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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外269 師弟の絆

 それぞれの陣営と対峙する軍の動きを確認しながら北方に向けての出撃の準備を整えていると、タームウィルズから連絡が入る。
 いいタイミングだ。そこには……いくつかの情報が記されていた。内容は、捕らえたショウエンの側近達に行った魔法審問について。

 俺達の情報を受けて気になる点を魔法審問によって引き出したものであるが……内容に目を通すと幾つか気になる点がある。皆と情報を共有しておかなければなるまい。

「連中から色々聞き取りしたところによると、ショウエンは高弟らを伴い……都から出ていて不在であることも多い、とのこと。外出先は――そのほとんどの場合が都より更に北方の……人気のない荒野、ということですね。都で古文書を漁り、術の研究を続けると同時に、外出先が人目に付かない事を利用し、修行の場としても活用しているようです」

 都より更に北方の、人気の無い荒野。つまりは墓所のある土地の事だ。

「――人が来ないのならば、見られたくない内容の修行をするのにはうってつけじゃろうな」

 そう言ってゲンライが眉根を寄せる。
 強硬策でショウエンに強襲を仕掛ける場合――。例えば将兵達を使って俺達にぶつけ、できる限りの消耗を狙いつつこちらの手の内を探るであるとか、一般人を人質に取ってくるなどという手が考えられる。

 普通の将兵程度なら撃退するのは別に難しくもなんともない。消耗を押さえて対応するというのも……やりようによってはいくらでも可能だろう。
 多勢を相手にする場合に有効な、戦意を挫いて敗走させるという手は、この場合期待できない。ショウエンの側近らが督戦を行い、無理やり戦わせると言うのも有り得る。そうでなければ消耗狙いにならないからだ。将兵達を鎮圧した後に――ショウエンらとの戦いに巻き込んでしまうような状況も拙い。

 ショウエンの正体を知らない兵士や、住民の人死に繋がるような行為は可能な限り避けるべきだ。だからこそ、都の守りが手薄になるような状況を作った。
 まあ、その過程で情勢を把握し、ショウエンの手勢を各個撃破したり、その手の内を見る、という目的もあったが……それらについては達成されている。
 戦いの後にカイ王子が国内を治めていくという、各地の有力者への根回しまでできたのだからこれ以上はあるまい。

 だが、今の問題は――。

「ショウエンの居場所が確定していない、というのは些か厄介だな」

 カイ王子が顎に手をやり、思案するような様子を見せる。

「そうですね。この非常時であれば……普通なら都から動かないと断言できるのですが」
「確かにショウエンは……目的がどこにあるか分からないものね」

 クラウディアが眉根を寄せる。
 そう。所在についてはこの状況下でさえ間違いなく都にいる、と断言ができないところがある。

「作戦を遂行するとしても、ショウエンの所在だけは確定してから動きたいところです。しかし、今の状況を見れば――兵士達が不在で都が手薄になっているというのは間違いありません。ですから……もし仮に都にショウエンが不在であるなら、もう少し都で細工をしたり、行動する余地もあるかな、と」
「ん。そうなると、都への潜入調査が必要?」

 シーラが首を傾げて尋ねて来る。

「そうなるかな。仮に敵から発見されても、偵察に見せかければ将兵達による消耗狙いのような手は最初には使ってこないだろうから。それに……やろうと思っても、そんなに大量の兵士は、今の都にいないし」
「人質を取るという手も……これまで立てた作戦から考えれば、今のところ心配は薄いわね」

 ローズマリーが羽扇を閉じながら言う。その言葉にみんなも真剣な面持ちで頷いた。
 そう。この場合、人質に関してはカイ王子やゲンライが相手方にいると確信できている場合だけ有効なのだ。
 敵が正体不明の相手であるなら、価値観も不明であるが故に、人質という手は使えない。
 義によって動く。知り合いが都にいる。そんな性格が分かっている相手であるなら有効だろう。しかしショウエンは俺達の正体や人となりを知らない。だから黒髪や服装等の現地に溶け込むための変装を捨てて、本当の姿を見せてやる事で対応を間違わせることができる。

