緒に連れて行こうじゃないか」


「話が分かるぴょん」


「そんなにシュウジ君が心配なら言えばいいのに。好かれてていいね」


「そ、そういうことでもないぴょん。でも、でっぱり達が寂しがるのを見るのは嫌だぴょん」


「まぁ、ヒューリさんがいいならいいですけど。わるものさん。俺から離れないでくださいね」


「私にくっつきたいぴょん?」


「いえ、何があっても、わるものさんだけは守りますから」


「……! 何言ってるぴょん! で、でもそこまで言うなら、近くにいるぴょん」


なんだかんだで、わるものさんがヘスへの旅についてくることになった。




「どうぞこちらを通ってください」


ちょうどヘスとサンタマリアの国境で、警備兵に許可をもらって、通過する。


俺にとって初めての場所であるヘスについに入った。


見た感じはおおきな差は無い。


ライニングもそうだったが、ヒトはヒトガタと比べて知能に優れているので、街づくりの面ではやはり上である。


ロロロレは一部しか見ていないとは言え、やはりヒトガタの国であるため、やや自然よりの風景ではあった。


だが、問題はそこではない。


明らかにこちらに向けられる目線が違う。


「…………」


その目線の先は明らかにわるものさんと、ヒューリさんである。


ヒューリさんが、ヒトとヒトガタの平等をうたっていることは、ここでも有名なようで、そういった声がちらほら聞こえる。


だが、それ以上に目立つのが、わるものさんへの悪意だ。


ヒューリさんのような具体的なものではない。ただ単にその種類を嫌っている声しか聞こえない。


「…………」


口ではなにも言わないが、俺の服の裾をつかんで、耳はへんりゃりと折れている。


耳がいいのかどうかは聞いたことはないが、その様子を見れば落ち込んでいるのは分かる。


忘れていたが、元々わるものさんは、他の3人と違ってヒトに対してトラウマ持ちなのである。


そんなことは、俺は気づいていなければいけないし、本人が1番分かっているのだろうが、それでも俺を1人行かせるのが嫌で、ここまでついてきてくれているのだ。


「……ランク1くらいならいけるか?」


風は俺達の後方から吹いている。ヒューリさんに迷惑はかけないだろう。


『全く、ヒトガタがこんなところに、うわ! 臭い! あのヒト臭い!』

『ヒトガタ風情が、偉そうに歩くなど、何だこれ! 臭い!』

『獣の匂いか!? 嫌、違う! これはあのヒトから匂ってる! なんだあいつは!』


作戦成功。周りにいたヒトは、異臭騒ぎで、わるものさんの悪口を言っている余裕がなくなっている。


あまり使わなかったから、確認できなかったが、ランク1~3は、必ず俺から匂っている匂いであることが、周りに分かるようになっているらしい。


だから、ライニングで完全に俺はマークされたわけだな。


だが、逆にここではこれが使える。


ヒトガタに対して差別感情を持っている国で、ヒトガタのいるところから、嫌な匂いがしたら、通常はヒトガタからだと思ってしまうこともあるだろう。


だが、俺のこの能力で、匂いを嗅がせることで、嫌悪感を上書きする。


ヒトガタへの嫌悪感<俺の異臭であれば良いのである。


単純に嫌いな気持ちよりも、目の前にある危機のほうが重要である。


嫌いな人間が視界に入っていても、嫌な匂いが充満してたら、10人中10人が後者を気にする。


わるものさんへ向けられていた目線は、少し高くなって俺へ向き、悪口も皆口を押さえているから全く聞こえなくなった。


使い勝手のないと思ってたランク技もちゃんと工夫すれば使えるものだ。


「わるものさん。大丈夫ですか」


「……、タジマくんはずるいぴょん。でもありがとうぴょん」


こっそりやったつもりだったが、わるものさんにはばれているようだ。


「ほどほどにしときなよ。ヘスは敵国じゃないんだから、あまり良くないから」


「あ、はいすみません」


いかんいかん。ヒューリさんに迷惑をかけちゃいけない。


「まぁ、個人的には正しいと思うから、能力はばれないようにね」


うーん、やっぱいいヒトだな。




「ヒューリ殿! 良くいらしてくださいました!」


まぁいろいろありながらも、無事に城の前に到着すると、小柄な少女が出迎えてくれた。


小柄と言っても、わるものさんより小柄ではない。わるものさんはそういう域ではない。


身なりがずいぶんしっかりしてるから、王族関係者ではあるのかな。


「そちらの方は? あとこちらの国に来るのに、ヒトガタを連れていらっしゃるのは、危険ではありませんか?」


「彼は、シュウジ=カヴァリエ=タジマくんだ。この前の泥魔騒動に、今回のリアンの事件の両方にかかわり、解決をしてくれたことで、貴族の称号を与えた、私の頼れる友人だ」


