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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外212 情勢分析

 巻物を転送して一先ずの安全が確保できたこと。都市内に拠点と味方ができたことで、シリウス号側の人員を船側に固めずとも融通が利くようになっただろうか。
 残りの巻物に関してはゲンライとレイメイ両名がそれぞれ責任を持って守る、と気炎を上げたりしていたが。

「入浴中等に水濡れや湿気を受けたりしないように、何かしらの魔道具を作っておきますね」
「おう。頼りにしてるぜ」
「こう……首や肩から掛けられるような形で、持ち運びに便利な形状にするというのはどうでしょう」
「良いですね……! 確かに両手が自由な方が便利ですからね」

 レイメイの返答に笑って答え、グレイスの案にもうんうんと頷くコマチである。
 防水の魔道具か。包んで体に縛り付けるようにして肌身離さず持ち運べるように、といったところだろう。

 さて。巻物の残りに関してはこれで一先ず問題ない。
 と、そこにゲンライとカイ王子が艦橋に戻ってくる。香鶴楼から各勢力の版図を記した地図を持ってきて、それを見ながら作戦会議を進めていこうというわけである。

 星球儀には都市部や街道、具体的な版図等の情報が抜けているからな。この際、そのへんの情報もしっかりと把握しておきたい、というのがある。

「それほど正確性の高い地図ではないが、都市の位置やおおよその版図なら把握できるのではないかのう?」

 と、ゲンライ。その言葉を受け、カイ王子が広げた地図を指で指し示す。

「まず私達がいるのがここ。そしてはっきりとショウエンの支配域と言えるのがここからこの都市あたりまで、ということになるかな。私達は東の湾岸部一帯を治めている将軍と、裏から交渉中だ」
「交渉、というと」
「要は共闘の呼びかけだね。共同して北方の暴君に当たろうと考えているわけだが……これが中々に難しい」
「何か事情がある、と?」

 尋ねると、カイ王子は静かに頷いた。

「まずこの中央部の状況について。ここの家臣達は大きく分けて2種。ショウエンに対して徹底抗戦を唱える者と、恭順の意思を示せば停戦交渉に応じてくれると説く者達」
「これは……ここより少し北の前線で、ショウエン側から持ちかけてきた揺さぶりの一手ではあるな。そちらの出方次第で停戦の用意もあると、使者が書状を届けてきた」
「それは……どうかしらね。仮に一時的に平和になったとしても、ショウエンは信頼できないのではないかしら?」

 ステファニアが眉を潜める。

「そう。中央部でもそう考える者達が数の上では主流だ。そこの都市の太守殿も徹底抗戦を唱えている。中央部の状況に関しては、私の事情を説明して説得したから今の状況に持ってくることができた。だが、ショウエンとの停戦に応じるべきだと説く派閥もいてね……」

 カイ王子は目を閉じてかぶりを振った。
 そうだな……。カイ王子達の事情を聞けば、ショウエンと停戦交渉をしても後から暗殺なりなんなりの手を打ってくるのは目に見えている。
 逆に……だからこそ積極的に恭順すべきだ、と説く者が出てきてもおかしくはないが。

「君主たる御仁も現時点では戦いの意思に賛同しておるが……湾岸部を治めている将軍との共闘ができなければ戦力的には心もとない、と考えているようじゃな。故に、ショウエンの持ちかけてきた返答期限ぎりぎりまで返事を保留して、裏では前線の攻撃を和らげつつ東の将軍と交渉中というわけじゃ」

 なるほど。ここの君主は中々に強かだな。

「東……湾岸部を治めている将軍については? あちらには手を組まない理由があるのですか?」

 アシュレイが尋ねると、カイ王子が頷く。

「あちらはあちらで、戦力が充実しているからね。自分達の勢力単独でショウエンに当たっても勝てる、と豪語する武官が多いようだ」

 武官達としては、余所の国に戦功等々を分け与えたくない、という思惑があるのか。或いは領地が隣接しているだけに、こっちの陣営を潜在的に敵だと思っているか、というところだろうな。

「文官はこちらと共闘すべきという意見が多いようだ。君主としての立場でみるなら、そうやって強気な武官達に対して水を差すような発言をして士気を下げたくない、という部分があるのだろうね」
「実際、攻め落とされた拠点を逆に奪い返したりと、良く戦っていると思うがのう。しかし……」
「敵が本気になっていない、というのが計算に入っていないわけね」
「ショウエンの側近やらが前線にやってきて宝貝を持ち出したりすれば、簡単に均衡が崩れてしまいそうな気がするわ」

