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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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4-1.誤解はラブコメのスパイス

※2/11 誤字修正しました。

 サトゥーです。胡蝶の夢と言う言葉がありますが、夢のほうが良かったと感じる事もあるサトゥーです。
 いつか懐かしのセカイに戻れるのでしょうか?





 窓の外から雑踏の音が聞こえる。少し寝過ごしたか?

 昨日は色々な知識が手に入ったし、アリサの正体も判った。
 魔法で買わされた事が判った時は朝になったらクーリングオフする気だったんだが、オレの正体もバレてしまい手放すほうが危険なので手放せなくなってしまった。
 元の世界に帰る手がかりになると自分を無理矢理納得させた。安全の為に幼女の首を絞めて殺すなんてオレには無理。それなら地の果てまで逃げたほうがいい。

 ベッドの温もりに負け2度寝をするか迷っていたオレを叩き起こすように、扉がバーンと開かれる。
 ノックは無い。

「サトゥーさん起きてる~? 恋人さんが来てるよ~」

 マーサちゃんは朝から元気だ。その後ろから「こ、恋人じゃ……」とゼナさんがわたわたとマーサちゃんの口を塞ごうとしている。

「おはようございます」

 少し寝ぼけていたのかもしれない。上半身を起こし挨拶する。
 肌寒い。一仕事終えて戻ってきた後にローブを脱いでそのまま寝たんだが……そうか、ローブの下のシャツは昨日アリサに剥かれたままだった。

「おお、なかなかイイ体だね~」

 マーサちゃんは興味深そうに半裸のオレを眺める。ゼナさんは、その後ろから顔を赤くしながらもガン見している。
 兵士なら男の裸は見慣れてそうなのに。

「すみません、お見苦しい姿で。すぐに着替えますから」

 ベッドから降りようと手をつく。「あんっ♪」 ……生暖かい。
 下を見下ろすと半裸の幼女。ついた手はむき出しの胸に……いつ潜り込んだ?
 同衾する幼女を見てゼナさんの顔色が赤から青に変わっていく。

「……ご主人様、……そんなにされたら……壊れちゃいます……」

 そこにルルの寝言が狙ったようなタイミングで入る。
 そちらを見ると寝返りをうったのかこちらに背を見せて横向きに寝ている。ただ短い服が捲れて可愛いお尻が丸見えになっている……そういえば下着履いて無かったな。
 さらにシーツには赤い染みが……あれ? 襲ってないよね?

「ふ、ふ、不潔です~~~~~! サトゥーさんのばかぁ~~~~!」

 泣きながらゼナさんが部屋を飛び出していく。
 マーサちゃんは頭をかきながら「お邪魔しました~ ごゆっくり~」と言って扉を閉める。

 リアルで不潔って初めて聞いたな。どこか人事のように感じてしまう。

「ご主人様、清潔な布切れがあったらくれない? ルルが月経みたいだから」

 オレはカバンから布切れを取り出して渡す。

「ありがと。それよりも追わないの? 早く行かないと(こじ)れるわよ~」

 別に恋人と言う訳でもないんだが、友人に幼女趣味(ロリコン)疑惑を持たれるのも嫌だしな。

 レーダーで確認すると宿を出て中央通りに入る所だ。さすが軍人、足が速い。このままだと、あと少しでこの部屋の前を通る。
 ……このスキルって便利だけど、ストーカーが手に入れたら怖すぎるな。

 バカな事を考えながらも、半裸で飛び出すわけにもいかず足元に落ちていたシャツを着る。言うまでもないがズボンははじめから穿いている。

 タイミングを計って窓から通りに飛び降りる。
 ゼナさんの進路を塞ぎ着地する。驚くゼナさんを抱きとめ、勢いを1回転ほどして散らす。

「ゼナさん、誤解ですよ」

「だって、あんなに可愛い子と一緒に寝てたじゃないですか!」
「寝ぼけてベッドを間違えたんでしょう」

 子供と同衾してもセーフだよね?
 昨日だってオレはちゃんとトランクスを履いていた。声を大にして無実を叫びたい。

 幼女趣味(ロリコン)じゃないと!

「もう一人の黒髪の子とも! え、えぅ……」
「寝相の悪い姉の方ですか、月のものらしいですよ」

 ようやくゼナさんの力が弱まる。

「で、でも、男の人が女奴隷を買うのは、夜の奉仕のためだって、リリオが!」

 同僚嬢(リリオ)め。

「人によりますよ。あの姉妹は小間使い代わりですよ? 護衛は獣娘達ができますが、買い物をさせたりするのには向いてませんから」

「……でも」

 頭では理解しても感情がついて来ないとかかな?
 ここで「そういう目的なら色っぽい大人の女性を買う」とか言っちゃうと、さらに怒らせそうだしやめておこう。

「今日の衣装は城前で見たワンピースとは違うんですね。フリルが豊かで清楚さの中に華やかさがあります。ゼナさんの魅力を引き出してくれてますよ」

 こういう時は誉めて有耶無耶にするのがいい。
 ゼナさんも「そんな……服だけです……」とか恥らいつつも少し嬉しそうな表情になってきた。

「素敵ですが、すこし薄着で寒くありませんか?」
「いえ、鍛えてるので大丈夫です」

 女の子のセリフじゃありませんよ、ゼナさん。
 そこは男の腕を取って「こうしてれば暖かいですよ?」とか言って翻弄しないと!

