覚醒、受け継がれた能力7
「まだ動けなさそう?能力は使える?」
「ごめん、どっちも{今は]無理」
「頼むぞ、片手が使えなくなってるからあまり時間は稼げねえ」
彼女が身体に纏うシンマネを、捕縛するグラスホッパーのシンマネに近づけるように変化させることで、馴染ませ、呪縛から解かれようとしているのを、シキは知っていた。
「ユウゼンくんが……苦しんでるよ」
「苦しんでるのは抵抗してるって証拠だよ。だからこっちには攻めてこない。さすがは俺たちの」
「俺たちの……?」
「なんでもない、終わったら話をしよう。俺たち二人で」
希望はまだある。
ユイのシンマネで肩の刺し傷を凍らせながら、傷口を擬似的にでも塞ぎながら、闘志を燃やした。
真っ暗な行き先を照らす光を今は待つしかない。
そう思っているのはシキだけじゃなく、少女もまた、シキの背中に望みを乗せて、シンマネコントロールに集中をかけていた。
ユウゼンくんとのトレーニングで、コツを掴んだ。
指先は動かせるようになった、あと少し。
あの敵のシンマネを取り込めば、能力も使える!
それからはシキの怒涛の攻撃で、敵を寄せ付けなかった。
『フェンリル・パック』
オールレンジ攻撃が出来る装備のおかげで、例え片手が使えずとも、相方のコントロールするビットが敵を撃ち抜いてくれる。
撃ち抜くのに使ったシキのシンマネは別のビットが受け止めることでまたそのシンマネが使えるという、半永久機関のような役割を果たしている。
どこまでも現れる奴の制御するナイトメアが、シキに息をつかせる暇も与えない。
だけど、もう立ち止まらない。
もう少しなんだ、故郷に帰れるのは。
「うおおおおおおっ!!!」
血は繋がっちゃあいねえが、血の繋がり以上に大切なもののために、こんな所で命落としてるなんて、ありえねえ。
きっと燦たちも待ってるから。
仲間の顔一人一人が脳裏にちらつく。
「シキくん、後ろ!それから斜め前!」
「オッケー!集中してろ!全部撃ち落としてやる!」
きっとあのブレーキ野郎はどこかでこの戦いを見てる。
なんならユウゼンだって、あの呪縛から逃れられるかもしれない。
そう思った。
父親というのは、そういうもんだろ。
強さの先にあるものを、手に入れてるあいつなら。