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10-19.屋敷の管理人

※6/23 誤字修正しました。

※10/12 加筆しました。

 サトゥーです。未亡人という言葉に惹かれるのは、オッサンの証だと何かの雑誌に書いてありました。そもそも死別する前に離婚したり、結婚せずにシングルマザーになる人が多い現代では、もはや身近ではない言葉なのでしょう。





「じゃあ、気を付けて行ってくるんだよ」


 西門の前でアリサ達を見送る。みんなとは、迷宮の別荘で合流予定だ。オレが残ったのは、屋敷の管理人を雇うためだ。それに、例の衰弱していた子供達を放置する訳にもいかないので、ナナを看病役に残してある。


 オレは扉の向こうに皆の姿が消えるのを見送ってから、探索者ギルドに足を向けた。


 昨日の夕飯後にギルド長に呼ばれて酒盛りをしたのだが、探索者ギルドは28時間営業なのか、深夜だったにもかかわらず沢山の職員や探索者達がいた。高級酒の気配を感じ取ってギルド長の部屋に訪れた高レベル探索者や古参の職員達に強請られて、ギルド長にプレゼントした竜泉酒は瞬く間に無くなってしまった。ギルド長が棚に隠した妖精葡萄酒(ブラウニー・ワイン)の事は、武士の情けで見逃してあげた。


 昨夜の宴会の影響か、職員さんの数が少ない気がする。


 オレが向かったのは、昨日屋敷を紹介してもらった不動産を扱う部署だ。昨日の青年は居ないようで、頭髪の後退した中年のオジさんがヒマそうに待機していた。


「こんにちは」

「ようこそ、ギルド不動産局へ」


 思ったより愛想が良い人のようだ。


「昨日、屋敷を紹介してもらった者なのですが」

「何か不都合でもございましたでしょうか?」

「いえ、屋敷の留守番や馬の面倒を見てくれる馬丁を雇いたいのですが、どこか斡旋してくれる部署をご存じないかと思いまして」

「この探索者ギルドでも、屋敷の警備や雑用などの仕事を斡旋する事はありますが、屋敷の人間が誰もいない状況での留守番などは、信頼できる者を雇われた方がいいでしょう」


 この人って、探索者ギルドの職員なのに、探索者が嫌いなのだろうか?


「ええ、もちろん探索者が全て信用ができないとはいいませんが、目の前の誘惑に弱い者が多いのも事実です。留守役をさせるなら、お知り合いの貴族様方に紹介していただくか、手っ取り早く奴隷を購入するのが良いと思います」


 知り合いの貴族と聞いて一番に思い出したのは、シーメン子爵だ。

 まだ迷宮都市に滞在しているか不明だが、富裕層エリアに屋敷があるはずなので、所在をマップで検索してみる。意外にも、彼は同じ探索者ギルド内にいた。そういえば魔核(コア)の仕入れに来たって言ってたっけ。確か商取引は東ギルドが中心と聞いていたんだが、魔核(コア)の仕入れは西ギルドが担当なのかな?


 彼の部下の人が外で待ってそうだから、面会の仲介をしてもらおう。





「旦那様、ミテルナと申します。浅学非才の身ですが精一杯お仕えさせていただきますので、よろしくお願い申し上げます」

「こちらこそよろしく頼む」


 異様に丁寧な挨拶をしてきたのは、シーメン子爵の紹介で屋敷の管理人になってもらう事になったミテルナ女史だ。人族で、年は26歳、美人と言えなくもないが、プロポーションはとてもスレンダーだ。ピンと伸びた背筋には惹かれるものがあるが、胸から腰へのラインがストレート過ぎる。160センチほどの長身で、赤みがかった茶色い長い髪を編みこんでいる。細い眉の下の瞳は鳶色をしていた。

 彼女はレベル7と低いものの、「礼儀作法」「奉仕」「交渉」などのスキルを持っている。


 シーメン子爵に相談したところ、すぐに彼女を紹介された。代々、この迷宮都市のシーメン子爵別邸の管理をしてきた一家の長女との事だ。現在は、兄夫婦が邸宅の管理をしているそうで、彼女は言わば余剰人員だったらしい。

