501 島と整地とゴーレム行列
カドケウスとバロールで探索。島の地形におおよその見当をつけ、土魔法の立体模型として再現していく。元々の建築計画に、実際の島の細部を反映させて、修正を加える。
「館は海からの距離が近過ぎると、高波が来た場合に被害を受けてしまうことがあります。ですので……このあたりはどうでしょうか?」
「ふむ。良いかも知れませんな」
公爵は俺の示した位置に頷く。
島の、北東寄りの中心部へ。少し奥まった場所になってしまうが、多少の利便性よりもなるべく高いところ、というのがこの場合は大事だろう。
「では……昼食の準備を進めていますね」
「うん。楽しみにしてる」
料理に向かうグレイスに答える。まずは……東側の海底から行くか。グランティオスの人達も島にやって来るし、過ごしやすい場所を作っておこう。
「リンドブルム」
と、名を呼ぶ。リンドブルムは小さく頷き身体を屈める。セラフィナを俺の肩に乗せ、リンドブルムの背に跨って空へ舞い上がる。
「まず、島の東部から手を加えていこうと思います。建材も必要ありませんので」
「分かりました。見たい方はシリウス号でそちらへ案内します」
「安全確認をしながら進めていきますので、出来上がった部分は見てもらっても大丈夫ですよ」
リンドブルムの背中から声をかけるとエリオットが頷く。みんな見物したいらしく、タラップを上がってシリウス号に乗り込んでいるのが見えた。
ふむ。では作業を始めよう。島の東側に広がる岩場へと移動する。入り江は割合大きく、外洋からは少し奥まった場所にある印象だ。
入り江の周囲を囲む陸地は、そこそこに高い岩壁と、なだらかな部分とがあり……全体的な日当たりが良くて明るい雰囲気を持っていた。
入り江を囲む陸地、海上に見えている岩場、海底の地形を整えていく。出っ張った岩を削り、削った部分の岩を凹んだ部分の穴埋めに用いるようにして、整地していく。
ごつごつとした自然の岩を平らな形状に整え、縁を丸みを帯びた怪我をしにくいものへ。
歩ける部分は、滑らないように少しだけ溝をつけておくか。実際は最後にグランティオス製の塗料で仕上げるから、藻などが付着しなくなるので割合安全ではあるのだろうが。
入り江の底に、ちょっとした広場を作り、その広場を中心に周囲を扇状の階段形に整えることで……海中スタジアムのような形状に作り直していく。
「これで、真ん中で歌ったら音は響くかな?」
「んー。大丈夫だと思うよ」
セラフィナと相談しながら入り江内部の形状を調整していく。
入り江の底にある広場でセイレーン達が歌を歌って、階段席にみんなで座って聞いたりできるようなイメージと言えば良いのか。勿論入り江を普通に泳ぐこともできるし、陸に上がるのにも容易な形だ。
後は――高いほうの岩壁の内部をくり抜き、構造強化の魔法で補強してやることで、グランティオスの民が遊びに来た時に滞在できるような建物として作り直していく。
岩を次々とゴーレムへ作り変え、海上に移動させていく。
海中スタジアムの一角から岩壁内部へ移動できる入口を作り……まずはエントランスホールを作成。続いて廊下と部屋、窓、階段等々を作って、建物としての体裁を整える。
窓は入り江側に作っているので建物内部から、海中スタジアムの様子を見ることも可能だ。
海中の入口が玄関に当たるが、満潮時の海面の位置が1階相当だと考えると、エントランスホールは地下3階ぐらいの位置……ということになるか。
水没しているのは地下部分だけで、1階からは普通の建物に。海の者も地上の者も、ここに来れば交流可能というわけだ。となると1階部分に大部屋を作っておくのが良いかも知れない。
「構造は……これで大丈夫かな?」
「頑丈だと思うよ。壁も厚いし、必要なところに、きちんと太い柱を作ってるから」
と、セラフィナが笑みを浮かべて頷く。よしよし。良い感じだ。
続いて岩壁の外側も滑らかにして、見た目の体裁も良くする。
これで……東側は一先ず完成というところか。グランティオスからの客を迎えるような設備の出来上がりである。
岩壁をくり抜いた際のゴーレムが、結構余っているな。うーん。では、島のあちこちに繋がる、道用の建材として利用させてもらおうかな。
洋館建設予定地への道。北側の広い砂浜へ繋がる道。それから港への道あたりに変換して行けば良いだろう。
港は南側に作ることに決めた。水深に関しても問題無いし、公爵領から移動してきた際にも利便性が良さそうだ。南側には高台もあるので、そちらに灯台を建てるというのも有りだろう。
夜間の航行において目印になるし、南側に船が入る際にも使える。高波が押し寄せて来た際の避難所にもなり、展望台や監視塔としても使える、というわけだ。後は南側に倉庫等を作り、物資の保管、やり取りなどを楽にしておく。……となると、飛行船の発着場も南側に作るのが利便性が良くなるだろう。
んー……。西側はどうしたものだろうか。海中の岩場が迫り出していて、若干使いにくいが……そうだな。桟橋でも作って釣り場にでもするか。海中の岩場が多いということは、魚が身を隠しやすいということだから。
よし……。大体決まったな。灯台は予定になかったが、建材が足りなくなったら海中から岩を引っ張って来ることにすれば良い。
「おかえり」
そこでバロールとカドケウスが帰って来る。では、バロールは魔力を充填した後で、俺と手分けして道を作ってもらうことにしよう。
立体模型に従って道を敷き、高低差や利便性などを考慮しながら道を作っていく。原生林の木々はどうしたものか。資材はあるので、ただ伐採してしまうのは些か勿体ないが……。
んー……。そうだな。ここは、母さんと同じ方法で行くか。術式については母さんのメモも参考になるだろう。
