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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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626 岩中の隠れ里

 イルムヒルト達のリハーサルに耳を傾けたりしている内に、やがて目的の場所が近付いてきた。集落での暮らしや文化など、聞きたいことはないわけではないが、今回送り届けるのに当たって関係のない話をドミニクにさせてしまうというのも、あまり彼女の立場にとってプラスにはならないだろうから、そのあたりは敢えて聞かない。
 集落の人々に受け入れてもらえたら、改めてその場で聞けばいいのだ。

 そうして、ドミニクはいつしか歌も話も止めて、水晶板越しに外の風景を食い入るように見つめていた。
 外は雪山。それでも稜線や川の流れなど、高所から見れば判別のつく地形というのは残っているものだ。俺は進んだ距離と方角、データを照らし合わせながらカドケウスを変形させて現在位置を割り出しているが、ドミニクにはもう色々と見覚えのある場所になってきているらしい。
 どうやら……向かっている先がドミニクの故郷であることは、もう疑う余地もないようだ。

「そろそろシリウス号の動きを止めようと思います」

 予定した距離に入ったので、そんなドミニクの様子を見ながらシリウス号をその場に停泊させる。ドミニクの故郷の者達を無闇に驚かせないように、シリウス号が近くに来ていることなどは順を追って説明するべきだろう。今は光魔法の迷彩で船が見えない状態にしてある。
 そうしてからみんなで甲板に出る。ドミニクはシーラとイルムヒルト、ユスティア、シリルに付き添われ、緊張を和らげるように大きく深呼吸している。

「ああ。もう……緊張で、くらくらして倒れそう」
「ん。その時はおぶっていく」
「それなら、私も手伝うわ」

 と、シーラが言うとユスティアも頷く。

「あははっ、ありがと」

 シーラの普段通りの顔色から出た冗談とも本気ともつかない言葉に、ドミニクが笑う。些か緊張も解れたようだ。まあ、実際そうなったらシーラは有言実行するかなとは思うが。

「我は船の護衛として残ったほうがよかろう。浮遊する武器は物珍しい。不必要な警戒をさせてしまうかも知れん」

 ベリウスも同様の考えを持っているのか、マクスウェルの言葉を受けてクラウディアとヘルヴォルテに視線を向ける。クラウディアは静かに頷いた。

「なら……ベリウス達は船を守っていて貰えるかしら?」
「ベリウスが船を守っている間、姫様の身は私がお守りします」
「上手く話がついたら、マクスウェルやベリウス達の事も集落の皆に紹介できるように話をするからさ」
「うむっ」

 俺の言葉にマクスウェルが核を明滅させ、ベリウスがにやりと口の端を吊り上げて笑う。そんなわけで、動物組は一先ず船に居残りである。
 ドミニクと、ユスティア、シリルが友人として。それからステファニア姫達が直接集落に向かう形を取る。俺は異界大使としての仕事。パーティーメンバーは非戦闘員や姫の護衛というわけだ。

「それじゃ、行ってくる」

 と、甲板に出てきたリンドブルムやアルファ、コルリス達に見送られる形で船を降りる。ドミニクも先程のシーラとのやりとりで緊張が若干解れたのか、動物組やマクスウェルに手を振る余裕が見られた。

 ドミニクは自分が帰ってきたことが分かりやすいようにと、人化の術を解いてみんなと共に、ハーピー達を驚かせないようなゆっくりとした速度で雪山を歩いていく。全員が空を飛んだりしていると、何事かと思われるからな。
 目指すは真っ直ぐ先に見える、雪を被った岩山だ。周囲は完全に雪山、白銀の世界である。森林限界を超えた高さなので、あたりの見通しは良いと言えよう。

 人里は……南側の斜面を下った先にある。現在俺達がいるのは、ドミニクの住んでいた山の、北東側に面する斜面だ。人里から山を見上げた場合、山体が陰になっていて、こちらの岩場で何が活動していようと、目にすることはできないだろう。

 そうして周囲の状況に警戒をしながら少し歩いていると、斜面の上の方から声が掛けられた。

「そこで止まれ!」

 と、女の声に斜面の上の方を見やれば、岩陰から顔を出し、弓を構えている女性の姿が見えた。一人ではなく、数人の武装した集団である。これは恐らく人化の術を使っているのだろう。特徴が出そうな部分を、あちこち毛皮で覆っていたからだ。
 性別も分かりにくくしているが……体格は華奢だ。後列の者達が大きく息を吸い込み、呪歌を歌い出しそうな仕草を見せた時、ドミニクが先んじて声を上げた。

