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78 (東條凛視点)

東條凛視点




 この世界は、あたしのためのもの。

 そうわかっていたけれど、何かがおかしい。

 何であたしの思った通りにならないの?


 この学校はマナーの授業なんてものが月1回ある。

 ミニゲームであったから、知ってるけど。

 講師は、有名なダンスの先生を招いているなんて言ってたけど、きっと大したことないわ。

 生まれてこの方、ダンスなんて習ったことないけど、あたしには簡単だもの!

 そう思って、マナーの授業がある教室に行ったら、八雲様の弟君がいた。

 こんなところにいたのね!

 じゃあ、このダンスの授業の相手は弟君なんだわ。

 あらでもどうして誘いに来ないのかしら?

 伊織君が弟君に話しかけて、弟君が軽く首を横に振っている。

 そのあとも何やら会話を続けて、伊織君ってばものすごく嬉しそうに笑ってる。

 だから! BL展開はいらないの!!

 2人で女の子の所へ行って、何やら話しかけている。

 その女の子と弟君がすごく親しげなのが気に食わないけれど、弟君だけがその場を離れていく。

 疾風君も一緒だけど。

 あの2人、いつも一緒みたいな感じね。

 最初に会った時もそうだったけど。

 あ、でも。これってチャンスじゃない?

 あたしに気付かなかっただけなら、あたしが傍に行って話しかけてあげれば、誘うでしょ?

 レディを無視するような子じゃなさそうだしね。

 そう思って声を掛けてあげたのに、何よ、あの小さい子!!

 自分が美人だと思ってるのね!

 ま、まぁ。確かにちょっとは可愛いけど。

 弟君も少しは嫌がりなさいよ!!


 パートナー申し込みがないけど、どうしたのよ!?

 何であたしを誘わないの!!

 ま、まあ。未来の諏訪夫人を前に怖気づいちゃったのね。

 それなら仕方ないわ。

 この際、下手なやつより、先生の方がマシだもの。




 ポルカにカドリーユ、ワルツ、レントラー!?

 ワルツは知ってるけど、他は何!?

 全部、ダンスですって?

 ワルツが何種類もある!?

 ちょっと待ってよ、そんなのゲームじゃ言わなかったわよ。

 ステップがなんですって?

 ナチュラルターン→フォワードのチェンジステップ→リバースターン→フォワードのチェンジステップ→ナチュラルターンって意味がわかんないんだけど!

 先生のリードも最悪だった!!

 これが有名な講師!?

 何であたしが行く方向と逆へ行こうとするの!

 はあ? あたしが逆!? 間違ってるですって?

 冗談じゃないわよ!! あんたが間違えてるのに、あたしが悪いって言うの!?

 踏みやすいところに足を置いてるあんたが悪いんじゃないのよ!!

 神様に言って、あんたなんかこの世から抹消してやるから!

 大体、神様も神様よ。

 どうしてシナリオ通りに話を進めてくれないのよ。

 それに何でステイタスをポップアップにしてくれないのかしら?

 好感度がどのくらいなのか、確認したいのに。

 今回は諦めて、2周目以降に期待した方がいいのかしら?

 どうやったらキャンセルできるのかしら。

 本当に不便よね。


 あたしが悪戦苦闘してるっていうのに、次々とクリアして部屋の隅で寛ぎだす生徒たち。

 弟君とちびっこは1番だった。

 まあ、弟君は、八雲様の弟だけあって綺麗な身のこなしをしているもの、当然よね。

 次はあたしを誘いなさいよ!

 伊織君も同じクラスの女子と早々にクリアしてた。

 ああ、もう!

 何であたしを誘わないかな。

 イライラするったら!

 最後まで意地悪莫迦講師はあたしを合格させなかった。

 しかも、合格するまで補講ですって!?

 冗談じゃないわ!!




 その日、1日イライラしながら過ごし、東條の屋敷に戻ってあたしはママに問いかけた。

「ママ! ダンスレッスンがあるなんて言わなかったじゃない!?」

「まあ、ダンスのレッスンがあったの? 懐かしいわぁ」

 根っからの御嬢様のママはほんわかと懐かしそうに笑う。

 保母として働いていたママは、子供たちに大の人気だった。

 この御嬢様らしい笑顔が好かれる理由なのは知っている。

 だけど、あたしはこの笑顔が大嫌い。

 あたしが笑ったところで、誰も好きにはなってくれなかったわ。

 それなのに、ママはあたしの母親なのに、何で他の子たちが好きになるの!