まず木魔法で一時的なゴーレムにして移動してもらい、後で纏めて家に作り替える。木々は伐採せず、生きたままで良い。何本か纏めて合体させれば、建物に作り替えることができるはずだ。
洋館一軒だけというのも味気ないし、土地もそれなりに余っている。別館なり警備員達の詰所なりとして利用できるようにする、と。陸上の者も人員として配備されるだろうしな。
「起きろ」
マジックサークルを展開。道を作る場所に生えている原生林の木々をウッドゴーレムとして移動させる。何やらロックゴーレムとウッドゴーレムを引き連れての大行列となってしまったが……まあ、あまり気にすまい。
木々が移動して凸凹になってしまった道を、更にゴーレム化させてまずは平らに整地し、固めて均す。ロックゴーレムを整地した所に寝かせて、石畳の道へと作り変えていく。
道と道の分岐点まで来たところで――充填の終わったバロールが俺の肩から離れる。
「よし。それじゃあ、そっち側はよろしく」
バロールは返事をするように目蓋を二度ほど瞬かせてロックゴーレムを半分引き連れていった。あちらの道でもウッドゴーレムの行列ができていく。
洋館建設予定地も……道を作るのと同じ要領で木々を退かし、平らに整地する。庭園を造る予定なのでそれなりに広めに。
作業しているとロックゴーレムが足りなくなってきたので、クレイゴーレムを石化させて、これを石畳に作り替えていく。
洋館は後でじっくりと作れば良いだろう。各所に繋がる道を敷き終えてからでいい。原生林は……景観が良くなるからなるべく残したいな。そこまで植物の密度も高くないので、鬱蒼と茂っているというわけでもないし。
「見る見る内に建物や道ができていくというのは壮観ですな」
「いやはや、見学させて貰った甲斐があるというものです」
「道幅も広いし、石畳が綺麗で見栄えが良いですね」
公爵と大公、それからヘルフリート王子の会話だ。シリウス号から降りて、ゴーレムの行列の後から付いてきて、出来上がった道を見ているようだ。
「道の端に溝が付いているわね。これは……雨水などを逃すためかしら」
「本当だ。水が流れるように僅かに傾斜が付いてる。水はけも良いと言うわけね」
「入り江の建物も見て来ましたが、素敵な場所でしたよ」
「あれは良いわね。途中から海中になっているというのは」
と……こちらは姫達3人の会話である。そんなギャラリーの声を聴きながら作業を続けていく。
さて。島の内部についてはカドケウスとバロールにざっと調査させてみたが、生態系としては鳥類、爬虫類に両生類、昆虫、節足動物などが殆どで大きな生き物や魔物は生息していないらしい。
飲み水の確保は魔道具で可能。食料の自給自足にやや問題があるが……これは公爵領から物資を運んでもらうことで、安定するだろう。
エルドレーネ女王によると、海中で農業を行うというのも可能だそうな。食用に適した海草を植えて育ててやることで、そこを隠れ家にする魚も増えるので、色々と一石二鳥ということだそうで。将来的には島の近くで海草の栽培などを行っていくのも良いかも知れない。
色々考えながら作業していくと、予定していた通りに道が完成する。
では……ウッドゴーレム達を使って、島の中央部付近に確保した土地を使って別館を作ってしまうとするか。いつまでも大量のウッドゴーレムを連れて歩いているのも何だしな。
道を引き返し、別館の建設予定地に向かう。木魔法を用いてウッドゴーレム達を木の種類ごとに融合し――見上げるような巨木へと変化させていく。
個々では細い木々が組み合わさって巨木となり……枝と幹が壁になり床になり、天井となって。それぞれが家へと変化する。全部で5棟。巨木が立ち並ぶ様は、さながらツリーマンションといったところか。別館というよりは……コテージハウスかな。まあ、滞在する分には問題あるまい。後で珪砂をガラスに作り替えて、窓枠に嵌めれば完成だ。
一軒一軒、構造上に問題がないかを確認していく。壁や床の強度。日当たり、窓からの光量、部屋の広さ、寝室、厨房、収納に、風呂やトイレなどの使い勝手はどうか。
「ウッドゴーレムを大量に連れておったからどうするのかと思っておったら……まさかそのまま家にしてしまうとはのう」
と、アウリアは感心している様子である。
「整地した時に、どうしても木々を退かさねばなりませんでしたから」
「いやいや。実に良いと思うぞ。ちょっと中を覗いて来てみても良いかのう」
んー……。アウリアはエルフだからかな? 生きた木々がそのまま家になったということに、妙にテンションが上がっているようで、若干そわそわしている様子だ。
「はい。安全確認はできていますのでどうぞ。僕は家の周辺を整地しています」
「うむ。では、見せてもらおうかのう」
アウリアは頷くとツリーハウスの中へと入っていった。かと思うと3階の窓から顔を覗かせて、マルレーンやシオン達、コルリスと手を振り合ったりしている。うん。満喫しているようで何よりではあるが。
「テオドール。結界が張り終わったぞ」
と、そこにジークムント老達が戻って来る。
「ありがとうございます」
「ようやく先生の魔法を見学できます」
シャルロッテは中々上機嫌な様子だ。
さてさて。続いては……庭園と洋館あたりかな。それが終わったら船着き場を作り、灯台と飛行船の離発着場、最後に釣り場を作れば島の改造は一通りは終わるだろう。
まあ、その後各所に水を引いたり、ガラス窓を作ったりといった、細々とした作業もあるのだが。
とはいえ、既にグランティオスの面々を迎える用意はできている。一息に終わらせてしまうと流石に疲れそうだし、ここからは程々に休憩を挟みつつ、マジックポーションを飲んだりしながら、のんびりと建築して行くことにしよう。