「みんな! あたしだよ! ドミニク!」
「ドミニクッ!? お前、どうして……!?」

 どうやらドミニクの顔見知りらしい。ドミニクの姿を確認したのか、先頭に立ってこちらに矢を向けていた女が頓狂な声を上げ、慌てて番えていた矢を降ろす。

「帰って来たの! 魔人に魔法で攫われて、それをテオドール君達に助けてもらって! それから精霊王様にも助けてもらって、こうしてみんなで送って来てもらったんだよ!」

 ドミニクは俺達を庇うように両腕を広げながら、彼女達に相対する。
 ハーピー達の動きは、岩山を一団が出て迂回して来た時点で掴んでいる。生命反応の光も見えていたしシーラやイルムヒルトも位置を把握した上で歩いていたからだ。
 そして、こうしたハーピー達の反応も一応、予想の1つとして立てている。ユスティアを送っていく際も、そういう想定をしたからだ。まあ、グランティオスに関しては公爵領との交易を行っていたりしたので話が付きやすくはあったのだが。

 恐らく俺達が集団で真っ直ぐ岩山を目指している上に、明らかに麓の者達とは違うものだから、人間の振りをして追い返すなどの手立てに出たのだろう。決して好戦的ではないといっても、集落を守ろうとしているのなら有り得る話ではある。
 それ故、ドミニクが話を付けたいとは言っていたが、もし外に出たドミニクが魔法などで言う事を聞かされているなど判断され、こちらが信用されなかった時に諸共に攻撃を受ける可能性もある。だから、カドケウスはドミニクの防御用として彼女にくっ付いていたりする。

「ま、魔人……? 精霊王……? い、いや、それが本当なら、その者達は恩人ということになるが……」
「ヴェルドガル王国異界大使、テオドール=ガートナーと申します」
「私はマール。人間達からは水の精霊王、と呼ばれています」

 俺が前に出て一礼し、それからマールも一歩前に出て挨拶をする。
 ステファニア姫達の紹介は一旦待つ。次々と肩書きを持つ人物が名乗っても向こうの心構えの問題で、処理し切れないからだ。

「せ、精霊王、とは……」

 髪の先やドレスの裾などが水になっているマールは見た目からも水の精霊と分かりやすい。

「そっちに行っても、良い?」
「……ああ」

 ドミニクの伺うような言葉に、リーダー格の女は静かに頷く。後ろに控える者達も固唾を呑んで見守っている様子だ。
 返事を受けてドミニクが前に出ていく。女も1人、前に出てきてドミニクの近くまでやって来た。

「怪我は……してないか?」
「うん。大丈夫、ほら!」

 そう言って、ドミニクは明るく笑う。身体の隅々まで見せるように、翼を広げてくるりと回って見せる。
 その笑顔と仕草は、ドミニクらしい天真爛漫とした明るさで。

「ああ――。本当だな。良かった」

 そう言って彼女は眩しいものを見るように目を細め、人化の術を解くとドミニクをその翼で抱きしめた。

「よく……無事で帰ってきた。お前がいきなりいなくなったから、みんな心配していたんだ」
「うんっ、うんっ! ただいま、ラモーナ……!」

 ドミニクはラモーナの羽毛と胸に埋もれるようにしていたが、やがて感極まったように嗚咽を上げ始めた。それに触発されたのか、後ろに控えていたハーピー達も弓を投げ出し、人化の術を解いてドミニクに詰めかけ、飛びつくように抱き合う。

「お帰りドミニク!」
「お帰りなさい!」

 その光景を見ながら、ユスティアが目に涙を溜めて安堵したように呟く。

「良かった……ドミニク」

 ……そうだな。もしかしたら外に出た者は受け入れられないなんて可能性もあったわけだし。ドミニクが集落のハーピー達に受け入れられたなら、きっとその他の事は些末なことなのだ。
 みんなも微笑みを浮かべたり、或いはもらい泣きをしたりしながらドミニクとハーピー達の再会を静かに見やっていた。



「失礼しました。まず弓を向けてしまった無礼を申し訳なく思います」

 暫くハーピー達は抱き合っていたが、やがて落ち着いた頃合いになって、ラモーナが全員を代表するように頭を下げてきた。その他のハーピー達もそれに倣うように頭を下げて来る。

