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9-20.スプリガンの修練所

※2/11 誤字修正しました。


 サトゥーです。ゲームのチュートリアルって強制じゃないとプレイしない人が多い割りに、作るのが大変なんですよ。

 リアルだと研修やOJTなんかがソレにあたるんですかね~





 修行を終わらせて片付けを済ました所に、一本の「遠話(テレフォン)」が届いた。


 アリサからだ。


「あの、もしもし、ペンドラゴンさんのお宅でしょうか?」


 アリサの、ちょっと高めの声を聞き、オレは必死に脱力感に耐えた。

 昔の固定電話か!


「モヂモヂ、ドヅラニ オガゲデショウカ?」

「あ、ごめんなさい、間違えました」


 ちょっとしたイタズラ心で、他人の振りをしてみた。すぐにアリサの罵声が返ってくると思っていたんだが、素の謝罪の言葉を残して遠話は切れた。

 冗談だったんだが、アリサは電話が苦手な人だったのか? ちょっと反省しつつ、こちらからアリサに「遠話(テレフォン)」を掛ける。


「は、はい、アリサ・ペンドラゴンです!」


 ツッコミたいが、ここは我慢だ。何かあったに違いないので「遠見(クレアボヤンス)」で向こうの様子を見る。


「アリサ、こちらサトゥーだけど何かあったのか?」

「ああ、良かった、さっき遠話したら知らないオジサンに掛かっちゃってビックリしたわよ」


 焦った様子のアリサが見えた。

 怪我は無さそうだが、ひどい事になってるな。


「それで、ちょっとドジっちゃってさ、助けに来てくれない?」

「OK、すぐ行く」


 オレは2つ返事でアリサに答え、アイアリーゼさんにアリサ達のいる施設(アトラクション)まで、ドライアドの転移で送ってもらう。有名な場所らしく、アリサから聞いた施設の名前を伝えると直ぐに行ってくれた。





「ここが3番目の妖精の試練所です」


 デフォルメされた1頭身コウモリみたいな黒い建物が入り口のようだ。開きっぱなしになっている赤い口から入る。実にアトラクションっぽい。


 この施設は他愛無い罠がいっぱいあるそうで、エルフの子供達の遊び場なのだそうだ。

 大抵の子供は、8箇所あるアトラクションを年単位でクリアして遊ぶらしい。よほど運動神経の鈍い子以外は余裕でクリアできるらしいのだが、例外はドコにでもいるようで――その一人であるアイアリーゼさんが、オレに付いてこようとしたところ、ルーアさんが必死の形相で止めていた。


 ドジっ子属性がありそうだから、待っていてもらおう。

 念の為に、帰りが遅いようなら、他の応援を呼んでくれるように、ルーアさんに頼んでおいた。


 中に入ると首が千切れたっぽい動く人形(リビングドール)が地面に倒れていた。首の状態から見て、死因はリザの槍だろう。アトラクションを壊したらダメだろ。


 中に入って「全マップ探査」で内部構造を確認する。

 けっこう広い。だいたい6階建てのビルくらいの広さだ。


 みんなは3つに分断されているようだ。

 一番近い位置にリザ、ルル、ポチの3人。真ん中にアリサとミーア。一番奥が、タマとナナ、それから今回のツアコンであるレプラコーンのシャグニグ氏だ。


 あれ? ルルやミーアも来ていたのか。


 早着替えスキルを利用して、借り物の狩衣から汚れてもいい作業着に着替える。


 最短距離までのコースにマーカーをセットして、天駆で一気に駆け抜ける。罠発見スキルが教えてくれる無数の罠の内、回避不能のモノだけを「理力の手(マジック・ハンド)」で遠隔解除して進む。


 どの罠も怪我をしないように配慮されているようだ。

 毒ガスの代わりに、変な刺激臭のガスが噴出し、落とし穴の下にはヒザまでの水が張ってあったり、矢が飛んでくる罠は先端に衝撃吸収の皮が巻いてあったりとケガをしても重傷にならないように配慮してある。


 罠を回避した物陰からは、魔物に偽装した動く人形(リビングドール)が襲ってくる。弱点らしき場所に色が塗ってあり、そこを木剣や拳で叩くと動きが止まるようにできている。


 しかし、配置がイヤらしいな。

 罠を回避してホッとした場所に別の罠とか、安全地帯と思わしき場所に偽魔物を配置してあったりとか、コンシューマーの罠ゲーを髣髴とさせる。


 1分ほどかけてリザたちの部屋にたどり着く。廊下や階段を進むうちに、けっこう地下に潜っているようだ。

 部屋の中は6メートルほどの吹き抜けで、天井付近に吊り上げ網の罠に掛かったリザが不本意そうな顔で捕まっている。


 リザの直ぐ傍には、魔物の顔を模した壁がある。そして、ポチは魔物の口に胴の中ほどの所でパックリと喰われている。ぶらーん、と垂れ下がった足が不服を訴えている様にも見える。勿論、アトラクションなのでポチにケガは無い。


 しかし、どうやったら、あんな場所で喰い付かれる破目になるのやら。いや、よく見たらポチの近くには足場になりそうな出っ張りがある。仲間を助けようと登っていったら喰われる仕組みの罠なんだろう。


 あと、ルルはドコだろう?

