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有名であることは面倒なことが多くなることでもある

「カヴァリエ殿! ばんざーい!」

「彼はやると思っていたよ。4人も美人奴隷を持っているんだからな」

「あの泥魔事件の解決も彼の功績らしい!」


俺は町をさらに違う意味で歩きづらくなった。

無駄に顔が売れてしまって、1人で歩いていても目立つようになってしまった。


「なんでも、異世界から召還された勇者なのに、その地位を蹴ってまで、奴隷を助けることにしたそうですよ」

「泥魔を鮮やかに倒して、被害を最小限にしたらしい」

「今回のヒューリ様の襲撃もあざやかに読んで、完璧に助けたそうだ」


しかも、あることないこと尾ひれはひれついてるし。俺は追い出されただけだし、鮮やかには倒してないし、襲撃は全部流れだし。


さて、俺が1人で歩いているということは、でっぱりたちはどうしているのかという話だが、実はおのおの出歩いているのである。


彼女達も俺の貴族就任によって、地位が上がったのだ。


その理由は、このサンタマリアの特殊な奴隷制度にある。


サンタマリア以外の奴隷制度は程度はあれ、一般的に俺が知っている奴隷制度と同じ。


だが、サンタマリアの奴隷制度は、奴隷にも権利がかなり認められている。


前提として、まずなぜ奴隷になるか。それは生活の困窮が原因で、自らそうなることもあるし、子供を売買をすることもある。


通常は、奴隷は労働を強制されて、人間としての権利や地位もなくなり、命がある道具として扱われる。そそして、その奴隷は悪用されたり、女の奴隷などはさらに屈辱を受けたりすることもある。彼らは生きるため、餓死しないために、何でも受け入れなければならないのだ。


だが、サンタマリアでは、奴隷の身分に落ちる場合、あるいは子供を売らねばならない場合などは、原則国が一旦買い取って、権利を国が保有する。


そして、最低限の生活や知識、運動能力を得られる状態にしてから、貴族、あるいは裕福な平民に売買、あるいは、労働力の少ない場所や家庭に譲渡をする。


ここで、売買されるところまで実績を得た奴隷は、うまくやれば普通の家庭よりも裕福な生活を保障されるのだ。だから、奴隷も皆努力をする。


周りに国が多く、労働力がいくらあっても足りないサンタマリアでは、この奴隷がきちんと身分を得ている。


もちろん奴隷なので、一般のヒトやヒトガタと比べて、一部の権利がないとか、いろいろ制限はかかるが、それでも一般的な奴隷よりは身分が保証されているといえるだろう。


貴族や裕福な平民も、きちんと知識や能力を得ていることを、国が補償してくれていて、その上奴隷なので、安く労働力を仕入れることができるので、大切に使っていた。


もちろん、ちゃんと国が一旦買い取った身分のある奴隷なので、邪な目的や、残虐な使い方をしないことは、売買、譲渡の時点で誓約書を書かされるので、乱暴をされることもない。


そして貴族の奴隷には、それを証明するバッジのようなものが渡され、それをつけていれば、主人の許可なしでも出歩ける。


このバッジを渡すかどうかはその主人のさじ加減であり、一般的には渡さずに同行させることが多いらしいが、別に俺の奴隷じゃないし、4人ともに渡した。


これが今の状態である。


「いやー、懐が深い。どれだけ優秀な貴族でも、自らの奴隷を自由にさせることはないというのに」

「4人との信頼関係があるのだろう。皆楽しそうだったし」


それで、俺の国民の皆様からの評価は上がってしまう。なんでやねんという感じだ。


なんか妙にかっこいいマントと勲章みたいなものをもらっていて、つけないのも悪いのでつけているのだが、実に居心地が悪い。



もう早く帰りたい。帰って、ゲームとか動画とか見たい。期待されるのは辛い辛い。

早く魔王倒してくれ、勇者の皆。


「素敵ね~、何かいい香りがするし」


「ええ、やっぱりかっこいい殿方はいい香りがするものなのね」


「何かワイルドな感じじゃなくて、フローラルな香りがするの、おしゃれじゃない?」


さて、身分ももちろんだが、俺の人気が上がっている理由には、もう1つある。


それは、先日覚えた、特別型フェロモンの能力である。


実は、これを覚えてからは、ずっとこれを一応発動させていたのだが、俺の横には常にでっぱり達がいたため、まさか俺から匂いがしているとは思わなかったのだろう。


俺が1人で歩いていてもいい香りがするものだから、俺からの香りと気づいたのである。


特別型フェロモンは、対象を1つしか選べないが、犬や猫など種類の多いヒトガタと違って、ヒトは種類がヒトなので、ヒトに合わせておけば、大体問題が無い。


しかも、ヒトガタも大体ヒトに近いのか、ヒトほどではなくても効果がそこそこあるようで、ヒトガタ相手でも悪意の目線は向けられない。


何でこれを発動させているかといえば、他の能力だと、何かの間違いで匂いテロを起こしかねないからである。


知らんうちに、汗をかいたり、いつのまにか血を流しているなど、よくあることといえばよくあることで、ある程度これを覚えるまでは注意していたが、時々回りを不快にさせていた。