「いえ。集落が近いのであれば、それも当然のことかと。気になさらないで下さい」

 そう答えてから、更にみんなの紹介をしていく。
 ステファニア姫達もここでようやくの紹介となる。
 ヴェルドガル王家、シルヴァトリア王家、バハルザード王家、グランティオスの水守りで、各国の王の名代と聞いてラモーナは目を丸くしていた。

「ここが国外なので、どちらかというと人間の領主と問題が起こった際に交渉することを考えて大使に同行をお願いしたのです。私達の肩書きは、どうかあまり気になさらずに」
「勿論、私達の国としても貴女方と友好な関係でいられれば、それに越したことはないと思っていますが」

 ステファニア姫達の言葉に、ラモーナは恐縮するように居住まいを正して一礼する。

「そうとは知らず、重ね重ねのご無礼をお許し下さい。私は一族の戦士、ラモーナと申します」

 そうしてラモーナ率いる迎撃隊の面々も、それぞれに名を名乗るのであった。
 ラモーナ達ハーピーの戦士は人化の術を使い、狩人を装って近隣の人里に情報収集に降りることもあるそうだ。だから、ヴェルドガルが異種族に寛容という話も耳にしているとのことである。

 因みに弓は偽装用だそうで。本当に戦う気ならハーピーの姿で戦うので、あくまでもあれは警告なのだろう。
 空を飛べるし、羽をダーツのように飛ばすこともできる。鉤爪も鋭いし力も結構強い。更には呪歌もあるので、それが集団となると、ハーピーの戦闘力は侮れないところがある。

 まあ、攻撃的な呪歌、呪曲に対しての対策はあるからいきなり眠らされてしまうということも無いとは思っていたが。
 ともかく、弓などで警告をしている内は、ハーピー達もまだまだ本気ではない、ということだ。やはり、穏健な性格だと言えよう。

「恩人を集落に招かないというのは我等の種族としての恥。しかし、我等の集落は、これほど大勢の客人を迎えたことがありません。まず集落の皆に今回の事情を説明し、心構えをする時間を頂けたら嬉しく思います」

 自己紹介やら互いの事情説明やらが一通り終わったところでラモーナが言う。

「分かりました。この場で待たせていただきます」
「では、少しのお時間を頂戴します」

 そう言ってラモーナが飛び立って、眼前にあるちょっとした岩山へと向かっていく。
 その間もハーピー達はドミニクを囲んで嬉しそうに抱きついたりしていた。
 ややあってラモーナと、数名の者が岩山の間から姿を見せ、空を飛んで戻ってきた。

「お父さん! お母さん!」

 ドミニクが飛び出していく。ドミニクの父はまるで大きな鳥のような姿をしていたが……地上に降り立つと術を解いたらしく、鳥の頭を持つ人のような姿となった。

 ハーピー達は人との間にも子を儲けることができ、親がどうであれ基本的には女児ばかりが生まれるそうだが、時々ああした姿の男児も生まれるそうだ。
 女のハーピーとは人間の姿をしている部分が逆である。まあ、人間的な手足に羽毛が生えていたりするので人とは結構離れているが。背中から翼が生えている、ホークマン達有翼種ともまた違う鳥人である。クラウディアの居城にいる、ビーストナイトに似ているかな。

「おお、ドミニク!」
「ああ。無事で帰って来るなんて!」

 ドミニクの両親は娘を抱き留めて、涙を浮かべて再会を喜んでいる。ドミニクも嬉しそうに両親に抱き着いて甘えた。

「ただいま、お父さん! お母さん!」

 ドミニクからも既に涙で赤くなった目で両親と抱き合って嗚咽を漏らしている。
 こうして約束を果たすことができて、俺としても安心できたし、ドミニクがきちんと家族に再会できたことは……良かったと思う。
 後は……集落の意向かな。ラモーナはドミニク親子の再会を穏やかな目で見ていた。その様子を見る限りだと、集落の意向もそう悪いものではなさそうだ。俺が視線を向けると、それに気付いたのか、こちらを見て口を開く。

「お待たせしました。族長も是非客人を迎えたいとのことです。しかし、我等の村は翼を持っていないものには少々危険が伴うかも知れません」
「ありがとうございます。では、ドミニク達が落ち着いたらということで。僕達も魔道具などで空を飛べますのでそのあたりはお気遣いなく」



「我等一族の男達は、獣化の術を用いねば空を飛べないのです。その時は力も弱くなってしまうので――」

 と、岩山までの道のりを、飛んで向かいながらラモーナが説明してくれた。
 だからハーピー達の社会では女が戦士役を担うというわけだ。男は一方、職人として細工などを作ったり、或いは地上で人化して作業をする時の護衛役をしたりする、とのことである。
 イルムヒルトが人化の術を使うと力が弱まってしまうのと同じか。獣化の術というのは、人化の術の応用で組み上げられたものかも知れない。