 首をめぐらせると、反対側の扉近くの床がなくなっている場所の手前で、ワイヤートラップで両足と片手を吊り上げられて動けないようだ。どのワイヤーも腰くらいの高さまでしか上がっていない。これは、頭に血が上らないようにという配慮だろう。


 しかし、ルルは両足で罠を踏んでしまったようで、別々の方向に吊り上げられている。ちょっと乙女としては恥ずかしすぎる格好と言える。声を掛ける前に「理力の手(マジック・ハンド)」で、捲くれ上がったスカートを直してシマシマが見えないようにしてあげないと。


「助けに来たよ」

「ああ、ご主人さまっ!」

「申し訳ありません、ご主人さま」

「ご主人さま、ポチはココなのです~ たしけて~」


 素早くルルに駆け寄って、短剣で麻縄を切ってやる。

 次にポチの傍まで天駆で上昇して、すぐ横にあった解除ボタンで助ける。ズルっと手前に落ちそうだったので、素早く抱き上げた。


「ありがとなのです。この顔の向こうにリザを助けるボタンがあるって、ミーアが言っていたのです」


 なるほど。

 確かにボタンが見えたので、「理力の手(マジック・ハンド)」を使って押してやる。カラカラとどこかで滑車が回る音がして、リザのロープが下がっていく。ちゃんと大怪我をしないようにゆっくり降りてくるとか、芸が細かい。


「ご主人さま、アリサとミーアを助けてください。2人は、この穴に落ちたんです」


 ルルが指差す先には床が陥没して深い穴ができている。アリサとミーアはその先にいるみたいだ。


「わかった」

「2人は無事ですよね」


 ルルが両手を合わせて祈るように聞いてくる。


「ああ、もちろん無事だよ。オレをここに呼んだのもアリサだしね」


 マップで確認した限りでは連続して崩落が起こりそうもないので、3人を比較的構造の安全そうな場所に避難させておく。リザやポチも付いてきたがったが、先ほど醜態を晒したばかりなので素直に引き下がった。

 すぐ戻ってくるつもりだが、水筒と焼き菓子の入った袋を宝物庫(アイテムボックス)から取り出してルルに渡しておく。


 3人に手を振りながら、崩落した先の空間に身を躍らせる。


 天駆で速度を調整しながら崩落面を確認する。

 どうやら、何かが土中を進んで、この辺りの階と階の間の空間に隙間を作ってしまったようだ。何かといったが、地虫(ワーム)というレベル20ほどの魔物が原因のようだ。マップで見た限りでは、2~3キロ先の地中に巣を作っているらしい。後で始末しておこう。





 降りた先に、植物系のモンスターっぽい魔法装置リビング・オブジェクトの触手にグルグル巻きにされた2人がいた。


「おまたせ」

「早っ。今度はどんなチート使ったのよ」

「サトゥー」


 アリサは、時々チートの意味を曲解している気がする。


「ドライアドに送ってもらったんだよ」

「ちょ、ドライアドって、あの緑幼女? まさか、また唇を奪われたのか~~」

「そんな訳無いだろう」


 グルグル巻きにされているのに元気なものだ。

 先ほどのように解除装置を探したが、崩れた床の石材に埋まって取り出せないようだ。仕方ないので、触手を短剣で切って解放しよう。アトラクション破壊かもしれないが、もう半分壊れているしいいよね。


「さんきゅー」


 近い位置にいたアリサから解放した。空間魔法で脱出するなり、触手を切るなりすれば良かったのに。ミーアを解放しながら、そう聞いてみたら、アリサから怒涛の抗議が来た。


「空間魔法は威力が大きいのよ。あんなに密着した触手を切ったら、自分の体まで斬っちゃうわよ。嫁入り前の乙女が怪我なんてしたら貰い手が無くなるでしょ――いや、ここは怪我をして、無理矢理、嫁に貰ってもらうのもアリか?!」


 アリサの後半の企みは小声だったが、聞き耳スキルさんが密告してくれたのでバッチリ聞こえてしまった。「陰謀は程々にしろよ」と釘を刺しておく。


「ありがと」


 助け終わったミーアが抱きついてきたので、そのまま抱えて下に降ろしてやる。足元に落ちていたミーアの長杖を拾って渡してやる。ミーアが魔法で脱出しなかったのは杖がなかったからだろう。前に、杖無しだと照準が狂うって聞いた気がする。


 さて、ここには出口がないみたいだな。


「他の3人は?」

「この上の部屋でリザが罠に捕まっていたでしょ、それを解除しに別行動してるわよ」

「ん」


 とりあえず2人を上の部屋まで運ぶ。軽いから2人同時だ。


「肩に担ぐな~」

「荷物不服」


 荷物扱いだと乙女心が傷ついたかな?

 まあ、許せ。


 上に戻ると、ポチが捕まっていた魔物の口の向こうから、タマが手を振っていた。その後ろにはナナとシャグニグ氏の姿も見える。


 なんでも、リザが捕まったのを見てタマ達が解除に向かったそうなのだが、隣の部屋に行った直後にアリサやミーアのいた地面が崩落する事故があったらしい。タマと一緒にいたシャグニグ氏が慌てて戻ろうとしたらしいのだが、扉が歪んでしまって戻れなかったそうだ。仕方なく、そのまま迷路を進んでリザの罠を解除する部屋まで行って、ポチが捕まっていた魔物の口から出て、合流しようという話になっていたそうだ。


 アリサは、崩落事故が連続したり他のメンバーが大怪我をする可能性を考えて、オレに最初に連絡したらしい。GJ(グッジョブ)だ、アリサ。


「いや、面目ない。あっしが案内していながら、こんな危ない目に遭わせちまって」


 シャグニグ氏が平身低頭に謝ってくれるが、想定外の事故まで責任を問えないだろう。モンスターペアレンツじゃあるまいし。3日前から何度も点検していたそうなので、地虫が穴を開けたのは、一両日中の事だろう。


 施設の再点検の為にも本日の探検は終了となった。


 今晩の獲物……金属地虫(メタル・ワーム)7匹。


※ポチタマのアトラクション無双編は幕間でやろうかと思っています。

 作中では明記してませんが、サトゥーが修行している間に2個も制覇してますしね。

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