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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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10-18.仮の住処(2)

※10/5 誤字修正しました。

 サトゥーです。昔、祖父の家の離れに叔母夫婦が引っ越すというので、掃除を手伝った事があります。畳を交換したり障子紙を張り替えたりと、珍しい経験をしました。





 3人に連れられて行った厩舎の陰には、10~13歳くらいの5人ほどの子供達が座り込んでいた。

 今更ながらに、詳細を調べる。マップのデフォルト表示は種族とレベルだけだ。範囲検索時も、ノーマルだと名前、種族、年齢、性別、レベルしか表示していない。敵対者や賞罰欄で罪を犯した者は赤、スキル不明やレベル50以上は青で表示するようにして分別してある。あまり表示情報を増やすと視界が狭くなるので、調整してあるのだ。

 そこに居たのは、確かに情報通りの子供達だ。ただ、永らく食事をしていないのか、危険なレベルで衰弱している。さっきの井戸を見る限りでは、水も碌に飲んでいないのだろう。意識も混濁しているのか、オレ達が姿を見せても、反応したのは1人だけだ。その1人も動く様子は無い。

 前にプタの街でも使った栄養剤を、子供達に投与する。さらに魔力治癒で、1人ずつ傷を癒していく。どの子も骨折したり、骨折が元で手足が壊疽を起す寸前まで行っていたり、裂傷が酷く膿んでいたりしていた。
 変な風に骨折した骨が癒着していた子供もいたが、丹念に魔力治癒を施す事で、正常な形状へ変形させる事ができた。

「どう?」
「ああ、取りあえず命に別状は無い。薬で無理矢理回復させたから、疲れて眠っているよ。少し時間を置いてから水を飲ませて、もう一度栄養剤を飲ませよう。明日の朝になったら薄い粥でも食べさせてやればいいだろう」
「さすがはマスターです。惜しみない賞賛が溢れます!」
「よかった~」「のです!」

 この子達の看病はナナに任せる。
 そのまま地面に寝かせるのもかわいそうなので、オレ達が野営する時に使っているフェルトを重ねたふかふかのシートを出して寝かせた。





「くもの巣~?」
「ベタベタする、のです」
「サトゥー」

 蜘蛛の巣塗れのミーアと、同じく蜘蛛の巣塗れで耳がペタンとなったポチが泣きついてきた。

 だから、オレが先に行くと言ったのに。

 屋敷の中を調べた結果、床が一部腐っていた以外は埃や蜘蛛の巣を払うだけでなんとかなりそうだ。

 壊れた椅子を始めとするガラクタが多数残留していたので、ストレージ内のゴミ箱フォルダに収納して掃除した。「理力の手(マジック・ハンド)」との複合技は楽でいい。

 母屋は2階建てで、屋根裏部屋や地下室もある。床面積は屋根裏や地下室を除いて60坪ほどなので、平均的な日本の家の倍くらいだ。地下室はワインセラーに偽装されていたが、巧妙に隠された隠し扉があり、その奥には特殊な性癖を満足させるための、ちょっと扱いに困る機材が満載の部屋があった。年少組の教育に悪いので、サックリと破壊してただの空き部屋にしてしまった。ここは、後でダミーの研究室にでもしよう。

 敷地内には母屋の他に、来客の滞在用の別館と使用人用の離れがある。客用の別館は母屋と同じく2階建てで、使用人用の離れは平屋だ。それぞれ45坪ほどの床面積がある。来客用は6部屋しか無いが、使用人用は同じ面積にも関わらず、広めの部屋が10室に狭い部屋が5室ある。

 食堂は母屋にしか無い。水が貴重なせいか風呂は無いようだ。1階にある部屋を一つ潰して風呂場を追加しよう。調理場の竈には、石炭らしき黒い欠片と灰が溜まっていた。

「けっこう広かったわね。これを住めるようにするのって、どのくらいかかるんだろう?」
「私達だけなら5日もあれば住めるんじゃないかな?」

 うんざりしたアリサの言葉にルルが、小首を傾げながら答える。

「ルル、さすがにこの広さだと5日では無理でしょう。ご主人さま、午前中に食事を振舞っていた子供達に手伝わせてはどうでしょう? 草刈りや雑巾掛けなどをさせるなら体力や技術も無くて大丈夫でしょう」
「そうだね、そうしよう。リザとアリサは、西ギルド前の子供達を雇ってきて、報酬は賤貨1枚と夕飯だ。人数は10人くらいいればいいかな? 多少の増減は構わないから、その辺の裁量は2人に任すよ」

