7-2.ドワーフの里にて(1)
※8/11 誤字修正しました。
サトゥーです。最初に読んだファンタジー小説に出てきたドワーフは女性もヒゲが生えていると書いてあって驚いた記憶があります。
昨今のロリドワーフもどうかと思いますが、ヒゲ女ドワーフとどちらかを選べといわれたら困ってしまいそうです。
◇
ドワーフというと洞窟の中に住んでいるイメージがあったのだが、全マップ探査で確認した情報では、半数ほどは普通に城砦都市に住んでいる。残り半分はイメージ通り街に隣接する鉱山内に住んでいるようだ。
このドワーフ自治領はそんなに広くない。山間の半径20キロほどの広さだ。自治領内にはボルエハルトという都市が一つと村が2つある。都市の人口は3万人で、ドワーフが2万、平均レベルは5~6、鼠人族が4千人、兎人族が2千人、人族が2千人、鼬人族が千人、それ以外の亜人が千人だ。エルフはいなかった。やはり仲が悪いのだろうか?
鼬人族や人族は、所属やスキルから見て商人が多いようだ。
ドワーフの中でも10人ほど40レベル以上の者がいる。一番レベルが高いのはドハルとかいう老ドワーフだ。たしかトルマの短剣の作者だったはずだ。彼はレベル51もある。さすがドワーフ。猛者が多い。
魔族や転移者、転生者らしき存在はいなかった。今回は平和に済みそうだ。
都市の周辺には畑があるが、耕しているのはドワーフではなく鼠人族や兎人族などの獣人だ。特に奴隷というわけでは無いみたいだ。
ボルエハルト市の正門前には入門を待つ列ができている。
一番最後に馬車を止めて順番を待つ。
「20番目くらいかしら? けっこう待ちそうね」
「そうだな」
アリサがオレの体をよじ登りながら列の向こうを眺めている。
ちょいちょいと裾を引かれたので振り返るとポチとタマだけでなくミーアまで順番待ちをしていた。よじ登るのも服が傷みそうなので順番に肩車してやった。ミーアだけはスカートだったので肩車ではなく腰を持って持ち上げてやったのだが、なぜか不評だった。
「差別反対」
「差別じゃなくて区別。ズボンなら肩車してあげるよ」
「むぅ」
待っている馬車も人族が乗っているのが半分ほどだ。
「ポチ、タマ、馬車の後ろ側で盗難に注意しなさい」
「あ~い」
「らじゃーなのです」
門の方に偵察に行っていたリザが戻ってきて、ポチとタマに指示している。
「ご主人さま、この街はイタチ共が出入りしているようです。抜け目ないヤツラなのでご注意ください」
「うん、わかったよ。ありがとう、リザ」
たしか、リザの里を滅ぼしたのも鼬人族だったっけ。
「オニイサン、芋買わないアルか? おいしいヨ?」
たどたどしい言葉で鼬人族の女が、茹でたイモを売りに来た。1個銅貨1枚らしい。相場の3倍だ。エセ中国人みたいに聞こえるのはナゼなんだろう。
「オッニイサン、そんなイモ娘のイモよりも、ヤキトリの方がおいしいネ。ボルエハルトの岩塩たっぷりヨ? 1本銅貨3枚ネ」
「ダンナサン、やはりニクよ、鉱山地下のイボカエルの串焼きの方が歯ごたえ抜群で満足させるアルヨ」
そのイボガエルは食べても大丈夫な種類なんだろうな?
いい匂いだが、さっき朝食を食べたばかりなので断った。ポチとタマは少し残念そうだったが、食べすぎは体に毒だからね。
順番を待っている間に、鼬人族だけじゃなく、鼠人族や兎人族の子供達が、サンダルや縄を売りに来たが、相場を確認するだけで買わなかった。
前の方で何か買っていたミーアが戻ってきた。何か咥えている。
「サトゥー」
ミーアが咥えていた黄色い茎のようなものを、口元に差し出してくるので、咥えてみる。
甘い。
砂糖というよりは花の蜜みたいな味だ。小さい頃、道端に生えていたつつじの花を取って蜜を吸ったのを思い出した。懐かしい。
「あー!」
「いまのっ、間接キスよね?! ちょっと、次、わたし」
横からルルが、後ろからアリサが非難の声を浴びせてきた。
間接キスって、中学生じゃあるまいし。いや、ルルはそれくらいの年だったか。
アリサが手を伸ばしてくるが、それより一瞬早くミーアの手が茎を掻っ攫っていった。素早く口に咥えてVサインをこちらに向けている。
後ろでアリサが「ムッキー」とか言っているので、挑発するのは止めてほしい。ほら、ルルまで涙目になってる。
丁度、鼬人族の子が甘茎を売りに来たので人数分買って皆に与えた。
なぜか1回ずつ咥えさせられたが、気にしたら負けだと思う。
◇
結果的に言うと、あの10分後に中に入れた。
リザの立派な鎧を見て気にしたドワーフの兵士が確認に来てくれて、優先的に中に入れてもらえたのだ。
なんでも貴族は、優先的に入れてもらえるそうだ。最下級の名誉士爵なのにたいしたもんだ。中に入るときもオレの身元確認があっただけで、仲間達の確認は一切なかった。馬車の中も軽く眺めただけで、調査される事も入市税を支払う必要もなかった。
特権なのか?
