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4-2.幼女たちの買い物

主人公視点ではありません

奴隷娘達の買い物回です


※2018/6/11 誤字修正しました。

「リザ、皆の護衛を頼む」

「承知いたしました」


 私へのご主人様の命令です。

 この槍に懸けて、皆を守り通してみせましょう。


「さぁ~行くわよ~。みんな付いてきなさ~い」


 アリサの指揮に従ってポチとタマが駆けていきます。アリサは奴隷とは思えないほどご主人様と対等に話します。わたしにはできない事ですが見習いたいとも思いません。

 ご主人様が許可しているので奴隷の私が口を挟むべきではないのですが……。


「まずは下着よ! そういえばポチ達って、どんな下着なの?」


 アリサがそう言ってポチの外套と服の裾をまくって確認しています。異種族でしかも女性同士とはいえ、少し謹みが足りない気がするのですが、まだ子供のようですし仕方ないのでしょうか?


「うそ~ 穿いてない! まさかリザさんも?」

「はい、下着は着けていません」


 アリサが「信じられない~」と顔を両手で挟んで口を大げさに縦に開いて言います。何かの感情表現なのでしょうが人種の違う私たちにはよく判りません。


「みんなの下着を買うよ~ さあ出発ぅ!」

「お~」

「お~、なのです~」


 何かを吹っ切るようにアリサがタマとポチの手を引きつつ歩き出します。子供3人だとスリや犯罪の餌食になるでしょうから離れないように付いていきます。


「やっぱり、この国の下着もドロワーズなんだ。可愛いショーツとかブラは自作するしかないのかな~」


 彼女は店の品揃えに不満があるようです。単語がよく判りませんが下着の種類なのでしょうか?


「ノーパンよりはいいわよね、ちょっとリザさん、失礼」


 アリサはそう言って私の腰に抱きつきます。どうやらサイズを測ったようです。


「おじさん、このサイズ9枚とこっちとこっちのサイズを3枚ずつ頂戴。幾らかしら?」


 店主さんが大銅貨10枚というのを強気に値切って、大銅貨6枚まで値切りました。しかも下着を固定する飾りヒモを5本もオマケに付けさせてしまいました。交渉や値切りのスキルを持っているのでしょうか?

 ご主人さまが買い物を任せるだけはあります。


 渡された15枚の下着を鞄に入れます。体格的に荷物持ちは私の役目でしょう。





「くぅ~ 甘い匂いに負けそう~」

「いい匂い~」

「なのです~」


 3人がフラフラと甘い匂いの揚げ菓子の屋台に近づくのを止めて買い物に戻します。しっかりしているようで、この辺はやはりまだ子供なのでしょう。


「着替えはどんなのにしよっか~? 素材は麻か木綿くらいね~ うわ、草を編んだ服もあるんだ! みんなどんな服が好き?」


 ポチもタマも困惑しています。この子達は服を選んだ事がないのでしょう。わたしも出身部族に居た時に一度だけ服を作ってもらいましたが、それ以外は他の人のお古を貰うのが普通でした。彼女はずいぶん裕福な家庭で育ったのでしょう。


「着れればどんな服でもかまいません。槍働きを求められる事を考えると頑丈な服が良いと思います」


「なるほど、戦士として戦える可愛い服を探せばいいのね! 燃えるわ!」

「燃える~」

「なのです~」


 可愛い必要は無いと思うのですが、アリサだけでなくポチとタマも楽しそうです。雰囲気に流されているだけかもしれませんね。


「これ、このワンピースでどう? 若草色の染めも綺麗だしこの袖口の飾りも可愛くていいわ~ しかも背中が開いていて髪をかき上げた時の色気で男はイチコロよ~」

「アリサ、似合う服を探してくれるのは嬉しいのですが、こちらのチュニックとズボンにしておきます。戦いやすいですし生地も厚くて長持ちしそうです」


 わたしの選択が気に入らないのか、アリサは外套の上から頭を掻き毟っています。私たちはともかく、人族の彼女がなぜ外套で頭部を隠しているのでしょうか? 不思議です。


 結局、アリサ以外はチュニックとズボンの組み合わせを2組ずつとアリサの勧めたワンピースを1着買う事になりました。


「アリサ、私たちは1着で十分です。ご主人様の大切なお金を無駄にするわけには……」

「無駄じゃないわ! 私たちが着たきり雀だと、ご主人さまが恥をかくのよ! 派手な格好をする必要はそんなにないけど、着替えは必要なの!」


 アリサが力強く断言します。ご主人様と同じ人族の彼女がここまで主張するのです。きっと必要なのでしょう。


 4つほどの露店を回って買いましたが、15着もの服はさすがに嵩張ります。

 持ちきれなくなってきたので、途中でリュックサックを買って自分の分は自分で持つ事になりました。宿で寝込んでいるルルの分はもちろん、わたしが持ちます。


 ここまでで銀貨4枚に大銅貨2枚です。奴隷がこんなに大金を使っていいのでしょうか?