ヒューリさんが俺を紹介してくれているのだが、俺のことを、部下とかそういう目線じゃなくて、友人としてみててくれてるのか。ちょっと感動。


「それは真ですか。泥魔事件のことは、ヘスのほうにも知れ渡っております。誰が解決したかは分かっておりませんでしたが、それがあなたなのですか。それに、ヒューリ様のこともお守りいただいているとは、すばらしいですね」


すげー気品あるな。ヒトがヒトガタを差別しているような国の貴族とは思えない。


「そして、こちらの兎のヒトガタはわるものさんという名前だ。シュウジくんの大切な貴族奴隷だ」


「なるほど、貴族奴隷でしたか。これは失礼しました」


ドレスの端をつまんで、軽く会釈をする仕草が実に自然である。


「ヒューリ様のご友人で頼れるカヴァリエのシュウジ殿。ご挨拶が遅れました。私の名前はクリス=ヘス。兄の失脚により、急遽第一皇女としての責務を果たすことになりました。もしよろしければ、お力をお貸しください」


「はい? あなたがクリス様?」


「はい、そうですよ」


「ああ、そういえば言っていなかったね。クリスは女の子なんだ。ヘスでは女性の王もそんなには珍しくないからね。つい説明を忘れていたよ」


めちゃくちゃ驚いた。


確かに身なりもいいし、仕草も気品がある。そういわれるとそうとしか見えない。


「わるものさんも始めまして。私はヒューリ様とともに、ヘスのヒトガタ差別を何とかしたいと思っています」


「よ、よろしくぴょん」


そういいつつも、俺の背中にちょこんと隠れる。微妙に人見知りしてるのが可愛い。他の3人はコミュ力の塊だからこうはならない。


「それにしても、やはりヒューリ様の選ばれただけあって、とてもヒトガタを大事にされているのですね。貴族奴隷とは言え、これだけ懐かれているのでしたら、普段からの接し方が分かります」


「ええ、他にも3人いるのですが、皆シュウジくんのことを好いているのですよ」


「まぁ、素敵ですね」


すげー恥ずかしい。わるものさんの毒舌も出てこないから、誰も止めないし。



「ごめんなさい。ついつい立ち話になってしまって。ヒューリ様と会えるのは久々でしたし、シュウジさんのお話も興味があったものだから」


「俺なんかそんなに面白くないですよ。クリス様」


「様はつけなくてもよろしいですよ。ヒューリ様が様付けされていないのですから、私もそうして欲しいですわ」


「あ、はい、ではクリスさんで」


「うふふ、よろしくお願いします。では、お城にご案内いたしますわ」


城を前にして、無駄に雑談が続いたが、クリスさんが気づいて案内してくれる。


門をくぐった先の城はかなり大きかった。


城自体の規模は、サンタマリア城と大差ないが、やや横に広く、並木道と庭園があるので、全体の面積はかなり大きい。


「すごい大きな城ですね」


「いえいえ、このヘンザー城が大きいのは、ヒトもヒトガタも他に比べて少ないのに、国土面積が変わらないから、大きく作ってあるだけです。大きいからいいというものでもありません。掃除も大変ですから」


「そうですね。最もな意見です」


俺は将来お金持ちになっても、大きい家を持とうとは思わない。掃除嫌いだし。


「さてと、クリスさんが女王になられたことで、ヘスも是非サンタマリアと同じように、ヒトとヒトガタの平等を持った国に是非していきたいですね」


「はい、ですがどうすればいいか分かりませんね……」


さすがのヒューリさんにも簡単ではないようだ。


元々ヘスは、ヒトガタへの差別感情が最も強いヒトで構成されている国であり、ライニングを飛ばして、ここをそうしようということ事態やや無理があるといえば無理がある。


「まずは町を見てみたいぴょん」


そんな中で、わるものさんが発言した。


「大丈夫ですか?」


「ああ、この町は……」


「私に気を使わなくていいぴょん。タジマくんがいれば大丈夫だぴょん」


ああ、ヒューリさんとクリスさんは、わるものさんに気を使ってたのか。


俺完全に気づいてなかった。


「そうか、じゃあクリス。町を案内してくれ。僕もあまりヘスの町は見たことが無いのでね」


「そうなんですか?」


「王になるまでの僕はサンタマリアのことで手一杯だったからね」


「それに、私は第1後継者じゃなかったので、他の国へ訪問することも多かったんです」


立場の違いかいろいろあるんだな。まぁ、そこまで気にすることは無い。俺も町見たいし。




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