崩壊9
「シキくん……」
「はい」
「なんで私が外れでナイトメアの相手をしている時に、来てくれなかったの?」
「教えますか?」
「教えて」
「ユイさんが倒したナイトメアの群れの取りこぼしが、この集落に来るかもしれないと思ってたからですよ」
「なるほど」
二人は宿を取り、それぞれの個室前の廊下に置いてあるベンチに腰掛けていた。
もう日が暮れているのがわかるほど、木々に差し込む光は弱くなっている。
日中でも明るくなる事は決してないこの集落は、『ブローディア』と言い、最近出来たばかりのナイトメアアクセルの大切な場所らしい。
「実際はどうだった?」
「一体たりともここには来ませんでしたよ」
「そこは気を付けたからね」
「シキくん」
その時、シキには彼女の顔が漠然とした不安に駆られるような表情が見えたような気がした。
「あの時、自分の能力を全力で使ったの」
「どうでした?」
「すごく強力になってた気がする。何百体いたかははっきりとは分からないけど、一瞬で終わった……」
「……簡単でした?」
「ものすごく」
消化不良に陥りそうな不安材料が山盛りであるのは彼女も理解している。
理解しているからこそ、シキはそれを押し流してやりたかった。
「何不安そうな顔をしてるんですか?」
「あの時アルフレーガシで屋敷に襲撃してきたナイトメアは、この力を求めてやってきたの?」
「そうです。そして、奴らは力を持ったナイトメアアクセルを次々に狩っていく。その力をどんどん取り込んでいく。その繰り返しです。それと、あの時は無様を晒してしまい、すみません」
「ううん、全然。そっかーやっぱり欲しいんだー。力が」
ユイはベンチの上で、両膝に顔を埋めてしまった。
「あの組織はみんな力が欲しいのかな……本当に私みたいになりたいの?」
ユイには自分の力を信じ抜くか、疑うか、そのどちらかで生き方を決めるしかない。
良いことも悪いことももたらすこのどうしようもないもののせいで、迷いの振り子が止まらなかった。
「少なくとも今まで出会ったブレーキは、皆そうでした。そして、俺もまた、あなたのような強い人になりたい」
「嘘……」
「ユイさんは、俺にとって憧れの人でした。誰からも疎まれ、挙げ句の果てには軽視され、罵倒の言葉を並び立てられても街のために一心に行動する姿。だけどこうして話していると、やっぱり普通の人なんだなって、だからこそあなたはすごいです」
「そしてあなたの力は今必要だと思います」
「……ありがとう」
シキにそう言われるのは、慎ましいながらも、嬉しい気持ちになれる。
昔は彼と母だけだったのだ。
この力に寄り添うように側で自分を見ていてくれたのは。