 リザの提案を採用して、労働力の調達に行って貰った。

「サトゥー」
「何、ミーア」

 後ろからミーアが、服の裾を引っ張る。蔦の館に行きたいというので、帰還用の刻印板を屋敷の広間に設置して蔦の館へと転移した。ポチとタマが庭で草刈り競争をしているので、ルルには屋敷に残ってもらった。





「レリリル、掃除」
「ミサナリーア様、この廃屋をですか?」
「ん」

 ミーアの用事は、このレリリルを連れてくる事だった。確かに、彼女は「清掃」スキルを持っている。種族も家妖精(ブラウニー)だしね。

「サトゥー」
「なんだい?」
「綺麗になって」

 一瞬ミーアに何を要求されたのか判らなかったが、すぐに気が付いた。普段抑制している精霊光を解放しろという事だろう。よく判らないが、何か考えがあるのだろう。言われたとおりに解放してやる。

「ん、綺麗」

 ハテナ顔のレリリルだったが、ミーアに促されて魔法を使う。

「■■■■■■ ■■ …… ■■■■■■ 家洗浄(ハウス・クリーニング)

 長い呪文が終わると屋内がピカピカになる。気になって足を持ち上げたが、どういう仕組みの魔法なのか、ちゃんと足のあった場所も綺麗になっている。

>「精霊魔法:家妖精スキルを得た」

 精霊魔法系なのか。レリリルは精霊が見えないっぽいのに、精霊魔法が使えるみたいだ。ルーアさんの話だと、精霊視があってはじめて使えるみたいな話だったが、レリリルは種族特性とかギフトとかで覚えたのだろうか?

「偉い」
「お褒めいただき恐縮です……ですが、いつもより魔法の効果が高い気がします」
「ん」

 恐らく、オレが集めた精霊達が効果アップの理由みたいだが、ミーアに説明する気がなさそうなので、黙っておく。後でサプライズっぽく告げたいとかだったら、野暮だしね。

 そこに台所に行っていたルルがパタパタと駆け戻ってきた。

「ご主人さま、急に床がピカピカに! あら? リレレルちゃん、いらっしゃい」
「ちょっと小娘! 私はレリリルだって言ったでしょ!」
「あら、私も小娘じゃなくて、ルルだと言ったじゃないですか。もう忘れたんですか?」

 どうも、この2人は仲が悪い。レリリルはミーア以外なら誰でもこんな感じなのだが、あの温和なルルが喧嘩腰で会話するのは珍しい。アリサに言わせると、オレへの無礼な発言が原因らしいので「そのうち仲良くなるでしょ」と楽観的な事を言っていた。

「次」
「ま、まって下さいミサナリーア様。エルフ様方と違って、私共の魔力は少ないのです。先ほどの魔法で大半を使ってしまったので、大魔法はしばらく使えません」
「ん、サトゥー」

 ミーアは、困り顔で訴えるレリリルを見た後に、オレに呼びかける。たぶん、「魔力譲渡(トランスファー)」の魔法で回復させて欲しいのだろう。お望みどおり魔力を回復させてやる。たしかに、彼女はレベルのわりに魔力が少ない。同レベルの頃のルルよりも少ない感じだ。アリサなんかは同レベルのルルより倍以上の魔力があるので、一概に比較できないけどね。

「えっ? 今のは? 何かしたのか? 小ぞ……サトゥー、殿」
「ミーアのお願いだったからね。魔力を譲渡したんだよ」

 レリリルは、困惑顔で「魔力を譲渡?」と呟いていたが、ミーアに促されて「家磨きクリーンナップ・ハウス」や「家回復(ヒール・ハウス)」などの色々と突っ込み所のある魔法を使って、家を新品同然のレベルにしてくれた。

 たいしたモノだ。
 だが、腐っていたはずの床や穴が開いていた壁まで塞がっているのは――回復魔法の建物版と考えると判らなくもないのだが――何か納得が行かないものがある。

 家の外側も綺麗にしようとするレリリルを止めて、外側の汚れはそのままにして貰った。

「雨漏りとかは困るけど、汚れはそのままにして欲しいんだ。あまり一般的な魔法じゃなさそうだから、近所の人が驚きそうだからね」
「人族のいう事は意味不明ですね。ミサナリーア様もさぞかしご苦労されているのでしょう」
「ん」

 レリリルの失礼な発言はともかく、そこは頷くんじゃなくて、否定したり擁護したりする所じゃないだろうか?
 それでも、レリリルは、オレの要求どおりに各建物の修繕と清掃を完了してくれた。

