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いざ、冒険者に!

珍しいらしいエルフと獣人の三人が道を尋ねるわけにもいかず、冒険者になる方法となる為の施設の聞き込みは俺自らが行なった。


多分、この街の人から見れば信じられないくらい立派な装備を着込んでいるというのに、冒険者ってどうやってなるんだ、と聞くのだ。


完全に成金のバカ息子が興味本位で冒険者になろうとしていると思われたに違いない。


俺が被害妄想を加速させていると、気がつけば俺たちは目的の場所に着いていた。


街の中央にある交差点の角地を占有する、二階建ての大きな石造りの建物、冒険者ギルドである。


外の壁にも一部依頼らしき羊皮紙や、賞金首らしき人相書きが貼ってある。


俺は両開きの扉を開け、さっそくギルドの建物内へと入っていった。


中に入ると予想どおり少し薄暗く、ランプや窓で室内の明かりを確保しているようだった。


石造りの外見に反して屋内は木の板を敷き詰めて床や壁を覆っていた。長いカウンターが手前の壁際にあり、2人の受付らしき女性が立っている。他は奥に二階に上がる階段がある以外は普通の、シンプルなテーブルや椅子が並んでいる。


中の様子を興味深く眺めていると、ちらっとした可愛らしいものではなく、ジッと凝視するように俺達の姿を見やる室内の男女の姿があった。


意外にも女性の冒険者らしい人もおり、男女比でいうと7割が男で3割が女といったところだ。


じろじろと無遠慮な視線に晒される中、俺達はすぐ近くにあるカウンターへ向かった。


カウンターの女性は2人とも中々の美人である。赤い髪と地球にはいなかった緑色の髪の20代前半らしき女性だ。


何故か2人は何かに驚いたような顔でこちらを見つめており、微動だにしない。


「すまないが、ちょっと聞きたいことがある」


「は、はははい! な、なんでしょうか⁉︎」


俺が赤い髪の女性に声を掛けると、女性は声を裏返らせて返事をしてきた。


もしかしたら新人なのかもしれない。


俺は急に近所にあるコンビニエンスストアに来たような気分になりながら女性の顔を見た。


「冒険者になりたいんだが、此処で受け付けているのか?」


俺がそう尋ねると、受付嬢は慌ててカウンターの下から羊皮紙を出してテーブルに広げた。


「こ、こちらになります。ここにお名前と種族、職業を書いてください。任意になりますが、得意なことも書いていただくと運が良ければ指名依頼が入ることもあります」


受付嬢から説明を聞いていると、近くのテーブルに座っていた大男が金属製のコップを持ったままこちらに近づいて来た。漫画に出てくる山賊のように毛皮の装備に身を固めている。


「なんだぁ、ニイちゃん。そんな派手な鎧着といて冒険者じゃねぇのか? 傭兵でもやってたか?」


大男は酒くさい息を吐きながら俺の隣に立ち、つま先から頭の先まで見てきた。


「まあ、そんなところだ。珍しいか?」


俺が大男を見上げながらそう聞き返すと、大男は鼻で笑って首を振った。


「いいや、珍しくねぇよ。傭兵から冒険者ってのは有りがちだからな。ただ、そういう鎧を着ていてエルフと獣人を連れているニイちゃんが珍しいわな」


大男はそう言うと俺の腰の辺りを指差した。


「ついでに言うなら、争い事を生業にしてる人間が武器一つ持たずに歩くのも珍しいぞ」


大男はそう言うと手に持ったコップを口に運んだ。見れば、大男は背中に1メートルはありそうな斧を持っている。


「ウォルフさん! 用事が無いならそっちで呑んでてください。今は忙しいんですから」


急に始まった酔っ払いの雑談に堪えかねたのか、受付嬢は大男相手に遠慮なく文句を言った。


ウォルフと呼ばれた大男は受付嬢の文句に大声で笑うと、俺を見下ろして歯を見せた。


「気に入ったぞ、物怖じしないニイちゃん。後ろの三人も隙が無い。お前らは大物になりそうだから恩を売っておこう。困ったことがあったら何でも言えよ」


ウォルフはそう言うと笑いながらコップをテーブルに置き、そのままギルドから出て行った。


「もう、人が良いんだから…」


ウォルフが去って行った方向を見ていると、受付嬢が小さな声で呟くのが聞こえた。


「人が良い?」


俺が受付嬢の独り言に返事を返すと、受付嬢は苦笑交じりに声を潜めて口を開く。


「ウォルフさんは毎回ああなんです。気弱な新人さんとか、やっかみに遭いそうな人とかいると声をかけてますね。ウォルフさん、あんな感じでもBランク上位の実力者ですから。ウォルフさんに気に入られてる人に手を出すような人はいませんよ」