「そうでしたか」
「一族の男達については知られていないかと思いましたので、説明させていただきました。人々の間では、人間の男を攫うなどの噂もあるようで」
「ああ。そういう伝承もありますね」

 とすると、こういう話はこちらに安心してもらうためか。
 確かに。ハーピーの集落は人里から離れているし、ドミニクからの情報以外で迷宮村の住人以外の習俗は知らない。冒険者として関わってくるのは、所謂魔に堕ちたハーピーになるわけだし。

「まあ……人間の男と恋に落ちる、という話も、無くも無いのですが。私達は男女で姿が大きく違いますので、時々人間の男ではないとどうしても伴侶としての魅力を感じない、という者も、一定の割合でいるのです」
「そういった時は……?」
「集落を出て旅に出て、伴侶を探したりする場合がほとんどですね。呪歌で性格の合う相手を探したり……落ち着けば新しい集落を作ったりすることもあります。或いは相手次第で出て行った集落に迎える場合もありますよ。今は私達の集落にそういった夫婦はいませんが――」

 色々興味深いな。ドミニクからは聞けなかった話だ。
 そんな話をしている間に例の岩山が近付いてくる。山の斜面の一部に大岩が突き出しているような形だ。岩山は一塊では無く、幾つかの岩が密集している印象であるが……ハーピー達は迷いなくその岩山の間に入っていく。狭い岩の間を進むと、突然開けた空間に出た。

 広々とした空間になっていた。下の方まで掘り抜かれ、切り立った谷のような地形になっている。
 その断崖の壁面に住居が掘られたり、通路が作られたり。或いは蔦のような植物で橋が渡されたり、通路に柵が設けられたりしていた。
 断崖の間に作られた集落――といった風情だ。よくまあ……ここまで作ったものだ。グランティオスの海底都市も凄かったが、ハーピー達の集落もまた、異文化の集大成といった雰囲気である。

「すごい町ですね」
「本当……。驚きだわ」

 グレイス達がその光景に目を丸くする。みんなも言葉も無いと言った様子でハーピーの隠れ里に目を奪われている。そんな皆の反応に、ドミニクが嬉しそうな表情を浮かべた。

「この町は手で掘ったのですか? それとも魔法建築で?」
「総出で呪歌を用い、精霊の力を借りてこういった地形と家々を作るのです。ですから一種の魔法建築とは言えるかも知れませんね」

 アシュレイの質問にラモーナが答える。なるほど……。地の精霊に頼むという形だろうか。

「興味深いわ。上の方を塞いでいるのは……巨大なキノコね?」

 ローズマリーが言う。入口が塞がれているように見えるのは、街の上の方に岩のような質感の傘を持つ、巨大なキノコが生えているからであった。
 みんなして呆気に取られ、岩場に根付いている巨大キノコを見上げていると、それについてもラモーナが説明してくれた。

「ご存知でしたか。あれはロックファンガスという種です。私達が育てているもので、小さなものは食用にし、大きくなれば硬質化するので上手く育てて計画的に間引けば、建材や足場にもなります」
「……傘をハリボテのように使って、街の上方を塞いでいるわけですか」
「見た目は石のようですが、実際は軽いので何人かで動かしたりもできますから。入口を完全に塞ぐこともできますし、夜間は実際そうしていますよ。陽の光はあの鏡苔で集落の奥まで取り込むわけですね」

 鏡苔、ね。壁面の一部が陽光を受けて輝き、谷は明るい光に満たされている。壁面の角度も鏡苔を育てる場所も、計算して作られているのだろう。キノコと苔によって住環境が整備されているというわけだ。
 入口は目立たないように。内側は広く。だというのに明るい雰囲気があり、外敵も見つけにくいという……中々快適な環境のようである。

 住人であるハーピー達も、断崖の間を飛んでいたり、柵の向こうや窓からこちらを見ていたりと、興味津々といった様子だ。
 どこか警戒している様子の者もいれば、ドミニクの友人、顔見知りらしきハーピー達もいて声を掛けてくる者もいた。ドミニクはそんな知人達の迎えに、嬉しそうに挨拶を返している。

