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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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7-3.ドワーフの里にて(2)

※2/11 誤字修正しました。

 サトゥーです。鉄工所を舞台にしたドラマや映画は色々ありますが、ラノベではあまりないのではないでしょうか?
 鍛冶師を主役にした話は色々あるのに不思議です。





「では、剣を一本鍛えてみろ。話はそれからだ」

 ジョジョリさん?
 彼女の方を窺ったがスィっと目線を逸らされてしまった。

 高さ1メートル半しかない地下坑道を通ってやってきたのは、ドハル老の仕事場だ。部屋の奥では高レベルのドワーフ達が剣を鍛えている。
 みな大した腕だ。どの剣も、攻撃力や切れ味、耐久度などのパラメータが市井の品よりも5割増しで高い。

 そして彼は紹介を受けた後に、さっきの言葉をオレに言ってきた。

「父上、サトゥー殿はロットル子爵のお知り合いで――」
「うむ、ニナには世話になったが、それとこれとは話が別だ。剣を鍛えることで、人となりがわかるのだ。ザジウル、ミスリルのインゴットを熱したのを出してやれ」
「うっす、師匠」

 ドリアル氏が取り成してくれるが、ドハル老は取り付くしまもなく事を進める。
 ザジウルと呼ばれた灰色のヒゲのドワーフが、インゴットや道具を用意して席を譲ってくれた。
 まあ、ムーノ市の鍛冶屋で1本打たせて貰った事があるから大体の手順はわかるし1回やってみるか。スキルはMAXだしなんとかなるだろう。

 インゴットを赤熱させて、金床に置く。徐に鍛冶用の小槌(スミス・ハンマー)で叩く。

 キーン。

 あれ? 何か違和感が?
 オレの逡巡を感じたのかドハル老が、オレから道具を受け取って同じように叩く。1回叩いた所で、ザジウルさんを呼んでガゴンと彼の頭に拳骨を落とす。

「バカヤロウ、何十年ミスリルを扱ってやがる。溶かしてインゴットを作るところからが鍛冶だっていつも言ってるだろうが!」
「うっす、師匠」

 良く判らないが、ザジウルさんが準備したインゴットに問題があったみたいだ。
 あの僅かな違和感はそれだったのか。

「よし、ミスリル炉に行くぞ。若いの、ついて来い」
「はい」

 ドハル老が直接案内してくれるようだ。剣を鍛えていないが、合格という事なのだろう。後ろからはドリアルさんとジョジョリさんもついて来る。ザジウルさんは何か準備があるのか一足先に行ってしまった。

 どんな炉なのか知らないが楽しみだ。





 ミスリルの高炉は、高炉自体が熱に強い日緋色金(ヒヒイロカネ)という金属で出来ている――久々に来たな「和」ティストめ。

 そこではザジウルさんが職人さんたちに何か言っているが、皆地面にヘタリ込んでいる。

 なんでも、この炉は、石炭などの燃料では無く、魔力で動くのだそうだ。

 職人さん達は、魔力が尽きて休憩中らしい。ここに居るのは、皆30レベル超えの猛者達だ。全員、鍛冶となんらかの魔法スキルを持っている。地上の高炉と同じく、いつもより人が少ないのかもしれない。

 どうやら、彼らの魔力が回復するまで、2時間ほど待たないといけないらしい。
 ドハル老は顔に深い皺を刻んで怒鳴っていたが、無い魔力は注げないだろう。そんな事を考えていたのが届いてしまったのか、矛先がこちらに向いてしまった。

「若いの、短杖を持っているって事は呪い士でもあるのか? 魔力に自信があるなら、あの炉に魔力を注げ」
「ちょっと、父さん、来賓に弟子みたいなマネさせられませんよ」
「いえ、魔力くらいなら問題ないですよ」

 ドリアルさんが抗議してくれるが、オレも早く炉が動くところが見たいので喜んで協力する。

 魔力を注ぐ。
 2~300MPくらいでいいかな?
 ぐんぐん吸われていく。手ごたえがないな。

 10。

 20。

 注入量を確認するようなランプとか表示装置なんかは無いみたいだし、周りが驚かないレベルまで注いでみるか。

 100。

 200。

 300。

 お、ヘタリ込んでる人の顔色が少し変化した。この辺でやめておくか。レベル30相当の魔法使いなら300MPくらいは普通に注げるはずだ。
 それにしても、この感触だと1000MPくらい注げるんじゃないかな?

 出ていない汗を拭う仕草をして魔力の注入を終了する。

「ふう、この炉は凄いですね。まだまだ余裕がありそうです」
「うむ」

 ドハル老が頷くと、周りの人達が動き出してミスリルの精製が始まる。

 ジョジョリさんが、サングラスの様なものを差し出してくる。

「目を傷めますので、これを掛けてください。掛けてるときでも火をみつめちゃダメですよ」

 礼を言ってから受け取る。掛けてみるとまっくらだ。ほのかに明るいミスリル炉だけが薄っすらと見える。さらに目を凝らしていると。

>「暗視スキルを得た」

 今更なスキルが手に入ってしまった。有効化(アクティベート)してみるとサングラス越しでも普通にみえるようになった。

「点火するぞ! 全員、遮光具を付けたか確認しろぉい」

 うわ、やばい。このままじゃサングラスの意味がない。
 咄嗟に目を瞑るがほんの一瞬遅かった。白い残像が目に焼きつく。

>「光量調整スキルを得た」

 ロボか! 悪態を付きつつ有効化(アクティベート)する。先にこっちのスキルが欲しかった。
 自己治癒が一瞬で網膜を修復してくれるのを感じながら目を開く。

 炉の表面を朱色の帯がなぞる様に動くたびに温度が上がっていく。内側から見たCTスキャンみたいといえば判って貰えるだろうか? AR表示では3000度に達している。さっき見た鉄工所の温度は1600度程度だった。ミスリルの方が、相当熱に強いみたいだ。