受付嬢はそう言ってやれやれと肩を竦めた。


「なるほど。恩を売るというのは建前か。依頼の報酬が入ったら酒でも奢るとしよう」


俺がそう言って笑うと、受付嬢はまたぼうっとした顔で俺を見上げていた。


「なんだ?」


俺が受付嬢の反応に首を傾げていると、後ろからセディアが背中を肘で押した。


「ちょっと大将。受付嬢落とすくらいなら私らの相手をしてくれよ」


「何だって?」


俺はセディアの発言の意図が分からずに聞き返した。すると、セディアは呆れたような顔で俺を見返す。


「大将…自分の顔を鏡で見たことあるよな? ヒト族なのに何でエルフより整ってるんだって話だよ」


俺はセディアに言われて思わず驚いた。そういえば、自分のキャラクターを作る時に造形は死ぬほどこだわり抜いたのだった。


俺の驚きをどう受け取ったのか、セディアは生暖かい目で俺を見ていた。


よし、受付嬢を落とそう。


じゃなくて、冒険者登録を終わらせよう。


俺は邪まな考えを振り払いながら羊皮紙にプロフィールを記入し、受付嬢に渡した。渡した後で自分が日本語で記入したことを思い出したが、良く考えてみたら外に貼ってあった依頼書なども日本語だった。


「えっと、レンさんですね。え、ヒト族なんですか? エルフじゃなくて? え? 魔法剣士…? 得意なことは前衛後衛回復魔術…ってほ、本当ですか? 冗談ですよね?」


俺が書いたプロフィールはしっかり読めたらしいが、どうやら内容が審査に引っかかったらしい。

ゲーム中での名前のレンレンを短くしたからダメだったのか。それとも本名じゃないとダメだったのか。


「本当だが…珍しいか?」


俺は少し不安になりながらそう聞いた。それだとサニーの種族がハイエルフで、サイノスの職業が最も条件の厳しい職業の一つである剣王なのを知るとどうなるか分からない。


いや、ヒト族と書いたが、俺もハイヒューマンだった。


俺が悩んでいると、受付嬢は1人で何か呟きながら何度か頷いていた。


「そ、そうよね。た、多分、こんな人もいるのよね。どうしよう、彼女いるのかな? いやダメ、焦ったらやられるわ。まずは仲良くなることからよ。うん」


聞いてはいけない類の独り言が聞こえた気がしたが、俺は何も聞かなかったことにして受付嬢に声をかけた。


「書き直した方が良いか?」


「は、はい⁉︎ あ、いえいえ! このまま受理致しますのでご安心ください。ちなみに登録料に銀貨を払うか、こちらが指定する依頼を一つ受けていただく決まりとなっております」


急に張り切りだした受付嬢に俺は素知らぬ顔で頷いて答えた。金が無い新人用の救済案のようなシステムだ。


「ふむ、依頼にしようか。どんな依頼だ?」


まあ、金が無いから選択肢が無いのだが。


俺は心の内を外に出さないようにゆったりとした雰囲気でそう尋ねた。


すると、受付嬢がカウンターの下から何枚かの羊皮紙を取り出してテーブルに並べた。


何故か隣に立つ緑色の髪の受付嬢がギョッとした顔で見ている。


「この中からお選びください」


受付嬢は満面の笑みでそう言ったが、確かギルドが指定するという話じゃなかっただろうか。


「ちょ、ちょっとミリア…それはマズいってば…」


隣から物凄く小さな声でミリアと呼ぶ受付嬢を止めようとする声がする。


だが、ミリアは止まらなかった。


「オススメは短い時間で終わり、危険の少ないコレとコレになります。反対に最も厳しいものはこのオーク討伐です。時間は最短ですが、オークは基本的に群れなので…」


ミリアが詳しい解説をし始めると緑色の髪の受付嬢の目玉が飛び出そうなほど見開かれた。


「ミリア⁉︎ み、ミリア…あ、あの、早く選んでください。すぐに他の依頼書を戻しますから…!」


腕を引っ張っても自分を見ないミリアに焦りを覚えたのか、緑色の髪の受付嬢は涙目で俺にそう言ってきた。


見なかった振りでもしないと、この受付嬢も共犯になってしまうと思うのだが。


俺は仕方なくミリアが最初に勧めたゴブリン三体を討伐するという依頼書を選んだ。なにせ、街周辺の街道から外れた草原にいるらしいからな。


俺が依頼書を受け取るとミリアは笑顔で頷き、背後では緑色の髪の受付嬢が忙しなく動きながら他の依頼書をカウンターの下に片付けている。


「…ありがとう。早速行ってくるとしよう」


「はい、お気をつけて!」



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