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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外268 攻勢に向けて

 そして、夜が明ける。ホウシンの保有する砦と前線であるが、ここについては状況も一先ず落ち着いた、と見積もっている。

「カイ殿下、リン殿下。お加減はいかがですか?」
「悪くない。怪我も癒えているし、魔力も充実しているよ。少し眠り過ぎたぐらいかな」
「私も……大丈夫」

 少し遅めに艦橋にやってきた2人に尋ねると、明るく微笑んで返してくれた。肉体的にも精神的にも……そして片眼鏡を通して見る限り、魔力的にもコンディションは良いようだ。
 一晩静かに過ごして、心の整理も付けてきた、というところだろうか。ゲンライやセイラン達に明るく挨拶をしていた。

 さてさて。攻撃を仕掛けた部隊は捕虜となって1人として戻ってこないので、何があったのかを対岸のショウエン陣営に報告する者もいない。とはいえ、精鋭部隊が砦に仕掛けて全滅した、というのは割と早く伝わっているようだ。
 明るくなってからすぐさま偵察を出して、ライゴウ率いる部隊が乗ってきた半壊した船団や、戦闘の痕跡が残った河原一帯を目にすることになったようで。
 そうしてその偵察の報告が伝われば――。

「あの精鋭部隊が全滅とは……」
「罠はどうしたのだ! 敵の砦に損害は!?」
「と、遠くからでは詳しいところまでは……しかし、目立った損害はなく、敵兵達も落ち着いている様子で……」
「も、もしや、罠を看破されてそれを使った襲撃も予測されていたのでは……?」

 と、水晶板の向こうから慌てふためく声が聞こえてくる結果となるわけだ。

「し、しかし、砦に引き込んだならまだしも、船ごと破壊して全滅させるとは……一体どうやって……」
「破壊痕は何か強い力で船が破損した印象で……何かが弾けて焼け焦げたような……」
「まさか……罠を再利用されたか……!?」
「て、敵方に道士がいるのでは……?」

 武官達は首を傾げるも決定的な答えは出ない。

「そう見せかけてやった甲斐があるというものね」

 ローズマリーがそのやり取りを聞いて薄く笑う。
 思考の誘導という奴だ。船が破損した直接的な原因は、アシュレイや御前達の氷によるものではあるが、戦闘後にローズマリーのアイデアで改めて爆破し、一部を焼き焦がすなど偽装工作を施している。

 敵方はこちらに道士がいる、とも予想しているが……どちらにせよ頭目に引き続き、ライゴウも敗北したわけで……こちらにも対抗できる戦力がある……と、ショウエンは思う事だろう。そのための各個撃破でもあるし、遅かれ早かれ気付かれるとは思っているので、その程度の情報が伝わるのは構わない。

 問題は、こちらの保有戦力をどの程度と見積もるか。仙人や道士がいる、というところまでは考えるだろう。ゲンライについては……敵方で動いている仙人の最有力候補と想定しているかも知れない。
 では、ヒタカからの助っ人は? レイメイの事を考えれば、そこまでは予想することも可能だ。

 しかし……シリウス号と俺達までは流石に予想不能であろう。だからこそ情報が伝わらないように姿を消しながらの行動をとってきたのだし、シリウス号の速度を活かした作戦を立てたのだ。

「輸送路はまだ直らんのか!?」
「そ、それが。また現場が崩落したとかで……」

 水晶板の向こうではそんなやり取りが続いている。輸送路の工作もしっかり効果を発揮しているようで何よりである。
 連中の会議は、輸送路の一日も早い回復と、本国への援軍要請等が叫ばれていた。勿論、こちらから打って出ようと主張する武官は皆無となっている。

 仕掛けを用い、精鋭部隊を派遣して誰一人帰還せず。敵陣営の戦力を上方修正しなけばならない、などという意見が多数を占める。
 そうして兵糧が少ない事を悟られないように注意を払いながら、切り詰められるところを切り詰め、防御を固める、ということで連中の意見は一致を見た。

「これなら……当分は攻めてくるという事も無さそうですね」
「兵糧が減ってきて一か八か、なんていう考えには……流石にならなさそうですね」

 グレイスの言葉に、やりとりを聞いていたアシュレイが苦笑する。

「その頃にはこっちの作戦も進んでいるからね。ある程度困窮する前の段階で輸送路を回復してやって、自棄になる前に体勢を整えられるようにしてやれば、もっと時間も稼げそうかな」

