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4-11.出立(1)

※2018/6/11 誤字修正しました。



 サトゥーです。プログラムに限らず物を作るのは好きです。最後は大学時代の卒業研究で作った多脚ロボなので、社会人になってからはご無沙汰です。

 今度、魔法の品も作ってみたいですね。





 うん、いい朝だ。

 オレは爽やかな朝の日差しを堪能しつつ街を歩く。


 ヨサーグさんはオレと違い眠そうに欠伸をしている。朝食に誘ったが家で取らないと家族に怒られると言うので店の前で別れる事にした。

「迷宮都市で大儲けしたら、また来ましょう」と声を掛けておいた。



 早朝だというのに通りには露店で食事を摂る人や、生鮮食品を屋台に並べる人など活気がある。

 西街にくらべて猥雑な感じがするのは客層のせいだろう。


 店からはいい匂いがしている。

 特に腹が減っているわけではないがお土産に色々買って帰ろう。昭和のお父さん達みたいにスシの折り詰めというわけにはいかないが。


 露店で売られていた細い木を編んだ大きい手提げ篭を買う。ドンブリが2つほど入るくらいの大きさだ。さらに汁物を入れる蓋付き容器を篭に入るくらい買う。


 温かい食事を買っては篭経由でストレージに入れていく。不自然にならない範囲で色々買っては収納していく。

 動物の骨で出汁を取ったくず野菜のスープ。とろみの付いた野菜と干し肉のシチュー。ヤギ肉の串焼きを始め肉を焼いたもの各種。セーリュー焼き。焼きたての平たいパン。ふかした芋。果物も幾つか買ったが傷ありの品だった。


 全部で30人前くらいは買ったかな。土産としては多すぎるが、残りは非常用にしておこう。これだけあれば火を使えない環境でも温かな食事が提供できるだろう。もっとも、切羽詰まった状況にならない限りストレージの肥やしにする予定だ。


 錬金術屋が開いていたら薬品の素材を買おうと思ったが、この時間だと閉まっていた。





 門前宿まで戻ると、窓からこちらを見つけたアリサが駆け寄ってきた。

 オレの顔を見ると地団太を踏み始める。


「う~~~。もう! ツヤツヤした顔して~~」


 ハンカチの端を銜えて引きちぎるポーズを取る。仕草がいちいち古臭いのは……転生前の年齢を聞くのは止めておこう。


「わたしが初めてを貰うはずだったのに~~」


 そんな約束をした覚えは無い。

 人聞きが悪いので黙らせる。


「やかましい、大体、今回が初めてってわけじゃないぞ?」

「そんな、純真な少年のDTを奪う千載一隅のチャンスだったのに……」


 ご愁傷様。

 ルルを呼びに行かせて馬車前に集合する。朝食はさっき買った蒸かし芋と肉串だ。


 アリサに耳打ちしてルルの体調を確認する。復調していないようなら、あと2日ほど出発を延期してもいい。

 アリサによると重いのは初日だけだから大丈夫だそうだ。

 辛そうだったら、調合の練習で作った痛み止めでも処方してやろう。5回分くらいはあったし、足りるだろう。


 簡素な食事を済ませたオレ達は、昨日の打ち合わせ通り行動を開始した。





 商業ギルドの駐車スペースに馬車を乗り入れる。車と違って馬が自分から微調整してくれるので楽だ。

 ここも朝から賑やかだ。駐車スペースは半分くらいだが、どの馬車も荷を積みおろしている。どの馬車も年季が入っているのは共通している。荷台のみの馬車と幌馬車が半々くらいだ。荷馬車は10キロくらいの麻袋をたくさん積んでいる。運んできたのは村人っぽい感じのシンプルな長袖シャツにズボンの男達だ。膝や肘に継ぎ接ぎが見れる。

 そんな感じで興味本位で他の馬車を眺めていると、荷の確認と代金の査定を終わらせたスニフーンさんがこちらを見つけてやってくる。


「おはようございます、サトゥー様。ずいぶん、お早いお越しですね」

「すみません、貧乏性なもので……。早すぎてご迷惑だったでしょうか?」


 そんなに悪いと思っているわけではないが一応謝っておく。


「そんな事はありませんよ。商売の神はせっかちな者を好むといいますから」


 スニフーンさんはそんな風に言ってくれたが、周りの様子を見る限り、午前は搬入、午後が搬出といった慣習でもあるのかもしれない。


 案内されて倉庫に行く。その一角に昨日発注しておいた商品が集めて置かれている。使用人さんに手伝ってもらいながら、商品の数と種類が正しいか確認していく。竜白石は中身を1樽ずつ確認してから蓋を閉めてもらっていく。

