挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

646/1207

625 ハーピー達の暮らしは

 そして明くる日、明るくなり始めたぐらいの早い時間に、みんなで造船所に集まった。
 静謐な空気が満ちた冬の早朝。漁師などはもう準備を始めていたりするので、案外造船所の近くの港では動いている人が多い。

「おはようございます」
「おはようございます。今日はよろしくお願いしますね」

 造船所に顕現したマールに挨拶をする。俺との約束でもあるからマールも同行したい、とのことだ。高位精霊が一緒なら、それもハーピー達の信用に繋がるかなという気もする。
 それからケンタウロスのシリルも一緒だ。劇場で一緒に演奏している仲間として。それから友達として、一緒について行きたいとのことである。
 んー。迷宮村の住人も、ハーピー達からしてみると信用してくれる材料になるだろうか。
 当人であるドミニクはと言えば……若干緊張しているのか神妙な面持ちだ。

「今から緊張してても大変だよ、ドミニク」
「そうね。気持ちはわかるけど」
「んー。そうかも」

 シリルとユスティアがそんなふうに話しかけて、ドミニクもそれで自分の状態を自覚したのか、苦笑しながら答える。
 日程としては短期間なのでそれほど荷物も多くはならない。気が急いているドミニクの気持ちも分かるので、手早く、しかし確実に準備を整え、シリウス号に乗り込む人員を点呼して確認していく。
 動物組も甲板に整列していたので順繰りに点呼してやると、一声咆えたり、首を縦に振ったり手を挙げたりと各々反応を示す。マクスウェルは動物組というのとも違う気がするが、同じ列に加わっている。魔法生物仲間ということなのだろう。

「今日は我の出番があるかは分からぬが、頑張らせてもらう」

 と、核を明滅させて気合を入れているマクスウェルである。
 その列には並んでいなかったが、ウロボロスにネメア、カペラの名前も呼んでやると、ウロボロスは喉を鳴らし、ネメアとカペラはコートから手を出して返事をしていた。
 そうして動物組は点呼が終わると船の中に自分達で入っていった。まあ、何をするにしても手がかからなくて助かるところはあるが。

「よし。それじゃ、出発しようか」

 艦橋に移動し、みんなが席に着いてベルトを締めたのを確認してから操船席の水晶球に触れた。

「では、これより発進します。速度が安定するまで少し揺れるので、それまでは立ち上がったりしないように」

 そう言ってから少しの間を置いて安全を確認。ゆっくりと浮上させていく。
 充分な高度を確保したところで、地図と方位磁石を見ながら直線ルートを選んで、シリウス号を最初は緩やかな速度で進めていく。
 水晶球に魔力を送り込んでいく。シリウス号の推進器が火を噴いて段々と加速していき、眼下の風景があっという間に後ろに流れていくような速度になっていった。
 風景の流れる速度に関わらず、シリウス号は真っ直ぐ安定した飛行をしているので、船内の揺れなどは殆ど感じない。

「アルファ、この速度と進行方向を維持。魔力は定期的に俺が補充するつもりだけど、消耗が俺の予想より早いかなと思った場合は知らせてくれ」

 そう言うと、操船席の隣にいたアルファが首を縦に振った。
 加減速のない安定飛行に入ったところで、その旨をみんなに知らせる。さて。後は現在位置を地図上でしっかりと追って行けば問題はあるまい。
 目的の場所が近付いたらシリウス号を停止させ、ドミニクを故郷の集落に送りつつ、ハーピー達に事情を話す、という段取りを考えている。

「それでは、お茶を用意します」
「私も手伝います」
「なら、私達も」

 グレイスとローズマリーが立ち上がると、アシュレイが続いて立ち上がる。マルレーンとクラウディアも続いて……結局みんなでお茶と焼き菓子の準備をしていた。

「それじゃあ、これをお願い」

 ローズマリーの魔法の鞄から木製のティーセットやら焼き菓子の入ったバスケットを取り出す。お湯はアシュレイが水魔法で沸かし、グレイスが手際よくお茶を注いで、マルレーンがにこにことみんなに焼き菓子を器に盛っていく。手際の良いことだ。
 何気に新しいお菓子として醤油味の煎餅が加わっていたりする。

