表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/243

皇国の脳筋戦士トルガと苦労人カリム

まったく、カリムにも困ったものである。


軍務大臣という重職にありながら、皇都から出ないで事務仕事しかしてこなかったものだから現場を知らんのだ。


やれ敵国の情報の整合性が取れないだの、まだ様子を見ろだのと五月蝿いことこの上ない。


現実が見えないのだろうか。


兵の動きを見ても、食料などの物資の動きを見ても、完全に素人の考えで軍を運用しているのが分からないのか。


相手は出来たばかりの小国であり、いくらSランク冒険者のパーティーが拠点を構えようと、二千から三千の兵士と直接やり合えば潰せるだろう。


まともな思考ならばこんな規模の戦争に自ら顔を突っ込むような冒険者はいないだろうがな。


兎に角、どの情報を見ても、興したばかりの小国如きがガラン皇国に勝てる要素にはならない。


余程のバカでなければ、気付くものである。


辺境の国境常駐軍に動きは無い。


街に入り込んだ間者からの情報にも兵の動きは無く、食料の価格も店先の商品の数も何も変化は無いとあった。


そして、行商人の馬車の荷物、不自然な兵士の移動など、そんな動きも特に無い。


これはどういうことか。


簡単な話だ。


兵を集める余裕が無いのだ。


少し考えれば誰でも分かることであろう。


新興国と名乗っていても、実際には王国からの独立を考えていた貴族が、タイミング良く現れた竜騎士を名乗る詐欺師と共謀しただけなのだ。


そんな国がレンブラント王国に気を許せるわけがない。


つまり、ガラン皇国には3万の国境常駐軍と、各街に常駐した兵士で当たるしかない状況というわけだ。


ここで、凡人は思考を停止させる。


だが、我輩は違う。


何故なら凡人ではないからだ。


ここで注目するのは、すぐに嘘とバレそうな竜騎士としての国王の動きとこれまでの功績の報告である。


曰く、前回のガラン皇国軍が領土に独断で踏み込んできた為これを殲滅。


曰く、建国を宣言してレンブラント王国の西部辺境を全て召し抱えた。


曰く、Sランク冒険者パーティーが忠誠を誓った。


曰く、僅か1週間程度で街と居城を築いた。


曰く、1日に複数の都市で目撃情報があった。


などなど、こんなものを誰が信じるのかという逸話が次々に報告されている。


残念ながら、我が国の軍務大臣は騙されているようだが、我輩のような歴戦の猛者には詐欺師の思惑なぞ透けて見えている。


つまり、兵士への揺さぶりと、籠城戦をした際にガラン皇国から良い条件で降伏勧告を受ける為の下準備であろう。


全く持ってくだらない策だ。


だが、我輩のような傑物と一緒にしては、流石に詐欺師といえど可哀想なものであろう。


なにせ、我輩は幼少期より生粋の軍人であった父より多くの過去の戦を学び、それを兵士として生かしてきたのだ。


まさに、知識も経験も備えた最高の将軍と言えよう。


そんな我輩にとって、こんな相手はただ踏み潰して蹂躙する獲物でしかない。


しかし、そんな状況だというのに、カリムの馬鹿は妙な横槍を入れてきたメーアスにまたまんまと騙され、折角買い付けた奴隷を買い戻されてしまった。


メーアスとの関係が何たらと言っていたが、あの馬鹿のせいでこちらは良い迷惑だ。


何故、あのがめついメーアスが法外な値段で売りつけた奴隷を更に倍の値段で買い戻したのか。


我輩には分かる。


これにはレンブラント王国が絡んでいるのだ。


東に兵の多くを取られている王国が奴隷兵を集める理由は、ガラン皇国が攻める時に合わせて自分達も攻め込むつもりなのだ。


つまり、元レンブラント王国西部の領土を皇国と王国で取り合う形となる。


そして、メーアスはこの時点で利益を重視してより高く売れる方へ奴隷を流したのだ。


「全く、カリムの奴のせいで…」


我輩は思わず奥歯を嚙み鳴らしてそう吐き捨てた。


カリムが金に目が眩んで奴隷を売り払ったせいで、レンブラント王国は西部の一部を取り返してしまうだろう。


兵の規模を見れば7対3ほどの割合でガラン皇国が多く領土を得られるだろうが、この3割の領土をみすみす王国に奪われた罪は重い。


全て、カリムの失策である。


我輩は戦争が終わった際には皇国皇にこのことを報告してカリムを処罰してもらおうと心に決めた。


まったく、後は今進軍中の我が軍が王国よりも早く領土を切り取っていくのを祈るだけである。


さあ、そろそろ国境だ。






「なんとか、これで回せるか…」


私は予算を試算仕直し、ようやく一息ついた。


「全く、ハカン様にも困ったものだ」


私はついつい口から出てしまう愚痴に更に気分が落ち込むのを感じた。


やはり、皇国皇ハカン様はギリギリまで予算を使い切り、兵を集めていた。


この状態でトルガ将軍の言うように短期決戦で街二つを落とせれば良いが、落ちなければ大変な損害を被って兵を引き上げねばならない。


その時、ガラン皇国の財政は火の車になるだろう。


だいたいトルガは、将軍が相手に騙されただの、大軍の運用を知らなかっただのと文句を言っているが、事実として十万近くの兵が殲滅されたのだ。


何故、警戒しようと思わない?


挙句に、痺れを切らしたらしいトルガはハカン様にわざわざ書状をしたためてまで私の邪魔をする始末。


耳触りの良い言葉ばかり並べて自国を持ち上げるのは構わないが、他国が絡む事案ならば冷静に第三者の視点を持って大勢を見極めなければならない。


これだけ大きな動きをしているというのに、何故、出来たばかりの小国から行商人達が逃げ出さないのか。


あの馬鹿な将軍の頭にはそんな疑問は湧かないのだろうか。


勝とうが負けようが、この戦いが終わったら私も家族を連れて田舎に引籠るか。


なんでも都合の良い方にしか考えない前向き馬鹿ばかりで疲れてしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