 その様子をスニフーンさんは孫を見守る爺の様な目で見守ってくれている。アンタそんな年じゃないだろう。

 商品の馬車への搬入を使用人さんに頼み、オレは事務所で代金を支払い取引を完了させる。


 馬車に戻ると積み込みが完了していたので、間違いないか目視で数を確認する。竜白石の小樽にはAR表示の付箋を貼っておいたので、こっそり交換されたりはしていないようだ。小樽の中身を入れ替えられていたら見抜けないが、この時間でそこまでできないだろう。

 使用人の青年に大銅貨を1枚渡して労いの言葉を掛けておく。


「良い商売を!」という味気ないスニフーンさんの見送りの言葉に会釈してギルドを後にした。





「おかえりなのです~」


 門前宿に戻るとポチが出迎えてくれた。御者台から降りたオレにペターと抱きついて頭を擦り付けてくる。頭をポンポンと叩いてから引き離し、馬車から馬を外す作業をする。


「手伝うのです」と、早速買ったばかりの踏み台に乗って作業を手伝い始める。せっかくなのでベルトの外し方や(くびき)の扱い方などを教えてやる。人に教えると自分の復習になっていい。


「他のみんなはどうしたんだい?」

「ルルはあっちで洗濯なのです。他は買い物なのです~」

「ポチはルルと留守番なのか?」

「荷物番なのです~」


 ポチが誇らしそうに言う。確かに適任だ。なんとなくタマだと荷物の上で昼寝するイメージがある。


 ポチに馬を厩舎に連れていくように頼む。その間に荷台の商業ギルドで買った品をストレージに収納する。

 山羊の皮や羊毛は出しておこうかと思っていたんだが、匂いがキツイので収納してしまった。今度消臭剤でも練成しよう。


 ポチが運んできた荷物を積み込む。ポチは馬車の上で「荷物番なのです」と頑張るようなのでルルの様子をみにいく。ルルの洗濯しているのが下着みたいだったので声をかけずに戻った。





 あの後ポチに留守番を頼み、辻馬車を拾って城前広場に来ていた。中央の花壇はまだ造園中だが、広場の石畳は綺麗に舗装されている。仕事が早いな。ファンタジーだけに魔法でも使ったのかもしれない。


 魔法屋も壊れた壁の修復作業の最中のようだが、一応営業しているようだ。


「……では……触媒……鱗……粉が入手できたら魔法兵団の詰め所まで配達してほしい」

「一応知り合いの魔法使いや錬金術士には声をかけてみるけどね。精々鱗1~2枚分くらい手に入ったら上等ってとこだね」


 店に入ると、ちょうど部屋の奥から出てくる魔法使いっぽい衣装の爺様と婆様が、そんな会話をしながら出てくる。

 爺様はこちらを一瞥すると何も言わずに出ていく。


「おや、お客さんかい? 悪いけど惚れ薬や精力剤なら扱ってないよ。東街の錬金術屋にでも行っておくれ」


 干からびたように痩せた婆様だ。魔法使いというに相応しい衣装だ。紺色の袖の長いローブに、屋内だというのにつばの広い帽子、指には怪しい意匠の指輪が幾つも嵌められ、首には5センチ近いサイズの髑髏を模したエメラルドのペンダントをつけている。


「いえ、魔法書を買いたいのです」


 オレの言葉を聞いた彼女は片方の眉を持ち上げるだけで驚きを示し、手にしていた杖を立てかけてカウンターの下から赤い石板を取り出す。

 また、ヤマト石か?


「うちは才能の無い人間に売る魔法書はないよ? 最近は貴族が箔付けのためだけに買って本棚の肥やしにする不届き者が多いからね。この魔法計測器で一定以上魔力が無い人間には売らないよ」


 ……しまった、アリサを連れてくるんだった。

 この石がどこまで読み取れるのか判らないが莫大な魔力が知られるのは不味い。


「申し訳ありませんが、ヘタに触って壊さないか心配なのです」

「ふん、逃げ口上かい? これは魔力を注ぐと青い光を出す。王都の魔法使いギルドにあるような計測器と比べたら安物だけどね、安い代わりに丈夫だ。ベテランが魔力を注いで壊したりしないように必要量以上の魔法は流れないようになってるんだよ。一人前の魔法使いとしての力量があれば青く光る。それ以外なら石板は赤いままさね」


 セーフなのか? 老婆の言うとおりなら問題ないと思うが「実は正確な数値も読み取れます」みたいなオチが怖い。


「試す気が無いなら帰りな。これから知り合いの錬金術士の所で竜鱗粉(ドラゴン・パウダー)を集めに行く用事があるんだよ」


 さっきの爺様が言っていた粉って竜鱗粉(ドラゴン・パウダー)か。聞き覚えのある名前だと思ったら迷宮で手に入れていた品か。

 これを譲る代わりに魔法書が手に入らないだろうか?