 オレは、清潔になった母屋の1階に簡易寝台を用意して、衰弱していた子供達を移動させた。子供達は、少し肌に赤みが差してきたので、「柔洗浄(ソフト・ウォッシュ)」と「乾燥(ドライ)」で清潔にしてから、寝台に寝かしつけた。この子達の着替えの服をナナに渡し、着替えさせるように頼む。





「よーし、とうちゃーく」

 馬を引いたリザと、馬に腰掛けたアリサが、20人ほどの子供達を引き連れて帰ってきた。半分強が人族で、残りが鼠人族や兎人族なんかの獣人だ。

「お帰り、思ったより多いな」
「まーね、それにしてもポチとタマは頑張りすぎでしょ。子供達が草刈りする場所ないんじゃない?」

 アリサが呆れ顔になるのも判る。広い敷地の8割近くの雑草は、2人の手によって既に刈られている。

「小さい子は、手袋と篭を受け取って、刈り取られて地面に捨てられている草を篭に集める係よ! 大きい子は、手袋と草刈り鎌を受け取って、屋敷の周りの草を刈って行って! 夕暮れまでに終わらせたら、士爵様が美味しい晩御飯をご馳走してくれるわよ!」

 アリサの指示と、モチベーションを維持するための報酬の提示に、子供達が歓声を上げて作業に取り掛かった。

「あら? レリリルじゃない。この子がいるって事は家の中は清掃済みだったり?」
「アリサ殿、この子呼ばわりは止めて頂きたい、とあれほど言ったではないですか!」
「ああ、ごめんごめん」

 レリリルの抗議を適当にいなしながら、アリサが屋敷の扉を開ける。

「レリリルぐっじょぶ! さすがは家妖精(ブラウニー)ね! 恐れ入ったわ」

 クルリと振り返ったアリサがジェスチャー付きでレリリルを褒め千切る。レリリルは調子に乗りやすい性格らしく、賞賛に薄い胸をそらして得意そうだ。

 あまり蔦の館を留守にできない、というレリリルを転移魔法で送る。夕飯の時には呼びに行けば良いだろう。

 夕方までに草刈りは、無事終わり、子供達には約束通り賤貨1枚と夕飯を振舞おう。テーブルや椅子がなかったので、給食みたいなランチプレートに食事を盛る事にした。ランチプレートの中身は、甘辛いソースを塗ったニョッキと軽く茹でた葉野菜、揚げた塩味のポテト、甘い味付けのニンジン、メインは狼肉のサイコロステーキにしてみた。ミーアのみメインを、豆料理にしてある。ミーアは、未だに「ザ・肉料理」というステーキは苦手のようだ。

「いい匂い~」
「うん、あの赤いのって何だろう? 甘い匂いだね」
「あっちのはお肉だよ。一杯ある」
「あたし達にも貰えるのかな?」
「お腹減ったね」

 子供達が遠巻きにしてなかなかランチプレートを取りに来ないので、アリサが号令して並ばせた。作りやすさを優先したから、それほど豪勢でも無いはずだ。

 ランチプレートを受け取った子供達は、我先にと食べだす。口に入りきらないほど詰め込む子や、一口ずつ噛み締める様に味わう子がいる。不思議な事に、味の感想を言う子はいない。みんな、食べるのに必死すぎて、喋る余裕が無いようだ。しかし、泣きながら食べる子がいるのはデフォなのだろうか? 普通に食べようよ。

「ルルも腕を上げたわね~」
「悔しいけど美味しいのです。人族に料理の腕で劣るなんて、家妖精の沽券に関わりますです。アリサ殿の姉の料理の腕は変なのですよ」
「あら、レリリル。うちのご主人様は、もっと上手よ?」
「あの、小ぞっ、サトゥー殿がですか?」
「昨日のカステラを作ったのも、ご主人様だしね~」

 夕飯にあわせて呼んできたレリリルがアリサと並んで食べている。この2人は不思議と仲が良い。その調子でルルとも仲良くして欲しいものだ。

 小さい子達は食べ終わっても名残惜しそうに皿を舐めていたので、獣娘達用に作っていた肉々しい野菜炒めを少し分けてあげた。どの子も作れば作っただけ食べそうだったので、お腹を壊さない程度で止めておいた。ポチやタマが食べたりなさそうにしていたので、後で夜食でも用意してやろう。
 少し長かったですが、そろそろ日常パートが終わります。
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