 あたしはママの職業も、職場の子供たちも大嫌い。

「懐かしいじゃないわよ! 教えてくれてもいいじゃない!!」

「そうね。ポルカとワルツはデビュタントに必要だから、皆、熱心に練習しているものねぇ。カドリーユはこちらにいい先生がいないから、東雲のレッスンで初めて習う子が多いから、何とかなるでしょう」

「そんなに覚えるの!? ウンザリよ」

「うふふふふ……ワルツは特に難しいもの。ウインナワルツは普通のワルツと違って逆回りだし」

「逆回り?」

「そうよ。18歳になったらデビュタントできるから、皆、こぞってウインナワルツを覚えるの」

 にこにこと笑いながらママは言う。

「デビュタントって何?」

「簡単に言うと、社交界にデビューしますっていうお披露目のダンスパーティのことかしら? 有名なのはウィーン国立歌劇場のデビュタントかしら? 他の場所でもデビュタントはあってるのだけど、デビュタントというとウィーンの国立歌劇場を思い浮かべる人が多いわね。あちらは左回りのウインナワルツを踊るから」

「だから逆なのね……」

 なんだ。

 あの先生、間違ってなかったのね。

 ワルツに種類があるって言ったところから、面倒になっちゃって話聞いてなかったわ。

「ママもワルツは苦手だったのよ。宮廷のワルツとか、ウインナワルツとか、社交ダンスのワルツとか、競技ダンスのワルツとか、全部微妙にステップが違うんだもの。今自分が何を踊っているのかわかってないと足の置く位置を間違えて、ついリードしてくれる子の足を踏んでたわ」

「へえ、そうなの?」

「あと、民衆が踊ってたっていうワルツもあってね、もう、全部一緒でいいじゃない! って、思ったわ。ほら、だって! 競技ダンスなんて、関係ないじゃない? 社交ダンスは、おじいさまたちのお仕事のお付き合いで出たときに誘われるから、覚えておいた方がいいけれど。踊るのが一番楽なのは、宮廷のワルツね。あれは基本のステップはあるんだけど、音楽に乗っていて美しく優雅に踊っていれば多少ステップ間違えても大丈夫って言われたし。ドレスで足許見えないから」

 くすくすと可愛らしく笑うママ。

「そうね。デビュタントは無理だけど、ワルツは踊れた方がいいものね。先生を探して習った方がいいわね。おじいさまに相談してみましょうね」

「じゃあ、ママも一緒に習う?」

 あたしは半分意地悪でママにそう言ってみる。

 東條の家に来て思ったことは、おじいちゃんもおばあちゃんもあたしのことがいらなかったということだ。

 今、おじいちゃんもおばあちゃんも、ママに再婚を勧めている。

 事業の助けをしてくれるようなお金持ちのおじさんを選んで、ママに若いんだからもう一度結婚したらって言っているのだ。

 あたしのためにママを助けたのに、あたしじゃなくてママを必要とするなんてひどい話よね。

 だから、あたしはおじいちゃんたちを助けてはあげない。

 あたしは、あたしの持ってる記憶と使えるものを使って、自力で幸せになるんだから。

 ママはあたしが使える駒だもの。おじいちゃんたちにはあげないわ。

 もちろん、ママもパパを亡くしたばかりだからそんな気には絶対にならないって怒って断ってるんだもの、おじいちゃんたちの言いなりにはならないわよね。

「ママはいいわ。だって、踊りたい人がいないんですもの」

 拗ねたような表情で唇を尖らせ言うママは、ちょっと寂しそうに見えた。




 ダンスの先生の件は、わりと簡単に話が決まった。

 ママが習っていた先生にお願いしたって言ってたっけ。

 その先生が作った予定表を見てあたしは驚いた。


 ちょっと!! GWが潰れるじゃない!!

 イベントあるのよ! どうしてくれるの!

 ああでも、ダンスが上手じゃないと伊織君と八雲様の好感度が下がるのよね。

 これって、究極の選択っていうのかしら?

人の話は、最後までしっかり聞けと説教したくなる凛ちゃんです。

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