「どうぞ」

 と、クラウディアが木のカップを渡してくれる。

「ありがとう」

 そう言いながら操船席でお茶とお菓子を受け取って笑みを返すと、クラウディアもマルレーンと一緒に穏やかな笑みを向けてくる。

「やっぱり、ハーピー達もセイレーンに似てる?」
「歌を歌ったり、聞かせるのが好きなのはそうかも」

 お茶を飲みながら煎餅などを齧っていると、シーラがドミニクにハーピー達についての質問をしていた。
 そうだな。文化的なところをドミニクに色々聞いておくのは大事だろう。

「でも、ハーピー達は呪歌を狩りにも使ったりするかな。後は……人が集落の近くまできた場合は、呪歌で眠らせたまま操って麓に帰したりとかもするよ」

 セイレーン達とは少し違うところがありそうだな。

「何か掟とか禁忌とか、接する上で気を付けなきゃならないことは?」
「みんなは外と積極的に交流したいわけじゃないみたいだけど。盗んじゃいけないとか、喧嘩しちゃいけないとか、今振り返って考えても普通のことしか言ってなかったと思う。それはタームウィルズでも普通、だよね?」

 ドミニクが知っているのは自分の集落と、それからタームウィルズぐらいのものだからか、あまり自信無さげに聞いてくる。

「まあ、そうだね。普通だと思う」
「でも、麓の人達との接し方は色々あるかな。姿を見せずに歌を聞かせたりするのは良いの。でも、それで怖がらせても実際の危害は加えちゃいけないとか、山の中で怪我をしたり困っていたら、歌で眠らせてから助けてあげるようにする、とか。そうしていればお互いの住処を守って上手くやれるからって」

 なるほど……。互いの領分を守るための生活の知恵という感じだろうか。
 麓の人間達からしても、それなら山の中にいる何かの存在に畏怖はしつつも敵対したいとは思わないだろうからな。それに、標高の高い場所を侵略するメリットもあまり無い。

 となると、礼儀正しく接していればとりあえず問題はないか。ドミニクの話を聞いている限りでも好戦的という感じもしないし、寧ろ穏健という印象を受ける。
 閉鎖的というよりは、コミュニティを自衛しているために慎重な部分があるのだろう。

「聞いている限りだと普通に話も通じるような気がするわ」
「そうね。あまり外と接触しないと言っても、事情があれば違ってくるでしょうし」
「そうなってくれると嬉しいです」

 ドミニクはステファニア姫やアドリアーナ姫の言葉に笑顔で頷く。

「私達のように、どこかの国の臣民というわけではないのですよね?」
「そう、ですね。麓の人達との交易とかもしてないです。食料も衣服も自給自足ですし」

 ロヴィーサの質問にドミニクが頷く。

「高所で暮らしているから寒さにも強いのですね」
「そうですね。自前の羽毛もありますから。狩った動物の毛皮で防寒具や衣服を作ったりもしますが」

 ハーピー達は元々空を活動領域にしているからか、寒さへの耐性もかなり高いようだ。

「んー。やっぱり歌と演奏が重要になるかも知れないわ」
「そうね。ハーピー達とは暮らしている場所が違うけれど……イルムやドミニクとはあっという間に仲良くなったものねぇ」

 リュートを取り出してそんなふうに言ったイルムヒルトの言葉に、ユスティアも目を閉じて思案するような様子を見せながら頷いている。
 あちこちで手に入れた楽器も色々持って来ている。演出用の魔道具も用意してきたし、音楽交流の準備はきっちり整えてきたつもりだ。

「そうなると、何を聞かせるか、かしら。今のうちに打ち合わせをしておきましょう」

 と、イルムヒルトとシーラ、ユスティア、ドミニク、シリルという境界劇場のメンバーで真剣な表情で話し合いを始めていた。
 自己紹介も兼ねてそれぞれのコミュニティに伝わる歌や曲を一曲ずつだとか、色々話し合ってその内容も纏まってきたのか、リハーサル的な演奏を始めている。

 そうして澄んだ歌声と音色を聞きながらシリウス号はどんどん進んでいく。見慣れない景色が続いているが、地図上での位置はしっかりと把握しながら動いている。
 とりあえず、このペースなら昼前には目的の場所に到着できるだろう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