1-10.悪魔と踊ろう![後編]
※2/11 誤字修正しました。
「こんにちは戦場より、解説者鈴木一郎こと私サトゥーがお送りします」
期待以上のスキル獲得にテンションが上がりまくりのサトゥーです。
石化されたマントの陰で死んだふりをしながらスキルの有効化をしていたのですが……。
それがあんな事態を引き起こすとは!
それでは「悪魔と踊ろう![後編]」始まります・・。
◇
オレが石化したマントの影で両手剣を取り出していた、その時。
陣の奥で出番を待っていた魔法使い達の反撃が始まった。
火球、火炎嵐、風刃、気槌、雷撃。3系統の魔法が次々悪魔に、そして悪魔の側で石化してしまったように見えたオレに着弾した。
さらに少しの間を空けて第二弾が来る。石弾、砂嵐、水弾、氷弾、吹雪。
最後に止めとばかりに光の柱が突き立つ。
>「火魔法スキルを得た」
>「風魔法スキルを得た」
>「雷魔法スキルを得た」
>「火耐性スキルを得た」
>「風耐性スキルを得た」
>「土魔法スキルを得た」
>「水魔法スキルを得た」
>「氷魔法スキルを得た」
>「土耐性スキルを得た」
>「水耐性スキルを得た」
>「氷耐性スキルを得た」
>「光魔法スキルを得た」
>「光耐性スキルを得た」
すごい速さでログが流れる。
レベル差のお陰か、ほとんどダメージを受けたりはしないのだが不快な事は不快だ。
そしてそれは悪魔も同じだったようで、お返しとばかりに魔法使い達に雷撃を放っている。
魔法使い達もそれを予測していたのか雷撃が届く前に魔法の障壁で防御していた。
魔法でかなり砕かれていた石化したマントや盾を剥がす。
すこし悪魔との距離があったので立ち上がる動作からそのままジャンプして距離を詰める。空中から悪魔の頭めがけて両手剣を叩きつける。
悪魔が首をひねって角で受けたため唐竹割りとはいかなかったが、片方の角を斬り飛ばすのに成功する。
>「両手剣スキルを得た」
>「兜割りスキルを得た」
>「空中戦スキルを得た」
>「武器破壊スキルを得た」
こちらを見た兵士たちがこちらを見て何か言っている。
きっと魔法に撃たれたのに平然と戦っているところに驚いているんだろう。
オレは乱れた長い金髪を背中に流し派手な金属の仮面に日光を反射させて悪魔と対峙している。
フード付きマントでなんとかなると思っていたが、念のため保険に変装を追加しておいて良かった。
悪魔はあれだけの集中砲火を受けてようやく2割ほどダメージを受けた程度のようだ。
両手剣を肩に担ぐように構える。振り回すのに問題は無いが重量で体のバランスを取り難いのだ。若返ったのはいいが、体重が軽くなったのは戦闘においてマイナスかもしれない。
とりあえず魔法使い達の本陣と悪魔が近すぎる。なんとか広場の方へ誘導しないと……。
誤解されても構わないが、犠牲者を出したくないとかいうヒロイズムではない。ごく利己的な理由で、曲がりなりにも悪魔に打撃を入れられる彼らが全滅しては困るのだ。
思考が脱線した隙を悪魔が突いてくる。地を這うようなダッシュと毒爪のラッシュ!
こちらが両手剣の間合いまで距離を取ろうとしても、大胆に距離を詰め離されない。
毒爪を受け流して傷んできた両手剣を悪魔に投げつけ、マントの陰から取り出したナタで悪魔の片手に斬りつける。
ナタは思ったよりも深く刺さったので、そのまま手を離して悪魔の反撃を回避する。
>「片手斧スキルを得た」
無手のまま、後退しつつ悪魔の攻撃を躱していく。
たまに足元に落ちている兵士の武器を拾っては攻撃を加える。物理攻撃系のスキルは有効化していないので与えるダメージは微々たるものだ。
そろそろ膠着状態を打開するべきか?
騎士も満身創痍で無傷の者が少なそうだし、無駄弾を撃たないところを見ると魔法使い達も魔力の余裕は無さそうだ。
そう感じているのはオレだけじゃなかったようで、城門から馬に引かれて大砲が数門運び出されてきた。
大砲の設置が終わるまで悪魔の注意を門から逸らす位置取りを心がける。
例の馬車の残骸の近くまで悪魔を引っ張れたので、残骸の陰で武装を交換する。腰に鍛冶用の槌を差し、両手斧と大槌をそれぞれ片手に1本ずつ構える。
およそ実用的ではない構えだがカンストしたSTRのお陰で振り回すくらいは楽勝でできる。見た目が凶暴なためか悪魔の表情も苦々しげだ。
馬車の陰から飛び出し、まず大槌を叩きつける!
右側の二本の腕でガードされたがかまわず反対側から両手斧で斬りつける。
ナタで斬りつけた方の腕が斬り飛ばされる!
……何かのマンガで、分離された腕が独立して襲ってくるエピソードがあったのを思い出してしまった。腕に注意を払わねば……。
>「両手斧スキルを得た」
>「両手槌スキルを得た」
>「二刀流スキルを得た」
>「怪力スキルを得た」
奇襲ならともかく、やっぱり戦いにくかったので大槌を手放し、両手斧一本で戦う。
大砲の準備はマダのようだ。
悪魔が大きく息を吸い込む。
魔法か!