「店主さん、竜鱗粉(ドラゴン・パウダー)なら手持ちがあるのですが、良かったらお譲りしましょうか?」


 鞄から竜鱗粉(ドラゴン・パウダー)の小瓶を5本取り出す。迷宮で見つけたのは6本だったのだが1本は手元に置いておく事にした。

 取り出しながら相場を見ると、1本あたり……金貨20枚?


「本物だろうね?」


 老婆は小瓶を受け取るとそのうちの一本の蓋を開けて中から耳かき一杯分の粉を取り出すと幾つかの試薬や機器で成分を鑑定している。


「一本金貨10枚で買い取ろう」


 がめつい婆さんだな。

 相場が金貨20枚だと言うと「それは店で売る値段だ」と突っぱねてくる。

 無理に売りたいわけじゃないから、折り合いが付かなさそうなので鞄に戻そうとすると、歳に似合わない速さで手を伸ばして阻止してくる。目が爛々と輝いているのが、ちょっと怖い。


「ま、まちな! 雷爺のやつならその値段でも買うだろう、1本金貨20枚で買い取ってやるよ。その代わり代金は月末だ。役人の支払いは遅いからね」

「申し訳ありませんが、今日明日にも都市を出るので、その条件だと承りかねます」


 結局交渉は昼近くまで続き、魔法書の現物で支払ってもらう事になった。セーリュー市の市民でないと中級以上の魔法書は売ってもらえないそうなので、金貨100枚分に相当する品の選択に苦労した。


 まず、下級魔法までの各属性の魔法書を纏め買いする事にした。それでも金貨40枚も行かないので、論文や考察、雑記から読み物まで幅広く買う。ここまでで金貨60枚。

 そこで長杖や護符などを買う。魔法のスクロールなどは市の許可証を持った者にしか売れないらしい。


 さらに魔法薬(ポーション)を作る時に使う安めの魔法触媒を買う。下級の魔物の魔核(コア)から作られる品らしい。


「おや、本職は錬金術だったのかい。だったら、この本はどうだい?」


 そういって老婆が店の奥から出してきたのは、「魔法触媒とその素材」「種子と触媒」と書かれた2冊の本だ。題名が気になったのもあるが、著者がジャハドという名前だったので買うことにした。たしか魔法のコマの作者だったはずだ。

 この人の本が他にも5冊ほどあったので全て買う。


「のこり金貨15枚ぶんだね。他には何が欲しい? 魔法具の類はいいのが無くてね。せいぜい光を点すのとか、上に乗せたものを暖めるのとかしか無いね」


 おいおい、最後にいいのが出てきたじゃないか。

 出してきてもらうと、飴玉くらいの大きさの水晶球と黒い鍋敷きみたいな直径20センチ、厚み3センチほどの磁器っぽい質感の板だ。片面に同心円上に銅の線が引いてある。


 水晶球――光粒(ライト・ドロップ)に魔力を通すと光り始める。1回魔力を注ぐと30分ほど光るらしい。鍋敷き――弱暖板ライト・ホット・プレートも同様に魔力をそそぐと銅線のある側が10分間温かくなるそうだ。ただし火傷するくらいの温度にはなるものの水を沸騰させるほどの熱量はでないので料理には向いてないという話だ。シチューやお茶の温めなおしに使えるじゃないか。


 光粒(ライト・ドロップ)が1個金貨1枚、弱暖板ライト・ホット・プレートが1個金貨3枚だった。光粒(ライト・ドロップ)は在庫が2個あったので2つとも買う。


 結局、残り金貨10枚分はいい商品が無かったので現金で受け取る事にした。途中から使い切らないといけない気持ちになっていた。危ない、危ない。


「ふう、金額はともかく、これだけ一度に売ったのは久々だね」

「ありがとうございます、色々いい買い物ができました」


 老婆に礼を言いつつ、しばらく店に買った品を預けたいとお願いしてみる。この後、隣の本屋で地図とかを買う予定だったのをすっかり忘れていた。

 老婆は快く了承してくれたので荷物を預けて本屋へ行った。



すみません長くなりすぎたので前後編に分けました


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