「そこで……ショウエンが都にいる場合といない場合の、二通りの想定でこっちも対応を変えるのが正解だと思う。まあ、前に伝えた作戦の応用というか、焼き直しみたいなものだけれど」

 今までの作戦内容に若干の修正を加えて、みんなに説明していく。同意は――あっさり得られた。
 北方の都に向かう準備も……できている。では――出発を開始するとしよう。



 さて。他にも幾つかの情報が魔法審問で引き出されているが……シリウス号で移動しながらではあるが、ゲンライとレイメイ、カイ王子、リン王女、セイラン達には伝えておくべきことがある。

「何と言いましょうか。敵からの情報によって、ジンオウについて判明した事があるので、同門の方々には知らせておこうかと。良い話と悪い話があります」

 どうであれジンオウについては師匠であるゲンライが対応に当たるということで話はついている。だから、部外者にするべき話ではないのだ。だが……ジンオウの説得を考えるなら同門の面々は全員が知っておく方が良い情報でもあると思う。
 真剣な面持ちで俺の話に耳を傾けてくる一同。

「まずは悪い話から……と言っても、ジンオウの身の安全というか、安否については問題なさそうです。そこは安心してもらっていいのかなと」

 と、先に言っておくことで安否に関しての心配はいらないと伝えておく。

「悪い話、か。どういう内容なのかの?」
「そうですね……。単刀直入に言ってしまうと、ジンオウはその才能と実力をショウエンに見込まれ、4人目の高弟候補として目されている、という話でした。ジンオウはあまり他者とは打ち解けようとせず、側近達の中でも嫉妬や羨望も相まって孤立気味だそうです。ショウエンはと言えば、寧ろジンオウのそういった性格部分は気に入っているように見えるそうで。ショウエンや他の高弟達からも直接の指導を受ける事も多いのだとか」
「なるほどのう……」

 ゲンライは目を閉じる。

「つまりジンオウとやらは、前よりも相当腕を上げている可能性があるってわけだな。同門だからこそ手の内も分かってるだろうし、油断はできねえか」

 レイメイは、努めて冷静に言う。

「心配事の一面としては……そういうことになりますね。肝心の師弟関係は力で繋がるもので、考え方や生き方等に口を出す事等は無く……かなり割り切った接し方ではあるようですが、ショウエンと行動を共にしている可能性も高いかと」

 ジンオウの行動には迷いが見えるからな。説得できる可能性は……当人を知らないので俺には高いとも低いとも言えないが、垣間見える情報から判断するなら、皆無ということもないだろう。

「……そうした方針の違いをあれがどう思っている、か」

 ゲンライはしばらく思案を巡らせていたようだが、やがて納得するように頷いて、それから尋ねてきた。

「ふむ。では、良い話、というのは?」
「サイロウ達から引き出した情報を総合して判断するに、ジンオウが墓所の事を伝えたわけではないようです。同門の方々には……袂を分かっても義理は通しているのかなと」

 そう言うと、門弟達は顔を見合わせ、どこか嬉しそうな表情で頷き合っていた。レイメイもそんな光景に、小さく笑う。

「それは確かに、良い話ですね」

 カイ王子が穏やかに微笑み、リン王女も笑顔で頷く。

「そうじゃな……。うむ」

 ゲンライは目を閉じ、少しだけ嬉しそうに表情を綻ばせていた。師弟関係の違い、か。
 それは確かに、家族のような、そんな風に感じられる温かいもので。
 ふと、グレイス達と視線が合うとにっこり微笑んで頷いてくる。そうだな……。ゲンライや門弟達の様子を見ていれば、何とかなるのではないかという気がしてくる。

 そうして話をしている内に地平線の彼方に都が見えてくる。さて。少し和ませてもらったが――ここからは敵地だ。思考を切り替え、気合を入れて事に臨むとしよう。
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