 毛皮の他に、麻の服を着ていたりするところを見ると、どこかで亜麻を育てていたりするか、或いは山に自生しているのかも知れない。毛皮の衣服は丈夫なので、集落の外に出る戦士達が好んでいるという可能性もあるが。

「ドミニクお姉ちゃん!」

 と、表情も明るく声を掛けてくるのは一際身体の小さなハーピーだ。羽毛の生え方等が違う。もこもことした柔らかそうな羽毛はハーピーの雛、という印象があるが。

「ただいま、リリー」

 ドミニクが嬉しそうに答える。リリーと呼ばれたハーピーの少女はにっこりと笑って、まだ小さな翼をぶんぶんと振っていた。みんながその光景に、微笑ましいものを見るように表情を綻ばせる。

「こちらへ。族長がお礼を言いたいと」

 ラモーナ達の向かっている先は――崖の中腹ほどに掘り抜かれた広場に建てられた、一際立派な石の家であった。族長の家だろうか。
 広場に降り立つと、そこには既に出迎えとして何人かのハーピーや鳥人の姿があった。彼女達の中央に立っている、首飾りなど装飾を身に纏った、一番立派な出で立ちのハーピーが一歩前に出て、俺達を迎える。

「ようこそ、客人方。ラモーナから話は聞いている。まずはドミニクを助けてもらったことへの礼と、こちらの不手際についての謝罪を述べたい。私が族長のヴェラだ」

 ヴェラ、と名乗ったハーピーは人化の術を用いる。
 光に包まれたかと思うと、手足が人間のものになった。ヴェラはふむ、と言いながら人間のものになった手を握ったり開いたりしている。

「この姿の方が諸君らには受け入れやすいかも知れんな。さ、奥へ。恩人達を立ち話で迎えるというのも無いだろう」

 と、家の奥へと通される。中々冷静沈着そうな印象を受けるハーピーだが……俺達を屋敷の中へ案内しつつも、ドミニクに穏やかな表情で語り掛けるように言った。

「ドミニクも、よく帰ってきてくれた」
「ありがとうございます、族長様」

 ドミニクの笑顔に、ヴェラは静かに微笑んで頷く。
 ハーピー達の家ということでどんなものかと思っていたが……内装は割合普通だ。
 ……いや。ロックファンガスの傘を平らに加工して作った円卓や椅子等はこの集落ならではといったところだが。
 こういった家具は男――鳥人達用かも知れないが、ともかく俺達にも使いやすい家具があるというのは有り難い。ふかふかとしたソファめいた家具もあるが、どこか作りが鳥の巣を連想させるものだったりする。あれはあれで居心地が良さそうではあるが。
 そうしてみんなが腰を落ち着けたところで、飲み物が出される。

「まずは、改めて礼を言わせて欲しい」

 飲み物がみんなに行き渡ったところで、ヴェラは深々と頭を下げた。それから、ヴェラにこちらの面々を紹介する。
 流石に族長というだけあって落ち着きがあるが、精霊王に各国の王の名代ということで少し驚いたような表情を浮かべていた。
 こちらの面々の紹介を終えたところで、俺から代表して事情を説明させてもらうことにした。

「まずは――こうなるに至った詳しい経緯を話しても良いでしょうか。少し長い話になってしまうのですが」
「それは勿論」

 と、ヴェラが頷く。
 では、と前置きして、色々と話をして聞かせた。長い話ではあるが、ドミニクとユスティアに関係する話をピックアップして色々と話していく。
 魔人と貴族の人身売買計画と、そこからの一連の魔人集団暗躍事件のこと。冒険者ギルドに保護され、呪歌を用いて仕事を手伝ったりしていたこと。境界劇場の話に、ユスティアの故郷を突き止めたこと。それから精霊王達の協力を得て集落の場所を割り出したこと、などだ。

「……そうか。それで合点がいった。ラモーナからの話も、精霊達の件が気になっていたのだよ」

 ヴェラは俺の話を最後まで静かに聞いていたが、聞き終えると静かに口を開く。

「合点、とは?」
「少し前から精霊達が騒いでいた。生憎その声を聞いたり、考えを読み取るほど精霊達に通じてはいないのだが……何か伝えたい事がありそうだというのと、決して悪い知らせではない、ぐらいのことは感覚で分かる」

 なるほど……。割合簡単に信じて集落に入れてくれたという印象があるのは、族長のヴェラ自身にそういう感覚があったからか。
 呼応した精霊達の前触れもあったからこその結果でもあるのだろう。その言葉に、マールが嬉しそうに表情を綻ばせるのであった。
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