 元々、彼女は子爵の紹介で准男爵の家に奉公に行っていたらしいのだが、セクハラをしてきた准男爵を拒否した為に解雇されてしまったそうだ。ちょっと都市を検索してみたが、この迷宮都市の准男爵は、デュケリ准男爵だけしか居なかった。彼がセクハラ野郎だと決まったわけではないが、ナナやルルを准男爵の近くにやるのは避ける事にしよう。


「男は私一人だから安心していい。もし、私が酔っ払って不埒な事をしようとしたら、近くの花瓶でもイスでも叩きつけてくれて構わないからね」

「いえ、そういう訳には参りません」


 そもそも酔っ払わない体だから、そういう事も無いと思う。

 オレ達は、辻馬車に乗り、探索者ギルド前に戻ってきていた。屋敷の管理に加えて、衰弱した子供達の看病もしないといけないため、一人か二人ほど小間使いの子供を雇う為にやってきた。


「本当に、私が選んでいいのですか?」

「ああ、勿論だ」


 彼女の問いに頷く。一時雇用だし、一緒に働くのは彼女だからね。

 辻馬車を降りた彼女は、年長の子供達の中から2人ほど選んで戻ってきた。朴訥そうな中学生くらいの娘達だ。


「こちらが、あなた方の雇用主のペンドラゴン士爵様です」

「ロジーです」

「アニーです!」


 2人目の気合の入った挨拶をした少女には見覚えがある。昨日、屋敷の草刈に来てくれた子だ。昨日の晩御飯を思い出しているのか、涎が垂れそうに緩んだ顔をしてミテルナに怒られている。最初に挨拶した子は、日焼けしているのか人種が違うのか色黒だ。どちらも、折れそうなくらい手足が細い。