「そうだ、この先の店で素敵なストールを売っていたんですよ。一緒に見に行きませんか?」
「本当ですか? 行きたいです!」

 よし、話を逸らせた!
 その後、何十本というストールやショールを比較したあと、ゼナさんが選んだピンク色のストールをプレゼントする頃には機嫌が完全に回復していた。
 女性の買い物って長いよね?





 宿前まで戻ると少し離れた厩舎の前からアリサが手招きしてる。

「おかえりなさい、ご主人様。誤解が解けたみたいで良かったね」

 拗らせた原因が人事みたいに言うのでデコピンしておく。

「ただいま、こんな所でどうした?」
「お腹が減ったので、リザさんにパンを分けて貰いに来てたの」
「もう食べたのか?」
「うん、ルルはまだ中で食べてる。ちょっと食欲が無いみたいで……」

 そうか重い人にチーズとか燻製肉は辛いだろう。アリサに銅貨を数枚渡して果物を買ってきてやる様に言う。

 オレは服を着替えに一度部屋に戻った。
 ゼナさんには宿1階の酒場で果実水でも飲んで待って貰っている。

 部屋に戻ってテーブルの横に立てかけておいた銅の洗面器に奈落の水瓶(ウォータボトル)で水を注ぎ顔を洗う。寝癖は無い様なので少し濡らした手で髪を漉いておく。今度この世界の整髪料を探してみよう。

 清潔なローブに着替えて、新しいブーツに足を通す。紐を括っているときに干からびた果物を見つけた。
 アリサが捨てたやつか。そのままにしておいてもマーサちゃんが掃除しておいてくれるだろうが、気になるのでストレージのゴミ箱に捨てておいた。
 そういえば滞在初日に買って忘れたままだった『熱々の粉モノ』を取り出してみる。それは熱々のままだった。鑑定で腐っていないのを確認してから齧ってみる。味も出来たてのままだ。
 『熱々の粉モノ』と『干からびた果物』。気になるので検証してみる事にした。
 宝物庫(アイテムボックス)スキルを1レベルだけ割り当てて有効化(アクティベート)する。中に『熱々の粉モノ』の残りを保存する。
 また忘れそうだったので、交流タブの備忘録にメモをしておいた。





「お待たせしました、ゼナさん」
「いえ、マーサさんとお喋りしていたんです」

「邪魔者は消えるね~」とマーサちゃんが仕事に戻っていく。

 入れ替わるように戻ってきたアリサにリザ達を呼びに行ってもらう。

 ルルは顔色が悪かったので部屋に戻らせる。通りかかった宿の小間使いの少女に部屋に水差しを持っていく様に頼んで、チップ代わりに賤貨を渡しておいた。

 ゼナさんと外に出ると、アリサがリザ達を連れて出てきた。
 銀貨が10枚ほど入った小袋を1つアリサに預け5人分の着替えと日用雑貨を買いに行かせる。
 リザ達も護衛と荷物持ちの為に一緒に行かせた。

「ねえご主人さま、お金が余ったら買い食いしていい?」
「大銅貨1枚までならいいぞ。昼も込みだからオヤツばかり買うなよ」

「は~い」といい返事をしてアリサが東通りへと出陣していく。ポチとタマを両翼に引きつれガキ大将のようだ。後ろをついて行くリザが保護者に見える。

「随分、砕けた感じの奴隷なんですね?」
「奴隷としては相応しくないんでしょうが、あの方が気楽なんですよ」

 奴隷に相応しい態度なんて知らないけど、回りから仰々しく傅かれ続けたらダメ人間になる自信がある。





 せっかくの好天なので、オレ達は近くの公園までお喋りしながら散歩する事にした。

「今日は非番なんですか?」
「いいえ、昼からまた勤務なんです」
「昨日も夜番って言ってませんでした?」
「そうなんですよ、人手が足りて無くて半休を貰うのがやっとです」

 ん? そんなに忙しいのに会いに来てくれたのか? そこまで惚れられてるとも思えないから何か用事かな?

「いえ、そんなに大事な用と言うわけでは……領軍でも初めて実戦を経験した人は不安になったり心の平安を失ったりするので心配で……」

 なるほど、そういえば命の危険がほぼ無かったとはいえ不思議なくらい平静だな。

 昨日は戦闘の余韻があったからともいえるが……。

 いや、悪魔との戦闘の後も大丈夫だったから、どこか現実感を感じていないのか?

 だいたいリザと同種族の集落を1つ虐殺しておいて何の罪悪感も無いのは何故だ?

 効果の分からない特殊能力(アビリティ)の効果なんだろうか?

 疑問が渦巻いて思考が……。

 堂々巡りしていく。

 ふわっとした香りが鼻腔を擽る。目を上げるとゼナさんの心配そうな顔があった。

「大丈夫ですか? サトゥーさん」
「すみません、少しボーっとしていたようです。大丈夫ですよ」

 一人で考えても答えが出そうに無いな、今晩にでもアリサに相談してみるか……。

 その後、公園でゼナさんに呪文の詠唱の練習を見てもらったが、集中の欠けた状態で成功するはずも無い。それでもオレは何かから逃避するように詠唱の練習を続けた。そんなオレをゼナさんは根気良く教えてくれる。それはゼナさんの非番が終わる正午まで続いた……。
 今頃になってようやくサトゥーは現状に疑問を持ったようです。
 蛇足ですがサトゥーは同室の2人に手を出していません。

※キャラのルビは端役がその章で再登場した時の1回目のみに付ける事にしました。
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