しかし、これじゃ不心得な貴族とかが密輸でもしそうだ。
初の生ドワーフだが、ズングリムックリの予想通りの体型だった。背の高さは130センチ前後だ。ドワーフの女性は、男ドワーフのヒゲ無しバージョンだ。最近のゲームでよくあるみたいな合法幼女タイプじゃなかったのに安心した。ノーモア幼女だ。
◇
「はじめまして、ペンドラゴン士爵。ロットル子爵からの親書は確かに受け取りました。あの女傑は健勝ですかな?」
「ええ、元気いっぱいに采配しておいでですよ。私の事は、良ければサトゥーとお呼びください」
市長のドリアル氏に、ニナさんから預かった親書を届けて歓談中だ。
リザ達は別室でくつろいでいるのだが、なぜかアリサは横にいる。そのアリサが、普段とはかけ離れた余所行きの言葉遣いでドリアル氏に話しかける。
「ドリアル様、そちらの親書にも書いてあるのですが、ムーノ領からの留学生を受け入れていただきたいのです」
ほう、アリサ。そんな話は初耳なのだが? オレの視線に気がついたアリサが「言ってなかった?」って顔をして見上げてきた。後でデコピンしてやる。
「ふむ、ロットル子爵には公都に留学していたときに世話になりましたからな、年に数人の留学生くらい引き受けましょう」
親書を開きながらドリアル氏が答えてくれる。ここの自治領の領主はこの人じゃなくて、この人の父親のドハルさんなんだが、勝手に約束して大丈夫なのかな?
「大丈夫ですよ、父は重要な案件以外は私に任せてくれていますから」
大丈夫らしい。良かった。
しかし、技術の流出は十分重要な案件だと思うんだが、「技術を盗めるなら盗んでみろ」っていうスタンスなのかな?
「親書ではサトゥー殿も鍛冶をされるとか、ご興味があれば工房を視察されますかな?」
「ぜひっ!」
おお、棚ボタだ。
ニナさん良い仕事してる。
◇
「ここが、この街最大の高炉です」
高さ20メートルほどの天井の高い建物だ。
炉の下の方に燃料の石炭を投入する窓が何箇所もあり、上半身裸のドワーフや獣人達が、真っ黒になりながら石炭を投入していっている。外から見たときは白い煙しか見えなかったんだが、煤煙対策はどうやってるんだろう? まあ、きっと不条理な装置でもあるんだろう。
「たいした設備ですね」
オレの言葉もお世辞というわけではない。元の世界で見た鉄工所の施設に見劣りしない規模だ。
ここにいるのはオレとドリアル氏、それと彼の秘書らしきドワーフの女性だ。ドリアル氏の娘さんで、ジョジョリさんというそうだ。アリサ達はニナさん宛ての親書を受け取った後に街に行ってしまった。親書をムーノ市に届けてくれる商人を探すためだ。
オレ達は少しはなれた場所にある貴賓席っぽい場所から見学している。ここも十分暑いのだが、まだ断熱の魔法が掛かっている分マシらしい。外に出るともっと熱いそうだ。
ドリアル氏の説明では、公爵領で使用される鉄のインゴットの3割がここで生産されているそうだ。
続けて転炉や圧延施設を見学させてもらう。圧延施設は魔法の道具らしく、魔法使いっぽい人が交代で魔力を注いでいた。かなりの重労働らしく皆、目に隈ができていた。本来はもっと沢山いるらしいのだが、別件で坑道の方に派遣されていて人手不足なのだそうだ。まあ、なんだ。がんばれ。フラフラの魔法使い達に心の中でエールを送っておく。
重機が無い代わりに、3メートル弱の小巨人という種族の人達が、鉱石や完成した鉄板や鋼材を運んでいる。
ミスリル関係の設備は機密なのか見せてもらっていない。これらは地下の洞窟内にあるみたいだ。
聞いてみるかな。
「ミスリル関係の施設は地下なのですか?」
「よ、よくご存知ですね。ロットル子爵からお聞きになったのですか?」
「いえ、知り合いの商人から、この街のミスリル製品が素晴らしいと聞いていたのです」
「そうでしたか、見学を許可したいのはやまやまなのですが、地下の施設は父の許可が必要なのです」
短い腕を組んでドリアル氏が顔を顰める。唸っているドリアル氏を見かねたのかジョジョリさんが助言してくれる。
「お父様、お爺様にお話してみればいいではないですか。いくらお爺様でも初めて会う人にいきなり剣を鍛えろとか言ったりしないと思いますよ」
ジョジョリさん、それはフラグだと思うんだ。