 目を閉じるクラウディアと、羽扇の向こうで肩を竦めるローズマリー。2人の言葉に、カイ王子が眉根を寄せつつ頷いていた。マルレーンも少し心配そうな表情になる。

「その通りだ。これは見せかけ上の善戦だと思っているよ。私や師父が乗り込んで説得を、とも考えたのだが、湾岸部には伝手が少なくてね。あちらに顔を出しても誰を信用していいのか分からなくてね。調査を重ねた上でなければ動きにくい部分もある」

 この辺は……公式には死んだはずの王子故の悩みか。裏で動くしかない、というかなんというか。

「他の地方を治めている君主については、どうなのかしら?」

 イルムヒルトが首を傾げて尋ねる。

「まず、北西部。ここを治めておる将軍は、静観している振りをしながら、既に独自に動いてショウエンと交戦するための軍備を整えておる」
「南西部の君主もまた、地理的に直接派兵は難しいが、北西部に糧食や兵器を送ったりして裏で動いているよ。北西部は妖魔の被害が多いのだけれど、南西部の援護があれば軍備に余裕が生まれる」
「ん。裏事情に詳しい」
「ということは、やはりお二人が?」

 不思議に思ったらしいシーラと共に俺がそう尋ねると、カイ王子とゲンライがにやりと笑った。

「南西部の君主に仕えている重鎮殿とは、私が宮廷にいた頃に少し知己を得る機会があってね」
「そして北西部には儂の伝手がある。何せ昔、レイメイと共に妖魔から助けた人物の子孫こそが将軍その人じゃからな。家に代々言い伝えられておって、儂とも面識がある。そうそう。レイメイ大王の名も残っておるぞ」

 なるほど。人脈が最初からあったのなら裏での交渉もやりやすかっただろう。ゲンライのしてやったりという笑みを向けられて、レイメイはがりがりと頭を掻いた。

「あー。北西で、か。そんなこともあったっけな」
「ほうほう。興味深い話じゃのう」
「人の世の事情はあまりよく分からぬが、道士とレイメイの妖怪退治の旅の結果というわけか」
「うむ。まあ、昔話は後でじっくりと聞かせてもらうとしよう」

 それを聞いていた御前とオリエも楽しそうに頷く。妖怪退治の旅には確かに俺としても興味があるが……今は作戦に関する話を続けるとしよう。

「となると、北西部の将軍は中央部や東部の状況に呼応して動くつもりでしょうか?」
「そういう段取りになっておる」

 要するにタイミングを計り、同盟を組んだ状態でショウエンに対して3正面作戦を仕掛ける、というのがカイ王子とゲンライの構想なわけだ。
 ショウエン自身はそれでも自分は切り札を持っているから、あちこちの君主に対して無茶をやっても大丈夫と思っているのだろうが……。
 北西部を見てみれば……山間部を越えて獣魔の森に隣接するし、魔力溜まりもあるようだからな。自分達に十分な戦力を差し向けられないと、高を括っている部分もありそうだ。

 だがまあ、ここでするべきことは分かった。
 まずは中央部と東部を纏められるように後押しすることになるだろう。後は……そうだな。

「作戦を思いつきました。少々お耳を拝借したく――」
「ふうむ」

 身を乗り出してくるみんなに考えた作戦を聞かせる。

「――というのはどうでしょうか?」

 提案すると、ゲンライはしばらく思案していたようだが、艦橋に居並ぶ面々を見て納得したように頷く。

「これだけの戦力であれば、それも可能になってくる、というわけか」
「そうです。それに敵の通常兵力をこちらに向けられて、対応で消耗させられたところに本命の攻撃を受ける、等というのも防ぎたいところではありますからね」

 まあ……通常兵力相手ならやり方次第で何千何万でも潰走させるのは難しくないとは思うけれど。例えば、ヒュージゴーレムあたりを並べて突進させれば普通なら逃げる。
 だが、相手が相手だからな。敵方に術者がいると判断したなら、消耗を狙って普通なら潰走するはずのところを、家族を人質に取って無理矢理戦わせるなんて手が取ってくるのも予想しておくべきだ。

 それに何より。徴兵された兵士となると、これは一般人とも表裏一体ではあるので、怪我人や戦死者は少なければ少ない程良い。
 いずれにせよ、まずはカイ王子達の作戦の後押しを行い、足場固めから始めるというのが良いだろう。
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