「次は靴よ~」

「くつ~?」

「靴あるのです」


 タマが首をかしげ、ポチが自分の足を持ち上げサンダルを指差す。

 わたし達のような奴隷だけでなく貧乏な市民でも予備の靴を持っているものはいません。


「予備の靴はさすがに贅沢なのではないでしょうか?」


 ただでさえ大金を使いすぎています。浪費しすぎて怖いのです。罰を受けるくらいならかまいませんが、ご主人様に愛想をつかされたらと思うと心が凍るようです。


「戦いに身をおくならサンダルだと危険よ? ブーツか、せめて革製の靴を履いた方がいいわ」


「わたし達は地肌が頑丈なので大丈夫です」


 アリサが首を振ります。


「虫に刺されたり、中には接触すると毒を受けるような生き物もいるわ。足の裏を怪我したら英雄だって死ぬのよ! だから靴は買った方がいいの」


 彼女の勢いに押されて買いに行きましたが、店の人に断られました。

 アリサが食い下がっていますが、恐らく店主が折れることはないでしょう。


「どうしてダメなのよ!」

「亜人の足に触るなんざ、まっぴらだ! こいつらは裸足がお似合いだよ。商売の邪魔だから帰んな!」


 アリサが突き飛ばされそうになったので後ろから抱き上げます。店主の拳はわたしのお腹に当たりましたが、力が弱いのか痛くもありません。


 ご主人さまと迷宮で過ごしてから力が強くなったみたいです。


 許されるなら、ご主人さまとまた迷宮で戦ってみたいですね。あの蛙の焼肉も美味でした。……いえ、焼肉のためではありません。迷宮だと役に立てるのが嬉しいのです。





「さ~気を取り直して、次は雑貨よ!」

「ざっか~」

「ザッカなのです~」


 ポチとタマは雑貨が何を指すのか分かっているのでしょうか……。


「アリサ、どんなものを買うのですか? 食器や調理器具ならある程度揃っていますよ?」

「そうなんだ~ それじゃ、わたしが持っている物や必要なさそうな物を買おうとしたら止めてね」


 アリサが唄うように品物を挙げていきます。


「何がいるかな~ 櫛、手鏡、カップ、水筒、裁縫用の針、糸、鋏に布、タオル、ペンとインク、紙かな」


「アリサ、鏡は高価すぎます。それに裁縫道具や筆記用具など何に使うのですか?」


「筆記用具はご主人さまに頼まれたのよ。裁縫道具はわたしが使うの。昔は自作レイヤーだったからスキルが無くても裁縫くらいできるわ~ 可愛い下着や生理用の帯でも作るのよ~」


 色々な店を回り雑貨は揃え終りましたが、手鏡は買っていません。銅鏡でも銀貨3枚もするのです。アリサは粘って値切りましたがさすがに予算オーバーです。


 鋏や針を諦めれば買えたのでしょうが、彼女は散々迷った末に鏡を諦めました。





「よっしミッションコンプリートぉ~ 次はお待ちかねのオヤツよ~」

「オヤツ~? にく~」

「にく~なのです~」

「朝に食べたのに、また食事ですか?」


 食事は朝夕のみだと思うのですが、彼女は違うのでしょうか?

 たしかに迷宮の中では何度も食事をした気がしますが、あれは連戦で消耗した体力を回復するため特別な状況でした。


「文化的な生活には甘味がいるの!」


 ご主人さまも許可していた事ですし、あまり反対しないでおきましょう。

 食べ物の屋台を選びながらも、ルルのお土産だという果物を何種類か買い求めています。ルルはアリサの姉らしいので姉思いのいい妹というのでしょう。


「みんな何食べたい?」

「肉~!」

「肉!」

「お肉がいいです」


 アリサが少し残念そうな顔になっています。

 肉より美味しい物は無いと思うのですが、人族は違うのでしょうか?


「どんな肉にする?」

「串にささったの~」

「骨付き肉なのです~」

「鳥の腿肉を焼いた物が食べてみたいです」


 わたし達の意見を聞くとアリサは宣言します。


「よっし予算は潤沢だから順番にいくわよ~」


 それからは至福の時間でした。程よく脂と塩で滋味溢れる山羊肉の串焼き、種類は分かりませんが歯ごたえが堪らない骨付き肉、あっさりした味わいのヤキトリ。やはり肉は素晴らしい。


 最後にアリサの勧めで食べた甘芋のペーストを揚げたものも食べましたが、肉には劣りますね。やはり人族とは味覚が違うのでしょうか?


 奴隷になる前でさえ祭りの時にしか魚以外の肉は食べられなかった事を考えると、ご主人さまの奴隷になれた私は幸運だと思うのです。



 今回の語り手はリザさんでした。地味でセリフも少ない彼女の内面を書いてみました。


 本来ならサトゥーが悩む回でしたが欝回避策がうまく行かなかったので、サイドストーリーを挟んでみました。


 何か事件を起こしたかったのですが、それをすると前後編になりそうだったので自重しました。


 最後の食事のシーンですがアリサは、サトゥーが言った「大銅貨1枚」を「合計」ではなく「一人あたり」で計算して買っていました。


 貨幣レートは金貨1枚=銀貨5枚=大銅貨25枚=銅貨100枚=賤貨500枚です。基本5枚単位なのは片手で数えやすいからです。

 モノによって現代と物価が違いますが食品を基準にすると銅貨=500円くらいで考えてください。

 (衣類を基準にすると銅貨=100円。人件費を基準にすると銅貨=1000円。だいたいこんな感じのレートで書いてます)


※2023/3/1 カクヨム版への転載ついでに、冒頭四行を追加しました。

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― 新着の感想 ―
リザの独白が健気過ぎて泣けてくる… こんな良い娘、メチャクチャ甘やかして幸せにしたくなっちまうよ…
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