 辻馬車は2人乗りだったので、2人の少女達には徒歩で屋敷に向かってもらった。徒歩でも30分もあれば着くから大丈夫だろう。


 ミテルナ女史に屋敷内の設備について説明する。と言っても、昨日買ったばかりの家なので、井戸や台所、食料貯蔵庫、厠、納屋、厩などを説明するだけで、大体完了した。

 使うかわからないが、本館2階がパーティーメンバーの私室になる予定だ。ついでに、地下室がオレの書斎兼研究設備になっているので入室しない様に言い含めた。


「素晴らしいお屋敷です。こんなにも丁寧に掃除や保守してあるお屋敷は初めて見ました。きっと、前任の方は経験豊富な方だったんですね」


 感嘆の溜息を吐くミテルナ女史には悪いが、掃除したのはレリリルの魔法だ。せっかく感心しているようだし、ここは無駄口は止めておこう。


 ミテルナ女史に銀貨と銅貨が詰まった小袋を渡す。燃料や雑貨、それに食料品を買うにしても現金は必要だろう。


「あの、旦那様。貴族のお屋敷の場合は、ツケで買い物ができるので、この様な大金を使用人に預ける必要はありません」


 そういえば、公都でもツケで買い物していたっけ。大金と言っても合計金貨10枚分くらいしか無いので、そのまま預けておいた。


 ロジーとアニーが到着したのと入れ替わりに、オレとナナは出かける。見送られても困るので、見送り不要と宣言して出かけた。


 厩舎の物陰から、迷宮へと転移した。





「ご~りゅ~」「なのです!」


 オレとナナが別荘に着いてから、少し遅れてアリサ達が転移してきた。甘えてくるポチとタマを受け止めてクルクルと回す。


「ふぃ~、この人数で転移するのは疲れるわね」

「アリサ偉い」


 どこかオッサン臭い仕草で、切り株のイスに腰掛けたアリサの頭をミーアがよしよしと撫でている。


 アリサ達は、連絡したときに、4区画で魔物狩りをしている最中だったので、合流が少し遅れたらしい。


「ご主人様、首尾はいかがでしたか?」

「ああ、シーメン子爵の紹介でいい人が雇えたよ。20代後半の女性で、堅物そうな人だった」

「既婚者の方ですか?」

「未亡人らしいよ」

「おお! 未亡人の管理人さん、キター!」


 リザとルルにミテルナ女史の事を伝えていたのだが、「未亡人」という言葉がアリサの琴線に引っかかったらしく、奇声を上げている。


「竹箒と雛柄のエプロンはデフォよね」


 いや、元ネタは判るけどさ。


「後は爺犬が欲しいところだけど、迷宮都市に来てから犬自体見てないのよね」


 ポチが自分を指すが、当然ながらアリサは首を横に振る。


「アリサ、盛り上がっているところに水を差して悪いが、ミテルナ女史は非常にスレンダーな人だ」


 一瞬キョトンとしたアリサだが、オレの言っている意味がわかったらしく、目に見えてテンションが下がっていった。





 マシンガンのように放たれるコーンの弾丸を、ナナの盾が防ぎ、リザの槍が撃墜する。後ろにそれて飛び去っていこうとするコーンは、漏れなく「理力の手(マジック・ハンド)」で捕まえてストレージにしまった。この歩玉蜀黍(ウォーキング・コーン)の射出するコーンは、皮が硬いものの中身は食べられるようだ。試しに調理して食べてみたが、「~毒に抵抗した」とログに出なかったので、毒性はないのだろう。


 今回の止めはポチが刺したようだ。瞬動スキルを覚えてから、強打での一撃がなかなか強力だ。成長して体格が良くなれば、リザの一撃にも届きそうだ。


「いい匂い~?」

「何を作っているのです?」

「うん? トウモロコシっぽかったから、パンケーキみたいなのを作ってみたんだ」


「もう、人が戦ってる後ろで料理とか止めてよね。お腹が鳴りそうだったわよ」

「ん、鳴ってた」


 適当な大きさに切ってメープルシロップを掛けて皆に配る。ちょっとしたオヤツだ。

 この歩玉蜀黍の前に倒した這いよる香欄(バニラ・ストーカー)の触手のような鞘から、バニラっぽい香料が抽出できそうなのだが、やり方が判らずストレージに死蔵してある。バニラが手に入ったら、色々とオヤツの幅が広がりそうだ。這いよる香欄は、魅了(チャーム)の特殊効果を持つ、なかなかの強敵だった。


「おいし~」

「ほっぺがとろけるのです!」


 あまりふっくらしなかったから、今度は重曹でも足してみようか。


「もうちょいメープルたんを増量して」

「ん」

「もう、2人とも、太っても知らないから」


 アリサとミーアが、メープルシロップを掛ける係のルルに増量を要求している。困った顔でこちらを窺うルルに頷いてやる。たしか、そんなにカロリーが高くなかったはずだ。


「ご主人さま、これはさっきの魔物の黄色い粒で作ったのですか?」

「そうだよ。あの粒を粉にして、それに卵とか砂糖とか色々加えて、だけどね」


 ナナがパンケーキの裏に付けたヒヨコ柄に見入っている。さっき、アリサがヒヨコのエプロンがどうとか言っていたので、加熱用の魔法道具を微調整してヒヨコ柄の焦げ目をつけてみた。


「マスター、この焼印が素敵に無敵です。保護を推奨します」

「また焼いてあげるから、食べなさい」


 おかわりが欲しそうなポチとタマに、オレの分の残りを半分ずつあげる。手招きしたら、トテトテと走ってきて口をパカリと開けて催促してきたので、大きく切ったパンケーキを口に放り込んでやる。


 ミーアとアリサもマネをして、小さな口を開けてきたが、皿がカラだったので、代わりに飴玉を放り込んでやった。


 さて、迷宮内で料理やオヤツタイムができるのは、敵が少ないからだ。この数日のうちに多少は魔物が増えているかと思ったのだが、増えていたのは10レベルくらいの格下の魔物だけだった。


 効率の良い戦いの為には、新しい狩場を開拓しなくてはいけないようだ。



※10/12 ギルド長との宴会のエピソードをほんの少し追記しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、何度も読んでやっと気がついた。 ミテルナ女史の名前は、「家政婦は見た」が元ネタか……
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