「うむ、良い朱だ」

 よく判らないが、ドハル老は満足そうに炉から漏れる光をみて頷いている。

 ここでは一度に100キロほどのインゴットが精製できるらしい。
 熱が冷めると、うっすらと緑色を帯びた銀色の綺麗なインゴットが完成した。

 結構時間が経ってしまったので、ドリアル氏は、ジョジョリさんを残して市の業務に戻っていった。

 出来上がったインゴットを見ていたドハル老だが、おもむろに素手で持ち上げて、小さなハンマーで叩いて音を確認している。幾つか選んでザジウルさんに持たせている。

「若いの、付いて来い。相鎚を打たせてやる」
「師匠、人族のガキに相鎚なんて無理だ」
「やかましい、ワシが決めた事に口をだすな」

 ドハル老の言う相鎚って、本来の意味での相鎚なんだろうな。

「若いの、朝まで眠れると思うな。ジョジョリ、肉だ、バジリスクの燻製があっただろう。あれを丸ごと持って来い。まずは腹ごしらえだ」

 食べれるのかバジリスク。というか出されたら食べ無きゃダメなんだろうな~

 食材を取って戻ってきたジョジョリさんにアリサ達への伝言と食事の手配を頼んだ。元々、今晩は市長さんの来賓用の館に泊めてもらう予定だったので問題ないだろう。





 それは正に鉄塊だった――

 冗談は兎も角、ザジウルさんが持ってきた大鎚は無骨な金属の塊だった。鉄とミスリルの合金みたいだ。

 ナニコレ? 軽く持ち上げてみたけど、1トンくらい無いかコレ?

「どうした、若いの。それくらいドワーフなら片手で持ち上げるぞ。気合を入れていけ!」

 すげーなドワーフ。これを片手か。
 実際に、ザジウルさんが片手で持ち上げて見せる。アピール先がジョジョリさんなのはスルーしてあげよう。要らない事を言うと、またドハル老の拳骨がザジウルさんに落ちそうだ。

 大鎚だが、持ち上がらないことは無いんだが、オレの体重が軽いせいか体が安定しない。何度か振ってバランスの取り方を学習した。良く考えたら運搬スキルを有効化(アクティベート)していたら苦労しなかったかもしれない。

 オレが大鎚を振る練習をしている間に、ドハル老は、弟子達が持ってきた壷の中身を確認している。

「ちと弱いな。もっと強いのを出してこい」
「師匠、今はこれしかありやせん」
「無ければ、ガンザに調合させろ」
「ガンザなら地妖精(ノーム)の集会とかで、明日まで帰ってきませんぜ」

 ドハル老が爆発しそうだ。どうも鍛冶で何かの薬を使うようだ。レシピが判れば代わりに調合するんだが、部外者に教えるわけにもいかないだろう。

「ジョジョリ、誰でもいいから表に行って錬金術士連れて来い」

 大雑把だな。
 誰でもいいなら名乗りを上げてみよう。

「ドハル様、誰でもいいなら私が調合しましょうか?」
「ん? 錬金術にも手をだしているのか。よし、任せた」

 即決だな。ザジウルさんをはじめ弟子さん達が動揺している。
 もっとも面と向かって意見を言える人は居ない様だ。

 レシピは、意外な隠され方をしていた。棚に置かれた食器がそれぞれの材料の目盛り代わり、素材の壷の並びが混ぜる順番なのだそうだ。最後には魔力付与台で仕上げをするのだが、調合するのは1種類なので設定を固定してあるそうだ。
 壷の中身はわからないようになっていたが、「解析」「鑑定」スキルやAR表示で筒抜けなので、たいした苦労もなく「ドワーフの秘薬」の作り方をマスターできた。

 オレが作った薬を確認していたドハル老が、重々しく頷く。

「いい出来だ。ガンザに暇をだして交代させるか」

 ドハル老が言うと冗談に聞こえない。

 ドハル老に続いて、最初の部屋とは違う鍛冶部屋に通される。そこには、1台だけ日緋色金(ヒヒイロカネ)でできた小型の魔法炉がある。これは先ほどの様に鉱石から精製するためのものでは無く、インゴットを溶かして加工するためのものだ。金床も鉄とミスリルの合金で出来ている。冷却用の液体は「ドワーフ水」と表示されるが何だろう?
 ザジウルさんに聞いたら普通に答えてくれた。油3に火酒1の割合で混ぜたものだそうだ。ピリピリし始めた場の空気を読んで、「ドワーフ水」じゃなくて「ドワーフ油」じゃないかとか突っ込むのは自重した。

「準備できました」
「よしっ、いくぞ」

 ドハル老の相鎚を打つのは、けっこうな名誉な事らしく、周りのドワーフ達の嫉妬の視線が痛い。
 文句はドハル老に直接言って欲しいもんだ。

 まわりの嫉妬は置いといて、ここは集中しよう。有名な刀鍛冶の人と一緒に打つチャンスなんてないんだから楽しまないとね。
 物作りに浮かれて少しガードが緩んでいるようです。
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