いまさらながら、最初にこれもらっとけば、ライニングに簡単に戻れたような気がする。今となっては後の祭りだが。


「あ、あのー」


「はい?」


「もしよろしければ、今度……」


「あ、シュウジ、こんにゃところにいたにゃん?」


「お、でっぱりぃぃ? どこに連れてくんだー?」


「ちょっとシュウジに用事があるにゃん。ごめんにゃ」


「あ、はい……」


「もう、シュウジはもう有名人にゃんだから、特定の1人の誘いに乗っちゃ駄目だにゃ」


「そ、そういうもんか?」


「だから、前からずっと一緒だった、でっぱり達と一緒にいればいいにゃ」


「まぁ、自然だからな」


「そうにゃ」


こっちの町娘に声をかけられれば、でっぱりに引っ張られたり。


「私はサンタマリア有数の貴族よ。あなたさえよろしければ……」


「あ、シュウジくんわん! あっちに美味しいものがあるわん!」


「そっか、じゃあ後で」


「今行きたいわん!」


「へいへい」


「でも、すごいお金持ちっぽかったわん。シュウジはああいうヒトとお付き合いするわん?」


「いや、そんなことはないが」


「やっぱりだわん。私達を一緒に楽しくすごして欲しいわん」


あっちの貴族の娘さんに話しかけられれば、ふろに買い食いに誘われ。


「英雄さん~。もしよければ、私とここでいいことしない~?」


「え、いいこと……」


「シュウジさん! また一緒に買い物についてきてください~、もー」


「ま、負けた……」


「あ、あの、がらくたさんがすごいだけですから。そんなに落ち込まないでください」


「じゃあ行きましょう。もー」


「あの、胸が当たってますけど」


「嫌ですか? もー」


「いえ、そんなことはありませんけど」


「お金をわざわざ払わなくても、シュウジさんなら時々ならこうしてあげますよ」


そっちのお姉さんに話しかけられれば、でっぱりさんに引っ張られ、(ついでに相手の自信をへし折って)


「頑張ってください!」


「ありがとう、君みたいな小さい子に応援してもらえるなんてありがたいよ」


「危険ぴょん! そのロリぺド野郎に近づいたら危険だぴょん」


「え?」


「こっちにくるぴょん!」


「あ、ああ、ありがとね、じゃあまた」


「まったく油断も隙もないぴょん。せっかく英雄になったのに、評価を下げるまねをしちゃいけないぴょん」


「別にあの子の頭を撫でてあげようとしただけですけど?」


「目が怪しかったぴょん」


「そうですかね?」


「だから、私ので我慢するぴょん」


「え? いいんですか?」


「私のような可憐な容姿をした娘の、サラサラヘアーを撫でればきっとあんなことはしなくなるぴょん」


どこかの少女に話しかけられれば、わるものさんにスキンシップされたり。


わるものさんのサラサラヘアーはすばらしいからそれはそれでいいのだが。


「うーん、これはあれだよな……」


でっぱりとのフラグっぽいのが立ってから、怪しいなとは思っていたけど、これは異世界ハーレムを順調に築けてしまっている。


よくラノベとか漫画であるけど、これだけ露骨で良く気づかないものだと思う。え、なんだってじゃねぇよ。


特にでっぱりとわるものさんのフラグがかなり深いところまで行ってしまっている感じがある。


でっぱりはスキンシップが明らかに強くなって、腕とかをつかむ力が俺が痛いくらいである。


わるものさんも、あれだけ俺に触られるのを嫌がっていたのに、頭ナデナデを全く拒否しないのである。


嫌々っぽく言っているけど、撫でてるときの顔が明らかに気持ちよさそうなんだよ。


ふろとがらくたさんも、何かイベントがあればそうなりそうではある。


ふろはまだそこらへんの知識が薄く、がらくたさんは、おっとり天然系なので、この2人はまだだとは思うが、それでも俺が誰かに話しかけられていると、邪魔するくらいの行動は取ってくる。


「はっはっは、モテモテじゃないか、カヴァリエ殿」


「ヒューリさん、普通に呼んで下さい。その名前はこっ恥ずかしいです」


「そうかい? じゃあシュウジくん。なかなか大変そうじゃないか」


「知名度があるって大変ですね。俺前の世界では、道行くヒトに話しかけられたり、女性にモテたりなんてありませんでしたから、頭が痛いです」


「私の大変さを君が共有してくれてうれしいよ」


本当にめちゃ嬉しそうだ。複雑な気分。


「まぁ仕方ないだろう。彼女達がヒトデナシである以上は、君との絆を強く求めるのは当然だ」


「? 何のことです?」


「おや、知らないのかい? ヒトデナシが差別されていることを知っているのなら、この話も聞いていると思ったのだが」


「いいえ、多分知らない話です。教えてもらえますか?」


「そうだね。これはヒトデナシの差別に関わることだから、君には教えてもいいかな」


ヒューリさんは唐突に真面目な表情になり、話をし始めた。



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