オレは間合いを詰める。だが、それは悪手だった。
悪魔は酸の吐息を吐き出した!
一度見ていたはずなのに! この攻撃があるのをすっかり忘れていた!!
とっさに斧を倒してガードするが防ぎきれず、カツラの髪の毛やローブが焼け爛れる。
「あちちっ」
最寄の遮蔽物、銅像の陰でローブを脱ぎ捨て、新しいマントを羽織る。ローブの下に平民服を着ていたがそちらにも穴が開いてしまったようだ。
表面積が大きい両手斧じゃなかったら顔が焼けていたな……。
>「腐敗耐性スキルを得た」
>「早着替えスキルを得た」
「腐敗耐性」「早着替え」スキルにポイントを割り振る。どんな種類があるのかwikiでも欲しくなるな。
武器として用をなさなくなった両手斧を捨て、腰に差した鍛冶用の槌で一発殴る。効果がなさそうなのでスキルだけ回収して腰に戻す。
>「片手槌スキルを得た」
>「鍛冶スキルを得た」
鍛冶は違うような気がするが……。
一方、大砲は配置が終わったみたいだが、撃てるようになるまではまだ時間が必要そうだ。
さっき捨てた大槌を拾う。
もちろん悪魔は攻撃してくるが、回避スキルのお陰か、戦いに慣れてきたのかだいぶ余裕を持って往なせるようになってきた。
そろそろ決着が近いか……。
「片手剣」にスキルポイントを割り振る。
大砲の準備ができたようだ。大砲の両脇に控える魔法使い達が呪文を唱え始める。
どうも大砲を気にしすぎたようだ。悪魔に気取られてしまった。
悪魔はオレが尻尾攻撃を回避した隙をついて一気に大砲の方へ突撃する!
重い大槌をその場に捨て、進路上にあった剣を拾って悪魔を追いかける。
悪魔はその巨体に似合わない俊敏さで進路をふさぐ重装兵を飛び越える。
軽装の槍兵がとっさにカバーに入るが毒爪で刈り取られる。
だが悪魔の足は止まった。
悪魔と同じように重装兵を飛び越えたオレは止まった悪魔の片翼を斬り飛ばし、その勢いのまま足に剣を突き刺し、地面に縫いとめる事に成功する。剣スキルを取っていたせいか剣が根元近くまで刺さる。悪魔の体力ゲージも残り3割程度まで減っている。
さらに一本だけになった側の腕に飛びつき悪魔を地面に引き倒す。
悪魔の腕を足で挟んで固定し、自由になった手でさきほど殺された兵士達の槍を使って悪魔の体を地面に強く磔にする。
>「格闘スキルを得た」
>「捕縛スキルを得た」
大砲の横の指揮官らしき人が発射の指令タイミングを計っているのが見えた。
もう一本の槍でさらに悪魔を固定してから、そちらに頷く。
指揮官が手を振り下ろすのとほぼ同時にジャンプで射線から一気に離れる。
大砲から発射される散弾が悪魔に無数の傷を付ける。それに追い討ちを掛けるように、先程と同じ魔法のコンボが叩きつけられる。
大砲も連射はできないのか、瀕死の悪魔に止めの砲撃ができないようだ。魔法使いも魔力が足りないのか詠唱しているのは3人だけ。
オレが走っていって剣を突き立てれば終了しそうだが、悪魔殺しの誉れは彼らに譲ろう。さきほども言ったが善意ではなく、単に悪魔といえど、自分の手で生き物を殺すのが嫌なだけだ。本当にしょうもないが、長い間、暴力とは無縁の社会にいたんだから……。肉や魚を食べるのに、殺生を忌避してしまう。
閑話休題。
悪魔は縫いとめられていない片腕で体を地面から引き起こし、咆哮を上げて雷撃魔術で大砲を破壊する。もう障壁で防御する人員もいないのか!
それに少し遅れて魔法使い達の魔法が悪魔の残りの体力を削る。
さらに馬を失った騎士達が大剣を手に悪魔ににじり寄る。
……あとは囲んでボコって終わりか。南無~。
終わった気で眺めていたが、悪魔はまだ諦めていなかったようだ。
騎士達を牽制していた手を自分の胸に潜りこませ、赤黒い心臓を取り出す。掲げられた心臓が早送りされたかのように激しく脈動する。動きが激しくなるのにあわせて赤黒い光が溢れてくる。
騎士達は慌てて心臓を破壊しようとするが間に合わない。
つんざくような轟音と閃光が心臓からあふれる!!
光が治まったときには障壁に守られた数人の魔法使いと累々たる死体。それと下半身だけになった悪魔の屍骸。地面は悪魔の屍骸から城門に向かって扇状に地面が焼け焦げ、城門もまた半壊していた。
悪魔の屍骸は黒い塵になって崩れていく。
オレは喧騒に紛れて最寄の路地に身を隠した。
>称号「常在戦場」を得た。
>称号「熟練戦士」を得た。
>称号「悪魔と踊る者」を得た。
>称号「勇者」を得た。
……最後のは皮肉なのだろうか。
これで第一章は終わりです。
次からはしばらく戦闘もなく日常編になります。
そろそろハーレム要員出さないとタグに偽りありになってしまう……。
作中では省略しましたが変装したときに「>変装スキルを得た」が付いてました。