 補給の目途が立てば今度はきちんと戦えるだけの物資を集積してから、となるのが人情だ。

「こっちにも動き」

 と、ハイダーの水晶板モニターの内一つを確認していたシーラが言う。
 北西部前線に続く街道を一望できる……小高い山からの画像である。

「都からの敵部隊増援だな」

 ホウシン、ガクスイへの同盟を表明した、シガ将軍に対抗するための兵力である。これで都を守るための兵力も削られるはずだ。
 水晶板モニターをテーブルの上に移動させ、4太守にも見える形にする。

『おお、ここからだけでも色々と情報を得られますな』
『何とも素晴らしい』

 という、見学する4太守の感動したような反応。
 情報――例えば敵軍の規模、練度、兵科に装備品に兵器、糧食等々。映像を拡大して敵将を見る事も可能だ。敵将に4太守やカイ王子達の知る者がいれば、ショウエンの側近か否か、断定できる可能性もある。一応、列の中に立派そうな人物がいたら拡大して見ていくことにしよう。

「弓兵が多い……? 何だか沢山目に付くけど……私が弓を使うからかしら? 普通でもこのぐらい?」

 と、イルムヒルトが首を傾げる。

『……いや、比率としては……やはり多いですな』
『確かに。攻城を想定した武装や兵器ではないように見受けられます』

 イルムヒルトの言葉に、ホウシンとシガ将軍も同意する。

「後方の――都を防衛する兵力を動員しなければならなかったから、ではないかしら?」

 ステファニアが顎に手をやって言うと、マルレーンが感心したような表情で姉の言葉にこくこくと相槌を打つ。

「んん。多分、それが当たりなんじゃないかな?」
「確かに本来は拠点防衛に向いた部隊という印象よね。前線の守りに使うならば、これでも確かに問題は無さそうだもの」

 俺とクラウディアも同意見だ。

「防衛部隊をそのまま前線に送り、同じ用途で使うなら編成にも時間をかけずに済むでござるからな。攻城には向かぬが防衛には問題なく、お互い打って出ての野戦でも有効でござろう」
『攻城塔や投石機が無いようであれば、北西部の戦線については現状維持を優先に考えているのでしょうな』

 イチエモンの言葉に、スウタイも映像を分析して頷いていた。

「つまり敵の目的は時間稼ぎってとこか。北西部は妖魔にも対応しなきゃならねえからな。その事情を考えれば、動員できる兵力にも察しがつくんだろうが……」
「急造部隊を前線に送って、攻めよりも防御に徹することで戦線を維持……その間に元々兵力を集めていたホウシン殿や、ガクスイ殿に対抗する、というわけですね」

 レイメイの言葉に、カイ王子がそんな風に言う。
 ホウシンに対しては戦力を元々増強していたようではあるが、補給路を寸断されて今は逆にそれが仇になってしまっている。

「だとすれば、北西部の戦力を見誤っておるのだな」
「確かに。こちらから仕掛けるという計画であったら、連中も目を剥いただろうが」

 御前とオリエが楽しそうににやりと笑い、アカネやツバキ達が苦笑していた。
 結界で後方拠点の兵力を少なめにできる上に、南西部の兵力も加わっているからな。従来のシガ将軍の抱えていた事情から兵力を見積もっているとするなら、これは大分状況が違っている。

「万一攻勢に出て来られても対応しやすい、というのは心強いですね」

 ベリウスをブラッシングしているユラがそんな風に言って微笑むと、コルリスに抱きついているリン王女もうんうんと頷いていた。2人はかなり動物組とも仲良くなっているようではある。
 そんな中でもコマチはティアーズやマクスウェルに興味津々といった様子で我が道を行っているが。

 そうして更にしばらくの間、北西部への行軍を見守り――。率いている武官もショウエンの側近ではない、という結論が出る。
 そこで、これからの事についてみんなに通達するために口を開いた。

「状況は――概ねこちらの望んだとおりに推移していると言えるでしょう。後は、この行軍がもう少し先に進んで……僕達が動いたのを察知したとしても、強行軍で戻っても間に合わない位置と頃合いを見て、動いていくことになります」

 そう言うと、みんなの表情が引き締まり、注目が集まる。後方の兵力はスカスカ。側近達も何人か削り、集団戦で厄介そうな宝貝の類も押さえた。ショウエンと戦うにあたりの懸念材料は……全てではないが諸々潰した。頭目にライゴウも倒したこの状況では、更なる戦力の削減は難しい、という状況かも知れない。
 だから、ここからはこちらから打って出る形だ。ショウエンとの決戦も……近付いてきていると言えるだろう。
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